13 / 718
第一章 出会い
第十二話 反逆者 前
しおりを挟む
ラルフはとぼとぼと森に入っていく。
ドラキュラ城に入る前に設置した野営地に戻るためだ。
先程の店主とのやり取りを考えていた。
あの後もいくらか交渉したが、契約満了後の一点張り。
(無理だ…)
今日の飯代すら換金できず、食べ物を仕入れられなかった。
ミーシャにはご飯の約束があった。これは諦めてもらう他ない。換金代の山分け、ミーシャは正直その辺、杜撰なので、ご飯さえどうにかなれば何も文句は言わないだろう。
任務について(…黙っとく、と裏切り行為か?)
冷静になって考えれば、人類と魔族は敵同士。ミーシャは不可抗力というやつで助けてしまったが、イルレアンの騎士どもに現在の情報を渡せば、今まで通り人類の味方で、金を得られる。
しかしそれはミーシャの第二の裏切り行為。ミーシャが退治されるその時まで延々命を狙われる。自分の知る”鏖”の逸話を考えれば考えるほどに、計り知れない強さだ。
死にかけていた事実を考えれば、事実とは少し異なるのかもしれない。だがそれでも、吸血鬼より強い。今回派遣される騎士が死んだら次の犠牲者は間違いなくラルフだ。
ではイルレアンの任務を反故にし、ミーシャ側につく。
逸話通りの強さなら、世界と喧嘩できる。吸血鬼の最後の生き残りも味方につく。最強を絵に描いた魔族が味方というのは子供心をくすぐる。
だがそれは文字通り世界が敵だ。人類も魔族も敵。今後、素通りしていた人類の国家、人族の領地で敵視され、攻撃にあうだろう。それは魔族もしかり。こっちは単純に生活基盤の崩壊を意味する。
ラルフは考えがまとまらないまま野営地の近くまで到着する。
ふと自分の設置していた鳴子が解除されていることに気が付いた。大木に結びつけた鳴子のひもを切り、地面に置いている。
(切り口は刃物か?)
この辺の魔獣の切り口ではない。ラルフは身をかがめ草むらに隠れる。
野営地に近寄ると荷物を荒らしまわっている騎士の姿が見えた。連中こんな森の奥に馬鹿正直に鎧を着こんで入ってきている。
全身を黒い鎧で覆う姿は威厳はあるが、湿気の多いこの辺で重装備はジメジメして気分が悪いだろうし、単純に暑いだろう。それに黒い鎧は暗闇に紛れることができるが、今は明るいし音は誤魔化せない。”消音魔法””隠ぺい魔法”を使用する奴でもいるのだろうか?にしては無防備に姿をさらし,
ガチャガチャうるさい。
探索系のスキルや隠ぺい系スキルを持ちえない騎士の連中は、こういう作業にはとことん向かない。
ラルフの虎の子の缶詰などをひっくり返されるのを見ると、段々むかっ腹もたってくる。
ラルフはこの騎士団を知っていた。イルレアンの任務も考慮すればおのずとこいつらに結び付く。
「見ろよこれ」
缶詰のラベルには魚の煮物を意味する絵がついている。
「安物だな…こんなもの食ってんのか?」
荷物をひっくり返すたびに笑いあっている。
(ほっとけ。黒曜騎士は、さぞうまい飯を食ってんだな…)
頭の中で皮肉る。黒曜騎士団と言えば、イルレアン国将軍のお抱え騎士団。かなり高給を貰っているのだろうが、聞く話では、馬車馬のごとく働かされている。
(給金を使う暇なんてあるのかよ?)
という意味でだ。
「見る限り人の食い物ばかりだ。その上アルパザの商店で売っていた果物の皮と種、張り巡らせた罠、野盗か冒険者のどちらかだろう」
鎧に独特な文様を入れ、赤いマントをする明らかに隊長格の青年は、自分なりの推理を披露している。ここにいた何者かは、小細工を弄し、人の町で売買が可能な生き物。少なくとも魔族ではないと断言している。
すべてラルフの持ち物から断定しているので当然だが。
「団長!これを見てください!」
血だらけの包帯が草むらにて発見される。
「! これはまさか…考えたくはないが…そうなのか?」
「おそらく…」
(なんだよ!)
