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第27話 言葉が届かないのならば……
しおりを挟む「……そのお言葉、そのまま殿下達とボートン子爵令嬢にお返ししますわ」
「なに!?」
「……わたくし達の方こそ、今現在、彼女に対するありもしない罪で名誉を傷つけられ、その事で婚約の解消まで求められておりますのよ。傷ついていないとでも思ってらっしゃるの?」
「彼女は泣いているんだぞっ」
そんなもの、嘘泣きに決まっているではないか。
「だからなんですの?」
「何だと!?」
「わたくしたちがボートン子爵令嬢のように感情のまま涙を見せないからと言って、彼女より傷ついていない……とでも言うおつもりかしら?」
「論点をすり替えるなっ。サリーナ嬢の涙を無視するのか!?」
シルヴィアーナの訴えが気に障ったのか、クレイブが一歩前に出てくると、大きな身体を怒気に震わせて怒鳴ってくる。
「サリーナの方が余程っ……って、ちょっ、ルイーザ嬢!?」
――ここにきてついに、事態が動いた。……静かに怒りを溜めていたルイーザによって。
何を言っても結局、サリーナを庇う発言しかしない彼らに苛立ち、武器……は当然、この場には無いので、手に持っていた扇を使って物理的に制裁する決心をしたらしい……。
「あら」
「まぁ」
「これは……」
シルヴィアーナとダフネ、アンジェリカの声が重なる。
(((堪忍袋の緒が切れてしまわれたのですね……ルイーザ様)))
これは止められないな、と言うように三人の令嬢は互いに目線を交わす。
人一倍、正義感が強いルイーザのこと。
家同士で結ばれた婚約の契約は、例え当事者であっても当主の許可なく解除出来ないほど拘束力が高い。
にもかかわらず、筋も通さず一方的に破棄宣言をすると言う暴挙に出た彼らを相手に、むしろよくここまで我慢したものである。
(本来ならば、わたくしがお止めしなければいけないのですけれども、ね……)
まあ後でフォローすればいいか、とシルヴィアーナは思った。
彼女も同じ気持ちだったので、止める気を失くしていたのである。それは勿論、ダフネやアンジェリカも同様であった。
クレイブは守られる立場にある深窓の姫君ではなく、立派な体格を誇る一人前の騎士なのだ。
このところ鍛錬を怠り体は鈍っているようだが、別に武器を使う訳でもないし、扇の投擲のひとつやふたつぐらい受けても大丈夫だろう。
アッサリとクレイブを見捨てると、友の暴走を生暖かい目で見守ることにしたのだった。
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