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第一章 出会い
第二十九話 嘲笑
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クゥゥゥゥ…
ミーシャはお腹が減って仕方がなかった。
ラルフに無理言って食料調達を命じたわけだが、もう缶詰でもよかったかもしれない。
あの焦げ茶の肉以外なら何でもおいしく食べられそうな気がしてきた。
思えば食事は毎日決まった時間にメイドが作って持ってきていたのを思い出す。最近は生活事情が一変し、今!と思った時間に食べられなくなった。
お腹が以前より正直になったのもラルフに看病してもらってからだ。
「……遅いなぁ…ラルフ…」
最後に食べた果物の味がもう懐かしく感じる。
すぐそこのラルフの食糧庫に缶詰がある。勝手に開けて食べても特に叱責はされないだろうが、一人だけ食べるのは気が引けた。なんせ意地汚い。
王という立場の自分が保存食を、お腹がすいたからと家臣に内緒で食べるなどあってはならない。
ミーシャはベッドから起き上がる。
「そうだ、私は王様じゃないか」
ミーシャは思い立ち部屋から出ていく、廊下はひんやりとして暗くジメジメしていた。外も日が落ちてしまい、より一層暗く感じる。
魔力を凝縮させて光を出現させる。
ミーシャは”暗視”が嫌いだった。
そんな気もないのに隠れてコソコソしているような感じがして。
明かりをつければそんな事しなくていいし、何より光は賑やかな温かい感じがするから好きだった。
この城は自分が住んでいた城より狭いが、城であることに変わりはないので、姿勢を伸ばし毅然とした振る舞いで城内を歩く。
部屋を一部屋ずつ見て回り、書斎と思われる場所にようやくお目当ての物を見つける。
「んんー…中々いいじゃない…」
その場で丁寧に埃を落とし、及第点とするとミーシャはその華奢な見た目からは想像もつかない力で大きな椅子を持ち上げた。
寝ることに飽きたミーシャは玉座を探していた。
早速大広間に持っていき、一番奥にある祭壇を退かす。破壊することも考えたが、なんか高価そうなので取っておくことにした。
位置調整をして、真ん中に備え付けると満足して自分が設置した玉座に座る。
一仕事終えたミーシャは足を組み替えたり、肘をついてみたりと想像上の支配者を演じて悦に浸った後、飽きて城から出る。
思い返せば公務以外であまり玉座は使わなかったことを思い
(何してんだろう…)
と冷静に立ち返ったのが城を出るきっかけになった。
城の中は暗く感じたが、外に出ると思ったより明るい。今日は満月だったようで足元が良く見える。
その時思いっきり鉄を打ち合うような甲高い音が小さく、だがはっきりと聞こえた。その音には聞き覚えがあった。
剣戟の音だ。
「…誰か戦っている?」
誰か、と濁したが内心ラルフだと思っていた。もし人間同士で戦う事があるなら今を時めく吸血鬼に関してだろう。
自分が渦中にいないことに腹を立てるほどお子様ではないが、家臣のピンチは見過ごせなかった。ミーシャは魔力で飛び上がり、上空を滑空し急ぎラルフのもとへと向かった。
――――――――――――――――――――――――
団長とベルフィアの決闘は仕切り直しになった。
しかしさっきの戦いにないものが存在する。
団長は右脇腹にダメージを受けた。
鎧越しに受けたというのに肋が折れ、内蔵を傷つけたようだ。口から血を流しながら頑張って立っている。
「おやおや、苦しそうじゃノぅ。どれ、手を貸そうか?」
左手を差し出し、手助けのパフォーマンスで団長を煽ってくる。
「嘗めるな!!」
あの電光石火の斬撃で今一度迎え撃とうと構える。しかし痛みで思うように腕が上がらず、切っ先が下に下がり、左手の握りも甘い。足もおぼつかず、右足の踏ん張りも利いていない。
ヒューヒュー言いながら睨みつけている。
虫の息と言って差し支えないだろう。
だがベルフィアに容赦はない。
「くっ…ふふ…ふふ」
笑いが抑えられないと肩を震わせて全身で愉悦を伝える。
ベルフィアは”吸血身体強化”を発動させ、強化をし始めた。全身の筋力が倍以上に跳ね上がり、力の波動を漲らせ、体から蒸気のようなものが視認できる。
(どういうことだ?あれだけ斬りつけたのにこの剣の攻撃を受けて魔力が削れていないのか?)
