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「見習い宣教師と最初の大事件」
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──在ベリオン ユーロ・ブリティッシュ大使館前──
「ここが、大使館……。」
モカベージュのコートを着込んだ、口を開かなければそれなりにモテそうな金髪の可憐な女性が一人。大使館の前で、スマホの画面に表示された地図と、建物を見比べていた。
ソフィア・グローリーである。
「間違いないですよね。」
今日は、聖公会の定めた制服を着ている。支給されたものだ。
白と青を基調としたデザインで、女子はタイかリボンを選べる。ソフィアは、タイを結んでいた。
ただし、コートだけは自前であった。
ベリオン大使館は、伝統的なレンガ造りの3階建ての建物であり、2階と3階のラウンジに当たる部分には、それぞれバルコニーが見えた。
どことなく、母校のエディンバラ大学を彷彿とさせる建物に、ソフィアは親近感と懐かしさを覚える。
そして、隣には庭園が広がっており、ベリオン市街のランドマークである、ヨシュア・トゥリー大聖堂の広場と繋がっていた。
大使館から見て、左奥の方には、その大聖堂の背の高い鐘塔が見える。
2029年の現在でも、昼と夕方にそれぞれ律儀に鐘を鳴らすのだ。
11月も終わりに近付いてくると、とても寒い。雪は降らなくても、曇りの日が続き、気温は日中も1桁を下回る。冷たい風が吹き抜けていく。
特に、北ヨーロッパの寒さは「冬の間はずっと空が灰色」と称されるほどだった。
今日は珍しく天気が良かったから、マフラーまでは巻いていなかった。
来週からは、待降節が始まる。
イエスの降誕までの、4週間のことだ。
清く、正しく、美しく!聖職者たるものの心構えを心の中で唱え、ソフィア・グローリーは決意を新たにした。
*****
──ベリオン合同庁舎 外務省 警備局 警備企画室──
外務省警備局・警備第一課。その警備第一課長が、
「引き受けるのか?お前、士官学校の出身だろう。」
着任したばかりのセリアズに、そう言って声を掛けてきた。今買ったばかりの缶コーヒーを握っている。
セリアズに声を掛けた第一課長は、叩き上げだった。この第一課長が、セリアズのいわば“お目付け役”となるなのだ。
「でなければ、ここへは来ていません。」
顔は合わせずに、簡潔に答えた。
セリアズは28になった。性格が堅いのと、融通が効かないことは、自覚している。
武骨者の多い軍隊出身者、ましてや伝統あるロイヤル・ネイビーからの出向者だというだけでなく、セリアズ自身がこう見えて貴族の出身だから、第一課長にとっても──いや、警備局の誰もが。興味を引くのだろうだろう。
課長は、セリアズよりふた周り以上も年は上であるようだった。
貴族、と言ってもイングランドの田舎の、地図上ですらあまり目立たない地方の出で、今は“貴族だった”という看板が残るだけの、キャベツ農家であった。
警備課は、テロ対策や公館警備などを担当する第一課、いわゆる“外事課”“公安部”にあたる二課、突発的な災害や組織犯罪に対応する三課、主に要人警護を担当する四課。これらで構成されている。
そして、国際情報や経済安保に関しては国際情報統括グループが所掌し、集団警備力を有するSAT──いわゆる対テロ部隊──が、別途独立して存在する。
国際犯罪に対処するという宿命上、警察組織や軍隊、そして実際に一般の大学を卒業した総合職採用の他に、警察や軍隊の出身者が身分を保持したまま配属されることも多々ある。
セリアズがその典型であった。
「軍の幕僚だったんだ。テロ対策や、警備に関してはお手のものなんじゃないか?」
「いえ、私は……」
第一課長に聞かれて、「対潜哨戒が主な任務でした」と言いかけて、飲み込んだ。
代わりに、
「そういったことは、作戦部の方が得意でしょう。」
とだけ、一言無愛想に答えたのだった。
その点では、第一課長の言う通り、軍の出で、しかも弱小で没落したとはいえ、貴族出身の彼が警備局に配属されることは、まことに都合が良かった。
