寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―

雪ノ瞬キ

文字の大きさ
28 / 30

28話:黒鏡の底、揺らぐ信頼

しおりを挟む
 「門がすべて開いているだと?」

 俺は思わず声を上げた。
 ところが、リリは嬉しそうに俺に告げる。

「うん。なんか風がよく通るよ。全部安全かな」

 わからねぇ。なんでまたこんなことがおきてるんだ。
 でもまあ、安全に越したことはないか。

 イノーイの瞳がまだ脳裏に残っていた。  
 あの静かな微笑みが、なぜか胸の奥でざらつきを残す。
 まるで、あの女だけが“何かを知っていた”ような気がした。
 
 ノックスの時のような攻撃をうけても回避できるように、急ぎ俺たちはイルダの橋へ向かう。
 何ごとも起きずに来たことに安堵しつつも、違和感はぬぐい切れない。

「俺たちが着地したのはここだよな?」

「ええ、そうですね。ここの円環に寄り集まれば自然と橋の入り口まで吸い込まれると思います」

「帰路はどこでも同じということ?」

 ミミは恐る恐る聞いてきた。

「はい、そうです。橋から向かうときは魔石はいりますが、橋の入り口に戻るときはいりません」

「なら、急ぎ乗ろうぜ。業火の柱の中心は避けたいからな」

「はいそうですね。行きましょう」

 俺とレジーネとミミ。それとリリも寄り添って立つ。
 すると、数秒後にまた何かにつかまれる感覚で上空に引っ張られた。
 今度はあがった後は、下がる一方だ。

「ギャー!」

 ミミの悲鳴が響く。
 風が耳をかすめ、鼓膜がくぐもる。胃がふっと浮いて、体が一拍遅れて地面を受け止める。
 あの遅れが、妙な余韻を残した。

「こりゃスゲー」

「うん、すげー」

「すごいですわ」

 ミミ以外は似た感じ方で、さっきの出来事はあるにせよ楽しんでしまう。
 数分後、俺たちはようやく地に足がついた。
 着地の衝撃で体がわずかにしびれていたが、頭の中はもう次の目的地を思い描いていた。

――ラフィ。
 イノーイが言っていた“転移の町”を、確かめにいく。

 町ごと転移させる魔法があるなら、それを仕掛ける者の動向は戦況を左右する。
 情報は先に掴め――だから今、行く必要がある。

 気になるのは、町ごと転移させる魔法技術を持っているなら、相当の魔力の持ち主ではないかということだ。
 もしくはそれを操作し扱うことが可能な人物というわけだ。

 橋の中央に、ひときわ大きな魔法陣が刻まれていた。
 その中心に、ラフィの印章の刻まれた魔石が浮かんでいる。

 ふと手元の小石がひんやりと震えた。
――ああ、これも俺が誰かに預けたやつだ。
 久しぶりに触ると、妙に温かい気配がする。

 手元の魔石にも同じ印章が刻まれていた。
 刻まれた文字の溝は、青紫色に点滅している。

「エリサが俺から預かったと言っていた最後の魔石だな」

 この印章の下にある口にはめ込めば飛べるということか。
 なんで俺が預けていたのか、今は知る由もない。

 レジーネが息をのむ。

「これ……向こうへの座標石ですわ」

「つまり、また飛ぶってことか」

 飛ぶのはおもしれぇけど、毎度毎度だと笑うしかねぇ。

 イノーイの時は軽い探索はあったが、バトルはなかった。
 むしろ迎え入れて、諭された感じもある。
 どちらかというと、すべてわかったうえで自分の中に入れた。
 イノーイの言葉の節々から感じられたことだ。

 そのような温かさがどこかにあった。
 どうしてだ。
 そんなわけあるのか?
 俺の勘違いじゃないのか?

 わかっていて迎え入れるだと?
 俺はなぜそう思ったのかわからない。

 なんとなく周りを見渡す。

「悠斗さま、どうされました?」

 レジーネはとくに変わりない。

「悠斗どうしたん?」

 ミミも同様だ。

「ダダさま早くいこー」

 リリもいつも通りといえる。

 レジーネは俺が蘇生した手前、まあまあ信頼できるとして、ミミやリリはどうなんだ?