団長の持つ魔剣の力の一つ、”魔族特攻”は魔族を攻撃する度、少量ではあるが魔力を吸い取るスキルがある。
斬りつけた数だけ吸い取るため、あれだけの攻撃を受ければ下級魔族なら空になるほどだ。
この吸血鬼は魔力が枯渇するどころか、むしろ視認できるレベルまで湧き上がっている。
魔力が底知らずと言う事だろうか?
傷ついた今の体では勝つことはできない。
どれほど強い剣を持ち合わせても使用者は人間なのだ。
もし今”時間超過”を使えば肋が砕け取り返しのつかないところに刺さり、回復材を使用前に絶命する可能性がある。
(いや使わなければ確実に死ぬ)
日和って使わなければ、瞬殺される。
団長は極めて冷静に今の状況を分析し、今より細切れに各部位ごとに切り分け、再生する前に撤退をすることにした。
生きて帰れば次があるのだ。
例えアルパザが火の海になろうと、民が生き残れば復興はできる。昔この吸血鬼に城を明け渡した領主のように。生きていれば復讐のチャンスはある。
団長は覚悟を決める。
「団長をお守りしろ!!」
と同時に木々の陰から部下の騎士たちが飛び出す。剣を携えて草むらから出てきたのは10人前後、弓に矢をつがえ、草むらより奥から狙っているのがさらに7,8人くらいか。全部で20人くらいの騎士たちが姿を現す。
「マジかよ…まだこんなにいたのか」
野営地を荒らしていたのは8人程度だった。
あれで全員だったと仮定しても少ないと思うよりこれくらいじゃないと間に合わなかったんだな、と思っていた。
今回の任務に関しては急を要したはずであり、少数精鋭でやってきたに違いないからだ。
イルレアン国からアルパザまで距離がある分、早く到着する必要があり、素早く移動するためには人数が少ない方がいい。
先に飛び出した5人がギリギリで、バックアップに二人が潜んでいるくらいかと、勝手に考えていた。
「ぐっ…ダメだ!!逃げろ!ここは俺が殿を務める!ごほっ…お前たち…は死んではいけない!!」
団長は部下の身を案じ、苦しみながらその旨を伝える。
「それはあなただ!我ら人類の希望が死んではならない!!」
剣を構え、ラルフとベルフィアにジリジリと少しづつ詰めていく。
「…お前たち…」
「ぶふっ!!」
その様子を見ていたベルフィアは噴きだしてしまう。
「なんだこノ茶番は!ふははっ!面白いノぅラルフ ヨ!」
「おいやめろ、笑うな。…あれでも必死なんだぞ」
腹を抱えて笑うベルフィアに引き気味のラルフが窘める。
「笑うな?ふふ…これを笑わずしてどうすル?そちも馬鹿にされ先に笑われとっタじゃないか?」
それを指摘され、言葉を無くす。
確かにその通りだが、立場が違えばすぐに気持ちを変えられるほど厚顔無恥ではない。
「ノぅおどれら…随分と滑稽じゃノぅ…ふふふ」
ベルフィアが調子に乗って喋っていると、ビュンッという空気を切り裂く音が迫ってくる。
そしてその音が耳をかすめた瞬間、ドドッという殴られたような音がベルフィアから聞こえたかと思うと胸と腹に矢が生えていた。
騎士側もベルフィアの言葉に我慢が利かなくなり弓矢を放った。
ベルフィアはぐらりと体勢を崩し後ずさる。
その隙を見逃さず、団長はスキルを発動させる。
一気に距離を詰めて、またもベルフィアの体をバラバラにするため剣を振り上げる。
肋骨が砕け激痛が走る。
しかし団長はその激痛をものともせず、斬ると覚悟した。その瞬間から最大にして最高のパフォーマンスを発揮した。
スキル”時間超過”はすべての時間が遅く感じる。それは自分の感覚をも置いてけぼりにするため、先の激痛を忘れ、動くことができる。
(万が一の保険など意味をなさない。今ここで全力で…)
団長はまず右からの袈裟切りを出発点とし、そこから二撃、三撃と間髪入れずに切っていくのを型にしている。
ここで例のごとく袈裟切りに剣を構え振り下ろすも、何故か止まってしまった。まだ当たるまで距離があるが、関節がこれ以上動かないのだ。
不思議に思い腕を見ると、あの吸血鬼の右腕が団長の鎧から生えるように伸びて、肘を下から掴んでいた。ラルフに放った斬撃を止めた時と同じ要領で攻撃を止めたのだ。
右腕だけ再生させず遊ばせていたようで、ここぞの時に邪魔されてしまった。ベルフィアはこうなる事を予想しニヤニヤ笑いながら団長を見ていた。
(くっ!こいつ!!)
吸血鬼の思い通りに動かされた団長は悔しがりながらも焦りを感じていた。
”時間超過”は常時使用できるわけではない。このスキルは一定のものであり、解除されると神経伝達の遅延のせいで体が思うように動かなくなる。
クールタイムは完全な隙になるため避けなければならない。横にずらせば外せる程度の簡単な阻害だが、それにより一手削られてしまう。
こうなれば吸血鬼のすぐ横にいるラルフを狙い手を外すのと同時に切れば行為そのものが無駄にはならずさらに敵を一人減らすことにもつながる。
(悪く思うなラルフ。せめて苦しまず死ね!)
剣の軌道を変えて、ラルフのこめかみを狙う。
速度は十分、電光石火の一撃は頭を両断可能だ。
思った通り吸血鬼の阻害は意味をなさず、その軌道は命を奪う。
ミーシャはお腹が減って仕方がなかった。
ラルフに無理言って食料調達を命じたわけだが、もう缶詰でもよかったかもしれない。
あの焦げ茶の肉以外なら何でもおいしく食べられそうな気がしてきた。
思えば食事は毎日決まった時間にメイドが作って持ってきていたのを思い出す。最近は生活事情が一変し、今!と思った時間に食べられなくなった。
お腹が以前より正直になったのもラルフに看病してもらってからだ。
「……遅いなぁ…ラルフ…」
最後に食べた果物の味がもう懐かしく感じる。
すぐそこのラルフの食糧庫に缶詰がある。勝手に開けて食べても特に叱責はされないだろうが、一人だけ食べるのは気が引けた。なんせ意地汚い。
王という立場の自分が保存食を、お腹がすいたからと家臣に内緒で食べるなどあってはならない。
ミーシャはベッドから起き上がる。
「そうだ、私は王様じゃないか」
ミーシャは思い立ち部屋から出ていく、廊下はひんやりとして暗くジメジメしていた。外も日が落ちてしまい、より一層暗く感じる。
魔力を凝縮させて光を出現させる。
ミーシャは”暗視”が嫌いだった。
そんな気もないのに隠れてコソコソしているような感じがして。
明かりをつければそんな事しなくていいし、何より光は賑やかな温かい感じがするから好きだった。
