見習い聖女の厄介事!

神山 祐太

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「見習い宣教師と最初の大事件」

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 ソフィアは、課長の椅子に無理やり座らされ、その周りをケイトやオリヴィア、そしてノエル達が囲んでいる。

「本省からお見えなら、それならそうと、早く仰ってくださいよ!」

 課長が、ソフィアをお姫様扱い、ならぬ上級外務公務員扱いしていた。

 アーサーがそれに倣って、ソフィアを褒めそやしている。

「先程はお出迎えもせず、大変失礼をいたしました!これはこれは。いやー!それにしてもお綺麗な方だ!驚きましたよ!」

 課長は最早折れ曲がるようにしてソフィアにペコペコし、アーサーはうやうやしくを通り越して、一周回って本心かどうか疑わしいレベルだ。

「でも、監察官の方々は、さっき一通り資料預かって帰っちゃいましたよ。今日は一体、どのようなご用件で?」

 ノエルが、外交官ならぬ見習い宣教師に聞く。

「おい、そんなことは後でいいんだよ!お疲れなんだから。」

「はい、すみません……。」

 逆に叱責されてしまった、秘密情報部員。このままだと、仮に3ヶ月後に係長か係長代理になったとしても、自分より年上の、しかも一癖ある部下達に毅然とした命令が出来るか疑問だった。

「おい!アーサー!君はコックだろう!」

 課長も課長で、自分より下の部下には当たりが強く、見ての通り上には腰が低く、アップダウンが激し過ぎて見ているノエル達の方が疲れてしまう程だ。

 特に、“上”の人間を前にすると床にのめり込んでしまうのではないかというほどいつも頭を下げるのだった。

「長旅、さぞお疲れででございましょう。」

「いや、わたしはあの……」

 ソフィアが戸惑うのもお構い無しの、接待攻撃であった。

 これはこれで、発覚したら後で問題になりそうだ。

「ケイト君!本省の書記官に……ごほん、一等書記官に!!お飲み物お出しして!お紅茶とコーヒーがございますが、どちらにいたしましょうか?今日の私がございますのは、全て、ひとえにあなた様のおかげにございます。」

