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第三章 勇者
第二十六話 ドラゴン
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「我が名はアルル…大魔導士アスロンの名を借りて四大精霊の加護を戴き、付与するは心身向上の護り…滾れ!”鋼鉄の肉体”」
アルルは戦闘するブレイド、ベルフィア、ミーシャ計三名に対し、能力強化の魔法をかける。”鋼鉄の肉体”は身体強化における基礎中の基礎で現在の能力の底上げを主にする魔法である。
だが、そこまで極端に強くなるわけではなく、肉体、弱体耐性、精神異常に対する加護など全ステータスを均等に少し底上げする程度だが、ドラゴンに対して一点突破の魔法は万が一の際、カバーできなければ命に係わる。
「ほぅ…自分で強化することはあっても、他者からかけられるのは初めてだ」
「少し強化には物足りないですけど、これでいきましょう。相手の手が分かり次第アルルは順次、強化を頼む」
ここで想定していなかった事が起こる。
能力向上を得たのはミーシャとブレイドで、ベルフィアには強化効果が得られなかったのだ。
「え?なんで…ベルフィアさんには効かない…」
「なんだって?」
ブレイドも魔法をかけたアルルも困惑する。強化付与に関しては不死者であっても効果を発揮するのに対し、彼女の体はその効果を打ち消した。
「ふむ…妾ノ体質ノせいかノぅ?身体に異常をきタす力を打ち消すノやも知れん…」
細胞が少量あれば再生可能な体は、ほぼ不死である代わりに強くも弱くもならない。攻撃魔法以外の強化と弱体に関する魔法の完全耐性を有しているということだ。
無論これは他者からの介入を阻害するのであって、吸血鬼のスキル”吸血身体強化”とは別物であると考えられる。
故にアルルの強化は意味を為さない。
「まぁ、関係ないがノぅ」
ベルフィアは昨晩摂取したゴブリンの血を使用し”吸血身体強化”を発動させる。赤いオーラがベルフィアを包み、力を引き上げる。いつも以上に無駄に消費できる量を蓄えた事で調子に乗って、血の強化を使いまくる。
ある程度強化が追えたベルフィアがドラゴンに向かって走り出した。
一気に距離を詰めるベルフィアだったが、途中でジグザグに走行したり、フェイントをかけたりして相手の出方を伺う。
(ぬぅ…良い目をしとル…全然振り切れん)
死角に入ろうとしてみるが、反射速度はベルフィアの運動能力を超えている。近寄っても簡単に対処される。
その上、巨体を武器に戦われると、吹き飛ばされた時が厄介だ。
万が一にも遠くに吹き飛ばされたら、ヘイトを自分に集中させることが出来ない。他のチームメンバーに攻撃がいく事になる。
驚異的な再生能力を保有するベルフィアだが、ドラゴンと比べ体が小さい上に、大した攻撃が出来ないので壁役としては三流。さらに近寄れないとあっては最早タンクではない。
啖呵を切った手前、ここで臆していては吸血鬼の名折れであり、ミーシャの従者足りえない。強引にも距離を詰める。
ドラゴンはベルフィアを即座に攻撃する。流石のドラゴンでも反射能力と運動能力は比例しない。ベルフィアは難なく避けて接敵する。
攻撃がうまく当たらなかったことに逆上したドラゴンのヘイトはベルフィアに集中した。
「ゴオォォォッ!!」
喉奥から絞り出すような低い唸り声を発する。
全く意に返さず、ベルフィアはドラゴンの足に攻撃を仕掛けた。バキンッという固い鱗とベルフィアの爪が合わさり金属音を響かせる。
「よし、私たちも行くぞ」
「はい!」
ミーシャとブレイドが動く。ミーシャは滞空しながらグングン相手に近寄る。ブレイドはある程度の距離を保って立ち止まると、ガンブレイドを掲げてドラゴンに狙いを定める。
「アルルの名において…」
アルルは戦闘の中では一番後方に陣取り、強化と、ドラゴンに対して弱体効果の魔法を唱え続ける。観戦に回ったラルフとウィーはその戦いのレベルに舌を巻いた。
ベルフィアがドラゴンの足元で軽い攻撃をしつつ逃げ回り、苛立ちを募らせ、ミーシャが特大の攻撃で体力を削り、ブレイドがミーシャに向きそうになるヘイトをガンブレイドの魔力砲で阻害しつつ、ベルフィアがまた攻撃を仕掛ける。
その間、ミーシャとブレイドに強化効果を付与し、ドラゴンに移動阻害と視力の低下をアルルが仕掛ける。ミーシャが本気を出せば瞬殺だが、ブレイドの心意気に免じて、チームプレイをしている。また、どこまで信用できるのかミーシャなりに測っているのだろう。
概ね良好と見て相違ない。
(すげぇな…俺じゃついていけない…)
生まれも能力も一般的なラルフには見ている事しか出来ない。が、悔しさも何もない。何故なら、そういう星の元に生まれているから。
理想はあるが、たどり着けないなら、今ある自分を最大限引き出して戦う事こそベスト。
自分を知れば勇気と蛮勇の違いくらい分かる。
ラルフもただ呆けて見ているわけではない。
相手の出方を窺い、行動パターンを予測する。
第三者から見ている方が動きが分かるものだから、分かり次第、注意を飛ばすつもりだ。
そうして眺めていると、ある違和感に気付く。
(何だあのドラゴン?…さっきからなんか…行動が一定過ぎないか?)
