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一章 第一話
2.死地との遭遇
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道なき道をひたすら東に進む。正直既にかなりしんどい。山歩きにブランクがあるのもそうだが、メンタル面がひどい。
重い装備を背負って山中を歩くという時点でかなりの重労働なのに、今は遭難状態。加えて、足下に注意しながら、地形の変化に注意しながら、目先の進行方向に注意しながら、景色の変化に注意しながら、全方向での敵襲を警戒しなければいけない。んなこと出来るか! 人間1つの事やるので精一杯なんだよ! と、雑念が頭を過り集中力が切れてきたところで、最適な場所があったので休憩を取ることにした。
行動開始後から適当な場所があれば定期的に休憩をとっている。今回は、樹齢千年は有ろうかという巨木があったので、根元の茂みの傍に潜んだ。
磁石を取り出し、改めて方角と地図を確認する。スタート地点から尾根に沿って真っ直ぐ東へ歩いてきたのだが、実は先程から尾根が緩やかに北に向き始めている。
水筒から水を一口飲み込み、息を整えしばし考える。
行動開始から、暫くずっと東に進むことができた。距離にすれば数キロは移動出来ただろう。スタート地点がこの地図に描かれている範囲内だとすれば、かなり平野に近づけた筈だ。
ベルトに付け直した食料袋からドライフルーツを取り出し少し囓る。マンゴーか。やっぱわかってるなぁ、メトロンさん。
ドライマンゴーの甘酸っぱさを味わいながら、尾根の進行方向を目を凝らして見る。ここから見える分には、100メートルくらい先でまた東に向かっているようだ。ここまで頭上は枝に覆われていて、遠い景色を観ることが出来なかったので、少しは変化が有れば良いのだが……。
日が高くなってきたのか少し暑くなってきた。
水分補給はしているが水の残りも限りがあるし、何よりこのローブが暑い。このローブ、準備の段階で森や山の中での行動を想定して迷彩代わりに深緑色の物を貰い、ここまで律儀にフードまで被って行動してきたのだ。だって盗賊怖いんだもん。だが、冗談抜きで早く山を下りないと、この山中で野宿するようなことになればマジで危険だ。
そう思うと、余り音をたてないように立ち上がり、さっき確認した尾根の曲がり角を目指した――。
疲れてるときの100メートルって結構遠いよね。
歩き始めたはいいが、正直転生前のようなやる気は出ない。右手に持った杖をつきながら獣道を歩く。歩くペースも遅くなり、周囲への警戒もかなり雑になり始めている。
そろそろ道の曲がり目ももう少しという頃、耳を疑うような音が聞こえた。
この尾根を曲がった先か。いや、この尾根を挟んだ向こう側から微かに、人の悲鳴や怒号の様な音が聞こえる。
頭の中で警報が鳴り響く――。
さっきまで疲れていた思考、手足、あらゆる感覚が鋭敏に研ぎ澄まされる。
右側。いままで沿って歩いてきた尾根を見上げる。
(……登れる。頂上に大きな岩がある。あそこに隠れよう)
思うが早いか、頂上の岩まで直線的に尾根を登り始めた。
素早く。音を立てないように。草木に紛れるように――。
登るにつれ音が近くなる。やはり人の声だ。
大岩に辿り着く。岩を背に息を整え、岩影からそっと顔を出す。
大体80メートルくらい先だろうか。左下に狭い沢があり、そこで――。
人が殺し合いをしていた。
死屍累々。倒れているのは4人程だろうか。白灰色の岩、緑色の苔の上が所々赤黒くなっているのが判る。
戦っているのは刀を持った大柄の男3人と、山中には似つかわしくない銀色の丸盾を着けた黒髪の長い人間。騎士だろうか。しかし、賊と比べかなり線が細い。
(……いや、線が細いというよりも――、女か!?)