「今日会ったばかりでしょうが。」

 呆れるメイドのケイト。

 もしも、これらの奇行が原因で課長職を辞する羽目になり、再就職を考えるとしたら、高級レストランのギャルソンにでも……と、ケイトは失礼な想像していた。

「ちなみに書記官、以前の任地はどちらで?」

 課長が気を遣い過ぎて気持ち悪い笑みと猫なで声で、ソフィアに聞いた。

 皆、ソフィアを、すっかり外交官、しかも“本社”の上級外務公務員だと思い込んでいる。

「任地というか、わたしは……」

 矢継ぎ早に質問を重ねる、糖尿直前の中年管理職。

「課長、困ってますよ。」

 その姿に呆れていたノエルと係長が、ついにソフィアへ助け舟を出した。

 ケイトは頬杖をつき、向かいのデスクに腰掛けて脚を組んでいた。その様子を冷めた目でで一同を眺めていたが、

「あなた、本社の一等書記官なの?まあ、わたしには関係ありませんけどね。」

 ケイトは、大使館職員だけの隠語である“本社”呼びを隠そうともせず、対して聖職者にも外交官にもあまり敬意を持っていない様子である。

 良く言えば、この少女は誰のことも特別扱いしないのだ。

「じゃあ、ご立派な中間管理職の方々と、総合職組の秘密情報部員で、あとはよろしくね。」

 と言ってから、ソフィアと課長の顔を交互に見て、お茶を淹れるべく去って行った。

「いや、あの、わたし……外交官というか、その。」

 こうなってしまうと、ソフィアも勢いに押されてなかなか言い出せない。マカロン入った紙袋も、差し出すタイミングを逸して、膝の上で鎮座している。

「ほら、課長。やっぱり困ってるじゃないですか。」

 見かねたノエルと、そして係長も課長ほどではないが、気を遣う。

「もしかして、総合職採用、受かったばかりなのかい?」

 見た目の通りの優しく、ノエルがソフィアに問い掛けた。

「あの、総合職採用と言いますか、エディンバラ大学からの宣教師と言いますか……。」

「え、エディンバラ大学!?めちゃくちゃ優秀じゃないですか!」

 ノエルが驚いている。

「僕はノエル。ノエル・ハウレット。僕も、総合職採用なんだ。」

「そうなんですか?」

「うん、父が、秘密情報部……MI6の長官で。それが縁で、この大使館に。」

「お父様が……すごいですね。」

 ソフィアが、この気弱な優男が実は優秀だと知った瞬間だった。

「そう、凄いのはな、父親であってお前ではない。七光め。」

 卑屈モードになった時の係長が面倒くさいのだろう。

「今度、父に会ったら、係長のことよく言っておきますから。非常に職務熱心な方だと。」

 それとなく口利きをすることを約束した。

「ありがとうございます。お坊ちゃま。今日の私があるのは、お坊ちゃまのおかげでございます。お父様によろしくお伝えください。」

 手の平返しもはなはだしく、係長は立ち上がってノエルにお礼をする。

「まあ綺麗、なのは認めるけどね。」

 戻ってきたケイトがとりあえず紅茶を出した。

「……あら?今、宣教師って……。」

 会話に参加していなかったオリヴィアが、耳聡くソフィアの放った一言に気付いた。

「課長、そういえば今日付で宣教師の子が来るって言ってませんでした?」

 続いて、ノエルも正体に気が付いたようだ。  

「それ、わたしです。」

 と、ソフィアはお土産のマカロンの入った、可愛らしい紙袋をちょこんと持ち上げた。

 そして、気まずそうにソフィアはベリオン大使館・海外渡航課旅券発給係の面々に挨拶をするのだった。


*****

「なんだよお!!もう、言ってくれよおおお!!」

 感情の乱高下から解放された係長が、胸を撫で下ろしている。

「みんな!集合!集合!」

 課長が、大声を出して渡航課の皆を手招きした。もう集っているのだが。

「もう集合してますよ。課長。」

「お、そうだな。大使館うちに出向している、ノエル君だ。私が、課長のハミルトンだ。よろしく。」

「先程伺いました。宣教師のソフィア・グローリーです。よろしくお願いします。」

「さっき紅茶を淹れて来てくれたのが、ケイトちゃん。ここでメイドをしてる子。こちらの美女が、報道官のオリヴィアさん。あそこに座ってるのが、旅券係の係長。」

 心優しい総合職採用の秘密情報部員が、課長を補佐している。

 オリヴィアが微笑み、係長は気怠そうによろしく、と片手を挙げた。

「皆さん、よろしくお願いします。」

 ぺこりと、ソフィアが一礼する。

「ところで、大使館ここのセキュリティゲート……というか、受け付け通れたの?」

「ええ、立ち番の守衛の方に事情を説明したら、通してくれました。」

 と言って、ソフィアは外交パスポートの一種である宣教旅券と、“派遣宣教師 エディンバラ大学 宣教修習コース(1期生)”と書かれた学生証を見せた。

「え?それだけで?おいおい、大丈夫かうちのセキュリティは。」

 普段は職務怠慢もいいところな係長が、珍しく心配していた。 

「後で、ここのIDカードも作ろうか。ソフィアさん。僕、手伝うから。」

「ええ、お願いします。ところで、ノエルさんも、研修中なんですか?」

「おい、ソフィア嬢。そいつの“研修中”に騙されたらダメだぞ。」

 先程までソフィアとノエルのやり取りにろくに興味を示していなかった係長が横槍を入れる。ソフィアに、というよりむしろノエルに対してだった。

「そうそう、3ヶ月後、ここの係長だからね。2年後課長。5年後、ここの参事官かしら?」

 オリヴィアが、すかさず説明を加えた。

「はあ……なんだか、すごい方なんですね。よろしくお願いします。」


「ん?なんか外、騒がしいな。」

 課長が何かに気付いて、窓の方へ近付いて行った。日除けのシェードをずらして、その隙間から外を伺おうとしたその時、

「た、大変です!!そ、外に……。」

 と、受け付けの女性が駆け込んで来たのだ。

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