どんな生き物にもパターンが存在する。
例えるなら、刺激を与えられた食虫植物に似ている。特定の刺激を与えられたら、虫を捕まえたと錯覚して口を閉じたり、弦を巻いたり、弁を閉じたりといった具合に。
このドラゴンの攻撃にもパターンが存在する。
それというのも、足踏みをした後、炎を吐いたり、尻尾を横凪に振るった直後は一瞬立ち止まる。
首を後ろに少し引いた後、一気に伸ばして敵対者に対し、噛みつき行為をするなど、分かりやすいモーションがどこかに必ず仕込まれている。
馬鹿にされているような気さえするその動きはブラフの可能性も否定できないが、明らかにおかしい。一つ一つのパターンに、いちいち対応していたベルフィアも段々違和感を覚える。
「なんじゃこいつ…これが最強ノ種族かい?」
変わらず攻撃をしているブレイドとベルフィアを差し置いてミーシャは空中での攻撃をやめ、観察をし始めた。違和感の正体を考える。
「…このドラゴン。操られているのか?」
それにしてはお粗末であるが、しかし、それ以外に考えられなかった。自分が指示しなくて良いように自由行動に簡単な攻撃方法を組んでいる。
謂わばデコイ。実力を図るための木偶人形であると、考えるべきだろう。
ならばこれは、彼の竜が差し向けた刺客ではない。
ミーシャと真っ正面から殺し合って、今さら実力がどうのなどと間抜けも過ぎる。
最初の森を焼いた一撃以外、目立った強さはない。そのタイミングで自動行動に切り替えたとみるのが妥当だろう。
アルルもブレイドも少し余裕ができたので、こっちは強化魔法を止めて攻撃に集中しつつある。
ミーシャは暫しの間、三人に攻撃を任せて監視に回った。これは情報収集のための偵察であり、本体が他にいるという推察をより強固にするための行動でもある。
つまりラルフの懸念していた目的地を、敵が予め知っている可能性を裏付けるきっかけとなるのだ。
ブレイドとアルルは突然攻撃しなくなったミーシャに疑問を感じるが、
「これ!何をしておル!二人共手が止まっとルぞ!はヨぅ攻撃せい!!」
ベルフィアの一声で意識を正す。
「すいません!」
ブレイドはドラゴンの顔に魔力砲をぶち当てる。
「ギャオォォォッ!!」
牙と鱗がぶっ飛び、一番のダメージを与える。
さっきまで見た目が無傷に近かったドラゴンが突然、砕けるように各部位の破壊が可能になった。
アルルは魔力の減少を感じる。
「魔力の装甲が剥がれました!今ならダメージが入ります!」
「こやつそんな面倒なことしとっタんか!?道理で傷ノ一つも入らんワけじゃ!!」
ベルフィアは試しに鱗に爪を立ててみる。
スキルで強化した爪はその外装を突破し、血液を噴出させる。その様子にアルルの有用性を見たベルフィアはチームの素晴らしさを知る。
これでラルフがもっと戦闘向きならいうこともなかったが、それはそれと諦める。
当のラルフはミーシャ程でないにしろ、もしかして、操られているのではないかと思い始めていた。
(火を吹くのにも息を吸い込んだりする必要はあるが、ここまで露骨じゃない。行動に一定の制限をつけて、戦わせている?どうして…)
その時、すぐ後ろの茂みがガサリと動く。
「ん?」と後ろを振り向くと、そこには人が立っていた。ウィーもポカンとその様子を見ているようだ。まるで突然そこに出現したように。
ラルフは無理もないと思う。目の前に死の恐怖がある以上、他に気を回せないだろう。ウィーの索敵もそこまで万能ではない。
「…おい。ここは危ないぞ?早く逃げろ」
騒がないようにこそこそ警告する。ウィーはラルフの影に隠れる。人見知りではないはずだが、どうしたことか。
「…貴方のお名前は?」
エルフのように華奢な見た目のヒューマンは男か女かも分からない高い声で名前を聞く。
「どうでもいいだろ?今は自己紹介している暇は無いんだ。あれが見えるだろ?」
ドラゴンを指差し危険を訴える。
それをのんびりした速度で一瞥すると、
「ではここ以外なら大丈夫ですか?」
と聞いてきた。(なんだこいつ…)少し恐怖を感じ始めると、さっきまでの考えが湧き出す。
(もしかして…ドラゴンを操っているのはこいつか?しまった!裏に回られた!)
