26 / 31
第25話
しおりを挟む
「やっぱこうなりやがるか」
「あら、久しぶりね。ここまで来られるかしら?」
「なあ、そろそろ素直にならねぇか?」
「ふふふ。あなた、可愛いわね」
「うぜぇ。マジで」
光の槍が次々と降り注ぐ。
紙一重。頬の薄皮が削げる。
槍を叩き落としても意味がねぇ。
このままじゃ押し切られる。
だから、俺は――
「是界ッ!」
世界が軋んだ。
音が止んだ。
風が息を潜めた。
景色が“遅れて”ついてくる。
俺が世界を置き去りにした。
一瞬で女神の懐へ踏み込む。
ストレートを右頬に叩き込んだ。
女神の身体が吹き飛び、床を転がる。
続け。
立ち上がろうとした肢体を、蹴り上げて空へ弾く。
「グッ!」
呻き声。体がくの字に折れた。
「ソラァ! ソラ!ソラ!ソラ! ソラァァアアアア!」
空中の腹に連撃を叩き込む。
とどめの一撃で女神は壁へ叩きつけられた。
崩れ落ち、しゃがみ込む。
「是零掌!」
上着の上で光が揺れる。
「チッ!」
対策をしてきやがったか。衣で誤魔化す気か。
「ソラッ!」
そのまま上着を左右に力づくで裂いた。
構わず掌を突き出す。
「是零掌!」
金色の粒子とともに、胸の中央から存在証明を引き抜く。
――が、こいつは消えない。
これが女神の怖ぇところだ。
口角から血を流し、その血すら金色。
「いいのよ? 好きにしても」
「だぁー、お前は何でいつもそうなんだ?」
「だってあなた強いんですもの。……光明の女神を消滅させただけあるわ」
「それ言う? 今いっちゃうのかよ」
「あなただけにしか言わないわ」
もう戦う必要はねぇな。解除すっか。
「解除」
是界が解除され、世界が色を取り戻す。
こうしないと始まらない。
これが、俺とこいつの“会話”だ。
それに、こいつが傍にいる時の俺は、是界を使っても存在は――薄まらない。
「ねぇ今日は何用? そろそろ婿になる覚悟は?」
一瞬にして部屋の中身を変えやがった。
今度はいきなり寝室かよ。
「なあ、諦めたらどうだ?」
「無理。ダメ。絶対無理」
「お前、一応“深淵の女神”なんだろ?」
「そうよ。あなたを深淵の奥から愛する女神よ? この魂が崩れるまで」
「はぁ……。用事はな。お前んところの勇者の件だ」
「勇者? あの子たちがどうかしたかしら?」
「ここに二枚ある。勇者の証だ。解除してやってくれ」
「あら、そんなこと? いいわ。貸して」
存在証明を受け取らずまず俺の手首をつかみ、引く。
ベッドに横並びに腰掛ける。
俺の手からさっと奪い宙に浮かせると軽く一振りする。
手を仰ぐような仕草だけだ。
これで消えるなんざ、嘘のような話。
でも消えた。
たったそれだけでだ。
女神はひらひらとかざしながら見せる。
それを奪い返す。
「もう……ちょっとひどい」
おいおい、そこで口とがらせるなよ。
拗ねてもだめだ。
でも、その表情は悪くねぇ。
「ああ、受け取ったぜ。大丈夫だな」
「なんでまたそんなことを?」
小首をかしげる。
おいおいそのしぐさ、らしくねぇな。
っていうより、今が素か。
「たまたまだ」
「あっ、もしかして私に会う口実でしょ?」
ポコポコのような表情をしやがる。
なんでニヤケ方がこうも似てるんだ?
