異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第5部 第4話 四河の峡谷――水門の眠る地

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🌄 峡谷の入口
 四大河川が交わる地帯は、地図で見た以上に壮大だった。
 深い峡谷が幾重にも重なり、地表は割れ、巨大な亀裂が迷路のように続いている。
 川の音は重低音のように唸り、霧が渦を巻き、どこか異質な気配が漂っていた。
「……ここが水門峡谷(すいもんきょうこく)」
 陽介が馬を降り、赤茶けた亀裂を見下ろす。
 紬が眉を寄せた。
「息が重い……まるで空気そのものに力があるみたい」
 エリナは手帳を広げ、峡谷の温度や湿度を測りながら呟いた。
「四大河川が地下で交差している……水分量が常識を超えてます。
 自然現象というより“何かの仕組み”を感じます」
 ライナルトは周囲の壁面を見ながら首を振る。
「文字……古代文字、そして水の紋章が刻まれている。
 人の手だ。ここは古代文明が建てた“門”そのものだ」
________________________________________
🌊 峡谷の底へ――禁じられた地下層
 探索隊はロープを使って峡谷の底へ降りた。
 深さは推定百メートル。
 落ちる水滴の音が洞窟のように響き、空気は冷たかった。
 エリナが壁を照らし、驚きの声を上げる。
「これ……植物の根? こんな深さに?」
 紬が触れようとすると、陽介が腕を掴んだ。
「待て。それ……光ってる」
 根のように見えたものは、青白く光る「水晶の筋」だった。
 まるで川の流れのように地中を走り、中心へと向かっている。
「この水晶……まさか、“魔力の河”か?」
 陽介が呟くと、ライナルトが頷く。
「初代王の記録にあった。“二つの世界を繋ぐ力の線は、地中に眠る水晶”。
 ――その“源”がここなんだ」
________________________________________
🌀 中心部――巨大な水晶の門
 峡谷の底の奥――霧が晴れると、巨大な空間が現れた。
 そこには高さ十メートルを超える、半透明の水晶のアーチがそびえていた。
 アーチの中心には、初代王が残したのと同じ“水の紋”が刻まれている。
 紬は息を飲む。
「……これが、水門」
 ライナルトが震える声で付け加える。
「“門を開く鍵は二つの魂”――《水ノ書》にあった通りです」
 陽介と紬は見つめ合う。
 二人の胸の奥に、十五年前に見たあの夢の声が蘇る。
 ――「やり残したことがある」
 ――「それを果たしたとき、帰る道は開かれる」
 紬が小さな声で言う。
「……もし、この門が開いたら、現世へ戻れるの?」
 陽介は答えられなかった。
 この世界に築いた国。
 十人の子どもたち。
 分水国の民。
 ――すべてを置いて帰れるのか?
 その問いは、紬にも重くのしかかった。
________________________________________
⚡ 突如、地響きが響く
 突然、峡谷全体が震えた。
「地殻変動!?」「全員伏せろ!」
 騎士団が叫び、岩壁が崩れ、小石が雨のように落ちる。
 エリナが叫ぶ。
「違う! これは自然の揺れじゃない――“何かが近づいてる”!」
 水晶アーチの奥の闇から、青い光が揺らめいた。
 波紋のように広がり、何か巨大な影がこちらへ迫ってくる。
 紬の目が見開かれる。
「嘘……“門の守護者”!?」
 ライナルトが震える声で叫んだ。
「初代王の記録にあった……
 “門は守護者によって守られる。
  試練を越えねば、誰も触れることはできない”――と!」
 現れたのは――
 水晶の鎧をまとった、巨人のような守護獣だった。
 陽介は剣を抜き、紬は杖を構える。
「紬――行くぞ!
 ここを越えない限り、水門には近づけない!」
「ええ――一緒に超えるの!」
 
 峡谷に響く守護獣の咆哮。
 水晶が砕け散り、青い光が飛び散る。
水門の試練が、ついに幕を開けた――。
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