異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第3部 第78話 「魔法大学のクセ者たちと海水野菜の本格栽培」

発芽成功から一週間。
　温室の中は、以前の静けさが嘘のように騒がしかった。
「陽介くん、見てみたまえ！」
　マルセロ教授が走り寄ってくる。手には、緑と紫が入り混じった不思議な葉っぱ。
「おお……これ、色がすごいですね。」
「ふぉっふぉっ、この紫は“塩精素”を吸収した証拠だ！」
「教授、それ、食べられるんです？」
　紬が横から覗き込むと、教授はニヤリと笑った。
「さあ……食べてみたまえ。」
「なんで私に振るんですか！」
「いやいや、紬くんは味覚が鋭いと聞いておる。」
「……」
　結局、紬はおそるおそる葉をかじった。
「……ん、あれ？　しょっぱいけど、レタスみたいなシャキシャキ感がありますね。」
「おお！　ならば成功じゃ！」
　教授が両手を広げて喜ぶ。
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　だが、クセ者は教授だけではなかった。
　植物魔法専攻の若手魔導士リュミエールは、妙な提案をしてきた。
「せっかくですから、発光魔法で夜も光合成させましょう！」
「……いや、夜は植物も休ませないとダメだって、農学的には――」
「でも魔法なら大丈夫かもしれません！」
　その横で、土壌魔法の専門家ベルトランは、畝を勝手に盛り上げていた。
「この角度がいい！　水はけも完璧だ！」
「いや、海水栽培なんだから水はけ良すぎると困るんですけど！」
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　研究は進むが、温室の中は毎日ドタバタだった。
　陽介と紬はその混沌の中で、現生にも持ち帰れる栽培マニュアルを作るため必死にデータを記録していく。
「……これ、もし帰れたら本当に世界の農業を変えられるかもしれないな。」
　陽介がぽつりとつぶやく。
「うん。でも帰るためには、まだまだこの世界の信頼を積まないと。」
　紬の声は静かだが、目には確かな決意があった。