異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第3部 第79話 「初収穫と試食会――貴族たちの掌返し」

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ついに、海水野菜の初収穫の日が来た。
 温室の外には招待された貴族たちと商人たちがずらりと並んでいる。
「……ふん、また農民まがいの遊びか。」
 そう鼻で笑ったのは、海沿いの領地を持つグラント侯爵だ。
 以前、陽介が海水野菜の構想を話したときも「そんなもの、潮風で枯れる」と一蹴してきた張本人である。
________________________________________
 試食会が始まると、マルセロ教授が誇らしげに皿を差し出した。
「本日ご用意したのは、海水レタスのサラダ、塩トマトの冷製パスタ、そして海水ハーブの焼きパンです!」
「では、まずはこちらを――」
 紬が切り分けた海水レタスを侯爵の前に置くと、彼は眉をひそめた。
「どうせ塩辛いだけだろう……」
 ひと口、かじった瞬間――
「……な、なんだこれは!? 甘みが……しかも、この塩気が絶妙に合う……!」
 侯爵の顔色が一変する。
________________________________________
 隣で見ていた別の貴族夫人も、海水ハーブのパンを食べて瞳を輝かせた。
「これ、塩を振らなくても味が完成してますわ! 保存性も高いのでは?」
「ええ、常温で二週間は持ちます。」陽介が答えると、ざわめきが広がった。
「……この野菜、我が領地でも栽培できるだろうか?」
 さっきまで鼻で笑っていた侯爵が、今度は身を乗り出してくる。
「規格と契約を守っていただけるなら可能です。」
 紬がさらりと返すと、侯爵は苦虫をかみつぶしたような顔でうなずいた。
 (以前、門前払いしてくれたお礼は、契約条件でしっかりいただきますからね)と、紬は心の中で微笑む。
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 試食会の終盤には、ほとんどの貴族が「ぜひ導入を」と頭を下げてきた。
 中には、「最初に話を聞いておけばよかった」とぼやく者までいる。
 帰り際、グラント侯爵が陽介に近づき、低くつぶやいた。
「……あの時の無礼、謝罪しよう。ぜひ我が領にも……」
「承知しました。ただし、他の領地と同じ条件で。」
 陽介の静かな笑みに、侯爵は言葉を飲み込んだ。
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 こうして海水野菜は、貴族たちの掌返しとともに一気に広まり、
観光と交易の新たな目玉として動き出すことになる。
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