存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定

雪ノ瞬キ

文字の大きさ
7 / 31

第7話

しおりを挟む
「ああ、“向こう”に認識されたなこりゃ」

 嫌な予感はしてたんだよな。

 俺がスマポを見ながらつぶやくと、別の気配が近づいてきた。――在香だ。
 どうしてここにいるんだ? って、顔に出てたんだろうな。
 鋭く黒い瞳が俺を刺す。
 
「あのね、おかしいと思って。あなたがここに来る気がしてたの」
 
「そっか」
 
 彼女の視線が俺の腕の金粒子の残滓に落ちた。
 
「見たわ……。あなたが“薄くなる”瞬間まで。
あの力は何? と言いたいけど。是明が話してくれるまで待つわ」
 
 わからねぇけど、空気が柔らかく感じた。
 真剣な目線がゆるむ。
 
「でも……怖かった」

 在香は、言い終える前に指先を握り込んだ。

「あなたが、消えてしまうんじゃないかって」
 
 そんな顔してたのか。
 胸がひりついた。言い返す言葉がなかった。

 あああ、こりゃ全部みられたか。
 まあしゃーねーな。いずれわかることだったし。

 それにしても、動きやすそうな格好だな。
 逃げる気はない、ってことか。
 
「体、軽そうだな?」
 
「うん。おかげ様でね。かなりぐっすり寝たわ」
 
 ああ、存子が麻酔やりすぎたのにぐっすりかと思うと苦笑いがあふれる。
 
「いつものあなたらしくないわね? 知られたのがショック?」
 
 ヤベーヤベー別の方向に気づいてよかった。
 存子マジでやりすぎるからな。
 
「いんや。いずれわかる話だ。それよかさ」
 
「何?」
 
「わりぃ。今から巻き込むわ――逃がせる状況じゃねぇ」
 
「やっぱり、あなたって人は……」
 
 在香ははにかむように笑む。
 それでも今の状態がよいらしい。
 ふと、店に視線を移す。
 せっかくだからとポコポコの店に入っていった。

 在香の背中が見えなくなる。
 巻き込むと言った以上、絶対に守らねぇとな。
 あんな顔、二度とさせたくねぇ。



 少し静かになると、考えが勝手に繋がり始める。

 俺は、ポコポコの店の店先で壊れかけの椅子に座り、ぼんやり空を眺める。
 静かになったせいか、嫌な記憶がじわりと浮かび上がる。
 椅子に背を預けた瞬間、胸の奥がざわついた。
 
 脳裏にサイレンが鳴り響く。
 ――あれは思い出したくねぇ記憶の方だ。

 映像のように、あの日の光景がよみがえる。
 
 空は雲の代わりに飛竜が舞い。
 風は、止まる。
 小鳥はさえずりの代わりに血を吐き。
 草花は、甘い毒を放つ。

 そう……あれは、地獄というよりは“懺悔の雨(ざんげのあめ)”だ。
 ……懺雨(ざんう)。

 あの雨が降ると、世界は“言い訳”を許さなくなる。
 だから俺は、匂いだけで吐き気がする。

 俺は、知っている。
 だから、わかる。
 今、同じ匂いがしている。

 その懺雨の匂いが――今、ここにも混じっている。

 それに、いずれ、あの世界にしっぺ返しをくらわすことを願うが。
 俺は何も変わらず流れていく雲を眺めていた。

 スマポが明滅し、存子が存在を主張する。
 存子は唐突に声を上げる。
 
「地上に、異常個体がいるってばれましたね——是明さまのことです」

 存子は相変わらず、点と棒線みたいな顔だが――
 最近、あれでも微妙に表情が揺れてる気がする。
 魔道具でも意思があるって思うぜ、ほんと。
 
「運よくポコポコがいる。
それに在香とお前もいる。
――それだけで十分だ」
 
 今の俺の率直な気持ちだ。
 
「なら大丈夫ですね」
 
 棒線が嬉しさで震えている気がした。
 
「だろ? でもな、是界(ぜかい)――存在証明を“燃やす”あの禁術を使うと、
ヤツらすぐに反応しやがる」
 
「存在証明を燃料にするのも、完全に把握してるかもしれませんね」
 
「だな。あとは、武器だな。在庫があればいいんだが」
 
 手札が少なすぎるんだよな、今の俺は。
 もうばれちまったもんはしゃーねー。
 あとはやりようだが、一気にきたらこっちはひとたまりもねぇな。
 
「あれは、是明専用みたいなものだから、あるんじゃないですか?」
 
「ポコポコのことだ、これいらないよね? とかいって捨てていそうなんだよな~」
 
「ありえますね」
 
「まあ、ポコポコの思想は置いといてだ。」

 あ~あ、空気の質もかわってきたし。
 生暖かった風が、急に鉄臭く変わったな。
 いよいよなのか? それとも小手調べか?
 単なる殲滅か。
 それとも――威力偵察。

 どちらにせよ、“俺向け”だ。
 いずれにしてもあいつら、かなりピンポイントで把握していやがる。

 ん? 待てよ。今脳裏に過るアレはなんだ。
 そういや夜、監査課に行ったときの気配……。
 あの魔獣の気配と黄土色のトカゲの奴、気配に似ているような。
 空気の“におい”が同じだ。
 
「存子、あのトカゲ魔獣、監査課のときにいた奴じゃねぇか? 俺とも一度すれ違っている気がするんだよな」
 
「はい。おそらく同一個体です」

「回収課が回収したトカゲ、監査課が踏み込んだ時に逃げたか……放ったかだな」
 
「はい。捜査撹乱のための手口の一つです」

「それと、ポコポコの店には回収課の裏流し品が混じっています」
 
「まあ、あいつの店は裏が本業だしな。ヤバい物が紛れてても不思議じゃねぇ」
 
 そういうことか。
 やっぱり裏の匂いしかしねぇな。全部つながってやがる。

 回収課で押収されたトカゲが“わざと”逃がされて
 ポコポコの裏流通に紛れて、
 それが神界まで流れていく筋道が成立しているってことだ。

 全部グルってことかよ。
 線が繋がってきやがった。
 
「案外、アリサかもな」
 
 あいつの指にあった“黒い指輪”が、ふと頭をよぎる。
 裏流通経由の品らしい。そうなると、線としては十分ありえる。
 
「可能性はあります。ただ、決め打ちは危険です」
 
 まあ、決めつけるには早ぇが。否定はできねぇな。
 まだわかんねぇことが多すぎる。
 こうしている間にも動きがあるとふんでいたが、
 追撃がない。
 静かすぎる。  なのに視線だけが、壁に貼りついてる。
 俺の背中の、同じ場所をずっと舐めてるみてぇに。
 空気が変わったのは、たぶん気のせいじゃねぇ。



 行動に移る時が来た。こっちの準備が整う前にな。

 ――だが、どうやるか。
 武器があっても“数”で押されたら終わりだ。
 一騎当千でも限界がある。戦争は結局、数だ。

 そんな戦争に、今の手札でどう立ち向かうか――考えがまとまる前に、
 静寂がじわりと広がる――そんなタイミングで、
 そこへ、ポコポコが出てきた。
 
「ねぇねぇ、あたしが調整したんだから是明、楽勝っしょ?」
 
「なんだよ藪から棒に」
 
「はい。これ」
 
 嫌な予感しかしねぇ時に限って、こういうのが出てくるんだよな。

 ポコポコが出してきたのは是贋(ゼガン)。なんか知らんが俺にしか扱えない手甲だ。
 これなら是零掌を離れていても撃てる。

「存子、俺の口座から、ポコポコに代金しはらっといて」
 
「はい。わかりました」
 
 金勘定は、存子にやらせておけば間違いない。
 俺はうでを曲げ伸ばししたりたたいたりと感覚を確認する。
 是贋も、お前と同じでしっくりくるな。
 
「ポコポコいい仕上がりだな」
 
「さっきもいったように、あ・た・り・ま・え」
 
「こいつをすぐ使うはめにならなきゃいいんだがな」
 
「そしたらさ、遺書書く? ねぇねぇ、あたし宛てに財産残しておいていいんだよ?」
 
 ポコポコは俺の脇腹を超高速で指でつつきやがる。
 なんだ、なんだよ。
 
「うわーうぜー」
 
 ふざけてる場合じゃねぇ空気が漂ってるのに、こいつは本当に容赦がない。

 風が止まった。
 視線だけが残る。
 その瞬間、スマポが鳴った。

「パラッパー!パラッパー!トゥルルル!」

 存子がイカれたのかと思った。
 ――ふざけた音のくせに、魔導ガラスの震えだけが異様に硬い。

「は? 何言ってんだ存子?」

 パネルには『確定課』の文字。
 あっ、マジな連絡か。
 何? まてよ。確定課からだと?
 
「あーはいはい。徴税局、是明――」
 
「確定課の課長、豆奈でっす。緊急です。
局の局長が“消えました”。部長のアリサも音信不通です」
 
 声の軽さの割に、言ってる内容が重すぎる。
 胸の奥が、すっと冷えた。
 
「は? おいおい冗談よせよっていいたいけど、マジっぽいな」
 
「はいマジです。大マジです。ですから急ぎ、確定課にお越しください」
 
 こいつ、声のトーンとマジな話の温度差が半端ねぇぞ。
 
「ん? そういう時は、徴税局じゃねぇのか?」
 
「今、問題を起こしていないのは確定課だけなんで。来てくださーい」

 そりゃあそーだ。存在管理庁は実は問題だらけだよな。
 建物と報酬は立派なんだけどな。
 やっていることは、まぁ人それぞれだな!

「はぁ、わーったよ。今すぐだな?」
 
「はい今すぐでっす!」

 まだ店の中にいる在香を呼びに走る。
 ……驚く顔、見ものだな。
 
「是明さま、笑顔が黒いです」
 
「そっか? お前も面倒ごとが好きなタイプだろ?」
 
「うふふふ」
 
 所狭しと商品が並ぶ店。金属・薬草・怪しい札。
 ほんとここはいつ見ても飽きないな。

 在香は、どこだ?
 あ~いたいた。
 
「おーい、在香、確定課から緊急の呼び出しだ」
 
「え? 今なんといいました?」
 
「確定課からの緊急の呼び出し」
 
「是明また何かしでかしたのですか?」
 
「いやいや待てよ。今のいままで一緒にいただろうが」
 
「いえ、その前はいません」
 
「はあ、あのな。おれらの所の局長が飛んだ。んで同時にアリサが音信不通」
 
 口をパクパクしているのは、前のポコポコと一緒だな。
 こいつら、ひな鳥か?
 
「俺もこれ以上はしらねぇ。いくぞ」

 ーー存在の申告だの審査だの……あいつらと関わるのが一番めんどくせぇ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...