「ちげぇよ」
「うふふ。やっぱ可愛いわ、あなた」
「――帰るな」
「ダメっ!」
がっしり両腕で俺の上半身をつかむ。
いやいやをする子供のしぐさじゃねぇか。
「ダメとかわけわかんねぇよ」
「もっと私自身に用事はないの?」
「ない! けどある」
「なにそれ?」
嬉しそうないつもの顔だ。
「こうだ」
俺はそのままベッドに二人で転がった。
◇
夜が更け、神殿は静かになった。
女神は満足そうに横になりながら俺に話しかける。
「ねぇ」
「なんだ」
「どうして一緒にいてくれないの」
「ここの住人じゃない」
「嘘」
「なんで嘘になるんだ?」
「あなたは私の心に住みついて離れないじゃない?」
「はぁ? それはお前自身の事だろ?」
「だって」
「なあ、それなら女神辞めたらどうだ?」
「あなたがこの世界を追放しないと無理」
「ああ、またその話かよ」
世界を追放? またあの時みてぇな真似をしろってのか。
「だってあなた前、世界から追放されたじゃない?」
「……」
「また、黙るぅ」
「なあ、なんでセレスがホールにいたんだ?」
「あの子ね、面白そうだから身の回りの世話させてるの」
「マジか」
「知ってるわよ。あの子も抱いたんでしょ? 私を抱いた後なら好きにしていいわ」
「お前な……。まあいい」
よしっ。
「よしっ、頭はここな」
枕を置き頭を動かす。
「なによ」
「じゃな?」
「ちょっとー。またやりにげ?」
「人聞き悪ぃぞそれ?」
さっさと着る物を着て、俺は部屋を出る。
「もう、また来てね。待っているわ」
「また来るさ。来られるうちは」
ベッドの上でまどろむ女神を置いて俺は扉を閉めた。
ホールには誰もいねぇ。
なぜかここで現れないことが逆に不自然。
セレスはもしや移動したのか?
もしそうなら――
面倒だな。
まあ、帰るか。
気にしてもしゃーねぇー。
俺はまた転移魔法陣を乗り継ぐ。
◇
あと6日か。
徴税局の前まできた。
あいつらが来るまでまだ日数があるな。
ガラガラガラ。
ん?
背後にホロ付きの荷馬車だ。
歴戦の猛者といった面構えの神族たちが数人、手枷足枷の状態だ。
まだ今にも戦いそうな面構えだ。
威勢いいな。
生け捕りってヤツはなかなか見れないな。
ゆっくり通り過ぎていく。
まぁ俺は存在証明にしか興味ねぇな。
また来た。
今度は?
おいおい天使族かよ。
一人こちらを見つめる少女がいた。
悲しそうで、それでまっすぐした目だ。
おいおい、俺をそんな目で見んなよ。
はぁ、脱走させたくなっちまうじゃねぇか。
でもな。
それしちまったら、おしめぇよ。
どんな理由かしらねぇが、ここに運ばれるってヤツは相当な重罪持ちだ。
逃れようがねぇほどのな。
つまり、あの姿の持ち主はそれをやっちまった。
因果応報だな。
でも安心しろ。
来世はうまくいくぜ。
存在証明はまあ、誰かがおいしく食うさ。
俺は振り返り、少女の目線と自分の目線を合わせる。
……あー、目ぇそらせねぇな。
親指の上に乗せたコインをはじき、立て続けに三枚、荷馬車の中へ飛ばす。
それを使って何をどうするかは少女にまかせる。
逃げるもよし、諦めるもよし。――選ぶのはそっちだ。
後ろ手に手をふり、あとは振り返らない。
俺は、執務室へ向かった。
後ろ髪をぐいっと掴まれたみてぇな感覚だけ残して。
◇
私は天使族のリリー。
もうすぐ、名前ごと消される予定の――。
荷馬車に揺られここ、税を管轄する官僚地域に来た。
私は、脱税犯。
何度も何度もした。そして逃げるために殺しもした。
結果、捕まった。
もうだめ。
私は今、死にたくても死ねない。
存在証明が奪われるんだって。
肉体すら残らない。
私、消されちゃうんだ。
そう思うと涙がこぼれてきた。
悪いことしたのはわかっている。
でも、どうしようもなかった。
あの時は、アレ以外に方法がなかった。
本当は、戦いたくなんてなかった。
でも
でも――
生きるため。
私は、一人で戦った。
だめだった。
相手は強かった。
そして私は今、ここにいる。
悲しくて、死ぬのが怖くて心が押しつぶされそう。
自分勝手なのはわかっている。
でも、生きたい……。
死にたくないよ。
そんな時、私は彼をみた。
黒髪で背が高い。
どこか飄々としていた。
なぜか目が離せなかった。
もちろんカッコイイのはわかる。ただ、それだけじゃない何かがあった。
でも言えなかった、『助けて』って。
言いたかった。
でも、彼は関係がない。
その思いがこみあげてきた時――
彼はまっすぐ腕を伸ばし、コインを私にめがけて指ではじいて放ってきた。
1枚。2枚。そして3枚と。
なぜ、どうして?
