異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第4部 第28話 効率化の壁――止まった歯車

⚙️ 無駄の気配
　工場での実習が始まって数日。学生たちは油芋の搬入から加工、成型まで一通りの工程を体験していた。
　だが、彼らの目には同じことが繰り返し映っていた。
「……どうもおかしい」
　ライナルトが帳簿をにらみながら呟いた。
「芋の消費量に対して、製品の出来高が低すぎる」
　エリナも頷く。
「途中で損耗が出てるはずよ。熱の管理か、運搬の仕方か……」
　学生たちは休憩時間にも議論を続け、やがて“効率化”という壁に向き合うことになった。
________________________________________
📦 現場の現実
　調査を始めると、思わぬ問題が次々に浮かび上がった。
• 搾りかすの一部がそのまま廃棄されている。
• 芋の搬入で待ち時間が多く、労働者が手を止めている。
• 成型機の掃除に時間がかかり、一日の稼働時間が短くなっている。
「これじゃあ、人も資源も無駄になってる」
　トマスが顔をしかめると、そばにいた労働者が苦笑した。
「分かっちゃいるが、昔からこうやってきたんだ。誰も直そうとしなかっただけさ」
________________________________________
👥 学生たちの挑戦
　ユリウスは労働者の間に入り、声を張り上げた。
「じゃあ、俺たちで試してみよう！ 無駄を減らせば、みんなの労力も楽になる！」
　マリアは搾りかすを分析し、パウダーとして使用できる搾りかすを乾燥セクションへ回す基準を図解でしめし、わからないから廃棄ではなく、効率よく乾燥セクションへ回せる仕組みづくりを行った。
「廃棄じゃなく、乾燥セクションへ回せば食料になる。この作業がゴミを食料に変える！」
　オルフェンは成型機の掃除手順を簡略化する方法と掃除を行う時間を大半が休憩している時間にずらし機械メンテナンス係は、休憩時間をずらすこと考案し、作業時間のタイムロスを五分の一に減らした。
「工具と休憩時間を工夫すれば、難しいことじゃない」
　フェリクスは搬入の順番を整理し、班ごとの動きを効率化した。
「これで待ち時間がなくなる。全体の流れが速くなるはずだ」
________________________________________
🔥 初めての衝突
　だが、提案はすぐに受け入れられなかった。
「ガキの考えが通用するか！」
「昔ながらのやり方を変えるのは簡単じゃねえ！」
　労働者たちの声が荒れる。
　学生たちも引かずに意見をぶつけ、広場は一触即発の雰囲気に包まれた。
　その時、ノアが静かに口を開いた。
「僕たちは、あなたたちの仕事を奪いに来たんじゃない。
　――もっと楽に、もっと豊かになる未来を作りたいんです」
　その言葉に空気が少し和らぎ、労働者たちが互いに顔を見合わせた。
________________________________________
🌌 陽介と紬の視線
　その様子を見ていた陽介は、ゆっくりと頷いた。
「これが“効率化の壁”か。技術だけじゃない、人の心を動かさなければ意味がない」
　紬が微笑んで答える。
「でもあの子たちは、もう分かってる。人を変えるには、まず心に寄り添うことを」
　煙突から立ち昇る蒸気は夜空に溶け、まるで試練の行方を見守るように消えていった。