異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第5部 第3話 水門(みなと)の刻印――二つの世界をつなぐ場所

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🌌 古文書の地図
 ライナルトの報告から三日後。
 陽介と紬、そして十領主の代表三名(ユリウス、エリナ、ライナルト)が秘密裏に召集された。
 分水城の地下室。
 方位盤と古代文様で飾られた円卓の上に、ライナルトは一枚の古い地図を広げた。
「この地図は《水ノ書》の最終章に挟まれていた断片です。
 初代王が“世界が交わる地点”として記した場所――」
 地図の中央には、王国でも分水国でもない“空白地帯”が描かれていた。
 しかもその場所は、分水国の版図と王国の境界から遠く離れた――
 四大河川が交わる峡谷地帯だった。
 陽介が地図に目を細める。
「ここは……水害と地割れが多くて、誰も住めない土地だと記録にあったな」
 エリナが手帳をめくりながら言う。
「けれど、河川が四方から集まる……これは“門”の象徴です。
 古代文明は大河の合流点に神殿や門を建てた例が多いのです」
 ライナルトが静かに頷く。
「初代王が書き残した“水門”とは、この地のことではないかと」
________________________________________
💧 水門に刻まれた紋
 さらに地図の余白には、描かれた一つの“印”があった。
 ――流れる水の紋
 ――分岐する三本の細い線
 ――そして中央には、二つの円が重なる図。
 紬が息をのむ。
「これ……分水国の旗の原型ではない?」
 陽介は手を止め、ゆっくりと印をなぞった。
「二つの円……二つの世界。
 三本の線は、時の流れか……それとも“選択”か」
 ライナルトが静かに続ける。
「《水ノ書》にはこう書かれていました。
 “水門は二つの世界を映し、願いを受け入れる。
  だが、それは一人では叶わない――二つの魂が一致した時に開く”」
 紬は陽介を見た。
「……二つの魂って、まさか……」
 陽介はゆっくり息を吐きながら答えた。
「俺たちだろう。
 十五年前、同じ日に転移し、同じ夢を見た……
 この国を作り、守り、夢を叶えるために」
________________________________________
🏞 水門峡谷への探索決定
 陽介は決意を込めて声を上げた。
「――水門に行こう。
 初代王のやり残した夢を知るために。
 そして俺たちが帰るべき道が本当にあるのか……確かめるために」
 ユリウスが席を立ち、深く頭を下げた。
「危険地帯です。私たち十領主も護衛と調査隊を出します。
 ――あなたたちの旅は、この国にとって重大な意味を持ちますから」
 エリナも頷く。
「地形調査、水質、生物分布……私たちも力を尽くします」
 ライナルトは胸に手を当てた。
「水門の紋は、ただの印ではありません。
 初代王の魂と、この国の未来を繋ぐ言葉です。
 必ず真実を見つけましょう」
________________________________________
🌙 陽介と紬、二人の夜
 会議が終わったあと、陽介と紬は分水国の丘に立っていた。
 遥か南の空に、四大河川が交差する地帯が黒い影のように広がっている。
「……行くんだね、陽介」
 紬は風に揺れる髪を押さえながら言った。
「ああ。でも帰るためじゃない。
 “この世界をどうするべきか”を知るためだ」
 紬は静かに頷いた。
「私たちが帰る道があるかもしれない。
 でも、十人の子たちも分水国の民もいる。
 ――簡単には選べないね」
 陽介は紬の手を握った。
「だからこそ、答えを探しに行く。
 初代王が辿りつけなかった“最後の扉”へ」
 夜空に二つの月が浮かび、その光が二人の手を柔らかく照らした。
________________________________________
🌅 水門峡谷へ――旅立ちの朝
 翌朝。
 分水騎士団、エリナたちの調査隊、そして十領主からの精鋭部隊が集結し、
 かつて開拓団が通った古い街道へと隊列を進めた。
 陽介と紬は馬に乗り、隊列の先頭に立つ。
「行こう、紬。
 初代王の夢の続きへ――」
「うん。私たちの未来を決めるために」
 風が旗を揺らし、
 隊列はゆっくりと “水門峡谷(すいもんきょうこく)” へ向かって進んでいった。
 そこに待つのは、
 二つの世界の境界線 と――
 この物語が最初から抱えていた最大の謎 である。
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