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第129話 ジョナス・ハーバー伯爵令息の処遇 ②
しおりを挟む「但し、条件を付け加えようと思う」
そう切り出した。
出来るだけ、彼女に有利になるように取り計らうつもりだ。
「陛下、条件とはどのような?」
「うむ。ロウ伯爵令嬢の輿入れを破棄し、ハーバー公爵令息にロウ伯爵家への婿入りを命じる」
「……っ!?」
「更に、ロウ家の次期当主にはアンジュリーナ・ロウ伯爵令嬢を据えることとする。これは、王命である」
国王の采配に、ざわめきが広がる。
男尊女卑が当たり前のこの世界では、異例の決定だった。
夫を亡くした未亡人が爵位を継ぐというのはこれまでもあった。
しかし今回、ジョナス・ハーバー公爵令息という稀有な能力者を配偶者に迎えるというのに、爵位を与えないというのは聞いたことがない。
「これは、建国以来、初めての試みですな……」
「ああ。だが、能力に見合った地位を用意することが、この国の繁栄と存続に繋がると信じている」
令嬢達の働きを高く評価したからこその決断だった。
自由は与えてやれない。
しかし、これで少しは彼女達に報いることができるだろうか?
「今回の騒動で、相当数の貴族が処罰される。荒治療を施すにはいい機会だ」
「ですが陛下、前例がありません。反発は免れないかと……」
ランスフォード公爵が、危惧を感じた出席者を代表し具申する。
「分かっている。よって、今回の件は特例とする。理由付けは出来るはずだ」
確かにジョナスは処罰を待つ罪人の身。
普通の婚姻とは訳が違う。
「……承りました」
王にそう言われてしまっては、認めるしかない。
確かに一度、前例をつくっておくには、今回の件が最適なのも理解できる。
「ハーバー伯爵とその一門は抵抗しそうですが……いかがされますか?」
「そうだな……」
――ジョナスは国内でも数少ない五属性持ちという複数属性の持ち主。
魔力の器も大きく、光と風、火と水、雷という五つの属性全てを生かせるだけの豊富な魔力があり、軽々と大魔法を操ることが出来る天才だ。
超優良物件であるジョナスの元には幼少の頃より、格上の公爵家や侯爵家から降るように縁談が舞い込んできていた。
勿論、婿入りを熱望するもので、しかもそれは国内外問わずという人気ぶり。
ランシェル王子の側近に抜擢されたのも、国内はともかくとして諸外国からの強引な勧誘を退けるためには、それが最善だと判断されたからだ。
ハワード王家の意向を無視出来る家は限られている。
というわけで、この件で王家はハーバー伯爵家に多大な恩を売ることに成功した。
旨味のないロウ伯爵家との婚姻を断れなかったのには、こうした裏事情もあったのだ。
そして下手に放逐出来ないのも、この天賦の才能がある為だった。
「確か伯爵は、彼を次期当主にと強く望んでおられましたな……」
「ああ。今までならその言い分も通ったのだろうが……」
実のところランシェル王子の側近である彼が、自身の能力に溺れず真面目に魔法の修行を積んでいたら、今回の騒動は防げた可能性が高いのだ。
――彼の罪は重い。
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