その問いに答えてくれない。
後ろ手を振り、離れてしまう。
ただ、私はこれが彼がくれたチャンスだと思った。
だからこの3枚で何ができるか必死に考えた。
まずは牢。次に手枷足枷、最後に身なり。
これをクリアしなきゃ。
護送側が神族騒ぎで人手不足。
御者が何かそんな話をしてぼやいていた。
しかも普段の家畜の餌を運ぶついでだという。
これはチャンスかもしれない。
気が緩いし、意識していない。
やるなら今ね。牢は意外と脆かった。
コインでテコのようにして金属の隙間を浮かし静かに外した。
彼らは私の動きに気が付いていない。
そっと今のうちに荷馬車から飛び降り、路地裏に隠れた。
たまたま目の前にあったのは、どこか怪しい感じのお店。
この姿で正面からは無理。
だから裏手にまわると、おじいさんがいた。
危険だけど賭けてみた。
どう見ても、場数を踏んだ“戦い慣れた人”にしか見えなかったから。
「あの、手枷足枷、コイン1枚で外して」
ジロリと足から頭の先まで舐めるように見られた。
顎に手をあて何か考えているかと思うと口を開いた。
「道具をもってくる」
すぐに表れたおじいさんは、あっという間に外してくれた。
「これ」
私は1枚渡すと、すんなり受け取ってくれた。
「何事にも対価は必要だな。達者でな」
何事もなかったかのように、何か作業を続けていた。
私は、次に雑貨屋で服を見繕った。
動きやすく頑丈なヤツ。
おあつらえ向きの物があり、これもコイン1枚で相談した。
難なく、取引が成功。
すぐに着替えて、帽子も深くかぶり変装は完了。
最後の1枚は予備として保管。
そしてコインをくれた彼を探しにいく。
私は天使族のリリー。
生きることをあきらめなかった。
だからきっかけをくれた彼に会いにいく。
お礼?
わからない。
どうしてか、なぜか。
理由がききたかったの。
ただ、それだけのために彼を探し始めた。
「あら、久しぶりね。ここまで来られるかしら?」
「なあ、そろそろ素直にならねぇか?」
「ふふふ。あなた、可愛いわね」
「うぜぇ。マジで」
光の槍が次々と降り注ぐ。
紙一重。頬の薄皮が削げる。
槍を叩き落としても意味がねぇ。
このままじゃ押し切られる。
だから、俺は――
「是界ッ!」
世界が軋んだ。
音が止んだ。
風が息を潜めた。
景色が“遅れて”ついてくる。
俺が世界を置き去りにした。
一瞬で女神の懐へ踏み込む。
ストレートを右頬に叩き込んだ。
女神の身体が吹き飛び、床を転がる。
続け。
立ち上がろうとした肢体を、蹴り上げて空へ弾く。
「グッ!」
呻き声。体がくの字に折れた。
「ソラァ! ソラ!ソラ!ソラ! ソラァァアアアア!」
空中の腹に連撃を叩き込む。
とどめの一撃で女神は壁へ叩きつけられた。
崩れ落ち、しゃがみ込む。
「是零掌!」
上着の上で光が揺れる。
「チッ!」
対策をしてきやがったか。衣で誤魔化す気か。
「ソラッ!」
そのまま上着を左右に力づくで裂いた。
構わず掌を突き出す。
「是零掌!」
金色の粒子とともに、胸の中央から存在証明を引き抜く。
――が、こいつは消えない。
これが女神の怖ぇところだ。
口角から血を流し、その血すら金色。
「いいのよ? 好きにしても」
「だぁー、お前は何でいつもそうなんだ?」
「だってあなた強いんですもの。……光明の女神を消滅させただけあるわ」
「それ言う? 今いっちゃうのかよ」
「あなただけにしか言わないわ」
もう戦う必要はねぇな。解除すっか。
「解除」
是界が解除され、世界が色を取り戻す。
こうしないと始まらない。
これが、俺とこいつの“会話”だ。
それに、こいつが傍にいる時の俺は、是界を使っても存在は――薄まらない。