多勢に囲まれ、追い詰められ、懸命に応戦している女。そんな光景を見てしまった。思わず再び岩影に隠れてしまう。
(どうしよう。どうしようもない。何か助けになれないか。助けてどうなる。狙われたらきっと助からない。だけどっ――)
時間にすればほんの数秒。その間に沢山の逡巡が頭の中で起こった。
沸き立つ感情を混乱する頭でどうにか精査し、答えを出す。
自分は出来るだけ音を立てないよう、他の木の影に移るように、沢に背を向けて大岩の影から離れていく。
見捨てる。それが自分に下した結論だった。
人を助ける為には、人を助け、その上で自分も助かる実力が必要だ。助けに行っても、自分一人が犬死にするだけだ。俺はこの世界で生きなくちゃいけない。生きてあの世界に戻らなくちゃいけないのだ。メトロンさんが最後に言っていた。目的を果たせずこの世界で死ねば、そのまま元の世界での自分も死ぬと。誰に見られた訳でもない。黙っていれば、誰に責められるものでもない。
そんな言い訳が延々と、頭の中でこだましていた。
それからは特に何もなかった。
周囲に賊の仲間がいることを警戒し、細心の注意を払いながら、一度沢とは反対の南側から迂回し、再び東を目指した。
尾根を登ったことも功を奏し、迂回した先の尾根の頂上から集落の端を見る事が出来た。
その後は、磁石で方向を確認しながら下山し、無事ヨアン村に辿り着いたのは夕方の事だった。
重い装備を背負って山中を歩くという時点でかなりの重労働なのに、今は遭難状態。加えて、足下に注意しながら、地形の変化に注意しながら、目先の進行方向に注意しながら、景色の変化に注意しながら、全方向での敵襲を警戒しなければいけない。んなこと出来るか! 人間1つの事やるので精一杯なんだよ! と、雑念が頭を過り集中力が切れてきたところで、最適な場所があったので休憩を取ることにした。
行動開始後から適当な場所があれば定期的に休憩をとっている。今回は、樹齢千年は有ろうかという巨木があったので、根元の茂みの傍に潜んだ。
磁石を取り出し、改めて方角と地図を確認する。スタート地点から尾根に沿って真っ直ぐ東へ歩いてきたのだが、実は先程から尾根が緩やかに北に向き始めている。
水筒から水を一口飲み込み、息を整えしばし考える。
行動開始から、暫くずっと東に進むことができた。距離にすれば数キロは移動出来ただろう。スタート地点がこの地図に描かれている範囲内だとすれば、かなり平野に近づけた筈だ。
ベルトに付け直した食料袋からドライフルーツを取り出し少し囓る。マンゴーか。やっぱわかってるなぁ、メトロンさん。
ドライマンゴーの甘酸っぱさを味わいながら、尾根の進行方向を目を凝らして見る。ここから見える分には、100メートルくらい先でまた東に向かっているようだ。ここまで頭上は枝に覆われていて、遠い景色を観ることが出来なかったので、少しは変化が有れば良いのだが……。
日が高くなってきたのか少し暑くなってきた。
水分補給はしているが水の残りも限りがあるし、何よりこのローブが暑い。このローブ、準備の段階で森や山の中での行動を想定して迷彩代わりに深緑色の物を貰い、ここまで律儀にフードまで被って行動してきたのだ。だって盗賊怖いんだもん。だが、冗談抜きで早く山を下りないと、この山中で野宿するようなことになればマジで危険だ。
そう思うと、余り音をたてないように立ち上がり、さっき確認した尾根の曲がり角を目指した――。
疲れてるときの100メートルって結構遠いよね。
歩き始めたはいいが、正直転生前のようなやる気は出ない。右手に持った杖をつきながら獣道を歩く。歩くペースも遅くなり、周囲への警戒もかなり雑になり始めている。
そろそろ道の曲がり目ももう少しという頃、耳を疑うような音が聞こえた。
この尾根を曲がった先か。いや、この尾根を挟んだ向こう側から微かに、人の悲鳴や怒号の様な音が聞こえる。
頭の中で警報が鳴り響く――。
さっきまで疲れていた思考、手足、あらゆる感覚が鋭敏に研ぎ澄まされる。
右側。いままで沿って歩いてきた尾根を見上げる。
(……登れる。頂上に大きな岩がある。あそこに隠れよう)
思うが早いか、頂上の岩まで直線的に尾根を登り始めた。
素早く。音を立てないように。草木に紛れるように――。
登るにつれ音が近くなる。やはり人の声だ。
大岩に辿り着く。岩を背に息を整え、岩影からそっと顔を出す。
大体80メートルくらい先だろうか。左下に狭い沢があり、そこで――。
人が殺し合いをしていた。
死屍累々。倒れているのは4人程だろうか。白灰色の岩、緑色の苔の上が所々赤黒くなっているのが判る。
戦っているのは刀を持った大柄の男3人と、山中には似つかわしくない銀色の丸盾を着けた黒髪の長い人間。騎士だろうか。しかし、賊と比べかなり線が細い。
(……いや、線が細いというよりも――、女か!?)
多勢に囲まれ、追い詰められ、懸命に応戦している女。そんな光景を見てしまった。思わず再び岩影に隠れてしまう。
(どうしよう。どうしようもない。何か助けになれないか。助けてどうなる。狙われたらきっと助からない。だけどっ――)
時間にすればほんの数秒。その間に沢山の逡巡が頭の中で起こった。
沸き立つ感情を混乱する頭でどうにか精査し、答えを出す。
自分は出来るだけ音を立てないよう、他の木の影に移るように、沢に背を向けて大岩の影から離れていく。
見捨てる。それが自分に下した結論だった。
人を助ける為には、人を助け、その上で自分も助かる実力が必要だ。助けに行っても、自分一人が犬死にするだけだ。俺はこの世界で生きなくちゃいけない。生きてあの世界に戻らなくちゃいけないのだ。メトロンさんが最後に言っていた。目的を果たせずこの世界で死ねば、そのまま元の世界での自分も死ぬと。誰に見られた訳でもない。黙っていれば、誰に責められるものでもない。
そんな言い訳が延々と、頭の中でこだましていた。
それからは特に何もなかった。
周囲に賊の仲間がいることを警戒し、細心の注意を払いながら、一度沢とは反対の南側から迂回し、再び東を目指した。
尾根を登ったことも功を奏し、迂回した先の尾根の頂上から集落の端を見る事が出来た。
その後は、磁石で方向を確認しながら下山し、無事ヨアン村に辿り着いたのは夕方の事だった。
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