ドキドキしながら対面する。もう少しで倒せそうという時に、機を見計らってやってきた。畳み掛けるのに集中するこの瞬間、戦っている連中は手も目も離せなくなる。その間、非戦闘員を狙うとは卑怯な戦法だ。
「…はぁ…」自分が引いてしまう貧乏くじにはとことん嫌気がさす。ただのヒューマンではないだろう。敵の前にノコノコ出てきたということは勝ち目があると踏んでいる。
万が一、考え通りドラゴンを操っているなら、今噂になっている丘を攻撃したヒューマンの可能性が極めて高い。見た目は弱そうだし、与し易そうだが、手を出せば瞬殺されることもあり得る。それはミーシャを見たら分かる。
「俺はキール。あんたは?」
ラルフはお得意の偽名で誤魔化す。
自分の身に降りかかる火の粉は出来るだけ偽名という名の布や壁で遮るのがラルフ流。
「私は…り…いや、アンノウンと名乗ろう」
「…マジか…えーっと…」
(変な名前だ…)と素直に言えたら、心は晴れる。しかし、そんなことを言えるバカなら永いこと生きてはいまい。
「アンノウンね。聞いたことがない名前だが、この辺の人?」
「いや、遠い世界からの来訪者さ。というより拉致された。に近いかな…」
アンノウンは悲しい顔を見せた。
「…ふむ、あんたがこの際、何者でも構わないが移動しないか?ここは危険だ」
「いいや、ここなら大丈夫さ」
何の根拠もない言い分だが、すでに答えが見えたラルフは驚きもしない。
「あんたは…いったい…」
「他の連中は戦っているのに君らが戦ってないのが不思議でね。声をかけたんだ。見たところ非戦闘員って感じだ。邪魔したね」
アンノウンは感慨もなくそのまま踵を返す。
「不思議なんだが、なんでドラゴンがここにいるんだろうか?いるはずないのに…」
その言葉にアンノウンは反応した。
「それは知らない。誰かが誰かの神経を逆撫でしたんじゃないかな?ほら”逆鱗に触れる”ってあるだろ?そういうことさ…」
ラルフは首を傾げる。
「何のことだ?逆鱗ってのは竜の顎のことだろ?そんなとこに触れられる生き物なんてこの世にいないだろ?」
「は?」と言って振り返る。
「ものの例えだ。諺くらいあるだろ?相手の神経を逆撫でするってことだよ」
「へー、あいつらって顎触れるとキレるのか…勉強になったぜ」
「だから…!」と声を荒げそうになり、ハッとして深呼吸する。相手のペースにのせられていたことを悟り、気を落ち着けるとラルフを見据えた。アンノウンは無表情だった顔に微笑を浮かべる。
「また近いうちに会おう、キール。お前とはもう少し話がしたい」
それだけ言うと木々に隠れて消えていった。
その瞬間に気配がなくなり、完全に見失う。
「…ヤバい奴に睨まれたもんだ…」
ミーシャやベルフィア以上のインパクトはもうないと思っていたのに勘違いだったようだ。
ラルフがふとドラゴンの方に注意を向けると、すでに血だらけで沈黙する肉塊を見ることになる。
こちらも決着したらしい。
ラルフは先の出来事を話すか迷いつつ、皆と合流した。
アルルは戦闘するブレイド、ベルフィア、ミーシャ計三名に対し、能力強化の魔法をかける。”鋼鉄の肉体”は身体強化における基礎中の基礎で現在の能力の底上げを主にする魔法である。
だが、そこまで極端に強くなるわけではなく、肉体、弱体耐性、精神異常に対する加護など全ステータスを均等に少し底上げする程度だが、ドラゴンに対して一点突破の魔法は万が一の際、カバーできなければ命に係わる。
「ほぅ…自分で強化することはあっても、他者からかけられるのは初めてだ」
「少し強化には物足りないですけど、これでいきましょう。相手の手が分かり次第アルルは順次、強化を頼む」
ここで想定していなかった事が起こる。
能力向上を得たのはミーシャとブレイドで、ベルフィアには強化効果が得られなかったのだ。
「え?なんで…ベルフィアさんには効かない…」
「なんだって?」
