寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―

雪ノ瞬キ

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29話:影層開帳:懺雨

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 くそっ……思考加速すら、追いつかねぇ。
 
「レジーネ、よけるんだ!」

 魔獣の爪が彼女に迫る。時間が歪んで見える。
 間に合わない。
 思考の速度が空転する。

「やめろォ――! その爪、よこせッ!」

 左腕の白顎を射出。
 喰らいつくと同時に、衝撃が弾け飛んだ。
 右腕の黒顎でリリに迫る魔法を喰い砕く。
 だが、俺自身には――

「ああ、もう……間に合わねぇ。」
「なら――創るしかねぇ。」

 次の瞬間、地平が裂けた。

「風が……止まった?」
「いや、違う。俺以外の時間が、止まってるんだ。」

 思考加速がさらに跳ね上がる。
 魔獣の爪が、止まった空気の中で沈んでいく。
 黒牙が閃き、肉が弾ける。
 だが――数が多すぎる。

 ぐはっ――。

 胸を貫かれた。
 致命傷。視界が霞む。

 結線――再生。
 しかし、また次が来る。
 複数体が一斉に襲いかかる。
 致命傷。硬直。再結線。

 だが。

 致命傷発生。再び硬直する。

 結線。

 もう、予備がねぇ。

 レジーネが――。

「やめろォォッ!」

 その瞬間、世界が止まった。
 音が消えた。
 光も色も、息も。

――沈黙。

『……ああ、そうだな』
『すべて――やめよう』

 誰だ。
 俺の声じゃねぇ。けど、俺だ。

 脳裏を揺さぶる低い声が響く。
 冷たく、深く。

「影層(えいそう)、発動――」

 残存時間全消化、起動。
 影層 稼働時間 2時間24分13秒

 予備なし。強制作成。

 本体稼働1時間2分3秒
 予備1へ挿入。

――まとっただと?

 全身を何かが。
 視線の位置が変わる。

「殲滅!」

 俺の声かもうわからねぇ。

 影が走る。
 音が遅れてくる。
 次の瞬間、頭が飛ぶ。
 光の槍が雨のように降る。
 叫びは、風に溶けた。

 辺り一帯の魔獣たちは一瞬で全滅した。
 第二波がわき出る。

「懺雨」

 金属が鈍くこすりあう轟音が響く。
 光の水滴が怒涛の勢いで降り落ちる。

 激しさのあまり頭が下がる。
 全身を無数の穴が開き、貫いていく。

 殲滅。

 そして第三波

「雷光」

 視界が白一色に覆われた。
 無数の光の稲妻の槍が水平に放たれる。
 ほんの一瞬だった。

 すべてが上下に分割され崩れ落ちた。

 この時魔法陣が光るのを見逃すはずもない。

「跳影」

 魔法陣の主の元に一瞬でたどり着く。

 ラフィーがいた。

 賢者と思えぬほど、恐怖と涙で顔を崩す。

 半壊した塔から脱出を図ろうと、魔法陣が足元に現れた。
 その時。
 首をつかみ持ち上げた。

「うぐぐぐ」

 うめき声など、砂利の音と同じだ。
 握りこぶしから鋭利な五寸釘状の針が飛び出る。

「話すか?」

「あっああうわああ」

「助けるわけない。だろ?」

 間髪入れずに、こめかみに深々と突き刺す。
 手足ははねるように痙攣。


「抵抗すら、できないのか」
 
 指先が震える。ラフィーの瞳の光が、吸われていく。
 引き抜く記憶が薄い。

「……なんだ。コピーか」
 
 その声には、何の感情もなかった。

 すでにこと切れた肉体を放り投げると、地面を数回跳ねて転げて動かくなくなる。
 次の獲物を見つけた。



 
 私はみちゃった。いや、見つけちゃったのかな。あははは。
 
「なんなのあれ。あり得ない」

 私はついに実現するための最後のピースを見つけてしまった喜びに満たされていた。
 最初は、あればいいな。
 それが今や、なると決まった瞬間だと思っている。

 あの力は、みたことも聞いたこともない。
 なんなのヴァーダーってとおもっていた。けど違った。
 さらに上のラダーなんてものがある。

 すでに遠くの獲物を追いかけていった悠斗。私の声なんてすでに届かない距離。

「……ああ、最高。ねぇ、悠斗。その力、ほんとにあなたのものなの?」

 人いや違う。悪魔? それとも違うわね。
 式神? ちょっとまた違うけど力のありようは近い気がする。

 そうね。人を超えて、星導教祖を。
 いや、もっとよ。

 ふふふ。

「ははっ……! あははは! こんなの……おかしいでしょ! 力を超えてる……!」

 その笑いの中には、恐怖と興奮が混ざっていた気がする。

 それすら超えて私は、「神」になるの。
 その瞬間、背筋を駆け抜けた快感が、笑いを突き上げた。

 皆ひれふすでしょ。頭を垂れてね。
 その垂れた頭を毎日選んで喰らうの。
 今日はこれ、明日はあなた。明後日はそこの君。

 もう、たまらないわ。
 だって私は神になるんですもの、自由に喰らえるの。

 その力は私の。

 なんて最高なの。

 ああ、早く実現したいわ。

「あれほどの力なら、喰らえば私は完成する」

「星導教会……あそこさえ、動かせれば」
 
 その瞳に、燃えるような光が宿っていた。




「イノーイの嘘つき。騙したのね」

 拳を握りしめていた。

「何が記憶喪失よ。あれ現役でしょ」

 あのとき、もうちょっと疑っていればよかった。
 イノーイは微笑みながらいうものだから……。

「記憶喪失だし、手をだしてこないから大丈夫よ」
「ラダーじゃないときの彼って純朴な感じよね」

 すっかりその言葉に騙された。

 久しぶりにラダーの恐ろしさを目の当たりにしたわ。
 ほんと冗談なんて言ってる場合じゃないわ。
 本気の緊急よ。

「もう、やだよ。やだよ」

 大粒の涙が止まらないし、怖くて怖くても震えるより今は距離を稼ぎたい。

 それも死に物狂いで。

 もう何度魔法陣で跳躍したんだろ。

 途中、自身のコピー体をいくつかおいていたのが幸いだった。
 まだここまできていない。
 やられる瞬間までリンクしているからわかる。
 確実に近づいてきている。

「あれは……やっぱ化け物ね。あいつらが恐れるわけだわ」

 次々と分身体が撃破されていく。

 ラダーと戦いが起きたら、自害するか他のヤツに殺してもらうかどちらかしかない。
 そういわれたのを覚えている。

 当然ながらラダー特有の記憶の吸出しも、今なら恐ろしくわかる。
 あれは死んでも死にきれない恐怖。

 記憶まで蹂躙される。

「そんなの、いや」

 入念に用意した魔獣もまるで紙切れのごとく一瞬で淘汰される。

「やだよぉ。やだよぉ。死にたくないよ」

 もう、ああ。わけわからない。
 なんなの、なんなの。
 そんなの無理よ。普通にいられない。怖い。怖い。
 涙と鼻水どうでもいい。よだれでぐしゃぐしゃ。

 必死に逃げて逃げて逃げて。

 何度も魔法陣で飛ぶけど、ここだと短距離しか飛べない。

 追いつかれそうになる恐怖。
 どうしよう。こわいよ。
 心底、怖くて怖くてたまらない。
 
「あっ」
 
 間一髪だった。
 用意しておいてよかった。心底思う。
 この地の果てにある、緊急脱出用の跳躍魔法陣。

 去る間際に、あいつがここまできた。
 正確無比な動きに肝が冷える。
 でも、大丈夫。
 これで――
 
「ぐべっ」
 
 あたしは大量に吐血した。
 あの一瞬で脇腹を貫かれた。
 でも、逃げられた。
 まだ。まだよ。
 私は、生きている。



「逃げた――」
 
 俺の手は虚空を振りぬいていた。
 だが、手に付着する血を見る限り、無傷ということでない。
 
 この作られた地に、どこまで追ってきたのか。
 半分俺で半分俺ではない自身がここに立つ。
 もう誰もいない。
 
 もどろう。
 そう思うと一瞬でレジーネがたちがいる場所まで戻ってきた。
 レジーネもリリもミミも全員無事だ。
 視線の位置が元に戻ると同時に、思考がクリアになる。
 先の混濁した脳裏とまるで違う。
 今回わかった。
 やはり俺は
 ラダーだ。

 だが、過去の記憶はほぼない。
 なぜだ。
 思い出そうにも完全に空白に感じる。白の上には何ものってない。
 だから、無いものを思い出そうとしてもでない。

 でも俺でいて違うような、よくわからないな。


 ラフィは記憶が薄かったが、複数体から吸い出したおかげで、断片的にわかることがある。
 帝都エドまでの行き先だ。

「ミミ、帝都エドまでの行き方がわかるかもしれない」
 
「え!本当?」
 
「ああ、奴らから吸い出した一部がぼんやりしているが、ここに置き忘れた物がある」
 
「それを調べるの?」
 
「ああ、そうだ。皆手伝ってくれ」

 俺が指さすのは、まだ無傷な塔がある。

「あそこだ。奴らの記憶ではあそこに手がかりがある」
「いこー!いこー!」

 リリがはしゃぎだす。
 レジーネも期待に目を輝かせる。
 これほど希望が詰まった行先も珍しい。

 ミミの笑い声だけが、焼けた空気に残っていた。
 
「……ああ、最高。ねぇ、悠斗」
 
 振り返ると、あの瞳が、獣のように光っていた。
――嫌な予感が、背骨を撫でた。
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