もちろん、行政組織としても、その行政組織の長から見ても。
セリアズは、他の外交官とは違い、外務省に配属されて、まだ日が浅い。
その名残は、身に着けているものにも現れている。
コートだけ、用意が間に合わなかったのだ。
なので、この合同庁舎に初登庁する時は、スーツの上から海軍将校用のカーキ色のミリタリーロングコートを着てきた。
本人にしては大まじめだが、そのことを皆にからかわれた。
コートだけを見れば、180cm近い細身の身体によく似合っていたから、余計にからかわれたのかもしれなかった。
「セリアズ君、ただでさえ目立ってるんだ。何かやらかしたら、出世に響くぞ。気を付けろよ。」
第一課長がセリアズの隣に来て、わざわざ耳打ちして行った。
「承知しております。」
第一課長からしてみれば、セリアズの立場を慮ってのことであったのだろう。
しかし、セリアズにとっては、本気かからかわれているのかは関係無く、余計なお世話だった。
昨日、「機密情報漏洩問題の調査を一任する」という指示が、セリアズのもとに書面で通達された。
それにしても、外交官としての初仕事が、大使館に出張ってわざわざ探偵ごっことは。
セリアズはその通達の書かれた封書をスーツの胸ポケットにしまい込んだ。
*****
──ベリオン大使館 海外渡航課──
「失礼しまーす……。」
出入り口から少しだけ顔を覗かせて、そっと海外渡航課の中を覗くソフィア。
「誰もいない……?」
主教様から、面接の後で配属先は大使館、それも海外渡航課だと言われて来てみたら、シーンとしているではないか。
ちなみに、受付は顔認証や指紋認証などの最新のセキュリティを備えるゲートだったが、立番の守衛さんに身分証のパスポートと、学生証を見せて、宣教師だと事情を説明した。そしたら、守衛さんは「ご苦労さまです!」と、すんなり通してくれた。
しかし、誰も居ない。
手持ち無沙汰に周りをキョロキョロしている宣教師様だった。まだ、見習いだが。
人手不足とは聞いていたが、本当だったのかと思って、しばらくここで待っていようかと思いかけたところだった。
「あー、大変だった!」
ケイトが頭に巻いたメイドキャップを乱暴に脱ぎながら、渡航課に入って来たのだった。
邪魔にならないよう、ソフィアがデスクに挟まれた通路を端に寄った。
「せっっかく用意したのに。「必要無い」、だって!」
課長に言われて、公邸料理人とコック達総出で料理を作り、メイド達総出で出迎えたのに、首席監察官らに冷たくあしらわれ、追い出されてしまったのだ。
「あー、腹立つ!本当に嫌なやつ。」
今はきっと、課長達が対応に当たっているはずだ。
「まあまあ、きっと立場上おもてなしでも受けられないのよ。あの人達も。」
オリヴィアが監察官達の立場も察して、ケイトを宥める。
準備が無駄になったことに憤るケイトと、それをなだめるオリヴィアに、ソフィアが静かに近寄って行く。
手には、お土産のマカロンの入った紙袋を持っていた。
「あの、わたし本日から……」
ソフィアが挨拶をしようとすると、そのうちの一人、ガラの悪いメイド──否、ケイト・ヒューストンが、
「……ん?アンタ、誰?」
ケイトがどこから入って来たんだコイツ、という目でソフィアを見て、声を掛けてきた。
突然湧いてきた珍しい動物でも見付けた時のようだった。
「すみません、わたし……」
再び挨拶と自己紹介を試みようとするソフィアだが、今度はオリヴィアが、
「ごめんね。ここは、大使館だから、一般の方の立ち入りはちょっと……。」
困ったような表情を浮かべている。
「そうそう、今日から新しい子来るみたいだし?それに……」
教育係、とケイトが続けようとしたが、
「そういえば、私達教育係じゃない?一応、課長か係長に、どうするか確認取った方がいいんじゃないかしら?」
オリヴィアに遮られてしまった。
「何?アタシが教育係じゃ、不満?」
「ううん、そういうわけじゃないけど……。」
「そういえばこのやり取り、前にもしたわね。」
二人とも、ソフィアの存在はそっちのけで会話を続けている。
「あの!わたし、今日からこちらで!」
ソフィアそっちのけで話を進める二人。そこへ、
「あー疲れた疲れた!」
「帰っちゃったよ。」