ブレイドも魔法をかけたアルルも困惑する。強化付与に関しては不死者であっても効果を発揮するのに対し、彼女の体はその効果を打ち消した。
「ふむ…妾ノ体質ノせいかノぅ?身体に異常をきタす力を打ち消すノやも知れん…」
細胞が少量あれば再生可能な体は、ほぼ不死である代わりに強くも弱くもならない。攻撃魔法以外の強化と弱体に関する魔法の完全耐性を有しているということだ。
無論これは他者からの介入を阻害するのであって、吸血鬼のスキル”吸血身体強化”とは別物であると考えられる。
故にアルルの強化は意味を為さない。
「まぁ、関係ないがノぅ」
ベルフィアは昨晩摂取したゴブリンの血を使用し”吸血身体強化”を発動させる。赤いオーラがベルフィアを包み、力を引き上げる。いつも以上に無駄に消費できる量を蓄えた事で調子に乗って、血の強化を使いまくる。
ある程度強化が追えたベルフィアがドラゴンに向かって走り出した。
一気に距離を詰めるベルフィアだったが、途中でジグザグに走行したり、フェイントをかけたりして相手の出方を伺う。
(ぬぅ…良い目をしとル…全然振り切れん)
死角に入ろうとしてみるが、反射速度はベルフィアの運動能力を超えている。近寄っても簡単に対処される。
その上、巨体を武器に戦われると、吹き飛ばされた時が厄介だ。
万が一にも遠くに吹き飛ばされたら、ヘイトを自分に集中させることが出来ない。他のチームメンバーに攻撃がいく事になる。
驚異的な再生能力を保有するベルフィアだが、ドラゴンと比べ体が小さい上に、大した攻撃が出来ないので壁役としては三流。さらに近寄れないとあっては最早タンクではない。
啖呵を切った手前、ここで臆していては吸血鬼の名折れであり、ミーシャの従者足りえない。強引にも距離を詰める。
ドラゴンはベルフィアを即座に攻撃する。流石のドラゴンでも反射能力と運動能力は比例しない。ベルフィアは難なく避けて接敵する。
攻撃がうまく当たらなかったことに逆上したドラゴンのヘイトはベルフィアに集中した。
「ゴオォォォッ!!」
喉奥から絞り出すような低い唸り声を発する。
全く意に返さず、ベルフィアはドラゴンの足に攻撃を仕掛けた。バキンッという固い鱗とベルフィアの爪が合わさり金属音を響かせる。
「よし、私たちも行くぞ」
「はい!」
ミーシャとブレイドが動く。ミーシャは滞空しながらグングン相手に近寄る。ブレイドはある程度の距離を保って立ち止まると、ガンブレイドを掲げてドラゴンに狙いを定める。
「アルルの名において…」
アルルは戦闘の中では一番後方に陣取り、強化と、ドラゴンに対して弱体効果の魔法を唱え続ける。観戦に回ったラルフとウィーはその戦いのレベルに舌を巻いた。
ベルフィアがドラゴンの足元で軽い攻撃をしつつ逃げ回り、苛立ちを募らせ、ミーシャが特大の攻撃で体力を削り、ブレイドがミーシャに向きそうになるヘイトをガンブレイドの魔力砲で阻害しつつ、ベルフィアがまた攻撃を仕掛ける。
その間、ミーシャとブレイドに強化効果を付与し、ドラゴンに移動阻害と視力の低下をアルルが仕掛ける。ミーシャが本気を出せば瞬殺だが、ブレイドの心意気に免じて、チームプレイをしている。また、どこまで信用できるのかミーシャなりに測っているのだろう。
概ね良好と見て相違ない。
(すげぇな…俺じゃついていけない…)
生まれも能力も一般的なラルフには見ている事しか出来ない。が、悔しさも何もない。何故なら、そういう星の元に生まれているから。
理想はあるが、たどり着けないなら、今ある自分を最大限引き出して戦う事こそベスト。
自分を知れば勇気と蛮勇の違いくらい分かる。
ラルフもただ呆けて見ているわけではない。
相手の出方を窺い、行動パターンを予測する。
第三者から見ている方が動きが分かるものだから、分かり次第、注意を飛ばすつもりだ。
そうして眺めていると、ある違和感に気付く。
(何だあのドラゴン?…さっきからなんか…行動が一定過ぎないか?)
