132 / 163
竜族の棲む深い森の中で
🔇9 赤竜のご用はなんですか?
しおりを挟む『こら待たぬか、小娘』
ドラム缶をガンガン鳴らすような割れた音が頭に響く。
『む。調整が合っとらんかったか? すまぬ、これでいいか?』
ホバリングしていた赤竜が、林から抜けたすぐの街道に降り立った。
「音量調節ありがとうございます。赤竜さん、何かご用ですか?」
努めて冷静に訊ねてみる。結構怖い。
なんの用か解らないから。
青竜たちより大きくどっしりした姿で、赤は攻撃色のイメージが強いから。
酔ったオジサンのように太くて低い声だったから。
『怖がらせたか。すまぬ、用向きというのは、簡単な事。竜族の棲む森に来て、挨拶もなく帰るのか? と訊きたかっただけなのだ』
えっと⋯⋯ この森にどれだけ竜族がお棲まいなのか解らないけど、全員に挨拶が必要だった?
『青竜の小娘共には毛繕いをしたのに、儂にはなしか?』
──モモカ、この赤竜は、自分もブラシかけして欲しいんだよ
──素直に自分にも毛繕いしてくれって言えばいいのに
「えっと、それは気がつきませんで、失礼致しました」
取り敢えず、ブラシを取り出す。でも、この二世帯住宅一軒ほどの大きなドラゴンの背中とか、全く届かないんですけど。
手始めに、青竜さんの気にしてた腿の裏から始める。
『おお、ぉおぅ、そこそこ。小娘にしてはなかなか巧いの』
やはり、ここがイイらしい。
「尾っぽや頭はしない方がいいですか?」
『構わぬ、手の届く限り⋯⋯いや、浮力を与える故、全身くまなくしてくれるとありがたい』
──うっわ、図々しい
──モモカはドラゴンライダーじゃないのよ? 世話する義務はないわ
──星竜を差し置いてモモカに奉仕させるなんて身の程知らず
僅かに足が地から浮くけれど、踏ん張りが利かないとか、無重力空間みたいにくるくる回りそうとかはない。ただ、今までと同じように立って、ブラシ掛けが出来る。不思議。
『フフン。星竜ほどではないが、儂もそれなりに生きておるからな。属性の魔法以外にも色々と使えるわい』
自慢げに首を反らすので、顎の下も擦る。
『そこは、後ろ脚も手も上手く出来なくての。小娘、力加減も良いぞ?』
ぴちょんやメラに図々しいと言われて遠慮したのか、青竜さんほどしつこくねだりはしなかった。
その分、浮かされてまで、背中も首の後ろも、頭の角の裏や突起の裏側まで細かく磨かされた。
終わる(赤竜が満足する)頃には、森の端に真っ赤な夕陽が沈みかけていた。
これ、暗くなるまでに街に帰れなくない?
『すまんな、あまりにも気持ちよくて、止まらんかったのだ。詫びに、街道の途中まで送ろう。街に近いところまで行くと、騒ぎになって却って汝に迷惑がかかろう』
そこ気遣ってくれる配慮は出来るのね。
「ありがとうございます。城門が閉じるまでに帰れないんじゃないかと思ってました」
ブラシで磨かれてピカピカの手(こんな所もやりました)が広げられる。爪に捕まって座れと言うことらしい。
ちょっとひんやりした艶々の鱗に滑りそうになるけれど、浮遊の魔法がまだ解けてなかったので、バランスになれれば平気だった。
あ、もちろん、乗せてもらう前に、赤いぴかぴかの鱗も回収しました。青竜さんのよりたくさん。
脱皮の季節だったのかな?
『行くぞい』
単純明快な掛け声ひとつでバサリと宙に浮かんだ。
次話
🔇10 帰り道
0
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる