死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する

オカさん

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大会始動

72話 全種目出場宣言

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「全種目出場って言ったのか……?」

「何言ってんだあいつ」

「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ一年!」

 魔導大会を経験した上級生たちは呆れや怒り、驚きなど様々な感情を見せた。
 まあ大会の過酷さをよく知っているからこそ、俺の発言にそんな反応を見せるのも頷ける。

「セロブロ殿、その平民を黙らせましょう!」

 A組の生徒が振り返って腕組みするセロブロに懇願こんがんする。

「魔物と同じでこの馬鹿に何を言っても無駄だ」

 そう言って貴族を相手に突っぱねると大人しく前を向かせた。
 懇願した相手が公爵家なのと黙らせたい平民が格上なのだからどうすることも出来ない。

「ちょっとアルム、先輩たちを怒らせないでよぉ」

 怯えながら袖を引っ張るラビス。

「少し勝ったくらいで調子乗りやがって!」

「ここで潰してやろうか?」

 血気盛んな上級生たちはこちらを睨みつける。
 ラビスの言う通り鬼気迫る勢いだ、この場に会長や先生が居なかったら乱闘が起きてもおかしくはない。

「皆さん、落ち着いてください!」

 カルティアや先生らが騒ぎを収めようと声を荒げるも彼らの耳に届かない。
 部屋の防音性があだとなって室内は喧騒けんそう状態、後々の衝突を避けるためここで宣言したけどまさかここまでとは……。
 テイバンとの決闘みたいに魔法で静かにさせることも出来ないしなぁ。

 セロブロや生徒会役員、冷静な一部の生徒は騒ぎが収まるのを見守る中、五年生が座っているほうから木材がへし折れるような音が部屋中に反響する。

「少しは静かにしろ、会議の途中だぞ」

 机を大破した本人だと思われる大柄な男は騒いでいた上級生に視線を向ける。

「ライザ先輩は悔しくないんですか⁉ 一年にそんな事を言われて!」

 声量を下げつつ『ライザ』と言う男に共感を求める。

「ああ? そんな事どうでも良いだろ、俺も若い頃はものを知らない馬鹿だったからな!」 

 自嘲するかのように笑い出した。
 五年生なのは間違いないのだろうがずいぶん達観した考えの持ち主だ。あとだれが馬鹿だ。

「でもなぁ、一年でもない上級生おまえらが会議中にバカ騒ぎしてんのはどういう事だよ?」

 再び鋭い眼光が彼らを睨みつける。

「「「ひぃ⁉」」」

「お前らはクラスお代表だろうが! だったら一年の模範になるような行動を慎しめ、分かったか?」

「「「はいっ! 申し訳ありませんでしたァ‼」」」

 罵声を上げた生徒らは全員が起立してライザに頭を下げる。
 そんな異様な光景に俺を含め、一年生は怪訝な表情を浮かべていた。
 それにしても見た目と行動から暴力的な人かと思ったけど、発する言葉には知性を感じる不思議な人だ……。

「ありがとうございます、ライザさん」

「気にすんな会長、会議を続けてくれ」

 感謝を述べるカルティアにライザは軽く返した。

「それで、えぇと……そうでした! 選考方法は知らなくても良いという話でしたね」

「はい、さっきは全種目出場とか言いましたが、練習する内に気が変わるかもしれないので選考方法は聞かないことにします」

 俺はカルティアから右斜め後ろに姿勢を変える。

「先の発言はこの場に相応しくないものだと理解しました。本当にすみませんでした!」

 ライザーに謝罪した彼らに負けないぐらい深々と頭を下げる。
 無論、全種目出場はほぼほぼ確定だが俺の発言のせいでラビスやセロブロが上級生に目を付けられるのは望むところじゃない。
 騒ぎが収まったばかりのこのタイミングは謝罪を受け入れてくれる可能性は高い、ならばこの場で遺恨いこんを残さないよう立ち回るのが合理的だ。

「他に質問者はいますか?」

 俺が席に座り終えてからカルティアは再度呼び掛ける。
 
「居ないようなので今日の会議は終了となります。お集り頂きありがとうございました」

 質問者が居ないことを確認して彼女は解散を告げる。

「お前ら座っていろ」

 立とうとした瞬間、セロブロが俺たちに聞こえる声量で指示を飛ばす。
 いつもなら聞き返している俺だが心労をかけた詫びとして黙って指示を待った。
 そして俺たち三人以外が会議室を退室した頃――――。

