存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定

雪ノ瞬キ

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第28話

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「あっ是明おかえりー」

 ポコポコがにやにやしながら飛びつく。

「随分と遅かったのね」

 在香も顔を出す。

「よぉ。こいつリリーだ。今日から俺たちの仲間な?」

 そのリリーが俺の背後からひょっこり顔を出す。

 リリーは部屋を見回して、小さく息を呑んだ。

「……ここが、その……私の居場所に?」

「居場所? なんでもねぇよ。ただの寝床だ」

「なにそれ、初々しいんですけど? へぇー是明の愛人?」

 ポコポコは指で俺の脇腹を高速でつつく。
 なあ、少し痛てぇぞ?
 しかも、腰にしがみついて離れない。
 何やってんだ?

「ちげぇよ。戦闘にめっぽう強ぇ。ポコポコの護衛も多分いける」

 ポコポコはしがみついたまま、リリーを真横から覗き込む。
 なんかよお、この構図変じゃねぇか?

 在香はじっとリリーを観察して、わずかに肩が強張っている。
 なんだ、その警戒の仕方。

「是明? どこからその子拾ってきたの? まさかさらってないわよね?」
「……連れてくるのは止めないけど、素性ぐらい先に説明しなさいよ」

「だぁーお前ら俺をなんだと思ってんだ?」

「「やさぐれ是明?」」

「おいおい、はもるな」

「ぶっ!」

「リリーお前もかよ」

「寝床はひとまず、俺のとなりな?」

 リリーは一瞬固まり、小さく「……はい」とだけ答えた。
 小声で耳打ちしてやる。

「安心しろ。無理やりはやらねぇよ」

「はひっ」

 寝床を貸すだけだ。勘違いすんなよ?

 リリーお前声裏返りすぎだ。

 在香はちらっと視線をそらし、なぜか咳払いした。

「えー! ずるい! あたしも隣がいいー!」

 ポコポコは俺の腰にしがみついたまま、リリーを見上げてニヤァと笑う。

「ねぇ新人ちゃん? 是明の隣ってさー、“特等席”なんだよ? あなたにはまだ早いけどね?」

 おい、なんで上からなんだよ。

「お前、仲間入り早々マウント取ってんじゃねぇよ」

 ポコポコのヤツ何言ってんだ?
 在香は何耳赤くしてんだ。

「……そういう意味に聞こえるんだけど?」

 お前も意外とそういうの気にすんのか?

「……部屋の振り分けくらい、私にも相談しなさいよ。
いや、別に深い意味はないけど……その、ね?」

 ん?
 お前って案外面倒見いいよな。

「あとな、リリーは天使な。でもな一対一で神も天も倒した」

「なら大丈夫じゃん」

 そこで誇らしげになるポコポコは、よくわかんねぇな。

 リリーは少したじろぐ。
 お前そんなタイプだっけか?

「……だって、生きるために必要だったから」

 在香は眉をひそめた。

「普通の天使なら絶対無理よ。ほぼ同族禁忌だから」

「だからいいんだよ。普通じゃ務まらねぇ世界だ」

 ポコポコは変わらずしがみついたまま。
 それどうにかなんねぇのか?
 少しあちーんだよ。

 ……まあいい。
 気になるのは明日だな。

「そんで問題は明日な、エリザが来る」

「依頼はおわったの?」

 在香お前、心配しすぎじゃねぇの?
 まあ、いいけどな。

「ああ、終わった。女神に直接やってもらったからな完遂だ」

「あなた相変わらず、謎よね」

「気にすんな。そういうものだ」
「……まあ、明日からもう一段と騒がしくなるがな」

「ねー、是明ってほんとテキトーだよね!」

 ポコポコ、お前まだしがみついたまま言うか?

 在香さんよぉ。
 なんでそこで、深くため息をつく?

「……ほんと、あなたの“そういうもの”は信用ならないのよ」





 その夜。

 ベッドの横で立ち尽くすリリー。

「ああ、そういや寝巻がねぇな。これでも着な」

 俺のTシャツと短パンを放り投げた。

「はひっ。ありがとうございます」

 俺は見ねぇように窓辺で外を眺める。
 背後で布ずれの音だけが耳にささやく。

 まあいきなりなら緊張もするか。

 静かだ。
 着替えが終わったのか。

 まだ突っ立ってる。

 緊張してんだろうな。

「俺は先に寝るぞ。まあ無理にとはいわねぇが、寝たほうがいい」

 俺は反対側で背を向けて横になる。

 ギシッ。

 リリーも横になったか。
 だが、何か背後に迫る。
 一瞬、触れそうな感覚。
 しゃーねーな。
 
「なあ、今のお前は“選ぶ”余裕ねぇよ。今日は寝ろ。“選べる時”がきたら、その時言え」

「うん……」

 俺はその後、普通に寝た。
 あとは、しらねぇーよ。




 私はリリー。
 今日色々なことがあった。

 ありすぎて、もう私はなんだかわからない。
 わかったことは今、生きている。

 そしてとなりに是明がいる。
 彼がきっかけをくれて、選ばせてくれた。

 私が選んだこと。
 そして彼が選ばせてくれたこと。

 でも今夜抱かれると思っていた。
 その覚悟も決めたつもりだった。
 けれど、まだ心が追いついていない。

 それを見透かされた。
 まだ揺れている。
 正直な気持ち。
 だから待っていて。
 その日がきたら――誓うわ。

 自分の本当の気持ちを選ぶ日。
 そして、その日はきっと――。

 そう思っている内に、私もなんだか目を閉じてしまった。





 翌朝

「あーあいつら、午後にくるのか?」

 たしか前回、夕方だったよな。
 ポコポコはまだ寝ている。
 在香もだ。
 当然、リリーも寝ている。

 この俺だけが起きたケースは久しい。

 ゆで卵作るか。基本は7分半。半熟もやや残る絶妙なヤツだ。
 出来上がり、食っているとリリーが起きてきた。

「よぉ」

「おはようございます」

「腹減ってんだろ?」

「はい、ぺこぺこです」

「これ食えよ、腹持ちいいぜ」

「ゆで卵! 私大好きです」

「な、全部は食うなよ? あいつらの分もな」

「うぅまぁいー。この半熟が微妙に残っているのが好きです」

「はあ、そいつはよかったな」

 なんだ、ちょっとうぜーぞ。
 まあ、いいか。

「食いながら聞いてくれ」

「ふぁい」

 頬膨らませてもごもごしてやがる。
 なんだ? こいつはリスか?

「商人エリザと勇者2名。今日依頼の品を渡してやる予定だ。対価は貸しにしてある」

「依頼、わかりまひた」

「エリザから色々言われると思うが気にするな。相手にしなくていい。俺がする」

「はい!」

「ちなみにな、天使2区を殲滅したのは俺だ。恨みや憎しみがあるなら言ってくれ」

「いえ、そこは私とも敵対していましたので、むしろスッキリです」

「そうか、ならいい」

 あとは、この徴税局の見取り図を見せた。
 まあ、地図をみても一度じゃわからねぇだろうからな。
 出入りは、俺の助手とはいえ、証明が必要だが。

「これつけてくれ」

 俺はチョーカーとブレスレットを渡した。
 どれも一見皮製に見える黒いヤツだ。

「これは?」

「魔導具の一種だ。これがあれば俺が責任者だってわかる」

「責任者ですか?」

「ああ、部外者を入れている場合な? ポコポコもつけている」

 ってコイツマジか。
 大量にあったゆで卵、半分まで食ってやがる。
 どんな胃袋してんだ。

「そうなんですね。これで一員になれた感じで嬉しいです」

「まあそんな大げさなもんじゃねぇけどな」

「この後は、出かけるのですか?」

「そうだな、着替えたら少し周りをみるか?」

「はい。お願いします」

 俺はいつでも問題ない。
 リリーはそそくさと着替えに行く。

 それにしたって、考えても始まらねぇな。
 エリザのヤツの依頼は結構うめぇんだよな。
 白紙の存在証明の時は、あれはよかった。
 今でも重宝しているしな。

 まあ、うめぇ依頼じゃなきゃ帰ってもらうだけだ。
 俺に貸しがあるわけでもねぇしな。

 とはいえ、特殊捜査官としての仕事は、ほとんどない。
 天使の2区を殲滅してから納税がすこぶる良好。
 あんまり、おりこうさんになられてもな。

 ただまあ、あるっちゃあるが。
 喫緊でやるのはねぇな。
 脱税と未納で軽いヤツばかりだからな。

「すみません。お待たせしました」

 リリーがいつもの姿で現れる。
 変わらず、やる気満々ってところか。
 でもな、今日は戦う日じゃねぇぞ?
 多分な。

「よしっ、行くとすっか」

「はい!」

 俺とリリーは外の空気を吸いに出た。
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