「ねぇ今日は何用? そろそろ婿になる覚悟は?」
一瞬にして部屋の中身を変えやがった。
今度はいきなり寝室かよ。
「なあ、諦めたらどうだ?」
「無理。ダメ。絶対無理」
「お前、一応“深淵の女神”なんだろ?」
「そうよ。あなたを深淵の奥から愛する女神よ? この魂が崩れるまで」
「はぁ……。用事はな。お前んところの勇者の件だ」
「勇者? あの子たちがどうかしたかしら?」
「ここに二枚ある。勇者の証だ。解除してやってくれ」
「あら、そんなこと? いいわ。貸して」
存在証明を受け取らずまず俺の手首をつかみ、引く。
ベッドに横並びに腰掛ける。
俺の手からさっと奪い宙に浮かせると軽く一振りする。
手を仰ぐような仕草だけだ。
これで消えるなんざ、嘘のような話。
でも消えた。
たったそれだけでだ。
女神はひらひらとかざしながら見せる。
それを奪い返す。
「もう……ちょっとひどい」
おいおい、そこで口とがらせるなよ。
拗ねてもだめだ。
でも、その表情は悪くねぇ。
「ああ、受け取ったぜ。大丈夫だな」
「なんでまたそんなことを?」
小首をかしげる。
おいおいそのしぐさ、らしくねぇな。
っていうより、今が素か。
「たまたまだ」
「あっ、もしかして私に会う口実でしょ?」
ポコポコのような表情をしやがる。
なんでニヤケ方がこうも似てるんだ?
「ちげぇよ」
「うふふ。やっぱ可愛いわ、あなた」
「――帰るな」
「ダメっ!」
がっしり両腕で俺の上半身をつかむ。
いやいやをする子供のしぐさじゃねぇか。
「ダメとかわけわかんねぇよ」
「もっと私自身に用事はないの?」
「ない! けどある」
「なにそれ?」
嬉しそうないつもの顔だ。
「こうだ」
俺はそのままベッドに二人で転がった。
◇
夜が更け、神殿は静かになった。
女神は満足そうに横になりながら俺に話しかける。
「ねぇ」
「なんだ」
「どうして一緒にいてくれないの」
「ここの住人じゃない」
「嘘」
「なんで嘘になるんだ?」
「あなたは私の心に住みついて離れないじゃない?」
「はぁ? それはお前自身の事だろ?」
「だって」
「なあ、それなら女神辞めたらどうだ?」
「あなたがこの世界を追放しないと無理」
「ああ、またその話かよ」
世界を追放? またあの時みてぇな真似をしろってのか。
「だってあなた前、世界から追放されたじゃない?」
「……」
「また、黙るぅ」
「なあ、なんでセレスがホールにいたんだ?」
「あの子ね、面白そうだから身の回りの世話させてるの」
「マジか」
「知ってるわよ。あの子も抱いたんでしょ? 私を抱いた後なら好きにしていいわ」
「お前な……。まあいい」
よしっ。
「よしっ、頭はここな」
枕を置き頭を動かす。
「なによ」
「じゃな?」
「ちょっとー。またやりにげ?」
「人聞き悪ぃぞそれ?」
さっさと着る物を着て、俺は部屋を出る。
「もう、また来てね。待っているわ」
「また来るさ。来られるうちは」
ベッドの上でまどろむ女神を置いて俺は扉を閉めた。
ホールには誰もいねぇ。
なぜかここで現れないことが逆に不自然。
セレスはもしや移動したのか?
もしそうなら――
面倒だな。
まあ、帰るか。
気にしてもしゃーねぇー。
俺はまた転移魔法陣を乗り継ぐ。
◇
あと6日か。
徴税局の前まできた。
あいつらが来るまでまだ日数があるな。
ガラガラガラ。
ん?
背後にホロ付きの荷馬車だ。
歴戦の猛者といった面構えの神族たちが数人、手枷足枷の状態だ。
まだ今にも戦いそうな面構えだ。
威勢いいな。
生け捕りってヤツはなかなか見れないな。
ゆっくり通り過ぎていく。
まぁ俺は存在証明にしか興味ねぇな。
また来た。
今度は?
