存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定

雪ノ瞬キ

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第13話

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「僕は天使ユラ。あの時の彼の動きが、まぶたの裏から消えない。なんでだろう」

 問答無用で、二区という一つの街が「なかったこと」にされた。
 普通なら膝から崩れ落ちるような所業を、当たり前みたいにやってのけた。
 
 災禍と呼べるほどの戦闘力。
 そして――
 大事な者に対しての愛情。

 なんか、目が離せない。

 それは戦いを見て感じた興奮の痛みじゃない。
 もっと厄介で、全身が冷えるほどの痛み。

 貸しはある。でも……返されたくないと思ってしまった。
 自分でも、ちょっと笑える。

 僕は彼を利用しようとしているのに。

 心がどこか彼の姿を追っている。

 どうして、って自分でも笑いたくなるくらいに。

 そうね、これからどうしよう。

 僕の計画も、上層部も……どうでもよくなってきた。
 もう、自分でも何考えてるのかよくわからない。
 でも是明のことだけは観測対象として興味がある。




 勇者側
 
「……天使二区壊滅だと?」

「我々の攻撃じゃない。単独で?」

 互いに顔を見合わせるが答えなどない。
 あるのは、断片的な事実だけ。

「勇者団の攻撃規模の十倍以上だぞ?」
「何が起きた。こんなの、紛争っていうより災害だろ……」
「“勇者”なんて肩書きがかわいく見えるレベルだぞ……」
「……同じ“人間”だなんて、冗談きついよな」
 
「その名は――是明。」

 勇者たちは何が起きたのか混乱していた。
 事実今は、天使と小競り合いをしている。
 だが、それは自分たちで起こした範囲。

 その外で、まったく別の何かが、一瞬で天使の一角を壊滅させた。
 なんだ。
 化け物がいるのか?
 俺たちの知らない何かが存在するのか?
 不安が心を突き動かす。




 一方で天使上層は慌ただしかった。

「ユラは……何をしている?」
「この事件、勇者か? いや違う……あれは――人間?」

「……いや、違う」
 
 年嵩の天使が立ち上がる。
 
「あれは人間じゃない。あれは――“災厄”だ」
「記録上、同格は存在しない……」


「二区は未納者集団だったよな?」
「はい。今はその未納者がゼロです」

「つまり、全滅か」
「化け物め……」

 円卓は、前のめりになる天使たちできしりと音を立てた。




 俺、是明。今おきた。

 戻ってきた俺たちはひとまず体を休めていた。
 ――が。
 なんでポコポコは店に帰らない?

「ん~ぜみょう~」

 寝ぼけてベッドで俺にしがみつく。
 ここんところ毎日これだ。
 なんで俺が抱き枕なんだよ。保護者か俺は。

「おい、起きろ。朝だ」

「もうちょっと寝る~」

 だめだ。

 毎夜俺の寝床に潜り込んでくる。
 なんだお前。猫か?
 ほほをつまむと、俺がニヤニヤしちまう。

 はぁ。困ったな。

 在香はじっと俺たちを見ていた。
 黒い目が、俺とポコポコの腕のあいだを行ったり来たりする。
 ……ポコポコ、いいなぁ、って顔してやがる。
 そのくせ、「別に何も思ってません」みたいな顔をして目をそらした。

「在香、どうした?」

「……なんでもない。気にしないで」

 それでも、さっきから視線が刺さってるのは気のせいじゃねぇ。

 そんで、在香もポコポコも俺の部屋に住み着いている。
 まあこの方が。大事な者たちの安全が目に届く範囲といえばそうなんだが。
 ん~。なんか違う気がするな。

 二区殲滅から数日が経つが、局長もアリサも帰ってこねぇ。表向きには何も変化がねぇ。

 彼らに関しては、知っているというだけだ。
 俺にとっちゃ隣町のパン屋の恋バナくらいどうでもいい。

 一つだけ変わったのは、天使の未納がゼロになったことだ。
 俺が二区を殲滅したあと、突然ほかの区の未納者が一斉に納税に訪れたという。

 あれな。納税効果があったのか?
 ……命がかかった督促ってのは、効き目が違ぇな。

 勇者が天使と小競り合いしている話も入ってこねぇし。
 神側も何か動きが見えねぇ。

 それにしたって不気味だな。
 俺が知っている神族の奴らは、かなりイカレタ連中だからな。
 いつ予想外の攻め方をしてくるか、わかったもんじゃねぇ。
 
「パラッパー!パラッパー!トゥルルル!」
 
 ん? 確定課だと?
 豆奈か?

