異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第4部 第29話 最初の成果――歩み寄る現場

🌱 小さな実験
　翌日。学生たちは労働者の反対を押し切るのではなく、まず「試してみる」ことを選んだ。
　ユリウスが提案する。
「まずは一工程だけ、俺たちのやり方でやらせてください。それで駄目なら従います」
　労働者たちは渋い顔をしたが、工場長が腕を組んで言った。
「……やってみろ。ただし、結果が出なければすぐ元に戻すぞ」
　こうして実験が始まった。
________________________________________
⚙️ 改良の一手
　オルフェンが改良した工具を使って、成型機の掃除を始める。
「このブラシを取り付ければ、奥の油芋かすが一度で取れるはずです」
　ゴシゴシと動かすと、労働者たちが目を見開いた。
「おお……あっという間にきれいになったぞ！」
「昨日の半分の時間で終わったじゃねえか！」
　続いてフェリクスが搬入順を変え、荷車を効率的に並べた。
「次の芋が来るまでの待ち時間をゼロにしました」
「……たしかに、手を止める間がなくなったな」
　マリアは搾りかすを袋に詰め、農民に見せた。
「乾燥させれば、皆さんご存じの油芋パウダーです。になります。これまでつがえそうにないと思っていた搾りかすも、分別すれば資源です」
「本当か？　試してみる価値はありそうだ」
________________________________________
📈 数字で示す
　一日作業を終え、エリナが帳簿を計算した。
「……完成品の量が、昨日より二割増えています！」
　その報告に労働者たちがざわめいた。
「二割だと!?」
「本当にこんな簡単な工夫で……」
　ライナルトが冷静に付け加える。
「人の数も時間も同じです。だからこそ“やり方”の違いが成果を生むんです」
________________________________________
👥 心の変化
　最初に反発していた労働者の一人が、汗を拭きながら笑った。
「……悪かったな、ガキ呼ばわりして。あんたら、ただの貴族候補じゃねえ。
　俺たちと同じ汗を流す仲間だ」
　学生たちは胸を張り、声を揃えて答えた。
「ありがとうございます！」
　そのやり取りを見守る村人や工場の者たちの顔に、ようやく笑みが戻っていった。
________________________________________
🌌 陽介と紬の思い
　工場の片隅でその様子を見ていた陽介は、深く息を吐いた。
「……ようやく“現場と領主”が一つになり始めたな」
　紬が静かに頷く。
「ええ。数字だけじゃなく、人の心を掴んでこそ、本当の効率化になる」
　白い蒸気が夜空に昇り、分水国の未来を照らす道標のように輝いていた。