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自由民ギルド ロックウェル支部
⛔7 雄大且つ優美な青碧
しおりを挟む高二の16歳の夏休みのある日に異世界へ喚ばれた。
聖女となるべき巫女として召喚されたにも拘わらず精霊の守護を得られなかった『月无』と見做され、下働きをさせられたり、高い魔力を利用しての魔物退治の囮(餌)にされて、憔悴しきって逃げ出した。
辿り着いた街で自由民と呼ばれる冒険者のような何でも屋をしながら暮らし始め、果物採集のため登山した山頂付近のカルデラ湖で、噂の星竜に話しかけられた。
この声は、どこから?
ううん、わかってる。この、湖の中に沈んでいる巨大な物体が、星竜なんだろう。それこそ、ちょっとした建造物より遥かに大きい。
頭の中に直接話しかけて来るけど、身体は眠ってるのかな? 冬眠? 夏だけど。
『そうだな。冬眠とは違うが、常にここで休眠している。この身体が活動すると、多くのマナを消費するからな』
そう言いながらも、湖の真ん中に沈んでいた巨大が身動ぎする。
湖面が盛り上がり、すぅっと、思ったよりも静かに、いかにもザ☆ドラゴンって姿が湖水から現れ、オパール色に輝く蝙蝠のそれのような形の翼を広げる。
羽ばたかなくても、その翼の周りを踊る風霊達と自身の魔法で浮いているらしく、その場に静かにホバリングしている。
全身は真珠色。ゆっくりと開かれた双眸はオパール色の瞳。
恐竜やゴジラを思わせる海イグアナのような凶悪な爬虫類の顔ではなく、すっとした優しいブルーイグアナのような顔である。喉下の袋は目立たない。
『特に、威嚇したり興奮を表す必要はないからな。喉袋も発達する必要もないのだろう』
そりゃそうか。こんなに大きなドラゴンなら、態々威嚇しなくても刃向かおうとする者は居ないだろうし、ずっと休眠しているのなら、興奮を表に出すこともないだろう。でも⋯⋯
「こんなに強そうでカッコよくてきらきらと綺麗なのに、独りで寝てばかりじゃ寂しくないの?」
ドラゴン⋯⋯星竜と、隣に立つガヴィルさん、キミカさんの息をのむ気配がした。
「そ⋯⋯ 星竜様は、そういうものだとしか考えてなかったわ」
「確かに雄大且つ優美で、この上ない存在だからな」
「でも、言葉を解さない野のトカゲだって、独りじゃ寂しいと思うだろうに、精霊とも人間とも会話出来る、たぶん、長生きな分賢くて知識もありそうなのに、誰ともお喋りしないでずっと寝てるだけなんて、私なら寂しくて死んじゃうわ」
周りと見た目が違うから──銀に近い淡い金髪を白髪と後ろから指され、光が当たらなければ黒っぽくて目立たないけれどひとたび光が入ると深い碧の瞳はガイジンと呼ばれ、肌が白いのでより朱く見える唇は口紅をしていると陰口を言われ、他人とあまり拘わらないように生きて来た独りで過ごすのに慣れた私でも、家族や美土里が居なければ、とうに寂しさに自死を選んでいたかもしれない。
人には想像もつかない永い時を独りで過ごすなんて⋯⋯
『十年以上経っても汝は変わらぬな、萌々香』
❈❈❈❈❈❈❈
汝あるいは汝は、今は罵倒する時の相手に呼びかける意味合いで使われますが、平安以前は、誠意を含んでの(上下関係で同等か以下の)呼びかけに使われる言葉だったので、ここではそちらで(親しみを込めての対等な相手への古語で)受け取ってください。
次話
⛔8 木の実豊穣の地は禁足地?
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