「行くぞ……」

 セロブロから指示を飛ばされ俺たちも退室する。
 声のトーンから心配と不安が限界突破して本当に疲れたことが理解できた。

「肝を冷やしたぞ、アルム……」

 額に手を当てて大きくため息を漏らす。
 動じていない様子はやはり演技だったか。

「悪いことをしたとは思うよ。でもこの場で言って置かないとあとで苦労すると思ったからさ」

「つまり、本当に全種目出る気なのか……!」

 絶句した様子で俺に視線を向ける。

「魔導大会がすごく大変なのは分かりますけど、複数種目出場くらいは出来そうですが……」

 勇気を振り絞ってラビスは彼に尋ねた。

「こいつの実力ならどんな種目でもそれなりの結果を出せるだろう。だが! 出場させてもらえるのかと言えば話は変わってくる」

「どういう事ですか?」

「使用する魔力の配分、はっきり言ってこれが複数種目への挑戦を困難にさせる一番の問題だ」

 ラビスに解説しながら改めて認識させようと俺に聞く耳を持たせる。

「仮に貴様が初日に行われる百キロ走ハンドレッド・ランの選手に選ばれたとして本気でやるか?」

「当然です、選手に選ばれたんですから!」

 意気揚々と宣言する彼女にセロブロは薄っすら笑みを浮かべる。

「そうだな。じゃあ二日目に行われる魔撃墜ホープ・シューティングに出場するとしても本気で頑張れると言えるか?」

「そ、それは……」

 先程の勢いは失われ、困った表情を浮かべる。

「それが難しい点なんだ。次の競技にも出場しなくちゃいけない状況で目の前の競技に全力で取り組むなんて出来ない。どこかで魔力を節約しなければ翌日以降の競技には参加できない。だからといって魔力の節約にばかり目が行って競技そのものが疎かになってしまえば、それこそ本末転倒だ」

「じゃあ魔導大会で全種目出場は不可能なんでしょうか?」

「そもそも魔導大会は自国の有望な魔法師を世間に公表するのが目的だ。周囲を警戒しながらの長距離移動に魔法の撃ち合い、人選や状況などの正しい判断、そして個人の戦闘力……複数人で成り立っているこれらの要素を個人で出来る競技レベルに落とす必要はない」

「……⁉」

 彼女は全種目出場の難しさを初めて認識出来たようだった。
 俺もセロブロの話を聞いていたら自分の言っている事がどれだけ滑稽こっけいで、馬鹿げているのかが改めて理解できる。
 しかしどれだけ滑稽で馬鹿げていようと全種目出場をしなければ、個人総合一位は達成できない。
 無論、一対一ワオン・デュエル三連覇のベレスという男に勝機があるなら話は別だが、最近では俺より強い人間を見かける事が多くなった。
 そのベレスというが裏社会スタンドルの最高幹部クラスの実力を有しているというのなら、ほかの競技も練習して保険を掛けておいたほうが良い。 

「あの場で謝れたのは良い判断だ。多くても二種目に厳選して練習に打ち込もう」

 さらっと全種目を諦めるよう促す。

「悪いけどそれは無理な相談だ」

 セロブロの判断が正しいと分かっていながらも俺は提案を一蹴する。

「僕の話を聞いていなかったのか。全種目に出場なんて絶対に不可能だ」

「俺の魔力総量は他よりも多い、配分を間違えなければ全種目出場も狙える」

「他の連中は一種目だけを集中しているんだ、そんな手を抜いて出場枠を取れると思っているなら舐め過ぎだ!」

 まったく説得応じない俺にセロブロは怒りを露わにする。
 彼の言っている事は正しい、だが一つ間違っていることがある。

「勘違いするな、誰も手を抜こうだなんて言ってねえだろ。使える魔力を最大限活用して上位を、いや一位を狙う」

 最初はカルティアとの賭けに勝つため、仕方なく全種目出場を考えていた。
 だが学園に入学したのならこのイベントを楽しまないのは損だ。
 だからこれは俺の意志、どれだけ過酷で困難な道でも全力で取り組み、全力で楽しむ。

「……屁理屈へりくつだな。魔力を制限して、王侯貴族ぼくたちを押し退けて出場枠を取れると思うなよ!」

「はっ、だったらこっちも言ってやるよ! 平民おれがお前らから出場の座を奪ってやる!」

「……精々吠えていろ、平民がァ」

 お互いに言いたい事を終え、ゆっくり息を整えると吐き捨てるように言い放ちセロブロは去って行く。
 しばらくは険悪な関係が続くだろう。惜しいとは思う、仲直りしたいとも思う、でも今はこれで良い。
 でも魔導大会が終わったら……いや、早くても遅くても――――また三人でご飯が食べたい。

「あっ……」

 ラビスは引き留めようと試みるが声を掛けることは無かった。 
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