この城は自分が住んでいた城より狭いが、城であることに変わりはないので、姿勢を伸ばし毅然とした振る舞いで城内を歩く。
部屋を一部屋ずつ見て回り、書斎と思われる場所にようやくお目当ての物を見つける。
「んんー…中々いいじゃない…」
その場で丁寧に埃を落とし、及第点とするとミーシャはその華奢な見た目からは想像もつかない力で大きな椅子を持ち上げた。
寝ることに飽きたミーシャは玉座を探していた。
早速大広間に持っていき、一番奥にある祭壇を退かす。破壊することも考えたが、なんか高価そうなので取っておくことにした。
位置調整をして、真ん中に備え付けると満足して自分が設置した玉座に座る。
一仕事終えたミーシャは足を組み替えたり、肘をついてみたりと想像上の支配者を演じて悦に浸った後、飽きて城から出る。
思い返せば公務以外であまり玉座は使わなかったことを思い
(何してんだろう…)
と冷静に立ち返ったのが城を出るきっかけになった。
城の中は暗く感じたが、外に出ると思ったより明るい。今日は満月だったようで足元が良く見える。
その時思いっきり鉄を打ち合うような甲高い音が小さく、だがはっきりと聞こえた。その音には聞き覚えがあった。
剣戟の音だ。
「…誰か戦っている?」
誰か、と濁したが内心ラルフだと思っていた。もし人間同士で戦う事があるなら今を時めく吸血鬼に関してだろう。
自分が渦中にいないことに腹を立てるほどお子様ではないが、家臣のピンチは見過ごせなかった。ミーシャは魔力で飛び上がり、上空を滑空し急ぎラルフのもとへと向かった。
――――――――――――――――――――――――
団長とベルフィアの決闘は仕切り直しになった。
しかしさっきの戦いにないものが存在する。
団長は右脇腹にダメージを受けた。
鎧越しに受けたというのに肋が折れ、内蔵を傷つけたようだ。口から血を流しながら頑張って立っている。
「おやおや、苦しそうじゃノぅ。どれ、手を貸そうか?」
左手を差し出し、手助けのパフォーマンスで団長を煽ってくる。
「嘗めるな!!」
あの電光石火の斬撃で今一度迎え撃とうと構える。しかし痛みで思うように腕が上がらず、切っ先が下に下がり、左手の握りも甘い。足もおぼつかず、右足の踏ん張りも利いていない。
ヒューヒュー言いながら睨みつけている。
虫の息と言って差し支えないだろう。
だがベルフィアに容赦はない。
「くっ…ふふ…ふふ」
笑いが抑えられないと肩を震わせて全身で愉悦を伝える。
ベルフィアは”吸血身体強化”を発動させ、強化をし始めた。全身の筋力が倍以上に跳ね上がり、力の波動を漲らせ、体から蒸気のようなものが視認できる。
(どういうことだ?あれだけ斬りつけたのにこの剣の攻撃を受けて魔力が削れていないのか?)
団長の持つ魔剣の力の一つ、”魔族特攻”は魔族を攻撃する度、少量ではあるが魔力を吸い取るスキルがある。
斬りつけた数だけ吸い取るため、あれだけの攻撃を受ければ下級魔族なら空になるほどだ。
この吸血鬼は魔力が枯渇するどころか、むしろ視認できるレベルまで湧き上がっている。
魔力が底知らずと言う事だろうか?
傷ついた今の体では勝つことはできない。
どれほど強い剣を持ち合わせても使用者は人間なのだ。
もし今”時間超過”を使えば肋が砕け取り返しのつかないところに刺さり、回復材を使用前に絶命する可能性がある。
(いや使わなければ確実に死ぬ)
日和って使わなければ、瞬殺される。
団長は極めて冷静に今の状況を分析し、今より細切れに各部位ごとに切り分け、再生する前に撤退をすることにした。
生きて帰れば次があるのだ。
例えアルパザが火の海になろうと、民が生き残れば復興はできる。昔この吸血鬼に城を明け渡した領主のように。生きていれば復讐のチャンスはある。
団長は覚悟を決める。
「団長をお守りしろ!!」
と同時に木々の陰から部下の騎士たちが飛び出す。剣を携えて草むらから出てきたのは10人前後、弓に矢をつがえ、草むらより奥から狙っているのがさらに7,8人くらいか。全部で20人くらいの騎士たちが姿を現す。
「マジかよ…まだこんなにいたのか」
野営地を荒らしていたのは8人程度だった。
あれで全員だったと仮定しても少ないと思うよりこれくらいじゃないと間に合わなかったんだな、と思っていた。
今回の任務に関しては急を要したはずであり、少数精鋭でやってきたに違いないからだ。
イルレアン国からアルパザまで距離がある分、早く到着する必要があり、素早く移動するためには人数が少ない方がいい。
先に飛び出した5人がギリギリで、バックアップに二人が潜んでいるくらいかと、勝手に考えていた。
「ぐっ…ダメだ!!逃げろ!ここは俺が殿を務める!ごほっ…お前たち…は死んではいけない!!」
団長は部下の身を案じ、苦しみながらその旨を伝える。
「それはあなただ!我ら人類の希望が死んではならない!!」
剣を構え、ラルフとベルフィアにジリジリと少しづつ詰めていく。
「…お前たち…」
「ぶふっ!!」
その様子を見ていたベルフィアは噴きだしてしまう。
「なんだこノ茶番は!ふははっ!面白いノぅラルフ ヨ!」
「おいやめろ、笑うな。…あれでも必死なんだぞ」
腹を抱えて笑うベルフィアに引き気味のラルフが窘める。
「笑うな?ふふ…これを笑わずしてどうすル?そちも馬鹿にされ先に笑われとっタじゃないか?」
それを指摘され、言葉を無くす。
確かにその通りだが、立場が違えばすぐに気持ちを変えられるほど厚顔無恥ではない。
「ノぅおどれら…随分と滑稽じゃノぅ…ふふふ」
ベルフィアが調子に乗って喋っていると、ビュンッという空気を切り裂く音が迫ってくる。
そしてその音が耳をかすめた瞬間、ドドッという殴られたような音がベルフィアから聞こえたかと思うと胸と腹に矢が生えていた。
騎士側もベルフィアの言葉に我慢が利かなくなり弓矢を放った。
ベルフィアはぐらりと体勢を崩し後ずさる。
その隙を見逃さず、団長はスキルを発動させる。
一気に距離を詰めて、またもベルフィアの体をバラバラにするため剣を振り上げる。
肋骨が砕け激痛が走る。
しかし団長はその激痛をものともせず、斬ると覚悟した。その瞬間から最大にして最高のパフォーマンスを発揮した。
スキル”時間超過”はすべての時間が遅く感じる。それは自分の感覚をも置いてけぼりにするため、先の激痛を忘れ、動くことができる。
(万が一の保険など意味をなさない。今ここで全力で…)
団長はまず右からの袈裟切りを出発点とし、そこから二撃、三撃と間髪入れずに切っていくのを型にしている。
ここで例のごとく袈裟切りに剣を構え振り下ろすも、何故か止まってしまった。まだ当たるまで距離があるが、関節がこれ以上動かないのだ。
不思議に思い腕を見ると、あの吸血鬼の右腕が団長の鎧から生えるように伸びて、肘を下から掴んでいた。ラルフに放った斬撃を止めた時と同じ要領で攻撃を止めたのだ。
右腕だけ再生させず遊ばせていたようで、ここぞの時に邪魔されてしまった。ベルフィアはこうなる事を予想しニヤニヤ笑いながら団長を見ていた。
(くっ!こいつ!!)
吸血鬼の思い通りに動かされた団長は悔しがりながらも焦りを感じていた。
”時間超過”は常時使用できるわけではない。このスキルは一定のものであり、解除されると神経伝達の遅延のせいで体が思うように動かなくなる。
クールタイムは完全な隙になるため避けなければならない。横にずらせば外せる程度の簡単な阻害だが、それにより一手削られてしまう。
こうなれば吸血鬼のすぐ横にいるラルフを狙い手を外すのと同時に切れば行為そのものが無駄にはならずさらに敵を一人減らすことにもつながる。
(悪く思うなラルフ。せめて苦しまず死ね!)
剣の軌道を変えて、ラルフのこめかみを狙う。
速度は十分、電光石火の一撃は頭を両断可能だ。
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