おいおい天使族かよ。
一人こちらを見つめる少女がいた。
悲しそうで、それでまっすぐした目だ。
おいおい、俺をそんな目で見んなよ。
はぁ、脱走させたくなっちまうじゃねぇか。
でもな。
それしちまったら、おしめぇよ。
どんな理由かしらねぇが、ここに運ばれるってヤツは相当な重罪持ちだ。
逃れようがねぇほどのな。
つまり、あの姿の持ち主はそれをやっちまった。
因果応報だな。
でも安心しろ。
来世はうまくいくぜ。
存在証明はまあ、誰かがおいしく食うさ。
俺は振り返り、少女の目線と自分の目線を合わせる。
……あー、目ぇそらせねぇな。
親指の上に乗せたコインをはじき、立て続けに三枚、荷馬車の中へ飛ばす。
それを使って何をどうするかは少女にまかせる。
逃げるもよし、諦めるもよし。――選ぶのはそっちだ。
後ろ手に手をふり、あとは振り返らない。
俺は、執務室へ向かった。
後ろ髪をぐいっと掴まれたみてぇな感覚だけ残して。
◇
私は天使族のリリー。
もうすぐ、名前ごと消される予定の――。
荷馬車に揺られここ、税を管轄する官僚地域に来た。
私は、脱税犯。
何度も何度もした。そして逃げるために殺しもした。
結果、捕まった。
もうだめ。
私は今、死にたくても死ねない。
存在証明が奪われるんだって。
肉体すら残らない。
私、消されちゃうんだ。
そう思うと涙がこぼれてきた。
悪いことしたのはわかっている。
でも、どうしようもなかった。
あの時は、アレ以外に方法がなかった。
本当は、戦いたくなんてなかった。
でも
でも――
生きるため。
私は、一人で戦った。
だめだった。
相手は強かった。
そして私は今、ここにいる。
悲しくて、死ぬのが怖くて心が押しつぶされそう。
自分勝手なのはわかっている。
でも、生きたい……。
死にたくないよ。
そんな時、私は彼をみた。
黒髪で背が高い。
どこか飄々としていた。
なぜか目が離せなかった。
もちろんカッコイイのはわかる。ただ、それだけじゃない何かがあった。
でも言えなかった、『助けて』って。
言いたかった。
でも、彼は関係がない。
その思いがこみあげてきた時――
彼はまっすぐ腕を伸ばし、コインを私にめがけて指ではじいて放ってきた。
1枚。2枚。そして3枚と。
なぜ、どうして?
その問いに答えてくれない。
後ろ手を振り、離れてしまう。
ただ、私はこれが彼がくれたチャンスだと思った。
だからこの3枚で何ができるか必死に考えた。
まずは牢。次に手枷足枷、最後に身なり。
これをクリアしなきゃ。
護送側が神族騒ぎで人手不足。
御者が何かそんな話をしてぼやいていた。
しかも普段の家畜の餌を運ぶついでだという。
これはチャンスかもしれない。
気が緩いし、意識していない。
やるなら今ね。牢は意外と脆かった。
コインでテコのようにして金属の隙間を浮かし静かに外した。
彼らは私の動きに気が付いていない。
そっと今のうちに荷馬車から飛び降り、路地裏に隠れた。
たまたま目の前にあったのは、どこか怪しい感じのお店。
この姿で正面からは無理。
だから裏手にまわると、おじいさんがいた。
危険だけど賭けてみた。
どう見ても、場数を踏んだ“戦い慣れた人”にしか見えなかったから。
「あの、手枷足枷、コイン1枚で外して」
ジロリと足から頭の先まで舐めるように見られた。
顎に手をあて何か考えているかと思うと口を開いた。
「道具をもってくる」
すぐに表れたおじいさんは、あっという間に外してくれた。
「これ」
私は1枚渡すと、すんなり受け取ってくれた。
「何事にも対価は必要だな。達者でな」
何事もなかったかのように、何か作業を続けていた。
私は、次に雑貨屋で服を見繕った。
動きやすく頑丈なヤツ。
おあつらえ向きの物があり、これもコイン1枚で相談した。
難なく、取引が成功。
すぐに着替えて、帽子も深くかぶり変装は完了。
最後の1枚は予備として保管。
そしてコインをくれた彼を探しにいく。
私は天使族のリリー。
生きることをあきらめなかった。
だからきっかけをくれた彼に会いにいく。
お礼?
わからない。
どうしてか、なぜか。
理由がききたかったの。
ただ、それだけのために彼を探し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる