見習い聖女の厄介事!

神山 祐太

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「見習い宣教師と最初の大事件」

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「……来ましたよ。本物の、本省の書記官達が。」

「うわあ、お偉いさん達の大名行列ねー。」

 窓から、ノエルとケイトが様子を伺っている。

 大使館の玄関前に次々と到着し、車が横付けされ、公用車両が列を成して行く様子を見たケイトが、それを“大名行列”と揶揄した。

 課長は、口には出さなかったが、その後ろで参ったなあ……という顔をしていた。

「本当に来ちゃったか……。」

 やはり、耐え切れず口に出してしまったようだ。

「だ、大丈夫ですか?課長……。」

 オリヴィアが、その背中をさすっていた。

 ソフィアだけが、何が起きているのかわかっていない!


 *****

 ──ベリオン大使館 玄関前──


 一目で通常の来客ではないとわかったので、受け付けの女の子は、すぐに上階の渡航課へと知らせに駆け上がって行ってしまった。エレベーターを待つ時間も惜しかったようだ。

 セキュリティゲートの前で立ち番をしている地元の警察官も、ただただ固まって車列を見ているばかりであった。

 車からスーツをきっちりと着込んだ秘書官がまず降りてきて、後部ドアを開けた。公用車から、背が高く、真面目そうというよりもむしろ鋭い顔つきをした男が降りてきた。

 丈の長いミリタリーコートを着込み、手には、革製の上質な鞄を持っていた。

 ギルベルト・セリアズである。

 手には、革製の上質な鞄を持っていた。

 先日ユーロ・ブリティッシュ本国からベリオン合同庁舎へと着任したばかりだった。

 しかし、新しく部下となった警備局の面々には、既に“書記官”、と呼ばれていた。

 本大使館担当の、テロ対策・公館警備担当を務めるのが、外交官としての初任務になる。

 スーツのジャケットの襟元に着けている筈の参謀徽章が、外務公務員記章バッジに変わっていた。そのことは、セリアズしか知らない。

「時間は?」

 セリアズが、秘書官に尋ねた。

「定刻通りです。」

 秘書官が念の為、

「大使は、出張中だそうです。」

 と報告した。

 セリアズの両隣を、秘書官と、警察官上がりのベテランの警備第一課長が固めていた。

 後ろの大型車からも次々と職員達が降りてきて、調査資料やパソコン、何に使うかわからない通信機やその他の機材を持ってセリアズ達の後に続いていく。

「一般の職員達には、箝口令を敷くが、構わないね。」

 セリアズの左隣を陣取っている警備課長が告げる。我々にとってはこれが慣例だ、と言わんばかりだ。

「3階の、海外渡航課の部屋を抑えておきましたので。」

 秘書官が警備課長の後へと続いた。

「お任せします。念の為、一般の職員達には通常の業務を続けるように、と通達してください。」

 それ以外の会話は無かった。

 秘書官を初め、セリアズを“海軍出身の”、“田舎の貴族の出”と、色眼鏡で彼を見るものも少なくなかった。

 また、警備課長も、セリアズのことを内心では“軍隊上がりの何も知らない若造”と、思っていた。

 口には出さないが、そういう侮りや嘲りは、本人には空気として刺さるものである。

 居心地の悪さを振り払うため、そしてそういった輩へ示しを付けるためにも、彼は努めて冷静に振る舞わなければならないことを自覚していた。

 身に着けるものにも気を配っていた。

 唯一、コートだけは間に合わなかったので、海軍時代に冬用の装備品として支給されていた、幹部用のロングコートを身に着けていた。

 スーツの胸元には、「外務省職員」を表す、紋章委員発行の徽章が光っている。

 大使館の職員達には目もくれず、秘書官がセリアズに耳打ちする。

「G20が開催されていますから、くれぐれもマスコミには気を付けてください。上からの指示です。」

 「わかっている。」と言いたかったが、セリアズは、それに対しては何も反応はしなかった。

 セリアズを先頭に、ノーチェックでゲートを通り、全員が階段を上って行った。

 先程、事前に抑えておいたと言っていた、海外渡航課が使っているフロアへ向かった。

 渡航課だけが3階のフロアを使っているわけではなかったが、“本社”からやって来た人員を考えると、他の課や部署も、騒動が落ち着くまでこの場を明け渡すしか無さそうだった。

 そこに足を踏み入れた瞬間に、先頭に立っているセリアズが淡々と告げた。

「外務省の者です。課長と、報道官を呼んでください。」

 表面的には敬語だったが、挨拶もなく、“本社”の人間として命じている、に近い言い方だった。

 目の前にいる人物をこの課の主、課長とは思わなったのか、秘書官も、

「早くしてください。」

 と、急かした。
 
「……あの、もしかして本物の?」

 突然現れたセリアズ達に驚いた課長が、アホの子のように口を半開きにして尋ねている。

 本物、と呼ばれたセリアズと秘書官は、不思議そうに一瞬顔を見合わせていたが、

「早くしてください。」

 再び課長を急かすと、課長は大慌てでオリヴィアを連れて、再び大慌てでセリアズのもとへと駆け寄った。

 その忙しく立ち回る課長のことは無視して、

「君が、この大使館の報道官か?」

「はい。報道官の、オリヴィア・エリオットです。」

 冷静だが強い口調で、セリアズがオリヴィアに尋ねた。

「マスコミへの対応は?どうなっている?」

「はい、彼女は、我々大使館の優秀な報道官でございまして。彼女なら心配要らないかと。」

 彼女が対応を一任されていることを、セリアズ達は事前に知っていたようだ。

「……僕らは、出ようか。ここから。」

 空気を読んだノエルは、ソフィアやケイトに目配せをした。セリアズ達に気が付かれないように、そろーりと立ち上がって、ひと足先に出て行こうとした。

「待て。君は、秘密情報部から出向した総合職だったな。」

 警備課長が、ノエルの背中に向かって言った。

「え?ええ、そうですけど……。」

「我々と共に残りたまえ。」

 セリアズが、無慈悲にノエルに言った。

「関係無い者は早くここから出してください。」

「はい、ただいま。すぐに出て行かせますので。」

 課長は、セリアズの言いなりになっている。

「ほら、みんな、ここから出て。」

「出て行けって、ここ、わたし達の部屋じゃないですか。」

 ソフィアが、課長に言い返した。いや、この場合セリアズや警備課長に言い返した、と言った方が良いのか。

「いいから!」

 課長がケイトの方を見て、目で後は頼む、と言っていた。

「……とりあえず、行きましょ。ほら、アンタも早くする。」

 スイーツ付きラウンジのお食事券が、少し効いているようだ。

 ケイトに急かされて、係長もゆっくりと立ち上がった。

「はいはい。言われなくても、出て行きますよ。」

 ノエルが申し訳無さそうにソフィア達の方を見て、ゴメン、と手を合わせていた。
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