課長とコックのアーサーが帰ってきた。その後ろからノエルも遅れて着いてきていた。相変わらず、連れ回されても断れず、腰が低いようだ。
「……ん?そちらの方は?」
課長が自分のデスクに戻ってくると、ソフィアの存在に気付いたようだ。
「はぁ、困った困った。困ったことだよ本当に!君ねえ、さては学生かい?大方、試験にでも受かって、ちやほやされて良い気になってここへ来たんだろう?けど、いくら優秀でもでもそれはまずいなあ?ここは、大使館。日夜外交機密が飛び交って、それはもうお偉いさん達がそこら中を歩いてるんだぜ。」
アーサーが妙に鋭い。ばかりか、自分の手柄のように話しているではないか。
「別にちやほやされても、良い気になってもいませんけど……。」
ここぞとばかりに、アーサーがお調子者を発揮して、嫌味ったらしくソフィアに絡んでいる。
「飛び交ってるのは、外交機密じゃなくて、いつも君のどこから聞いたかわからない噂話でしょ。」
係長がその後ろでぼそりと呟いた。
困ったように控えていたノエルが、
「もしかして、本省からの書記官の方ですか?」
恐る恐る、ソフィアに尋ねる。
「え?」
ケイトとオリヴィア、そして課長と係長とアーサー、つまりみんなが一斉にソフィアの方を向いた。
「え?」
「……え?」
「あー……ごほん。失礼。」
“本社”からのお偉いさんと聞いて、即座に接待モードに切り替わる課長。そしてアーサー。
「わたくし、こちらの大使館で海外渡航課の課長を務めております、ハミルトンと申します!」
両手をもみもみしながら、気持ち悪いほどの笑みを浮かべている。
「何か、食べたいものはありますでしょうか?お好きなものがございましたら、この料理長の私になんなりと。」
アーサーはアーサーで、何故か急にキメ顔になっている。
「料理長じゃないでしょ。」
ケイトがアーサーの背中を小突いた。
「痛っ!……細かいことは良いんだよ。どうせ、今来たばっかの本社の人間に、わかりゃしないんだから。」
「先程はうちのコックが、大変なご無礼をいたしました。」
アーサーではなく、課長が、額を擦り付ける勢いで先程の無礼を謝罪している。
あれやこれやという間に、ソフィア課長の椅子に座らされ、周りを囲まれてしまった。
「あはは……どうしましょう……。」
「ここが、大使館……。」
モカベージュのコートを着込んだ、口を開かなければそれなりにモテそうな金髪の可憐な女性が一人。大使館の前で、スマホの画面に表示された地図と、建物を見比べていた。
ソフィア・グローリーである。
「間違いないですよね。」
今日は、聖公会の定めた制服を着ている。支給されたものだ。
白と青を基調としたデザインで、女子はタイかリボンを選べる。ソフィアは、タイを結んでいた。
ただし、コートだけは自前であった。
ベリオン大使館は、伝統的なレンガ造りの3階建ての建物であり、2階と3階のラウンジに当たる部分には、それぞれバルコニーが見えた。
どことなく、母校のエディンバラ大学を彷彿とさせる建物に、ソフィアは親近感と懐かしさを覚える。
そして、隣には庭園が広がっており、ベリオン市街のランドマークである、ヨシュア・トゥリー大聖堂の広場と繋がっていた。
大使館から見て、左奥の方には、その大聖堂の背の高い鐘塔が見える。
2029年の現在でも、昼と夕方にそれぞれ律儀に鐘を鳴らすのだ。
11月も終わりに近付いてくると、とても寒い。雪は降らなくても、曇りの日が続き、気温は日中も1桁を下回る。冷たい風が吹き抜けていく。
特に、北ヨーロッパの寒さは「冬の間はずっと空が灰色」と称されるほどだった。
今日は珍しく天気が良かったから、マフラーまでは巻いていなかった。
来週からは、待降節が始まる。
イエスの降誕までの、4週間のことだ。
清く、正しく、美しく!聖職者たるものの心構えを心の中で唱え、ソフィア・グローリーは決意を新たにした。
*****
──ベリオン合同庁舎 外務省 警備局 警備企画室──
外務省警備局・警備第一課。その警備第一課長が、
「引き受けるのか?お前、士官学校の出身だろう。」
着任したばかりのセリアズに、そう言って声を掛けてきた。今買ったばかりの缶コーヒーを握っている。
