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「見習い宣教師と最初の大事件」
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光が、暗闇を裂いた。
なぜなら、たった今彼女が剣を抜き放って、構えたからだ。
「さあ、悔い改めなさい。」
と、剣を構えて薄明かりの中に佇むその姿は、中世の騎士を彷彿とさせる。だが、その姿はよく見えない。
「グウウゥ……ッ!!」
こちらに向かってくるかのような、低いうめき声が聞こえる。
しかし、彼女は、
「さあ、悪魔よ去りなさい。速やかに。」
と冷静に告げて、落ち着いた所作で剣を構え直した。
剣はよく手入れされており、光を反射してキラキラと輝いていた。刃の部分──東洋の刀で言えば、棟に当たるところに少しだけ、彼女の顔が映った。
「この剣は、アーサー王縁のひと振りと聞いています。」
透き通るようなスカイブルーの瞳の色、何よりその意志が強そうな眼差しが伺える。
目の前の“悪魔”と呼ばれる誰か──もしくは何者か、かもしれない──は相変わらず無反応で、向かい合ったまま彼女を少し見上げて、また目を逸らした。
「往生際が悪いですね。」
彼女が、冷静に、だが確実に“悪魔”に詰め寄る。
剣を目の前の相手に向けて、背筋を正して構えるその姿は凛々しく、彼女の色の白い容姿と後ろでまとめた長い髪が相まって、大変気高いように見えた。
その姿はさながら、古の聖書や古文書に登場する"聖女"のようでもあった。
これがこの薄闇の中でなければ、この姿が何かの神聖な儀式にも見えるだろう。
ついに彼女は痺れを切らし、一足に床を蹴り上げて相手と間合いを詰めた。
そして、相手の首筋へと剣を当てて、
「命まで、取りはしません。」
彼女は譲歩したつもりだった。
だが、この言葉に対しても、暗闇の中の相手からの反応は無かった。
「……。」
流石に脅されて素直に従う相手ではないと悟ったのか、彼女もすぐに剣を鞘へと収める。カチン、という金属音が鳴った。
その姿も変わらず流麗で、あくまで冷静であり、そして落ち着いていた。
薄灯の中、何かしらの反撃を喰らうかもしれない中で、剣を収めるという彼女の行動は大胆だった。
騎士然とした立ち振る舞い然り、この大胆さも、彼女の生来の生まれ持った気質なのかもしれない。
「お前には、剣も脅しも通用しないようですね。では……」
剣を突き付けられても、少しも怯む様子は無い。そのことに、彼女は焦るというよりむしろ少し苛立ったようだ。
「ならば……!!」
と彼女は考えを巡らせて、律儀に留めていた胸元のボタンを外して、外套のポケットからそれを取り出したのだった。
小瓶に入ったそれは、所謂“聖水”と呼ばれるシロモノだ。
「お前のような悪魔には、これで充分です。」
これがこの薄闇の中でなければ、この姿が何かの演劇や映画のワンシーンにも見えそうだった。
落ち着いてはいるが、強くはっきりと、
「ソフィア・グローリーの名において命ずる。」
と言った。ソフィア・グローリー。それが、彼女の名だった。
ソフィアは、胸の前で指先で十字を切ると、瓶の栓を抜いて、聖水を注いだ。
「これでも効かなければ、こちらも本気にならなければなりません。」
続けて、
「悪魔よ、この者から去りなさい。」
と言った。言ったというより、凍るような言い様で命じた、という方が近い。
ソフィアは、空になった瓶を置いた。
そして、相手の……悪魔の様子を見て、少し考えてから、今度は十字架を取り出す。
「……吸血鬼よ。ああ、いえ、失礼。悪魔でしたっけ?あなた。」
……聞き間違いだろうか。悪魔払いが、いつの間にか吸血鬼退治になってしまったようだが。
ともかくも、彼女はひざまずいて目を閉じ、胸の前で手を組んだ。そして、十字架を握り締めて、祈りを捧げた。
「父と子と聖霊の……いえ、ソフィア・グローリーの名において命ずる。」
「ごほん。おおっ、迷える子羊よ!主よ、憐れみたまえ……汝よ、何を悔い改めん!!」
「この祈りを聞けば、あなたも悔い改めずにはいられません!絶対に!!ええ、それはもう!!」
これから神の名を讃え、悪魔を追い出すための大演舞が始まろうとしていたその時──
聖水の効果があったのだろうか。または、ソフィアの祈りが通じたのか。
「──グオオォッ!!!」
相手がソフィアへと襲いかかってきたのだ。
反射的に身を翻して、剣を抜くソフィア。
後方に跳んだが、着地する瞬間、滑って足を取られてしまった。
「しまった!」
剣を向けながら、彼女に初めて焦りの色が浮かんだ。
暗闇の中から、悪魔が今にも彼女に襲いかかろうとしている。
咆哮と共に、倒れる彼女に襲いかかった。
「くっ……!」
そして──
「君!もう、いいよ。君、聞いてるのか!?カット!カット!カット!!」
「……ちょっと。君、何やってんの?さっきから!」
という声が掛かり、明かりが一斉に灯った。
映し出されたのは、貴族の茶会にでも使われそうな、今は会議室として使われているサロンだった。
“悪魔に取り憑かれた男役”だった男が彼女に歩み寄って、呆れたように一言告げる。
「だから言ったじゃない。ハリウッド映画の見過ぎだ、って……。」
