一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
200 / 718
第六章 戦争Ⅱ

第九話 焦り

しおりを挟む
 城にいるだろう銀爪を監視しているかたわら、ジャックスは激しくなった戦闘の臭いに神経を研ぎ澄ませていた。

(マサカモウ攻撃シテ来ルトハ……シカシ妙ダナ、シザー隊長カラノ情報デハ アニマン ハ動イテ無イト聞イテイタガ……)

 この事態に考えられるのは二つ。
 一つは接近を知っていたが敢えて黙って様子を見ていた。
 一応シザーから言い渡されたのは監視のみ。思えば未だ戦闘部隊が顔を見せていなかったし、人類の猛攻を機に戦力を削り、タイミングを見計らって攻撃を開始する手はずだったのかも知れない。そうだとしたら一応No.2の自分に伝えないのはどう言った意図があるのか計りかねる。
 二つはアニマンの軍がいつもとは違った移動方法を使用した。
 経験則に無い動きに気付くのが遅れ、接近を許してしまったという事。だとするならやはり軍経験者が少ないからと言って、民間人に監視を任せたのは間違いだったと答えが出た。

 前者なら仮にも策あっての事、後者なら今頃シザーも慌てふためいてどうすべきか模索しているだろう。いずれにしてもかなり緊迫した状況なのは間違いない。ジャックスの予想は後者。

(外ノ様子ヲ初メカラ知リ得タ俺達デスラ接近ニ気付カ無カッタ。トスレバ銀爪側ハモット慌テテイルニ違イナイ……)

 これはまたと無い好機。銀爪がビビって今以上に愚かになれば更に離反する者が出て来る。特に「王の護衛ロイヤルガード」が味方に付けば、一気に形勢が逆転する。ジュリアにも伝えたいところだが、ジャックスと同じく監視を命じられて別の場所にいるので、動かない方が逆に安全だ。ジャックスは一人移動を開始した。



 城から薄っすら見える戦闘を眺めながら銀爪は訝しんでいた。

「……おい、どういう事だ?アニマン如きに遅れを取っているのか?」

 本当ならいの一番に駆け付けて戦争に参加する所だが、火柱が上がった時からどうも様子がおかしい。今相手にしているのが本当にアニマンなのか疑った為に出る事が出来なかった。そこでリザードを走らせて情報の収集に向かわせていた。
 周りに侍る虎の魔獣人は微動だにする事なく激戦が行われているであろう場所を眺めていた。当然答えられるはずがない。だってずっと一緒にいたのだから。それを知りつつも銀爪は自分の問いに答えない「王の護衛ロイヤルガード」の面々にイラつきながらリザードの帰りを待つ。その思いが通じたのかガチャガチャと音を立ててようやくリザードが帰ってきた。

「銀爪様!!」

「遅ぇぞ!!さっさと状況を伝えろ!!」

 リザードはさっと姿勢を正して報告を行う。

「ハッ!失礼シマス!敵ハ白ノ騎士団ヲ連レテ王都ニ攻メ入リマシタ!!大猿部隊「岩拳」ヲ筆頭ニ応戦シテイマスガ、圧倒的戦力ニ為ス術ガゴザイマセン!!コノママデハ……!壊滅モ……」

 そこまで言って段々と声も縮小する。この報告は先の大戦を思い起こさせた。亡き前王リカルドが”魔断”のゼアルに致命傷を負わされたあの時の事を。

「……白の騎士団だと?っつーとあのふざけたデカブツか?あいつなら俺がボコったはずだが?」

 銀爪はリカルドの死以降の戦争、アニマンの追撃で白の騎士団の一人である”剛撃”を叩き潰した。これは父親にも出来なかった快挙である。

「前回ノ アニマン デハゴザイマセン!リカルド王ヲ倒シタ、アノ”魔断”デス!!」

 その報告を受けた時、「王の護衛ロイヤルガード」にも緊張が走る。魔断の力は彼らも目の前で見ている。危険は重々承知だが、銀爪に進言するのは気が引けた。癇癪を起こすと何を言い出すか分かった者ではないからだ。
 銀爪はその名前を聞いておし黙る。父親の死に関連する敵だし、銀爪にも思う事があったのだろう。一度外を見た後再度リザードに向き直る。

「……お前ら引き続き警戒に当たれ。誰も城に入れさせるな」

 銀爪はいつもの調子を隠して部屋を出て行く。部屋に残った部下たちはお互いの顔を見合ってどうすべきかを考える。方針が決まったのか、お互いに一つ頷くと彼らも部屋を出て行った。

 銀爪は足早に自室に戻ると、散らかった部屋の中で唯一綺麗な棚に手をかける。その中にあった高級そうなオルゴールを手に取るとソファに座り、目の前の机の上を全部床に落とした。何もなくなった机の上にオルゴールを乗せて蓋を開けると、その中には綺麗な水晶が埋まっていた。
 これは緊急の通信機。イミーナより文字通り緊急事態に備えて渡された。最初こそ断ったが念の為にとうるさいのでしまっておいた物だ。ブツブツと起動の呪文を呟くと輝き始める。程なくして通信が取られた。