煮え切らない思いが、ラルフに襲う。先程の青年の推理を抜粋するなら、野盗または冒険者パーティーがケガをした仲間を手当てした。
一人分の荷物のみを考慮するならば、ケガをした荷物所有者の包帯であることも考えられる。
気づいたラルフは内心ほっとする。状況証拠では魔族は出ない。つまりミーシャは必然外れる。
その様子を見ていた騎士の一人が声を上げる。
「まさか、人が魔族の手当てをしたと?」
(!)ドキッとする。
「嘆かわしいことだが…その可能性が高い。人から反逆者がでるとは…」
(んな馬鹿な!)
あまりに荒唐無稽。証拠が一切ない現状を見れば、反逆者とかはないだろう。一国のお抱え騎士様がこんな妄想全振り野郎で勤まるとは…
(いや大正解だけどな、高給貰ってるやつはやっぱ違うな…)
「お待ちください団長。いくら何でも突飛な解釈と思われます。まして現在は戦争中、これは単にパーティー内での治療が濃厚ではないかと」
声を上げた騎士が一旦冷静になろうと示唆。
団長の考察も視野に入れつつ、一般的見解を挟む。
脊髄反射で考えず、一旦整理し考えるやつがいるから無数の可能性と提案がでる。ラルフとしてもこの進言は嬉しかった。
敵を逃がさないようにする為の手練手管はこういったところで生まれる。
しかしそれは秘密にしているからこそ効果がある。逃げる側が逐一把握すれば、一度も遭遇することなく逃げ切れるのだ。
さてどうしたものかと騎士団とラルフが同じように考えたその時。
「そちは何をしとルんじゃ?」
首筋に冷気の吐息がかかる。
「おわっ!?」
氷で撫でられたような冷たさにビックリして振り返るとベルフィアが目線の位置を合わせるようにしゃがんでいた。
「?…!?…ベルフィア…お前なぁ…」
状況を把握すると同時に大声を出してしまった現状に後悔する。
騎士たちの構える音がする。剣の柄に手をかける音だ。この上無く警戒している。
「誰だ!!」
(ヤバいな…)
このまま隠れていてもどうにもできない。
ラルフはメモ帳を取り出し、走り書きでメモをしてベルフィアに渡す
「ミーシャに渡せ、ここは俺が何とかする」
ジェスチャーを交えつつ小声でベルフィアに伝え、ラルフは颯爽と騎士の前に姿を現す。
「誰だとは不躾だな。俺の野営地を滅茶苦茶にしやがって」
騎士たちを見まわし、威圧する態度をとる。
「…お前は誰だ?」
「人に名前を聞くときはまずは自分からと教わらなかったか?黒曜騎士団様?」
騎士たちはジリッと柄に手を添えた状態で、すり足で移動しつつ腰を落とす。
「まぁ待ちな、俺はハイネス。イルレアン国の仕事を持ってきたのはあんたら黒曜騎士団だったんだな。」
ラルフは偽名を使って当座の凌ぎとする事にした。バレても自分は裏社会の人間だから、信用できなかったとかで誤魔化すつもりだ。
ラルフはカバンから書類を出し、両手で広げる。騎士の連中はそれぞれ視線を合わせて無言で確認し合う。書類に見覚えのあった団長は部下に目配せで警戒を解かせる。
「なるほどハイネスだな。荒らしてすまない、我らも探索がてら、この森に入ったところだ」
騎士の一人が散らかした持ち物の片づけをし始める。
(味方と分かれば誠意も見せるか…)
ラルフ、もといハイネスは野営地の荒らしっぷりを初めて見るかのように見渡し。
「俺たちも調査中だ。あんたらは正直邪魔になるんで、町に戻っていただけると助かるんだが?」
まるで自分は一人ではないといった態度をとる。幾人かはやはりそうかといった態度だが、3人くらいはいぶかしさが残る。
ラルフ、もといハイネスを含め見える範囲で9人ここにいる。ハイネスの自己紹介が終わるころ、二人が後ろに回り込み、逃げ道を断つ。正面に団長、団長の後ろに3人、ハイネスの両隣に1人ずつ。
囲まれた。戦闘をする気はないが、いい位置取りをするのは、騎士の自然な行動なのだろう。が、如何せん圧力を感じる。さっきの挑発が気に入らなかった奴もいるのか、いやな視線を感じる。
「やめろ、お前ら仕事仲間だぞ?失礼したなハイネス確かに我々は戦いはできるが探索は不向きだ。君の言いたいことは理解できる。」