 今は、身の回りの奴らが危ない。
 協力的なヤツほど裏切る気がする。
 ゴダード……おかしい。知られていない情報で話もしてもいねぇのに、なんであいつが賢者が女と知ってる。
 背筋の奥で、冷たいもんが一筋、流れた。
 ノックスはレジーネの師匠のようだが、俺の一言で逃げ出し、あまつさえ行動が攻撃に移った。完全に裏切りだ。

 イノーイは同じ賢者だとしても、そもそもがわからない。
 どこか俺を知っているそぶりを見せるが、俺自身が自覚をしていないから何とも言えない。

 ただ、ミミが何かおかしいんだよな。

 ミミは玉座を一瞥したあと、口端をほんの少し上げた。
 それはすぐ消えたけど、その“戻し”の早さに、俺はぞくりとした。

 普通心配するところが真逆の感情を持っているように見える。
 故郷の町だけでなく、人に対しても何か企んでいそうな表情をほんのわずかに滲ませる。

 なんなんだこいつは。
 本当は別の目的があって、実は追われる身であるがそれを隠しているとかあるのか?

 エリサはまったく害はなさそうには見える。今のところはな。

 誰を信じるべきか。
 相談できる相手すらもいない。

 こうなると自身の勘に頼るのが最後に納得いく手段だろうな。

「ラフィのところへ向かうつもりだ。だがな、何も準備ができない」

「そうですね。ノックス以外の賢者については、詳しいことが表に出ていないんです」

「まぁそうだろうな。今までの情報からすると想像にむずかしくない」

 大きく息を吸い込み吐き出した。

「やっぱり行き当たりばったりになっちゃう? ねぇ悠斗」

 ミミは考えこむそぶりを見せながら、どこか軽やかだ。

 唯一の勝機は、俺がまだラダーとして再覚醒していないことを、賢者たちが知らなかったということだ。
 待てよ。今のはなしとおりなら俺は、相当昔からいることになるぞ。

 一体全体どうなっているんだ。
 記憶はまるで無いし、俺はこれまで必死に露を食って生きてきたんだよな。
 なのに、闇ギルドで魔石の収集依頼から急展開だ。

 わけわかんねぇよ。俺って誰だ?

 それによぉ、ノックスがあの一言で逃げるということは、相当ヤバイ力なんだろう。
 イノーイも俺自身がラダーという自覚がないのに、名前だけ忘れていてラダーであることは、ある意味あきらめていたからな。

 となると、ラフィは?
 用心深いヤツなら、おれの言動ですぐに察し、ラダーでなければ如何様にも武力行使してくると考えておいた方がよさそうだな。

 ああマジで。なんなんだよ。普通の生活が本当にしてぇー。
 でもな、蘇生したレジーネの身内を助けてやりたいのは本当だしな。
 なんか損な性分だな。俺って。


 まとまらない考えにとらわれても意味がねぇ。

 割り切って動く。

「それじゃいくか」

 皆がうなずくのを確認した。

「それじゃ、悠斗さまと皆さんここに集まってくださいな」

 円形の魔法陣がただ地面に照らされる。

「そんでどうするんだ?」

「はい。皆が乗りましたので、その魔石を目の前のくぼみに入れてください」

「ああ、わかった」

 窪みに載せると、吸い込むようにして魔石が吸収される。
 同時に足元がひかり輝き、またしても一気に空中に引へと上げられた。

「ギャー」

 毎度毎度のミミの絶叫だ。
 空気は森林のように澄んでいて、熱くも寒くもない空間だ。
 風を切る感覚はある。
 高速で宙づりにされている気分だ。

 今回はイノーイの時より長く感じる。
 それほどまでの距離なのかそれとも。

 気が付いたら、空間がねじれ、光が裏返った。
 気づけば、足元は黒い湖のような鏡面だった。
 上も下もなく、ただ息をすれば自分の声が反響するだけだ。
 
「ここが……“ラフィの拠点”か?」
 
 見渡すが、町の形はなく、崩壊した建築物の断片が浮遊していた。
 時間ごと剥がれたような断層――ラフィの仕業だろう。
 リリが怯えて俺の腕にしがみつく。
 
 ミミは――笑っていた。
 小さく、喉の奥で。
 それは楽しむようでもあり、待ち焦がれていたようでもあった。

 突如、霧の中からラフィが現れる。
 だが、その“気配”が薄い。
 影のように揺れ、光を通さない。
 
「……コピーか?」
 
「よく気づいたわね、悠斗。けど充分でしょ? あなたを確かめるには」
 
 声とともに、空間全体が脈打った。
 壁のような魔力波が襲いかかる。
 俺の脳裏に、白い音がはじけた。
――何かが、はじけた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界に無一文投下!?鑑定士ナギの至福拠点作り

花垣 雷
ファンタジー
「何もないなら、創ればいい。等価交換(ルール)は俺が書き換える!」 一文無しで異世界へ放り出された日本人・ナギ。 彼が持つ唯一の武器は、万物を解析し組み替える【鑑定】と【等価交換】のスキルだった。 ナギは行き倒れ寸前で出会った、最強の女騎士エリスと出会う。現代知識とチート能力を駆使して愛する家族と仲間たちのために「至福の居場所」を築き上げる、異世界拠点ファンタジーストーリー!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...