存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定

雪ノ瞬キ

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第29話

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「な? 結構いろんな場所あるだろ?」

 近くのベンチに腰を下ろした。
 徴税局は正直広いからな。
 移動するだけでだるい。
 
 まあ、今日はいいけどな。

「はい、これだけ整っているのは、きちんと管理されているんですね」

「目の付け所がいいな」

「私がいた天使の区域は荒れてましたから」

「全部で30区あるんだろ?」

「はい。私は10区にいました」

「区によって全く違うのも面白れぇよな」

「はい、区が違えば異世界です」

 天使族も一枚岩ってわけじゃねぇからな。
 神族も天使族も、アウリア大陸だと絶大な力を発揮するとか言ってたような。

「なあ、天使族のこと聞いてもいいか?」

「はい。私に教えられることでしたら」

「アウリア大陸だとなんで力が強ぇんだ?」

「はい、よく聞かれます。私たちの神威がなじみやすいからです」

「ん? 同じ力でも数倍になるのか? その大陸は?」

「はい、そのイメージであっています。“神威が空気に溶けている”と言われていて、同じ技でも、
あそこで使えば数倍の威力になります」

 なるほどな。
 噂とは少し違うな。
 天使本人から聞くとやはり、ちげぇな。

「リリーは行ったことあるのか?」

「はい、ありますが……あそこは正直、歩きにくい場所です」

「何かあるのか?」

「人族の方々が、天使族と神族を崇めていますので……視線が痛いというか」

「深淵の女神が最上だろ?」

「はい。ですが……神威を“直接”感じる機会が多いので。
女神さまは滅多に姿を見せませんから」

「まあ、何かしらの伝記とかも影響してんだろうな」

「まさにその通りです。女神さまは知る人ぞ知る神秘といった所です」

「なるほどな。あいつ、たまに拗ねるからな」

「え? 今なんと?」

「女神、拗ねるからな。たまに会いにいくけどな」

「それって」

「あと、存在証明をむしるのが好きだからな」

「えぇー!」

「まあ俺は気にしねぇけどな。女神は存在証明を抜いても消えねぇから、たちわりぃぜ」

「いやいや、それって是明さんが」

「ん? まぁそんな付き合いだ」

「雑すぎます」

「そっか? 受け止め方の違いじゃねぇか?」

「前に言った心持ちですか?」

「まぁそうだな」

「ふふ。でもなんか心地いいです。それ」

「好きにしな」

「はい! 好きにしちゃいます」

「なあ、そろそろ昼だ。腹減らねぇか?」

「はい、私もお腹すきました」

「そんじゃ、神肉か天使肉食うか。お前好きだろ?」

 ほんの一瞬、まつげを震わせたな。
 それでも、覚悟を決め頷いたか。
 まあこれも本人の選択だ。

 選べねぇ時もあるがな。
 そこまで知らねぇ。

「は、はい」

 俺は徴税局内にある、食い物屋に連れて行った。




「いや~食ったな」

「はい。食べちゃいました」

 食い物屋から出ると、そこそこいい時間だ。
 近くのベンチで休憩中。
 
「パラッパー! パラッパー! トゥルルル!」
 
 魔導電話のコール音だ。
 
「え? これなんですか?」
 
 口に手をあて驚く。
 
「ああ、これな。念話魔道具だ。ほら」
 
 点と線で描かれた顔が、相変わらず必死だ。
 魔導パネルの中で、存子がコール音を必死にしゃべっている。
 
「うわ! かわいいですね」
 
「こんな感じだな。少し話す」
 
 来たか?
 魔導パネルには『受付』と表示。
 
「ああ、是明だ」
 
「是明さんですか。受付です。エリザ他2名が応接室でお待ちです。1番室へお入りください」
 
「ああ、わかった、行く」
 
 俺は通話を終えた。
 
「リリー、向かうぞ」
 
「はい!」
 
 さて何が待っているやらだ。



 応接室に入るや否や。
 
「是明さま! あなた様の鼓動、そして呼吸。
汗腺からわき出る香り。
すべて折り重なりハーモニーを奏でておりますです」
 
 目を丸くし、リリーは固まったな。
 肩がぴしっと跳ねる。
 まるで矢が飛んできたみたいだ。
 そりゃそうだ。
 人の時間を止めんなってヤツだな。
 
「なげーよ」
 
「おや、そちらの方は恋人ですか? 奥様ですか? それとも愛人?」
 
「ちげーよ。仲間のリリーだ」
 
「お初にお目にかかります、リリー様。
わたくしめは、是明様の専属公認下僕である商人のエリザと申します。以後お見知りおきを」
 
「は、はい。ご丁寧にありがとうございます」
 
「で、依頼完了だからきな」
 
 勇者二人とも一斉に立ち上がり45度のお辞儀だ。
 そんな礼儀はいらねぇ。
 腹膨れねぇしな。
 
「是明さま!ありがとうございます」
 
「それじゃやるか」

 
「はい」

「是零掌!」
 
 女神が存在証明から勇者の証だけを消したものと、俺が入れ替える。
 特に何事もない。非常に簡単な作業だ。
 
「終わりだ。次」
 
「お願いします」
 
「是零掌!」
 
 こいつも同じく入れ替えるが、問題ない。
 
「よし、これで終わりだ」
 
「ありがとうございます」
 
 二人ともほっとして穏やかなツラしてやがる。
 まぁこれからだろうな。
 大変なのは。
 エリザがすり寄る。
 なんだ?
 