ソフィアの肩をぽんっ、と叩いて、ため息をついた。
なぜなら、たった今彼女が剣を抜き放って、構えたからだ。
「さあ、悔い改めなさい。」
と、剣を構えて薄明かりの中に佇むその姿は、中世の騎士を彷彿とさせる。だが、その姿はよく見えない。
「グウウゥ……ッ!!」
こちらに向かってくるかのような、低いうめき声が聞こえる。
しかし、彼女は、
「さあ、悪魔よ去りなさい。速やかに。」
と冷静に告げて、落ち着いた所作で剣を構え直した。
剣はよく手入れされており、光を反射してキラキラと輝いていた。刃の部分──東洋の刀で言えば、棟に当たるところに少しだけ、彼女の顔が映った。
「この剣は、アーサー王縁のひと振りと聞いています。」
透き通るようなスカイブルーの瞳の色、何よりその意志が強そうな眼差しが伺える。
目の前の“悪魔”と呼ばれる誰か──もしくは何者か、かもしれない──は相変わらず無反応で、向かい合ったまま彼女を少し見上げて、また目を逸らした。
「往生際が悪いですね。」
彼女が、冷静に、だが確実に“悪魔”に詰め寄る。
剣を目の前の相手に向けて、背筋を正して構えるその姿は凛々しく、彼女の色の白い容姿と後ろでまとめた長い髪が相まって、大変気高いように見えた。
その姿はさながら、古の聖書や古文書に登場する"聖女"のようでもあった。
これがこの薄闇の中でなければ、この姿が何かの神聖な儀式にも見えるだろう。
ついに彼女は痺れを切らし、一足に床を蹴り上げて相手と間合いを詰めた。
そして、相手の首筋へと剣を当てて、
「命まで、取りはしません。」
彼女は譲歩したつもりだった。
だが、この言葉に対しても、暗闇の中の相手からの反応は無かった。
「……。」
流石に脅されて素直に従う相手ではないと悟ったのか、彼女もすぐに剣を鞘へと収める。カチン、という金属音が鳴った。
その姿も変わらず流麗で、あくまで冷静であり、そして落ち着いていた。
薄灯の中、何かしらの反撃を喰らうかもしれない中で、剣を収めるという彼女の行動は大胆だった。
騎士然とした立ち振る舞い然り、この大胆さも、彼女の生来の生まれ持った気質なのかもしれない。
「お前には、剣も脅しも通用しないようですね。では……」
剣を突き付けられても、少しも怯む様子は無い。そのことに、彼女は焦るというよりむしろ少し苛立ったようだ。
「ならば……!!」
と彼女は考えを巡らせて、律儀に留めていた胸元のボタンを外して、外套のポケットからそれを取り出したのだった。
小瓶に入ったそれは、所謂“聖水”と呼ばれるシロモノだ。
「お前のような悪魔には、これで充分です。」
これがこの薄闇の中でなければ、この姿が何かの演劇や映画のワンシーンにも見えそうだった。
落ち着いてはいるが、強くはっきりと、
「ソフィア・グローリーの名において命ずる。」
と言った。ソフィア・グローリー。それが、彼女の名だった。
ソフィアは、胸の前で指先で十字を切ると、瓶の栓を抜いて、聖水を注いだ。
「これでも効かなければ、こちらも本気にならなければなりません。」
続けて、
「悪魔よ、この者から去りなさい。」
と言った。言ったというより、凍るような言い様で命じた、という方が近い。
ソフィアは、空になった瓶を置いた。
そして、相手の……悪魔の様子を見て、少し考えてから、今度は十字架を取り出す。
「……吸血鬼よ。ああ、いえ、失礼。悪魔でしたっけ?あなた。」
……聞き間違いだろうか。悪魔払いが、いつの間にか吸血鬼退治になってしまったようだが。
ともかくも、彼女はひざまずいて目を閉じ、胸の前で手を組んだ。そして、十字架を握り締めて、祈りを捧げた。
「父と子と聖霊の……いえ、ソフィア・グローリーの名において命ずる。」
「ごほん。おおっ、迷える子羊よ!主よ、憐れみたまえ……汝よ、何を悔い改めん!!」
「この祈りを聞けば、あなたも悔い改めずにはいられません!絶対に!!ええ、それはもう!!」
これから神の名を讃え、悪魔を追い出すための大演舞が始まろうとしていたその時──
聖水の効果があったのだろうか。または、ソフィアの祈りが通じたのか。
「──グオオォッ!!!」
相手がソフィアへと襲いかかってきたのだ。
反射的に身を翻して、剣を抜くソフィア。
後方に跳んだが、着地する瞬間、滑って足を取られてしまった。
「しまった!」
剣を向けながら、彼女に初めて焦りの色が浮かんだ。
暗闇の中から、悪魔が今にも彼女に襲いかかろうとしている。
咆哮と共に、倒れる彼女に襲いかかった。
「くっ……!」
そして──
「君!もう、いいよ。君、聞いてるのか!?カット!カット!カット!!」
「……ちょっと。君、何やってんの?さっきから!」
という声が掛かり、明かりが一斉に灯った。
映し出されたのは、貴族の茶会にでも使われそうな、今は会議室として使われているサロンだった。
“悪魔に取り憑かれた男役”だった男が彼女に歩み寄って、呆れたように一言告げる。
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ソフィアの肩をぽんっ、と叩いて、ため息をついた。
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