セリアズに声を掛けた第一課長は、叩き上げだった。この第一課長が、セリアズのいわば“お目付け役”となるなのだ。
「でなければ、ここへは来ていません。」
顔は合わせずに、簡潔に答えた。
セリアズは28になった。性格が堅いのと、融通が効かないことは、自覚している。
武骨者の多い軍隊出身者、ましてや伝統あるロイヤル・ネイビーからの出向者だというだけでなく、セリアズ自身がこう見えて貴族の出身だから、第一課長にとっても──いや、警備局の誰もが。興味を引くのだろうだろう。
課長は、セリアズよりふた周り以上も年は上であるようだった。
貴族、と言ってもイングランドの田舎の、地図上ですらあまり目立たない地方の出で、今は“貴族だった”という看板が残るだけの、キャベツ農家であった。
警備課は、テロ対策や公館警備などを担当する第一課、いわゆる“外事課”“公安部”にあたる二課、突発的な災害や組織犯罪に対応する三課、主に要人警護を担当する四課。これらで構成されている。
そして、国際情報や経済安保に関しては国際情報統括グループが所掌し、集団警備力を有するSAT──いわゆる対テロ部隊──が、別途独立して存在する。
国際犯罪に対処するという宿命上、警察組織や軍隊、そして実際に一般の大学を卒業した総合職採用の他に、警察や軍隊の出身者が身分を保持したまま配属されることも多々ある。
セリアズがその典型であった。
「軍の幕僚だったんだ。テロ対策や、警備に関してはお手のものなんじゃないか?」
「いえ、私は……」
第一課長に聞かれて、「対潜哨戒が主な任務でした」と言いかけて、飲み込んだ。
代わりに、
「そういったことは、作戦部の方が得意でしょう。」
とだけ、一言無愛想に答えたのだった。
その点では、第一課長の言う通り、軍の出で、しかも弱小で没落したとはいえ、貴族出身の彼が警備局に配属されることは、まことに都合が良かった。
もちろん、行政組織としても、その行政組織の長から見ても。
セリアズは、他の外交官とは違い、外務省に配属されて、まだ日が浅い。
その名残は、身に着けているものにも現れている。
コートだけ、用意が間に合わなかったのだ。
なので、この合同庁舎に初登庁する時は、スーツの上から海軍将校用のカーキ色のミリタリーロングコートを着てきた。
本人にしては大まじめだが、そのことを皆にからかわれた。
コートだけを見れば、180cm近い細身の身体によく似合っていたから、余計にからかわれたのかもしれなかった。
「セリアズ君、ただでさえ目立ってるんだ。何かやらかしたら、出世に響くぞ。気を付けろよ。」
第一課長がセリアズの隣に来て、わざわざ耳打ちして行った。
「承知しております。」
第一課長からしてみれば、セリアズの立場を慮ってのことであったのだろう。
しかし、セリアズにとっては、本気かからかわれているのかは関係無く、余計なお世話だった。
昨日、「機密情報漏洩問題の調査を一任する」という指示が、セリアズのもとに書面で通達された。
それにしても、外交官としての初仕事が、大使館に出張ってわざわざ探偵ごっことは。
セリアズはその通達の書かれた封書をスーツの胸ポケットにしまい込んだ。
*****
──ベリオン大使館 海外渡航課──
「失礼しまーす……。」
出入り口から少しだけ顔を覗かせて、そっと海外渡航課の中を覗くソフィア。
「誰もいない……?」
主教様から、面接の後で配属先は大使館、それも海外渡航課だと言われて来てみたら、シーンとしているではないか。
ちなみに、受付は顔認証や指紋認証などの最新のセキュリティを備えるゲートだったが、立番の守衛さんに身分証のパスポートと、学生証を見せて、宣教師だと事情を説明した。そしたら、守衛さんは「ご苦労さまです!」と、すんなり通してくれた。
しかし、誰も居ない。
手持ち無沙汰に周りをキョロキョロしている宣教師様だった。まだ、見習いだが。
人手不足とは聞いていたが、本当だったのかと思って、しばらくここで待っていようかと思いかけたところだった。
「あー、大変だった!」
ケイトが頭に巻いたメイドキャップを乱暴に脱ぎながら、渡航課に入って来たのだった。
邪魔にならないよう、ソフィアがデスクに挟まれた通路を端に寄った。
