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第一章 出会い
第十三話 反逆者 後
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『まだ始末できねぇのか?』
その声は苛立ちと侮蔑に満ちていた。
ネチネチと絡んでくる陰湿な空気すら感じる。
「今しばらくお待ちください”銀爪”様。あれももう虫の息。吹けば消え去るのです」
いつも使っていたお気に入りの椅子とは違う感触を楽しみながら、イミーナは余裕の態度で受け答えする。チッと舌打ちをして、”銀爪”はそっぽを向く。
魔晶ホログラム。
最近導入した遠い地からメッセージを直で交換し合える最新の魔道技術。
呼び出しに相手が答えてくれないと繋がらないが、わざわざ手紙などで連絡しあわなくてもその場で話し合える事も在って、利便性の良さを感じていた。
ここはグラジャラク大陸。
第二魔王”鏖”が統治する、世界で二番目にでかい大陸。魔族国家最強の称号を持ち不落要塞と呼ばれている。
その最奥に位置する魔王の玉座に座り、イミーナは”銀爪”の慰めをしていた。
『俺の部隊も貸してやったんだ。とっとと殺せよ』
イミーナは感触を楽しんでいた椅子の手すりから目を離し”銀爪”に視線を会わせる。
「そう焦らずに、楽しみませんか?貴方も嫌な思いをされたじゃないですか。簡単に殺してしまうのは惜しいでしょう?」
『おちょくってんのか?殺せっつったら殺せ!』
椅子をガタガタさせて、苛立ちを爆発させる。
「フッ…せっかちは嫌われますよ?」
イミーナは”銀爪”を嘲笑の眼差しで見る。
まるで子供のような降るまいに微笑ましさすら感じた。
「大丈夫ですよ、私に考えがありますし貴方の部隊の”牙狼”は既に居所をつかんでいます。優秀な部下に恵まれて羨ましい限りですよ」
『…わかってんだろうなぁ…俺をバカにするならてめぇも容赦しねぇぞ…』
先の発言が余程、気に食わなかったようだ。
一方的に通信を切られる。
しかしイミーナにはそれが好都合だった。
なにもしない”銀爪”からの突き上げが正直うっとうしく感じていた頃だし、今日は他にも連絡先があったからだ。
魔晶を操作し、通話の態勢に入る。通信が繋がり通話相手がホログラムに映る。イミーナは玉座に背中を預けて話し始める。
「犬を放ちました。良い結果を期待しておりますよ、我々の未来のために…」
――――――――――――――――――――――――
「あり得ない…何故…吸血鬼が…」
「あれが?…吸血鬼なのですか?」
騎士の連中はあまりのことに動揺を隠せない。
絶滅したとされる怪物。
吸血鬼は知る人ぞ知る伝説の化け物。
団長はこの化け物の脅威に恐れ慄いていた
しかし知識の中でその存在を知っていたとして、”吸血鬼”など咄嗟に出てくるわけがない。何故なら絶滅しているからだ。団長はこの地域の情報はすでに把握済みと思われる。
「久しぶりノ食事じゃ…妾も混ぜろ」
吸血鬼ベルフィア=フラム=ドラキュラ。
かつて不死身と呼ばれ、人類、魔族、生けとし生けるすべての生き物に忌み嫌われた存在。
しかし現在は従者として働く身。第二魔王”鏖”の配下にして侍女。つい今しがた言伝を頼んだばかりだというのに、無視したのか、一人の騎士が犠牲になった。
「ハイネス…まさかお前の仲間はあの吸血鬼にやられたのか?」
「え゛っ?あ、そ…そうそうあんな奴だったと思うが…」
一瞬言葉に詰まる上に、ベルフィアに聞かれないよう極力小声になってしまう。
ラルフは測りかねていた。
ここには騎士が残り7人。
ベルフィアにかかれば一般人なら瞬殺できる。
しかし職業騎士ならどうなのか?
黒曜騎士団は精鋭中の精鋭。
ここで戦闘を継続すればベルフィアを殺せる可能性もある。
人類につくか魔族につくか、正念場である。
「さぁ…どれが美味そうかノぅ…」
品定めをするベルフィアをしり目に作戦を立てる。
「団長だったか?ここは俺が引き受ける。町まで撤退して、防衛網を敷いてくれ」
「! 気は確かか?相手は吸血鬼だぞ?」
ラルフは団長の耳元で強めに言う。
「だからだ」
「!」
団長は気づく。ラルフ、もといハイネスは囮になる。
吸血鬼の存在を騎士たちが町に知らせることにより、町ぐるみで対策を取るよう、提案したのだ。
「ハイネス…お前…」
「隙を見ていけ!」
ラルフは前に出る。ベルフィアはその行動が理解できず、一瞬戸惑う。その瞬間を狙って、煙幕玉を使う。
煙に覆われたその時
「撤退だ!引け引けー!」
という号令とともに騎士たちは一斉に撤退した。
煙が晴れる頃、ラルフは頭をかきながら突っ立っていた。
ベルフィアは元の位置から動かず、様子をうかがっていた。
「…何ノ真似じゃ?」
ラルフの出した答えはとりあえず保留。
一度、騎士たちに態勢を立て直させることで、決断を先送りにしたのだ。
騎士たちにより片付いた荷物を手に取り、その勢いのまま背負うとベルフィアを見る。
「城に行くぞ」
ベルフィアの質問を無視し、歩き出すラルフ。
その瞬間、目の前の景色がブレて流れる。
体に浮遊感を感じ思わず目をつむる。
ドガッ
首と背中に痛みを感じ、あまりの痛さに目を見開くと、ベルフィアが首を鷲掴みにしてそのまま木に押し付けていた。
「嘗めルんじゃないぞ人ノ子。魔王にはやられタが、そちは守られていタだけなノじゃぞ?」
吸血鬼の膂力は盗賊風情のラルフには荷が重い。
首を掴んだ左手を掴んではがそうとしてもビクともしない。
「無駄じゃ無駄じゃ。そこで永遠に眠ル男よりもそちは弱い。暴れても無駄じゃ」
そうだその通り。
初見で対峙した時から、戦ってはいけない相手だと認識していた。
目の前の騎士が不意打ちとはいえ瞬殺されたところを見るに掴まれた時点で死は確定。
ならばと別の手を打つことにしたが間に合うかわからない。
一応バレない程度に徐々に動く。
(甘かった)
目の前でカラカラ笑うベルフィアに嘗めた態度を取れたのは完全に油断していたからだ。ミーシャがいる限り攻撃されないと高を括った。
「妾ノ邪魔をしおって…そうそう、気になっとっタんじゃ、そちノ味をな」
ベルフィアは空いた右手を掲げ、人差し指でラルフの左頬を軽く切る。血がにじみ出た傷に指をあて、血を掬い取るとそのまま口に持っていき指をしゃぶる。
「んん?…そち…栄養が偏っとルな…淡白な味わいじゃ…」
「ケホッ…しょうがねえだろ…最近金がなくてあんま食えてねえんだよ…」
血が出続ける頬にもう一度指をあてがいまたしゃぶる。
「じゃが好みノ味じゃ…」
異様に伸びた犬歯を剥き出しにし、左手の親指で器用にラルフの顔をラルフから向かって右に傾けさせる。
「…なぁ、ちょっと待てよ。落ち着けって…な?」
気道を締め付けられる。
「ぐえっ」っという間抜けな声が出た。
もう喋るなと言う事だろうか。
左側の首筋を走る頸動脈に向かって牙を立てようと顔を近づける。
ガサッ
その音はすぐそばの茂みで聞こえた。ベルフィアは音の発生源に目を向ける。
「誰じゃ?」
どうにも無視できず、何度かキョロキョロする。
それもそのはず、音は四方八方から聞こえてくるのだ。
いつのまにか囲まれていた。
(来たか…)
ラルフはベルフィアから逃げられない。
もしあのままならただ死を迎えただけだ。だからといって今の状況が良かったかと言えばそうではない。だが1か0かで言えば助かる方を選ぶ。
茂みから光る眼がそこらかしこに見える。ただならぬ気配を感じたベルフィアは体勢を変える。ラルフの首から手を放し警戒態勢を取る。敵は何体いるのか?敵の位置は?力のほどは?
ベルフィアは知覚に全神経を集中させると、あることに気づいた。
それは臭いだ。
今まで何で気づかなかったのか、酸いような甘いようなそれでいて刺激のある無視できない香り。その香りの位置を辿ると、ラルフの手に握られた、魔獣用フェロモンスプレーがそれを放っていることに気づいた。
「ほぅ…妾にバレずに、ヨく巻いタもノヨ…」
ベルフィアは小賢しさから苛立ちを感じたもののその機転の良さに内心感心していた。
「じゃが、これではあまり変ワらないんじゃないかえ?」
死の予感は過ぎ去ってない。
「変わるさ…臨機応変が俺のモットーでな」
その声は苛立ちと侮蔑に満ちていた。
ネチネチと絡んでくる陰湿な空気すら感じる。
「今しばらくお待ちください”銀爪”様。あれももう虫の息。吹けば消え去るのです」
いつも使っていたお気に入りの椅子とは違う感触を楽しみながら、イミーナは余裕の態度で受け答えする。チッと舌打ちをして、”銀爪”はそっぽを向く。
魔晶ホログラム。
最近導入した遠い地からメッセージを直で交換し合える最新の魔道技術。
呼び出しに相手が答えてくれないと繋がらないが、わざわざ手紙などで連絡しあわなくてもその場で話し合える事も在って、利便性の良さを感じていた。
ここはグラジャラク大陸。
第二魔王”鏖”が統治する、世界で二番目にでかい大陸。魔族国家最強の称号を持ち不落要塞と呼ばれている。
その最奥に位置する魔王の玉座に座り、イミーナは”銀爪”の慰めをしていた。
『俺の部隊も貸してやったんだ。とっとと殺せよ』
イミーナは感触を楽しんでいた椅子の手すりから目を離し”銀爪”に視線を会わせる。
「そう焦らずに、楽しみませんか?貴方も嫌な思いをされたじゃないですか。簡単に殺してしまうのは惜しいでしょう?」
『おちょくってんのか?殺せっつったら殺せ!』
椅子をガタガタさせて、苛立ちを爆発させる。
「フッ…せっかちは嫌われますよ?」
イミーナは”銀爪”を嘲笑の眼差しで見る。
まるで子供のような降るまいに微笑ましさすら感じた。
「大丈夫ですよ、私に考えがありますし貴方の部隊の”牙狼”は既に居所をつかんでいます。優秀な部下に恵まれて羨ましい限りですよ」
『…わかってんだろうなぁ…俺をバカにするならてめぇも容赦しねぇぞ…』
先の発言が余程、気に食わなかったようだ。
一方的に通信を切られる。
しかしイミーナにはそれが好都合だった。
なにもしない”銀爪”からの突き上げが正直うっとうしく感じていた頃だし、今日は他にも連絡先があったからだ。
魔晶を操作し、通話の態勢に入る。通信が繋がり通話相手がホログラムに映る。イミーナは玉座に背中を預けて話し始める。
「犬を放ちました。良い結果を期待しておりますよ、我々の未来のために…」
――――――――――――――――――――――――
「あり得ない…何故…吸血鬼が…」
「あれが?…吸血鬼なのですか?」
騎士の連中はあまりのことに動揺を隠せない。
絶滅したとされる怪物。
吸血鬼は知る人ぞ知る伝説の化け物。
団長はこの化け物の脅威に恐れ慄いていた
しかし知識の中でその存在を知っていたとして、”吸血鬼”など咄嗟に出てくるわけがない。何故なら絶滅しているからだ。団長はこの地域の情報はすでに把握済みと思われる。
「久しぶりノ食事じゃ…妾も混ぜろ」
吸血鬼ベルフィア=フラム=ドラキュラ。
かつて不死身と呼ばれ、人類、魔族、生けとし生けるすべての生き物に忌み嫌われた存在。
しかし現在は従者として働く身。第二魔王”鏖”の配下にして侍女。つい今しがた言伝を頼んだばかりだというのに、無視したのか、一人の騎士が犠牲になった。
「ハイネス…まさかお前の仲間はあの吸血鬼にやられたのか?」
「え゛っ?あ、そ…そうそうあんな奴だったと思うが…」
一瞬言葉に詰まる上に、ベルフィアに聞かれないよう極力小声になってしまう。
ラルフは測りかねていた。
ここには騎士が残り7人。
ベルフィアにかかれば一般人なら瞬殺できる。
しかし職業騎士ならどうなのか?
黒曜騎士団は精鋭中の精鋭。
ここで戦闘を継続すればベルフィアを殺せる可能性もある。
人類につくか魔族につくか、正念場である。
「さぁ…どれが美味そうかノぅ…」
品定めをするベルフィアをしり目に作戦を立てる。
「団長だったか?ここは俺が引き受ける。町まで撤退して、防衛網を敷いてくれ」
「! 気は確かか?相手は吸血鬼だぞ?」
ラルフは団長の耳元で強めに言う。
「だからだ」
「!」
団長は気づく。ラルフ、もといハイネスは囮になる。
吸血鬼の存在を騎士たちが町に知らせることにより、町ぐるみで対策を取るよう、提案したのだ。
「ハイネス…お前…」
「隙を見ていけ!」
ラルフは前に出る。ベルフィアはその行動が理解できず、一瞬戸惑う。その瞬間を狙って、煙幕玉を使う。
煙に覆われたその時
「撤退だ!引け引けー!」
という号令とともに騎士たちは一斉に撤退した。
煙が晴れる頃、ラルフは頭をかきながら突っ立っていた。
ベルフィアは元の位置から動かず、様子をうかがっていた。
「…何ノ真似じゃ?」
ラルフの出した答えはとりあえず保留。
一度、騎士たちに態勢を立て直させることで、決断を先送りにしたのだ。
騎士たちにより片付いた荷物を手に取り、その勢いのまま背負うとベルフィアを見る。
「城に行くぞ」
ベルフィアの質問を無視し、歩き出すラルフ。
その瞬間、目の前の景色がブレて流れる。
体に浮遊感を感じ思わず目をつむる。
ドガッ
首と背中に痛みを感じ、あまりの痛さに目を見開くと、ベルフィアが首を鷲掴みにしてそのまま木に押し付けていた。
「嘗めルんじゃないぞ人ノ子。魔王にはやられタが、そちは守られていタだけなノじゃぞ?」
吸血鬼の膂力は盗賊風情のラルフには荷が重い。
首を掴んだ左手を掴んではがそうとしてもビクともしない。
「無駄じゃ無駄じゃ。そこで永遠に眠ル男よりもそちは弱い。暴れても無駄じゃ」
そうだその通り。
初見で対峙した時から、戦ってはいけない相手だと認識していた。
目の前の騎士が不意打ちとはいえ瞬殺されたところを見るに掴まれた時点で死は確定。
ならばと別の手を打つことにしたが間に合うかわからない。
一応バレない程度に徐々に動く。
(甘かった)
目の前でカラカラ笑うベルフィアに嘗めた態度を取れたのは完全に油断していたからだ。ミーシャがいる限り攻撃されないと高を括った。
「妾ノ邪魔をしおって…そうそう、気になっとっタんじゃ、そちノ味をな」
ベルフィアは空いた右手を掲げ、人差し指でラルフの左頬を軽く切る。血がにじみ出た傷に指をあて、血を掬い取るとそのまま口に持っていき指をしゃぶる。
「んん?…そち…栄養が偏っとルな…淡白な味わいじゃ…」
「ケホッ…しょうがねえだろ…最近金がなくてあんま食えてねえんだよ…」
血が出続ける頬にもう一度指をあてがいまたしゃぶる。
「じゃが好みノ味じゃ…」
異様に伸びた犬歯を剥き出しにし、左手の親指で器用にラルフの顔をラルフから向かって右に傾けさせる。
「…なぁ、ちょっと待てよ。落ち着けって…な?」
気道を締め付けられる。
「ぐえっ」っという間抜けな声が出た。
もう喋るなと言う事だろうか。
左側の首筋を走る頸動脈に向かって牙を立てようと顔を近づける。
ガサッ
その音はすぐそばの茂みで聞こえた。ベルフィアは音の発生源に目を向ける。
「誰じゃ?」
どうにも無視できず、何度かキョロキョロする。
それもそのはず、音は四方八方から聞こえてくるのだ。
いつのまにか囲まれていた。
(来たか…)
ラルフはベルフィアから逃げられない。
もしあのままならただ死を迎えただけだ。だからといって今の状況が良かったかと言えばそうではない。だが1か0かで言えば助かる方を選ぶ。
茂みから光る眼がそこらかしこに見える。ただならぬ気配を感じたベルフィアは体勢を変える。ラルフの首から手を放し警戒態勢を取る。敵は何体いるのか?敵の位置は?力のほどは?
ベルフィアは知覚に全神経を集中させると、あることに気づいた。
それは臭いだ。
今まで何で気づかなかったのか、酸いような甘いようなそれでいて刺激のある無視できない香り。その香りの位置を辿ると、ラルフの手に握られた、魔獣用フェロモンスプレーがそれを放っていることに気づいた。
「ほぅ…妾にバレずに、ヨく巻いタもノヨ…」
ベルフィアは小賢しさから苛立ちを感じたもののその機転の良さに内心感心していた。
「じゃが、これではあまり変ワらないんじゃないかえ?」
死の予感は過ぎ去ってない。
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