存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定

雪ノ瞬キ

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第8話

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 確定課へ向かう途中、俺は腕の金粒子をこすった。まだ残ってやがる。

 回収課、監査課、局長蒸発。
 俺の周りだけ、神無大戦の前夜みてぇにきな臭い。

 どれも状況は違うが、鼻の奥に残る匂いだけは同じだ。

 ――焦げた札と、生き物の血。

 理屈は足りねぇが、触られた手触りだけは消えない。

  
「“存在証明の荒らし”が起きてる。
 その渦中で――消えたのは、あいつらだけだ」

「だとすると、動機が見えないわね」

 在香はほんの一瞬だけ、歩みを緩めた。
 その沈黙が、不安よりも“覚悟”の色に近かった。

 風が通り抜けた。
 まるで肯定でもするみてぇに。


「一見するとな。けどな、この根底に共通する物がもう一つある」

「何かしら」

「神無大戦だ。あの時も、こんな匂いがしてた」

「そこまでは“筋”としてわかるわ。でも、回収課と監査課と徴税局――どこで繋がってるのかが見えない」

「もう少し調べてみるか」

「ええ。確定課がなぜ無事なのかも知りたいわ」
 
 俺と在香は歩きながら考えていた。
 急いでるが、“今すぐ死ぬ”感じじゃない。
 散歩みてぇな速度で街を抜けて、存在管理庁へ向かう。

 会話を重ねても、わかったのは「よくわかんねぇ」ってことぐらいだ。
 事実の点をならべれば線にはなるが、本質を外してる気がする。

 状況的には、神無大戦が開始する数年前の状況に似ている。
 
「そういやさ――あの時と決定的に違うのがある。神族が一匹も顔を出してねぇ」

 ――“いない”んじゃない。“見えてない”んだ。
 
「……いないの?」

「違ぇ。いる。絶対いる。なのに見えない」

 まあ、あとで豆奈にでも聞くか。
 確定課の課長だっけか。役職なんざ、俺にとっちゃどうでもいいけどな。
 それで、生存率があがるわけでもねぇし、存在証明の代わりになるわけでもない。

 神族の下僕勇者も姿を見せていない。
 天使族もここ最近見ない。

 あいつらも人手不足か?
 そんなわけねぇよな。
 種族の恩恵をちらつかせりゃ、皆尻尾降ってへーこらしにいく。

 だとするとますますわかんねぇ。
 もし無理やり解釈するなら、俺が原因か?

「そうだと思いますよ。是明さま」

 あれ? 存子、俺の思考をまた読んだのか?
 管理庁の塔が見えてきた頃、存子があらわれやがった。

「ええ、あんなことやこんなことを想像していることも、見させていただいております。至極至福」

 なんだその愉悦感の棒人間ずらは。

「どうもわかんねぇんだ。存子は何かわかるか?」

 在香は珍しそうに、俺と存子のやり取りをしているスマポの魔道ガラスの板を覗き込む。

「私は、是明さまの是界発動や是零掌で所有者が変わること、“燃やしている”という事実――それらが調査開始のきっかけだと考えています」

「なあ、それってどうにもならなくねえか?」

「はい。どうにもならないですし、至極どうでもいいことです」

「どうでもいい?」

「はい。是明さまは“存在証明の食物連鎖の最上位”。人も神も喰われる側です」

 ああ、そうだ。存子はこんなヤツだった。
 特に俺のことが絡むと、極端なほど合理的になる。
 それが信頼できるところでもあり、いかんせんハードだ。

 在香は口を手で抑えてドン引きしている。
 はぁそうだよな。これ人に聞かせちゃだめなヤツだったな。

 もう塔が目の前だ。

 俺の居場所はまだバレてねぇから、周囲の人間を噛ませ犬にして情報を集めてる――そんな可能性もある。
 刺客を送るか、戦力を分散させて裏で糸を引くか。神陣営のやり口なんて、どっちにしろロクでもねぇ。


 あれ?
 待てよ。
 ひょっとして。

 俺は思わず足が硬直した。
 景色は動かなくなり、在香は足を止めた。
 顎に手をあて考えを巡らせる。

「是明?」

 在香の声が遠くに聞こえる。
 俺は答えず結論を探していた。

 ――おかしい。

 これだけ“存在証明”が荒れてるのに、神も天使も顔を出さない。
 いないんじゃない。いるのに“出てこない”。

 ……誘導神波。
 思考の矢印を、気づかれない角度だけズラす――戦争の洗脳だ。
 禁じたはずの手口が、また動いてる。
 だから神も天使も、表に出てこねぇ。

 胸の奥が冷える。
 焦げた札と血の匂いが、もう一段、濃くなった気がした。

 外法神――あいつらの匂いがする。
 神族側が、もう動いてる。

 そういや、呪女のやつあれから姿みせねぇな。
 あれだけ慌てて消えたのは、珍しいっちゃそうだな。
 一人で何やってんだか。どうせロクでもねぇことだろうけどよ。

『……気づいたのね。遅いわ、是明』

 唐突にまた出やがった。
 あの時、突然煙に巻いたように切ったくせにな。

「おいおい、またかよ。『まずいわ。後で連絡する』って言ったのは他でもないお前だぜ?」

『それもそうね。嘘じゃないわ。ほら、こうして連絡してるし。それとも私のこと気にしてくれてたの?』

「はあ。で? 何かわかったのか?」

『うわっ、つれないのね。それがね、とんでもないわ。一言でいうとあいつ等アホね』

「またやらかしたのか、神族は?」

『それがね、彼ら内部紛争中よ、しかも天使と勇者交えてね』

 これは見えねぇ展開だが、またとないチャンスだな。
 混乱に乗じて、神や天使のひとつやふたつ存在証明奪ってやるか。

「是明、あなたすごく悪い顔しているわ」

「是明さま、とてもよい笑みをうかべています」

 おいおいどっちも同じタイミングでしゃべったら、聞き取りづらいじゃねぇか。
 まったく、ほめんなよ。

「それじゃよ、お前も久しぶりに顕現して合流でもすっか?」

『そんなこといってまた抱くつもりでしょ? 騙されないわ』

「はあ? お前何言っちゃってんの? マジで? 大マジで?」

『合流するかもしれないし、しないかもしれない』
 
「どっちなんだよ」
 
『――期待してるの? 可愛いわ』
 
「戦力としてな」
 
『いいわ。今夜、顕現してあげる。じゃあね、愛しの是明』

「おいおい……。まあいいだろう。で作戦はまた今夜どうだ?」

『了解よ。また夜にね、愛しの是明』

「ああ、またな」

 はぁ、ちょっとめんどくさいぞ。ポコポコ2号か? あれは……。

「わりぃ、念話してた。そんじゃ確定課に行くか」

「ええ、行きましょう」

 在香の目が揺れた。
 震えじゃねぇ。決めたやつの目だ。

 扉を開けた瞬間、焦げと血の匂いが鼻を刺した。

 視線がぶつかる。

「急ぐぞ」

「はい!」

 もう走ってた。
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