『これは銀爪様。お元気そうで何より……ところでこのチャンネルは緊急用ですが、何かございましたか?』

「……チッ、馬鹿か?緊急だから使ってるに決まってんだろ。今俺の国に白の騎士団が攻めてきてやがる。すぐに援軍を送れ」

『……ほう?白の騎士団が……ついに魔獣人を滅ぼそうと攻撃を仕掛けましたか。以外にのんびりしているというか、何というか……』

イミーナは含み笑いで足を組み直しながらリラックスしている。

「おい聞いてんのか!?すぐに助けに来い!」

『ん?ふふっ……何を焦っているのです?貴方の実力はお父様を悠に超えております。何を恐れる事がございますか?前回アニマンの最強の一角を潰されたのは幻でしょうか?』

 銀爪の焦りに対してイミーナは煽り始めた。何か言おうかと口を開くが、何も言えないまま口を閉じる。事実銀爪は父親よりも強い。腕力も魔力も攻撃力ですら。見た目の筋肉量と威厳では勝ち目がないが戦闘能力では完全に優っている。
 しかし、残念な事に一度も父親から一本を取った事がない。訓練でも日常のちょっかいでも、暗殺だろうと全て回避された。父親には「経験の差だ」と襲う度に一蹴されたが、そんなはずないだろう。何らかの特異能力を用いて回避したことは明白。戦闘能力で優っていたにも関わらず頭が上がらなかったのはこの特異能力の秘密を暴けなかったからだ。
 あの日親の死に目に駆け付けたが、特異能力を持つはずの父が”魔断”の攻撃からは逃げられずに致命傷を負ったことに恐怖を感じた。”魔断”と聞いてその恐怖が蘇り、こうしてイミーナに頼る事になった。

「真面目に聞け。……今俺の国は内乱のせいで面倒な事になっている。それに追い討ちを掛ける人間共の強襲だ。俺一人で解決する範疇を超えてるんだよ」

『はぁ……内乱ですか……』

 別段驚いていない。現在のカサブリアが内紛状態に陥るのはイミーナには簡単に想像付く事だったのだろう。銀爪は一瞬後ろを振り向いたり忙しなくキョロキョロした後また口を開く。

「……前回までのテメーの失敗は全部水に流してやる。だから早く助けに来い……!」

『私の失敗を?それはまた……誠に寛大なお言葉ですねぇ』

 半笑いで椅子にもたれ掛かる。

「そうだ。今までの失敗はチャラだ。分かったら急いで部下を送れ」

 イミーナの顔が一瞬無表情になる。だがすぐに微笑を湛えると優しい声で言い放つ。

『承知しました。すぐに兵をかき集めて向かわせます。出来るだけ早く向かわせますが、今から準備いたしますので銀爪様の活躍には間に合わないやもしれませんね。それでは……』

「あ、おい!いつ着く……」

 銀爪が言い終わる前に通信を切られる。焦って何度か掛け直すも出る気配がない。癇癪でオルゴールを壊しそうになるがグッと堪えて机を破壊した。

「落ち着け……俺ならやれる……俺ならやれる……」

 自己暗示をかけて自分を鼓舞すると、おもむろに立ち上がり、ベッドのすぐ横に置いていた整髪剤で髪を整え直す。彼のやる気スイッチは自慢の髪の毛を逆立てさせることにある。鏡で仕上がりを確認して自信をつけると部屋から出て行った。



 通信を切ったイミーナは肩を震わせて我慢していた。フーッと細く長い息を吐いて自分を落ち着けるが、先の銀爪の顔を思い出したら我慢出来なくなった。

「ぷっ……あははははっ!!」

 ここまで大きく高笑いしたのはいつ以来だろう。そばに侍るメイドも驚きの表情を見せる。

「はー……おかしいぃ……ふふ、あの馬鹿ももう終わりか。呆気ないものね。まぁ大方利用したしもういいでしょう」

 すっと椅子から立つと移動しようとする。側で聞いていた家臣が訝しげに質問した。

「あ、あの、朱槍様。それで如何程カサブリアに?」

 イミーナはフッと慈愛の表情を浮かべる。

「……「もういい」と言ったのよ?兵は送りません。それにここからどれだけ早く飛んで行っても二、三日で着く距離ではないので向かわせるだけ無駄です。カサブリアには一度滅んでいただき、後々また取り返しましょう。私には他にやる事があるのでここを離れますが、もうよろしいですか?」

「はっ。失礼いたしました」

 家臣は頭を下げて下がる。イミーナは退室しながら重鎮と呼ばれる連中に辟易していた。

(どいつもこいつも馬鹿すぎる……私を満足させる部下が欲しいものですね……)

 イミーナは自国の改革を真剣に考える。イミーナが王の座を奪い、新しい王になったことを機に老害を排除することも視野に入れるべきでは?と画策していた。

(候補生を探しましょう。蒼玉に相談すれば少しはマシなのを紹介してくれるやもしれませんねぇ……)

 銀爪のアホさ加減を見て益々部下の入れ替えに力を入れたいと心の底から思わされた。皮肉も通じない間抜けに今後の世界を生き残るのは不可能だ。

(しかし、白の騎士団がカサブリアに……公爵からは何も報告はありませんでしたが、このまま泳がせるべきでしょうか……蒼玉に相談してみましょう。先の件も合わせて報告すればいい話のネタにもなりますし)

イミーナの自室に戻る足は実に軽やかだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...