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第四章 崩壊
第二十五話 緊急招集
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黒の円卓。
第二魔王の交代以降初めて召集されたのは、第五魔王”蒼玉”が統治するペルタルク丘陵。
世界でも指折りの美しいこの場所は、力を第一に置く魔族が統治しているとは到底思えない場所である。
その理由として挙げられるのは、そよ風の吹く青々とした草原。木々は「決して森にならないぞ」という意思でもあるかのように個々に生え、自分を主張する。その為か枝を大きく伸ばして自らの葉で美しい傘を作る。
ここに住む生き物は皆、白い毛並みに青い目を持っている。馬のような魔獣は風のように駆け回り、牛のような魔獣は牧草のように雑草を食む。走りに特化したような猫科の魔獣も大きなイタチ科も蝶々のような虫すら白く、そして青い。
湖が点在し、汚れ一つない透き通った青い液体がコンコンと湧き出る。湖の中にはガラスの様に透き通った鯉を模した魚が一定数いるくらいで他には見当たらない。
まるでお伽の国にでも迷い混んだような不思議な光景だ。その美しい場所をしばらく歩くと、クリスタルの橋を見ることが出来る。
正確にはクリスタルの手すりと大理石のような足場を備えた橋だ。その先にあるのは蒼く輝く日本のお城を思わせる居城。城下町は碁盤のように綺麗に整列された和風の住居が立ち並び、どれもこれも蒼く輝く。それもそのはず、外壁は白く統一しているが、屋根や飾られている小物はクリスタルで構成されている。
町を飾るのは年がら年中その華を咲かせ続ける桜。白と蒼に文字通り華を添えるように主張しすぎない淡いピンクが咲いては散って彩る。
その都に入るためには最初に見えた橋を渡る必要がある。それ以外の侵入を拒むように堀が居住区を囲う。その堀を突破しても高い塀が邪魔をする。
本日は開催国であるため、普段固く閉ざされた門は開かれている。魔王の部下たちが先々にやって来て危険がないか精査する。開催国は暴動を起こさぬよう徹底した取り締まりをしているものの安心はできない。最近では魔王の側近が裏切りを働く痛ましい事件が起こっているのだ。万が一に備えるのは当然の事。
城の内部で円卓会場の準備を待つのは早く着きすぎた第一魔王”黒雲”のもっとも信頼する敏腕執事”黒影”。掛け軸くらいしか飾られていない殺風景な部屋に通され、畳の上で正座して待っている。出されたお茶を前に、目を瞑り微動だにしない。
ふと気配を感じ、障子の方に目をやると人影が見える。
「失礼します。第四魔王”紫炎”様が到着しました」
その声は聞き覚えがあり、外にいるのが直属の部下である事に気付くと、こちらが見えないと知りながら一つ頷いて言葉を発する。
「ご苦労様です。引き続き報告をお願いします」
「はっ」と小さくも小気味良い声を出し、ススッと下がった。
第四魔王”紫炎”
前回の円卓会議の参加を拒否していたが、今回参加する理由は思い付く限りでは三つ。
一つ、”黒雲”に会いたくなかったので、開催国を見て参加した。
二つ、ペルタルク丘陵は魔族の間でも観光スポットとして人気である。単純に円卓という仕事に託つけた旅行気分。
三つ、”鏖”のその後。
特に三つ目の事は魔族間で気にならない者など存在しないだろう。あの”白絶”すら感情を表さずにはいられなかった一件だ。
イミーナの裏切りは今や許されつつある中で、前回の不参加者が納得いかない事をここでぶつけていくだろう。そのチャンスはある。何故なら……。
「失礼します。第二魔王”朱槍”様、並びに第七魔王”銀爪”様と第六魔王”灰燼”様が到着されました」
そう、”朱槍”が参加するからだ。
まさか第六魔王”灰燼”まで参加するとは思っていなかった。第十魔王”白絶”に比べれば参加回数は多いものの、何十年かぶりの参加である。(”灰燼”様といえば、きっとあの件だろう……)と予測する。というよりそれ以外思いつかない。
「ほう……ご苦労様です。あとは第十一魔王”橙将”様を残すのみとなりましたか……」
今回は第三、第八、第九、第十、第十二を抜いた六柱の魔王と黒影で円卓の開催となる。
「それが……”橙将”様ですが、今回は参加見送りとなっております。何でも統治されているヒートアイランドにて暴動が起きたとか……。現在、鎮圧にあたっていると情報が入りました」
七大陸の一つ、灼赤大陸。その中心部に”ヒートアイランド”と呼ばれる場所があり、そこの統治者が第十一魔王”橙将”。気性の荒い連中が揃うあの地を巧みな戦術でまとめ上げた知将ではあるが、「小さな綻びですぐにも瓦解するだろう」と”橙将”自ら苦言を呈していたのを思い出す。
「なるほど……つまり全員揃ったということですね?会場の準備が整うまでの間、挨拶回りでもしましょうか」
黒影は正した姿勢を維持したままスッと立ち上がる。外の部下が音で黒影が立ち上がったのを確認し、障子を開けて障害物を取り除く。
そこにはこの場所に似つかわしくない全身鎧が鎮座していた。フルフェイスで顔まで隠す鎧は、鉄が錆び、汚れてくすんだような赤茶けた色あいをしている。その名も”血の騎士”。単純な戦闘能力だけなら黒影を凌ぐ。
その体は普段赤黒いオーラを身に纏い、触れるものを腐らせる”腐食のオーラ”を持っている。他にもどんな武器でも使いこなせる”以一当千”。自分の半分程度の力を有する実態のある分身を最高十体出現させる”万華鏡”など様々。戦闘以外では能力を抑え込んでいるが、いざ戦いとなれば場に応じて能力を解放させる。
黒雲にとって信頼できる部下が黒影であるように、黒影にとっての最高の部下は”血の騎士”である。
黒影が自分の前を通り過ぎるのを待つ。その後すぐ「お供いたします」と一言発してすぐ後ろに控えた。
(本当に忠実で堅実な良い部下を持った……)
その存在を背中越しに感じる。だからこそ寂しい気持ちが生まれた。本来血の騎士はこうして供回りに着かせるには向かない。戦闘でこそ真価を発揮する。様々なスキルを見るにそれは明らか。見た目も美しくない。主人より悪い意味で目立つ出で立ちは権威を示す場でははっきり言って邪魔だとしか言えない。
そこまで分かっていて連れて行かなければならないのは……事と次第によっては、これだけ優秀な部下を本日失う事も考えられるからだ。その理由は勿論、今回参加する魔王に関連する。
”紫炎”と”灰燼”。
特に”紫炎”にはあわや殺されるところだった。
好き嫌いで物事を見ている紫炎は鏖を気に入っている。彼女を円卓に迎え入れた当時、彼女を抜けば一番若い魔王だった紫炎は先輩風を吹かせていたのを思い出す。いの一番に可愛がっていた後輩が突然いなくなるなど許されざる事だったに違いない。
だが”黒雲”を抜いた魔王達はその穴埋め要因に他ならない。つまり銀爪が死んだ後その息子に代替わりしたように、それぞれが強い魔王達とはいえ時代の流れには逆らえないというのは歴史が証明している。
理由こそ裏切りだったが、”鏖”から”朱槍”に代わるだけの事。その気持ちを持って報告に回っていたが、紫炎にはそれが気に入らなかった。あの時は何とか逃げ切れたが、それからあまり間を置かず今回の円卓が”蒼玉”によって招集されたのだ。警戒するなというのが無理というもの。
なら”灰燼”はどうかと言えば、元はグラジャラク大陸を仕切っていた魔王だ。鏖が強すぎる故、手出しできなかったが、魔王交代とあらば話は別。議題の中に必ず返還要求を出すのは目に見えている。未だグラジャラクでの栄光にしがみつく愚かな老人ではあるが、決してこの機を逃すような真似はしないだろう。会議の場に顔を出したのがその証拠だ。
兵士は多ければ多い程、格段に安全になるが、それは同時に威圧する事になり、無駄に敵を作る行為になってしまう。だからこそ最小限の戦力。だからこその血の騎士なのだ。
「……有事の際はお任せします」
黒影は部下の方をチラリとも見ずに呟いた。
「はっ!不肖血の騎士、必ずやお役に立ちましょう」
第二魔王の交代以降初めて召集されたのは、第五魔王”蒼玉”が統治するペルタルク丘陵。
世界でも指折りの美しいこの場所は、力を第一に置く魔族が統治しているとは到底思えない場所である。
その理由として挙げられるのは、そよ風の吹く青々とした草原。木々は「決して森にならないぞ」という意思でもあるかのように個々に生え、自分を主張する。その為か枝を大きく伸ばして自らの葉で美しい傘を作る。
ここに住む生き物は皆、白い毛並みに青い目を持っている。馬のような魔獣は風のように駆け回り、牛のような魔獣は牧草のように雑草を食む。走りに特化したような猫科の魔獣も大きなイタチ科も蝶々のような虫すら白く、そして青い。
湖が点在し、汚れ一つない透き通った青い液体がコンコンと湧き出る。湖の中にはガラスの様に透き通った鯉を模した魚が一定数いるくらいで他には見当たらない。
まるでお伽の国にでも迷い混んだような不思議な光景だ。その美しい場所をしばらく歩くと、クリスタルの橋を見ることが出来る。
正確にはクリスタルの手すりと大理石のような足場を備えた橋だ。その先にあるのは蒼く輝く日本のお城を思わせる居城。城下町は碁盤のように綺麗に整列された和風の住居が立ち並び、どれもこれも蒼く輝く。それもそのはず、外壁は白く統一しているが、屋根や飾られている小物はクリスタルで構成されている。
町を飾るのは年がら年中その華を咲かせ続ける桜。白と蒼に文字通り華を添えるように主張しすぎない淡いピンクが咲いては散って彩る。
その都に入るためには最初に見えた橋を渡る必要がある。それ以外の侵入を拒むように堀が居住区を囲う。その堀を突破しても高い塀が邪魔をする。
本日は開催国であるため、普段固く閉ざされた門は開かれている。魔王の部下たちが先々にやって来て危険がないか精査する。開催国は暴動を起こさぬよう徹底した取り締まりをしているものの安心はできない。最近では魔王の側近が裏切りを働く痛ましい事件が起こっているのだ。万が一に備えるのは当然の事。
城の内部で円卓会場の準備を待つのは早く着きすぎた第一魔王”黒雲”のもっとも信頼する敏腕執事”黒影”。掛け軸くらいしか飾られていない殺風景な部屋に通され、畳の上で正座して待っている。出されたお茶を前に、目を瞑り微動だにしない。
ふと気配を感じ、障子の方に目をやると人影が見える。
「失礼します。第四魔王”紫炎”様が到着しました」
その声は聞き覚えがあり、外にいるのが直属の部下である事に気付くと、こちらが見えないと知りながら一つ頷いて言葉を発する。
「ご苦労様です。引き続き報告をお願いします」
「はっ」と小さくも小気味良い声を出し、ススッと下がった。
第四魔王”紫炎”
前回の円卓会議の参加を拒否していたが、今回参加する理由は思い付く限りでは三つ。
一つ、”黒雲”に会いたくなかったので、開催国を見て参加した。
二つ、ペルタルク丘陵は魔族の間でも観光スポットとして人気である。単純に円卓という仕事に託つけた旅行気分。
三つ、”鏖”のその後。
特に三つ目の事は魔族間で気にならない者など存在しないだろう。あの”白絶”すら感情を表さずにはいられなかった一件だ。
イミーナの裏切りは今や許されつつある中で、前回の不参加者が納得いかない事をここでぶつけていくだろう。そのチャンスはある。何故なら……。
「失礼します。第二魔王”朱槍”様、並びに第七魔王”銀爪”様と第六魔王”灰燼”様が到着されました」
そう、”朱槍”が参加するからだ。
まさか第六魔王”灰燼”まで参加するとは思っていなかった。第十魔王”白絶”に比べれば参加回数は多いものの、何十年かぶりの参加である。(”灰燼”様といえば、きっとあの件だろう……)と予測する。というよりそれ以外思いつかない。