「せっっかく用意したのに。「必要無い」、だって!」
課長に言われて、公邸料理人とコック達総出で料理を作り、メイド達総出で出迎えたのに、首席監察官らに冷たくあしらわれ、追い出されてしまったのだ。
「あー、腹立つ!本当に嫌なやつ。」
今はきっと、課長達が対応に当たっているはずだ。
「まあまあ、きっと立場上おもてなしでも受けられないのよ。あの人達も。」
オリヴィアが監察官達の立場も察して、ケイトを宥める。
準備が無駄になったことに憤るケイトと、それをなだめるオリヴィアに、ソフィアが静かに近寄って行く。
手には、お土産のマカロンの入った紙袋を持っていた。
「あの、わたし本日から……」
ソフィアが挨拶をしようとすると、そのうちの一人、ガラの悪いメイド──否、ケイト・ヒューストンが、
「……ん?アンタ、誰?」
ケイトがどこから入って来たんだコイツ、という目でソフィアを見て、声を掛けてきた。
突然湧いてきた珍しい動物でも見付けた時のようだった。
「すみません、わたし……」
再び挨拶と自己紹介を試みようとするソフィアだが、今度はオリヴィアが、
「ごめんね。ここは、大使館だから、一般の方の立ち入りはちょっと……。」
困ったような表情を浮かべている。
「そうそう、今日から新しい子来るみたいだし?それに……」
教育係、とケイトが続けようとしたが、
「そういえば、私達教育係じゃない?一応、課長か係長に、どうするか確認取った方がいいんじゃないかしら?」
オリヴィアに遮られてしまった。
「何?アタシが教育係じゃ、不満?」
「ううん、そういうわけじゃないけど……。」
「そういえばこのやり取り、前にもしたわね。」
二人とも、ソフィアの存在はそっちのけで会話を続けている。
「あの!わたし、今日からこちらで!」
ソフィアそっちのけで話を進める二人。そこへ、
「あー疲れた疲れた!」
「帰っちゃったよ。」
課長とコックのアーサーが帰ってきた。その後ろからノエルも遅れて着いてきていた。相変わらず、連れ回されても断れず、腰が低いようだ。
「……ん?そちらの方は?」
課長が自分のデスクに戻ってくると、ソフィアの存在に気付いたようだ。
「はぁ、困った困った。困ったことだよ本当に!君ねえ、さては学生かい?大方、試験にでも受かって、ちやほやされて良い気になってここへ来たんだろう?けど、いくら優秀でもでもそれはまずいなあ?ここは、大使館。日夜外交機密が飛び交って、それはもうお偉いさん達がそこら中を歩いてるんだぜ。」
アーサーが妙に鋭い。ばかりか、自分の手柄のように話しているではないか。
「別にちやほやされても、良い気になってもいませんけど……。」
ここぞとばかりに、アーサーがお調子者を発揮して、嫌味ったらしくソフィアに絡んでいる。
「飛び交ってるのは、外交機密じゃなくて、いつも君のどこから聞いたかわからない噂話でしょ。」
係長がその後ろでぼそりと呟いた。
困ったように控えていたノエルが、
「もしかして、本省からの書記官の方ですか?」
恐る恐る、ソフィアに尋ねる。
「え?」
ケイトとオリヴィア、そして課長と係長とアーサー、つまりみんなが一斉にソフィアの方を向いた。
「え?」
「……え?」
「あー……ごほん。失礼。」
“本社”からのお偉いさんと聞いて、即座に接待モードに切り替わる課長。そしてアーサー。
「わたくし、こちらの大使館で海外渡航課の課長を務めております、ハミルトンと申します!」
両手をもみもみしながら、気持ち悪いほどの笑みを浮かべている。
「何か、食べたいものはありますでしょうか?お好きなものがございましたら、この料理長の私になんなりと。」
アーサーはアーサーで、何故か急にキメ顔になっている。
「料理長じゃないでしょ。」
ケイトがアーサーの背中を小突いた。
「痛っ!……細かいことは良いんだよ。どうせ、今来たばっかの本社の人間に、わかりゃしないんだから。」
「先程はうちのコックが、大変なご無礼をいたしました。」
アーサーではなく、課長が、額を擦り付ける勢いで先程の無礼を謝罪している。
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