団長はラルフの近くに歩み寄りズイッと顔を寄せる。
「だが君も礼を欠いていることは理解してほしい」
戦いを生業とするだけあって気迫はすさまじい。
ラルフはお手上げといったように両手を挙げて、
「悪かった、降参だ。あんたらと喧嘩するつもりなんてないよ。なんせ雇い主だ。だからこそ死んでもらうのは困る。俺らの中にも最近1人死人が出たんでな、警戒は大切なんだよ…」
血まみれの包帯をチラリとみてハッタリをかます。
先程の騎士たちの会話から逃げ道を探っていた。
「…なるほど…引き上げだ!」
団長は部下に手ぶりで引き上げを命じる。
騎士たちは号令を聞くとテキパキと行動をする。
「ハイネス、明日アルパザの宿に来てくれ。ここで会ったことと、現状を聞きたい。場所は”綿雲の上”という宿だ」
アルパザ屈指の高級宿屋。
こういうとこで高給を使うのか。
「委細、了解しました。団長殿。ではまた明日」
ラルフは特に掘り下げられることなく回避に成功する。ベルフィアに邪魔されたと怒りはしたが、出て行った方がすぐ解決できた。
褒められたものではないが、心のなかで感謝した。
「おい、1人足りないぞ?どこ行った?」
騎士たちはその場でキョロキョロ周りを見渡している。確かにそうだ、8人いた騎士が7人になっている。
団長の後ろに控えていた3人のうち、死角になっていた騎士が消えている。
捜索が始まるかと思ったその時、
「おい!あれを見ろ!!」
皆の視線が集まったそこには騎士の兜を取り上げられた、鎧をキシキシ鳴らす男が寝そべっている。体は病気のようにガクガク痙攣していた。
その上に蝋燭のように白い肌の華奢な女が男を抱きかかえ見た感じ顔を首にうずめている。
「おい、なんだよ…おい!」
その声に顔を上げる女。
騎士の男をその場に投げ捨て、立ち上がり様に振り向く。口元は血でぬれ、異様に伸びた犬歯が光る。男の首元は血まみれで、致命傷。失血のせいで白目をむいて痙攣が収まらない。痙攣が収まった時は、男がこと切れた時だ。
女は口が裂けるほど笑い、その血の余韻を楽しんでいる。黒々とした目は瞳の部分が朱く輝いていた。
「…吸血鬼だと…?」
その場の騎士たちがあまりの唐突さに恐怖する中。
ラルフは頭を抱えていた。
ドラキュラ城に入る前に設置した野営地に戻るためだ。
先程の店主とのやり取りを考えていた。
あの後もいくらか交渉したが、契約満了後の一点張り。
(無理だ…)
今日の飯代すら換金できず、食べ物を仕入れられなかった。
ミーシャにはご飯の約束があった。これは諦めてもらう他ない。換金代の山分け、ミーシャは正直その辺、杜撰なので、ご飯さえどうにかなれば何も文句は言わないだろう。
任務について(…黙っとく、と裏切り行為か?)
冷静になって考えれば、人類と魔族は敵同士。ミーシャは不可抗力というやつで助けてしまったが、イルレアンの騎士どもに現在の情報を渡せば、今まで通り人類の味方で、金を得られる。
しかしそれはミーシャの第二の裏切り行為。ミーシャが退治されるその時まで延々命を狙われる。自分の知る”鏖”の逸話を考えれば考えるほどに、計り知れない強さだ。
死にかけていた事実を考えれば、事実とは少し異なるのかもしれない。だがそれでも、吸血鬼より強い。今回派遣される騎士が死んだら次の犠牲者は間違いなくラルフだ。
ではイルレアンの任務を反故にし、ミーシャ側につく。
逸話通りの強さなら、世界と喧嘩できる。吸血鬼の最後の生き残りも味方につく。最強を絵に描いた魔族が味方というのは子供心をくすぐる。
だがそれは文字通り世界が敵だ。人類も魔族も敵。今後、素通りしていた人類の国家、人族の領地で敵視され、攻撃にあうだろう。それは魔族もしかり。こっちは単純に生活基盤の崩壊を意味する。
ラルフは考えがまとまらないまま野営地の近くまで到着する。
ふと自分の設置していた鳴子が解除されていることに気が付いた。大木に結びつけた鳴子のひもを切り、地面に置いている。
(切り口は刃物か?)