どんな生き物にもパターンが存在する。
例えるなら、刺激を与えられた食虫植物に似ている。特定の刺激を与えられたら、虫を捕まえたと錯覚して口を閉じたり、弦を巻いたり、弁を閉じたりといった具合に。
このドラゴンの攻撃にもパターンが存在する。
それというのも、足踏みをした後、炎を吐いたり、尻尾を横凪に振るった直後は一瞬立ち止まる。
首を後ろに少し引いた後、一気に伸ばして敵対者に対し、噛みつき行為をするなど、分かりやすいモーションがどこかに必ず仕込まれている。
馬鹿にされているような気さえするその動きはブラフの可能性も否定できないが、明らかにおかしい。一つ一つのパターンに、いちいち対応していたベルフィアも段々違和感を覚える。
「なんじゃこいつ…これが最強ノ種族かい?」
変わらず攻撃をしているブレイドとベルフィアを差し置いてミーシャは空中での攻撃をやめ、観察をし始めた。違和感の正体を考える。
「…このドラゴン。操られているのか?」
それにしてはお粗末であるが、しかし、それ以外に考えられなかった。自分が指示しなくて良いように自由行動に簡単な攻撃方法を組んでいる。
謂わばデコイ。実力を図るための木偶人形であると、考えるべきだろう。
ならばこれは、彼の竜が差し向けた刺客ではない。
ミーシャと真っ正面から殺し合って、今さら実力がどうのなどと間抜けも過ぎる。
最初の森を焼いた一撃以外、目立った強さはない。そのタイミングで自動行動に切り替えたとみるのが妥当だろう。
アルルもブレイドも少し余裕ができたので、こっちは強化魔法を止めて攻撃に集中しつつある。
ミーシャは暫しの間、三人に攻撃を任せて監視に回った。これは情報収集のための偵察であり、本体が他にいるという推察をより強固にするための行動でもある。
つまりラルフの懸念していた目的地を、敵が予め知っている可能性を裏付けるきっかけとなるのだ。
ブレイドとアルルは突然攻撃しなくなったミーシャに疑問を感じるが、
「これ!何をしておル!二人共手が止まっとルぞ!はヨぅ攻撃せい!!」
ベルフィアの一声で意識を正す。
「すいません!」
ブレイドはドラゴンの顔に魔力砲をぶち当てる。
「ギャオォォォッ!!」
牙と鱗がぶっ飛び、一番のダメージを与える。
さっきまで見た目が無傷に近かったドラゴンが突然、砕けるように各部位の破壊が可能になった。
アルルは魔力の減少を感じる。
「魔力の装甲が剥がれました!今ならダメージが入ります!」
「こやつそんな面倒なことしとっタんか!?道理で傷ノ一つも入らんワけじゃ!!」
ベルフィアは試しに鱗に爪を立ててみる。
スキルで強化した爪はその外装を突破し、血液を噴出させる。その様子にアルルの有用性を見たベルフィアはチームの素晴らしさを知る。
これでラルフがもっと戦闘向きならいうこともなかったが、それはそれと諦める。
当のラルフはミーシャ程でないにしろ、もしかして、操られているのではないかと思い始めていた。
(火を吹くのにも息を吸い込んだりする必要はあるが、ここまで露骨じゃない。行動に一定の制限をつけて、戦わせている?どうして…)
その時、すぐ後ろの茂みがガサリと動く。
「ん?」と後ろを振り向くと、そこには人が立っていた。ウィーもポカンとその様子を見ているようだ。まるで突然そこに出現したように。
ラルフは無理もないと思う。目の前に死の恐怖がある以上、他に気を回せないだろう。ウィーの索敵もそこまで万能ではない。
「…おい。ここは危ないぞ?早く逃げろ」
騒がないようにこそこそ警告する。ウィーはラルフの影に隠れる。人見知りではないはずだが、どうしたことか。
「…貴方のお名前は?」
エルフのように華奢な見た目のヒューマンは男か女かも分からない高い声で名前を聞く。
「どうでもいいだろ?今は自己紹介している暇は無いんだ。あれが見えるだろ?」
ドラゴンを指差し危険を訴える。
それをのんびりした速度で一瞥すると、
「ではここ以外なら大丈夫ですか?」
と聞いてきた。(なんだこいつ…)少し恐怖を感じ始めると、さっきまでの考えが湧き出す。
(もしかして…ドラゴンを操っているのはこいつか?しまった!裏に回られた!)