「あー徴税局。是明」

「豆奈でっす! 是明さーん。今大丈夫ですか?」

「ああ。問題ない」

 前回と変わらず、勢いのあるヤツだ。
 ただし、声にはまったく緊張感がない。

「アリサさんがですね。戻ってきたんですよ」

 何なんだ。通話の奥が騒がしいな。

「は? 戻ってきた、だと? 無傷でか?」

「はい。少し様子が違う感じですけど?」

 それはヤベェ兆候だ。
 のんきに構えている暇なんてねぇぞ?

「やべー。豆奈逃げろ。今すぐにだ」

「何いって――キャー!」

「つーつーつー」

「切れやがった」

 あれは間違いねぇ。
 生きたまま改造されたな。
 神族のイカレタ実験に巻き込まれたってわけだ。
 この間の存在証明をいじられたヤツらと同じだな。

「在香、確定課にいくぞ。ポコポコは留守番な?」

「えー。わかったよぉ」

 ぼんやりしながら手を振る。

「はい。今の流れだと誰かもどってきたのですか?」

「アリサだ。多分改造されている。急ぐぞ」

「はい」

 今回は存在証明引き抜けねぇな。
 消えちまうし。
 タコ殴りにすっか。

 走っていく途中、階段が妙にぬめっていやがる。
 なんだこれ。
 ……冷たい。こりゃ“ついさっき”だな。

「これ、なんか似てねぇか?」

「あっ、ポコポコの店の前にいた肉食植物のよだれに似てますね」

 もしや、嫌な予感がしやがる。

 確定課の扉はひらきっぱなしだ。

「豆奈!」

「是明さーん」

 ちょうど対峙していやがった。

「アリサてめぇー!」

「うごごが。ぜ。みゅう」

 頭だけ真後ろに回転し俺を見る。
 だめだ人じゃねぇ。
 もう、“アリサ”って呼べるモンじゃねぇぞ。

「是贋!」

 縦に振り下ろし右腕を肩から切り落とす。

「グギャー!」

 どう見ても魔獣だ。
 おいおい。体が縦に割れて口が現れやがった。

 まさにあの肉食植物だな。

「ソラ! ソラソラソラソラァアアア!」

 甲からの光の刃でデタラメに穿つ。
 全身から粘液を垂れ流し、動かなくなった。

「しめぇだ!」

 横一線になぎ払う。
 首が地面に転がり落ち、縦に割れた体はそのまま倒れる。

「はぁはぁ。助かりました。是明さん」

 腰が抜けたのか、しゃがんだまま、豆奈の滴る汗が恐怖を語る。
 あれは普通に相当やべえ。

「これ回収課で生体調査か?」

「ええ、回収課に依頼します」

 死骸とは言え、難儀だよな。
 回収課の連中ってな。

「キャー」

 何?

 今度は異なる確度で確定課の奴らが声を上げる。

「あっ! 頭がッ!」

 ニヤつく顔は、首の下から、カサ……カササ……と昆虫のような4本の脚が伸び、
 壁を逆さに駆け上がっていく。
 あまりの速さに、あっけにとられた。

 窓の外に消えた頭は、わずかに笑ったままだった。
 しくじったな。アレ、絶対あとで厄介になるタイプだ。

 口を開けたまま、固まっている在香がいる。

「在香、虫苦手か?」

「う、うん……お腹とか……ムリ……」

「アリサは足だけだぜ。腹はねぇ。セーフだ」

 ああ、あれだ昆虫の腹見て卒倒するやつだ。
 アリサは足だけだぜ?
 大丈夫じゃねぇか?

 でもな、あれはヤバい。
 一匹逃げたら、十は生まれるタイプだ。
 ……はぁ、また面倒が増えやがった。

 頭の逃走先の……あの窓、今日は妙に“口”みたいに見える。
 逃げた頭を、そのまま飲み込んだ口だ。
 あの向こう側で、何かが“育ってやがる”気がしてならねぇ。
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