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第79話 画策

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「考えるまでも無いとは思うけれど……本当は分かっているのでしょう?」

「やめてっ、言わないでよっ」

「甘言にのせられ、騙されていたの。あなたはそれを認めたくないから、考えないようにしているだけですわ」

「うぅっ、わたし……そんな、嘘よっ」

 激しく首を振って否定し口では嘘だと言いながらも、彼女にだってもう分かっていた。

 ダフネに指摘されるまでもなく、今まで目をそらして現実から逃げていただけだ。

 自分も騙され利用されていた側だなんて、思いたくなくて。


 ――なぜサーカス団が、魅了の魔道具を面識のなかった彼女に無償で提供してくれたのか、という根本的な疑問について考えたくなかったのだ。



 魅了の魔道具が高価だということは、庶民の生まれであるサリーナだって知っていた。

 複雑で高度な回路を組み込まなくてはいけない魔道具には高度な知識が必要で、作成できる者が限られてくる。

 だから、たった一つでも目玉が飛び出るようなお値段になるということも。

 そんな、一部の富裕層しか手が届かないような品物を、帽子屋さんは初めてサーカスを見に来たサリーナに無料で提供してくれたのである。

 誰にも魅了の魔道具について話さない事を約束してくれるなら……そして時々、話し相手になってくれるなら君にプレゼントすると言って……。

 それくらいでいいならお安いご用だと、サリーナは今日まで約束を守ってきたのだ。



「そうよ。わたしはちゃんと約束を守ったわ……」

 独り言のように呟かれた言葉を拾ったダフネが問いかける。

「貴女は具体的に、何と言われて、魅了の魔道具を渡されたのかしら?」

「え? 特になにも言われてないわ」

「そんなわけないでしょう」

「本当だってばっ」

 呆れたように言うダフネに苛立ったサリーナは、声を荒げて否定する。

「だって、約束通りおしゃべりしてただけだもの! 後は毎回、外国の珍しい装飾品や可愛いドレスがあるからって誘ってくれて、買い物したくらいよっ」

「そう。帽子屋さんとはその時、どんな話をしていたのかしら?」

「どんなって……別に普通の話よ。わたしが魅了した男のことや、これから落とす予定の人のこととかを話したわ」

「他には?」

「そうね。魅了する予定の男達に早く会いたいっていうと、パーティーの招待状を用意してくれたわね。伝がない最初のうちは助かったわ」

「……そう。貴女に招待状まで融通していたの」

 つまりサーカス団は、この国の貴族の誰が、どのパーティーに出席するのかもある程度、把握していたことになる。




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