異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第3話「農業高校を志望したら、先生にめちゃくちゃ心配された件」

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「ミズノ、進路希望調査票……マジか?」
職員室の一角。進路指導担当の担任・佐伯先生が、陽介の提出した紙を食い入るように見ていた。
「うん、本気です」
「お前、偏差値65の進学校でも推薦いけるぞ? サッカー部の実績もあるし、成績も内申もバッチリ。なのに……農業高校? しかも剣道強豪校って……」
「はい。農業と剣道、両方学びたいんです」
「なにか目指してるんか?」
「……ちょっと、世界に役立つ人間になりたくて」
(異世界、だけど)
先生はしばらく沈黙していたが、やがて大きくため息をついた。
「……夢、あるんだな」
「え?」
「いや、だいたいこういう進路書いてくるやつって、親の農園継ぐとか、実家が酪農とか多いけど……お前の場合、違うんだろ?」
「はい。家は普通のサラリーマンです」
「そっか……ならまあ、いい。俺の時代は“農業高校行きたい”って言っただけで揉めたもんだが……今は時代が違う。農業もアリだ」
「ありがとうございます!」
「でも一個だけ言っとく」
「はい?」
「……虫、大丈夫か?」
「……それは、これから慣れます」
(異世界にクモ型魔物とかいたら、泣くかもしれん)

家に帰って、母にも伝えた。
「農業高校?」
「うん。将来、農業関係の仕事したいんだ」
「えっ、陽介が……!? 土いじりするの……!?」
「なんか失礼な気がする!」
「だって、ほら、手にマメできるの嫌がってたし、砂かぶるとすぐ文句言ってたし……」
「それは過去の俺だ! 未来の俺は違う!」
(たぶん異世界で畑耕してる!)
「……でも、やりたいことなら、応援するよ」
母はニッコリ笑って、言った。
「ただし、ちゃんと自炊くらいはできるようになっといてね? お弁当、これから“料理実習”にするから」
「えっ」
「はい、明日から“自分で作って持ってくる”ね~」
「地味にハードル高くない!?」
こうして陽介の「農業高校に向けた生活改善」まで始まった。

後日。
「今日の弁当、どうした? 色合いすごくね?」
「親に任せてたんだけど、最近は自分で作ってるんだ」
「えっ!? トオヤマ、お前……まさか……恋か!?」
「いや違う! ちがうから!!」
(異世界への愛情が爆発してるだけだから!)
「でもその玉子焼き、すっげえ綺麗……」
「うん、出汁を利かせた甘塩タイプ。あとブロッコリーはゆで時間50秒。彩り重視」
「……お前、誰?」
俺は俺だ。ただし未来志向型・異世界対応型だ。
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