ドキドキしながら対面する。もう少しで倒せそうという時に、機を見計らってやってきた。畳み掛けるのに集中するこの瞬間、戦っている連中は手も目も離せなくなる。その間、非戦闘員を狙うとは卑怯な戦法だ。
「…はぁ…」自分が引いてしまう貧乏くじにはとことん嫌気がさす。ただのヒューマンではないだろう。敵の前にノコノコ出てきたということは勝ち目があると踏んでいる。
万が一、考え通りドラゴンを操っているなら、今噂になっている丘を攻撃したヒューマンの可能性が極めて高い。見た目は弱そうだし、与し易そうだが、手を出せば瞬殺されることもあり得る。それはミーシャを見たら分かる。
「俺はキール。あんたは?」
ラルフはお得意の偽名で誤魔化す。
自分の身に降りかかる火の粉は出来るだけ偽名という名の布や壁で遮るのがラルフ流。
「私は…り…いや、アンノウンと名乗ろう」
「…マジか…えーっと…」
(変な名前だ…)と素直に言えたら、心は晴れる。しかし、そんなことを言えるバカなら永いこと生きてはいまい。
「アンノウンね。聞いたことがない名前だが、この辺の人?」
「いや、遠い世界からの来訪者さ。というより拉致された。に近いかな…」
アンノウンは悲しい顔を見せた。
「…ふむ、あんたがこの際、何者でも構わないが移動しないか?ここは危険だ」
「いいや、ここなら大丈夫さ」
何の根拠もない言い分だが、すでに答えが見えたラルフは驚きもしない。
「あんたは…いったい…」
「他の連中は戦っているのに君らが戦ってないのが不思議でね。声をかけたんだ。見たところ非戦闘員って感じだ。邪魔したね」
アンノウンは感慨もなくそのまま踵を返す。
「不思議なんだが、なんでドラゴンがここにいるんだろうか?いるはずないのに…」
その言葉にアンノウンは反応した。
「それは知らない。誰かが誰かの神経を逆撫でしたんじゃないかな?ほら”逆鱗に触れる”ってあるだろ?そういうことさ…」
ラルフは首を傾げる。
「何のことだ?逆鱗ってのは竜の顎のことだろ?そんなとこに触れられる生き物なんてこの世にいないだろ?」
「は?」と言って振り返る。
「ものの例えだ。諺くらいあるだろ?相手の神経を逆撫でするってことだよ」
「へー、あいつらって顎触れるとキレるのか…勉強になったぜ」
「だから…!」と声を荒げそうになり、ハッとして深呼吸する。相手のペースにのせられていたことを悟り、気を落ち着けるとラルフを見据えた。アンノウンは無表情だった顔に微笑を浮かべる。
「また近いうちに会おう、キール。お前とはもう少し話がしたい」
それだけ言うと木々に隠れて消えていった。
その瞬間に気配がなくなり、完全に見失う。
「…ヤバい奴に睨まれたもんだ…」
ミーシャやベルフィア以上のインパクトはもうないと思っていたのに勘違いだったようだ。
ラルフがふとドラゴンの方に注意を向けると、すでに血だらけで沈黙する肉塊を見ることになる。
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〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
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