異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第二部・第2話騎士団試験と農民魂」

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⚔異世界:陽介、王都ギルド前にて
「……すげぇ行列……」
陽介が立つのは、王都冒険者ギルドの掲示板の前。
掲示されていた騎士団戦士枠の試験募集には、筋骨隆々の戦士たちが目を光らせて群がっていた。
(倍率200倍って書いてあったけど、たぶん実質もっとある)
――しかし、陽介は臆さなかった。
「農業高校の時、畑を奪い合ったジャガイモ収穫バトルに比べれば、マシだな……」
受付で手続きを済ませると、粗末な木札を渡される。
それが受験番号だ。
「訓練場へ行け、今日から三日間、体力・技術・精神力を試す。脱落は容赦せんぞ」
ギルド職員がピシリと言い放つ。
陽介は軽くうなずき、竹刀を背負って訓練場へ向かった。
________________________________________
🌍現世:午前6時15分・GeoPot臨時取締役会
「CEO・遠山陽介が突然倒れ、現在も意識が戻っておりません。しかし医師の判断では生命活動に問題はありません」
紬は、早朝にもかかわらず集まった取締役たちに静かに異世界転移の事も含めて高校時代からの経緯も含めて丁寧にそして真剣に語りかけていた。あまりの真剣さにその話を戯言と思うものはいなかった。
「この会社は、彼が命をかけて育ててきたものです。……だから、私たちは“守る側”としての責任を果たさなければなりません」
スクリーンには、緊急対応としての体制図が表示されている。
• CEO代理:新井伸之(現常務)
• 株主代行出席:陽介父(陽介分)、陽介母(紬分)
• 転移の事実は極秘。情報開示は一切禁止
「皆さんには、これからの3か月、私と共に“帰還を前提にした会社運営”をお願いしたい。もちろん3ヶ月待たずに私がいなくなる可能性もある。今この瞬間も。」
沈黙の中、新井常務が一歩前に出る。
「……私は、陽介くんに“未来”を教えてもらった一人です。必ず、彼の帰る場所を守ります」
拍手はなかった。
だが、その場にいた誰もが、黙ってうなずいた。
________________________________________
⚔異世界:訓練場、第1試験
「次、番号86番!」
陽介の番が来た。
丸太を担いで斜面を登り、戻ってくる――ただそれだけ。
だが地味に過酷な、体力を測る初日試験。
(……この試験、絶対“土木力”のある農民系が強いって)
畝を掘る。重い肥袋を担ぐ。整地する。
農業高校→大学→研究農場での生活は、筋トレの連続だった。
「はあっ……! はっ……!」
他の受験者が悲鳴をあげて丸太を落とす中、
陽介は鼻歌まじりで登り切った。
「油芋収穫の方がキツかったな」
________________________________________
🌍現世:午前10時・紬の実家
「お母さん、お父さん……ちょっと、驚かないで聞いて」
紬は、落ち着いた声ですべてを話した。
陽介の転移、自分が3か月後に同様の運命を辿る可能性、そしてその後に残るもの。
母は涙をこらえ、父は黙って頷いていた。
「……紬、あんた……行くの?」
「……うん。でも、陽介がいる世界に行けるなら、それは“希望”だと思ってる」
「帰ってこれるの?」
「約束はできない。でも、準備はする。帰ってきたとき、また一緒にご飯が食べられるように」
________________________________________
⚔異世界:訓練場・夜
初日の試験が終わり、陽介は草原に腰を下ろした。
夜空を見上げる。
満天の星。
「……紬、元気でいてくれよな」
言葉は、風に溶けて消えていく。
だが、遠くの世界で、同じ空を見上げている誰かがいる気がした。
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