「いや~さすが是明さま。女神さま相手に迅速に動いてくださる方など他におりません。私、感動のあまり涙すら出ません」
 
 いや、そこはさ。
 嘘でも出るというんじゃねぇのか?
 まあ、いい。
 
「勇者とエリザ。合計3つの貸しだ。後で必ず返してもらう」
 
「3つといいますと?」
 
「エリザからの依頼の対価として1。勇者それぞれ1つで2だ」
 
「わたくしめもですか!なんとー!」
 
 変わらず大げさなヤツだ。
 頭抱えてのけぞってやがる。
 そのまま床につくんじゃねぇの?
 
「返せないときは、存在証明を抜いて消えてもらう」
 
 勇者二人はうなずく。
 
「わかりました。この借りは体で返すのは……」
 
「ダメだ」
 
「……なら、私たちがあんたの配下になる。
手足でも、道具でもいい」

「却下だ」

「俺は部下を欲しがるほど暇じゃねぇ」
「管理が増えりゃ、火種も増える」
「仲間ごっこは、どこかで必ず足を引っ張る」

「そんな、どうすれば……」
 
「ただし――」
「一度だけ、俺が困ったときに助けろ」
「それ以上は関わるな」

「是明さま、ありがとう……」

 おいおい泣かないでくれ。
 なあ、本当に困ったときは助けろよ、な?
 
「わたくしめは依頼の対価を上乗せでどうでしょうか?」
 
 拝むな拝むな。
 なんでこいつはこうも大げさなんだ。
 
「なあ、ひとつ聞かせろ」
 
「はい」
 
「女神に直接会って、即時対応をした」
 
「はい」
 
「この価値、どの程度なんだ?」

 なんだ?
 コイツ、一瞬目が光りやがった。
 
「仰せの通りにいたします」
 
「俺も鬼じゃねぇ。いきなり全部よこせとはいわねぇ」
 
「ははぁ。ありがたき幸せでございます」
 
「そこでな、依頼の度に、見合った対価を期待するぜ」
 
「ぐぬぬぬぬ。承知しました。私、勉強させていただきますです」
 
「ぐぬぬとか言ってなかったか?」
 
「言葉の綾でございます。対価を考案するための脳汁を絞りだしている所存でございますです」
 
 まぁこれぐらいでいいだろう。
 話が進まねぇからな。
 
「で、依頼は?」
 
「はい。実はその女神の治める大陸での依頼がございます」
 
「具体的にはなんだ?」
 
「増え過ぎた勇者の間引きでございます」
 
「消すのか?」
 
「左様でございます。跡形もなく消すのがよいと言われております」
 
「誰でもいいのか?」
 
「そこがですね。問題がございまして」
 
「どんなだ?」
 
「存在証明に赤い丸印がつけてある者が対象とのことでして」
 
「だからそれができる俺というわけか」
 
「左様でございます」
 
「それなら神族でもいいんじゃねぇか?」
 
「彼らには大義名分がないと」
 
「はあ、めんどくせぇ奴らだな」
 
「外からある程度めぼしをつける魔道具もございまして、それを是明さまにお渡しいたします」
 
 また都合のいい魔道具だな。
 ほんとか?
 俺を騙そうって腹か?
 消すぞ?

「都合いいな。お前から先に消すぞ?」
 
「ご勘弁を。騙すなんて滅相もございません。正真正銘の本物でございます」
 
「印の有無は重要じゃないんだろ?」
 
「もちろんでございます。赤い印はあくまでも優先的にという意味でございます」
 
「規定数は?」
 
「百ほど」
 
「どうやってわかる?」
 
「それも魔道具に記されます」
 
 ほんとにその魔道具大丈夫なのか?
 うさんクセェな。
 
「期日は?」
 
「いつでも」
 
「報酬は?」
 
「白紙の存在証明100枚」
 
「白紙300枚、保管袋3つ、金貨500枚。それでやる」

 お前汗なのか水かぶったのかわかんねぇぞ?
 
「むむむ。それでは150枚と1袋ではいかがでしょうか?」
 
「400枚と100枚入るヤツを4つだ」
 
「え! 是明さま、増えていませんか?」
 
「貸しがある以上、当たり前だろ?」
 
「それでは、200枚と保管袋2つでどうでしょうか?」
 
「お前大丈夫か? 500枚と100枚入るヤツ5個だ」
 
「ギャー! 殺生な」
 
 頭を抱えてのけぞりやがる。
 お前そのままブリッジしろ。ブリッジな。
 何やってんだか。
 時間だけが過ぎていく。
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