この辺の魔獣の切り口ではない。ラルフは身をかがめ草むらに隠れる。
野営地に近寄ると荷物を荒らしまわっている騎士の姿が見えた。連中こんな森の奥に馬鹿正直に鎧を着こんで入ってきている。
全身を黒い鎧で覆う姿は威厳はあるが、湿気の多いこの辺で重装備はジメジメして気分が悪いだろうし、単純に暑いだろう。それに黒い鎧は暗闇に紛れることができるが、今は明るいし音は誤魔化せない。”消音魔法””隠ぺい魔法”を使用する奴でもいるのだろうか?にしては無防備に姿をさらし,
ガチャガチャうるさい。
探索系のスキルや隠ぺい系スキルを持ちえない騎士の連中は、こういう作業にはとことん向かない。
ラルフの虎の子の缶詰などをひっくり返されるのを見ると、段々むかっ腹もたってくる。
ラルフはこの騎士団を知っていた。イルレアンの任務も考慮すればおのずとこいつらに結び付く。
「見ろよこれ」
缶詰のラベルには魚の煮物を意味する絵がついている。
「安物だな…こんなもの食ってんのか?」
荷物をひっくり返すたびに笑いあっている。
(ほっとけ。黒曜騎士は、さぞうまい飯を食ってんだな…)
頭の中で皮肉る。黒曜騎士団と言えば、イルレアン国将軍のお抱え騎士団。かなり高給を貰っているのだろうが、聞く話では、馬車馬のごとく働かされている。
(給金を使う暇なんてあるのかよ?)
という意味でだ。
「見る限り人の食い物ばかりだ。その上アルパザの商店で売っていた果物の皮と種、張り巡らせた罠、野盗か冒険者のどちらかだろう」
鎧に独特な文様を入れ、赤いマントをする明らかに隊長格の青年は、自分なりの推理を披露している。ここにいた何者かは、小細工を弄し、人の町で売買が可能な生き物。少なくとも魔族ではないと断言している。
すべてラルフの持ち物から断定しているので当然だが。
「団長!これを見てください!」
血だらけの包帯が草むらにて発見される。
「! これはまさか…考えたくはないが…そうなのか?」
「おそらく…」
(なんだよ!)
煮え切らない思いが、ラルフに襲う。先程の青年の推理を抜粋するなら、野盗または冒険者パーティーがケガをした仲間を手当てした。
一人分の荷物のみを考慮するならば、ケガをした荷物所有者の包帯であることも考えられる。
気づいたラルフは内心ほっとする。状況証拠では魔族は出ない。つまりミーシャは必然外れる。
その様子を見ていた騎士の一人が声を上げる。
「まさか、人が魔族の手当てをしたと?」
(!)ドキッとする。
「嘆かわしいことだが…その可能性が高い。人から反逆者がでるとは…」
(んな馬鹿な!)
あまりに荒唐無稽。証拠が一切ない現状を見れば、反逆者とかはないだろう。一国のお抱え騎士様がこんな妄想全振り野郎で勤まるとは…
(いや大正解だけどな、高給貰ってるやつはやっぱ違うな…)
「お待ちください団長。いくら何でも突飛な解釈と思われます。まして現在は戦争中、これは単にパーティー内での治療が濃厚ではないかと」
声を上げた騎士が一旦冷静になろうと示唆。
団長の考察も視野に入れつつ、一般的見解を挟む。
脊髄反射で考えず、一旦整理し考えるやつがいるから無数の可能性と提案がでる。ラルフとしてもこの進言は嬉しかった。
敵を逃がさないようにする為の手練手管はこういったところで生まれる。
しかしそれは秘密にしているからこそ効果がある。逃げる側が逐一把握すれば、一度も遭遇することなく逃げ切れるのだ。
さてどうしたものかと騎士団とラルフが同じように考えたその時。
「そちは何をしとルんじゃ?」
首筋に冷気の吐息がかかる。
「おわっ!?」
氷で撫でられたような冷たさにビックリして振り返るとベルフィアが目線の位置を合わせるようにしゃがんでいた。
「?…!?…ベルフィア…お前なぁ…」
状況を把握すると同時に大声を出してしまった現状に後悔する。
騎士たちの構える音がする。剣の柄に手をかける音だ。この上無く警戒している。
「誰だ!!」
(ヤバいな…)
このまま隠れていてもどうにもできない。
ラルフはメモ帳を取り出し、走り書きでメモをしてベルフィアに渡す
「ミーシャに渡せ、ここは俺が何とかする」
ジェスチャーを交えつつ小声でベルフィアに伝え、ラルフは颯爽と騎士の前に姿を現す。