「ほう……ご苦労様です。あとは第十一魔王”橙将”様を残すのみとなりましたか……」
今回は第三、第八、第九、第十、第十二を抜いた六柱の魔王と黒影で円卓の開催となる。
「それが……”橙将”様ですが、今回は参加見送りとなっております。何でも統治されているヒートアイランドにて暴動が起きたとか……。現在、鎮圧にあたっていると情報が入りました」
七大陸の一つ、灼赤大陸。その中心部に”ヒートアイランド”と呼ばれる場所があり、そこの統治者が第十一魔王”橙将”。気性の荒い連中が揃うあの地を巧みな戦術でまとめ上げた知将ではあるが、「小さな綻びですぐにも瓦解するだろう」と”橙将”自ら苦言を呈していたのを思い出す。
「なるほど……つまり全員揃ったということですね?会場の準備が整うまでの間、挨拶回りでもしましょうか」
黒影は正した姿勢を維持したままスッと立ち上がる。外の部下が音で黒影が立ち上がったのを確認し、障子を開けて障害物を取り除く。
そこにはこの場所に似つかわしくない全身鎧が鎮座していた。フルフェイスで顔まで隠す鎧は、鉄が錆び、汚れてくすんだような赤茶けた色あいをしている。その名も”血の騎士”。単純な戦闘能力だけなら黒影を凌ぐ。
その体は普段赤黒いオーラを身に纏い、触れるものを腐らせる”腐食のオーラ”を持っている。他にもどんな武器でも使いこなせる”以一当千”。自分の半分程度の力を有する実態のある分身を最高十体出現させる”万華鏡”など様々。戦闘以外では能力を抑え込んでいるが、いざ戦いとなれば場に応じて能力を解放させる。
黒雲にとって信頼できる部下が黒影であるように、黒影にとっての最高の部下は”血の騎士”である。
黒影が自分の前を通り過ぎるのを待つ。その後すぐ「お供いたします」と一言発してすぐ後ろに控えた。
(本当に忠実で堅実な良い部下を持った……)
その存在を背中越しに感じる。だからこそ寂しい気持ちが生まれた。本来血の騎士はこうして供回りに着かせるには向かない。戦闘でこそ真価を発揮する。様々なスキルを見るにそれは明らか。見た目も美しくない。主人より悪い意味で目立つ出で立ちは権威を示す場でははっきり言って邪魔だとしか言えない。
そこまで分かっていて連れて行かなければならないのは……事と次第によっては、これだけ優秀な部下を本日失う事も考えられるからだ。その理由は勿論、今回参加する魔王に関連する。
”紫炎”と”灰燼”。
特に”紫炎”にはあわや殺されるところだった。
好き嫌いで物事を見ている紫炎は鏖を気に入っている。彼女を円卓に迎え入れた当時、彼女を抜けば一番若い魔王だった紫炎は先輩風を吹かせていたのを思い出す。いの一番に可愛がっていた後輩が突然いなくなるなど許されざる事だったに違いない。
だが”黒雲”を抜いた魔王達はその穴埋め要因に他ならない。つまり銀爪が死んだ後その息子に代替わりしたように、それぞれが強い魔王達とはいえ時代の流れには逆らえないというのは歴史が証明している。
理由こそ裏切りだったが、”鏖”から”朱槍”に代わるだけの事。その気持ちを持って報告に回っていたが、紫炎にはそれが気に入らなかった。あの時は何とか逃げ切れたが、それからあまり間を置かず今回の円卓が”蒼玉”によって招集されたのだ。警戒するなというのが無理というもの。
なら”灰燼”はどうかと言えば、元はグラジャラク大陸を仕切っていた魔王だ。鏖が強すぎる故、手出しできなかったが、魔王交代とあらば話は別。議題の中に必ず返還要求を出すのは目に見えている。未だグラジャラクでの栄光にしがみつく愚かな老人ではあるが、決してこの機を逃すような真似はしないだろう。会議の場に顔を出したのがその証拠だ。
兵士は多ければ多い程、格段に安全になるが、それは同時に威圧する事になり、無駄に敵を作る行為になってしまう。だからこそ最小限の戦力。だからこその血の騎士なのだ。
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