「誰だとは不躾だな。俺の野営地を滅茶苦茶にしやがって」
騎士たちを見まわし、威圧する態度をとる。
「…お前は誰だ?」
「人に名前を聞くときはまずは自分からと教わらなかったか?黒曜騎士団様?」
騎士たちはジリッと柄に手を添えた状態で、すり足で移動しつつ腰を落とす。
「まぁ待ちな、俺はハイネス。イルレアン国の仕事を持ってきたのはあんたら黒曜騎士団だったんだな。」
ラルフは偽名を使って当座の凌ぎとする事にした。バレても自分は裏社会の人間だから、信用できなかったとかで誤魔化すつもりだ。
ラルフはカバンから書類を出し、両手で広げる。騎士の連中はそれぞれ視線を合わせて無言で確認し合う。書類に見覚えのあった団長は部下に目配せで警戒を解かせる。
「なるほどハイネスだな。荒らしてすまない、我らも探索がてら、この森に入ったところだ」
騎士の一人が散らかした持ち物の片づけをし始める。
(味方と分かれば誠意も見せるか…)
ラルフ、もといハイネスは野営地の荒らしっぷりを初めて見るかのように見渡し。
「俺たちも調査中だ。あんたらは正直邪魔になるんで、町に戻っていただけると助かるんだが?」
まるで自分は一人ではないといった態度をとる。幾人かはやはりそうかといった態度だが、3人くらいはいぶかしさが残る。
ラルフ、もといハイネスを含め見える範囲で9人ここにいる。ハイネスの自己紹介が終わるころ、二人が後ろに回り込み、逃げ道を断つ。正面に団長、団長の後ろに3人、ハイネスの両隣に1人ずつ。
囲まれた。戦闘をする気はないが、いい位置取りをするのは、騎士の自然な行動なのだろう。が、如何せん圧力を感じる。さっきの挑発が気に入らなかった奴もいるのか、いやな視線を感じる。
「やめろ、お前ら仕事仲間だぞ?失礼したなハイネス確かに我々は戦いはできるが探索は不向きだ。君の言いたいことは理解できる。」
団長はラルフの近くに歩み寄りズイッと顔を寄せる。
「だが君も礼を欠いていることは理解してほしい」
戦いを生業とするだけあって気迫はすさまじい。
ラルフはお手上げといったように両手を挙げて、
「悪かった、降参だ。あんたらと喧嘩するつもりなんてないよ。なんせ雇い主だ。だからこそ死んでもらうのは困る。俺らの中にも最近1人死人が出たんでな、警戒は大切なんだよ…」
血まみれの包帯をチラリとみてハッタリをかます。
先程の騎士たちの会話から逃げ道を探っていた。
「…なるほど…引き上げだ!」
団長は部下に手ぶりで引き上げを命じる。
騎士たちは号令を聞くとテキパキと行動をする。
「ハイネス、明日アルパザの宿に来てくれ。ここで会ったことと、現状を聞きたい。場所は”綿雲の上”という宿だ」
アルパザ屈指の高級宿屋。
こういうとこで高給を使うのか。
「委細、了解しました。団長殿。ではまた明日」
ラルフは特に掘り下げられることなく回避に成功する。ベルフィアに邪魔されたと怒りはしたが、出て行った方がすぐ解決できた。
褒められたものではないが、心のなかで感謝した。
「おい、1人足りないぞ?どこ行った?」
騎士たちはその場でキョロキョロ周りを見渡している。確かにそうだ、8人いた騎士が7人になっている。
団長の後ろに控えていた3人のうち、死角になっていた騎士が消えている。
捜索が始まるかと思ったその時、
「おい!あれを見ろ!!」
皆の視線が集まったそこには騎士の兜を取り上げられた、鎧をキシキシ鳴らす男が寝そべっている。体は病気のようにガクガク痙攣していた。
その上に蝋燭のように白い肌の華奢な女が男を抱きかかえ見た感じ顔を首にうずめている。
「おい、なんだよ…おい!」
その声に顔を上げる女。
騎士の男をその場に投げ捨て、立ち上がり様に振り向く。口元は血でぬれ、異様に伸びた犬歯が光る。男の首元は血まみれで、致命傷。失血のせいで白目をむいて痙攣が収まらない。痙攣が収まった時は、男がこと切れた時だ。
女は口が裂けるほど笑い、その血の余韻を楽しんでいる。黒々とした目は瞳の部分が朱く輝いていた。
「…吸血鬼だと…?」
その場の騎士たちがあまりの唐突さに恐怖する中。
ラルフは頭を抱えていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる