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第七章 誕生
第二十七話 注告
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ラルフは勿体振りながらこの場の注目を集めた。
(翻弄されている……)
そう考えたのは妖精種の王、四大王。
(ただのヒューマンが長年それぞれの種族を取りまとめて来た頂点の我々を相手取り、不格好ながら立ち回って見せている。木っ端である事には違いない……だが、どうしてだ……あの程度の男に手玉に取られている)
『衝撃ノ事実ダト?フハハハ!今以上ニ衝撃的ナ事ガアルノカ?是非教エテ欲シイネ!』
獣王は愉快に笑う。それに不快感を示すのが何人かいたが、積極的に声を出したのは、もう一人のアニマンの王、牙王。
『ヒューマン風情ニ良イ様ニ唄ワセトイテ何ガ愉快ナモノカ……ラルフ、貴殿ハ魔王ノ傘ニ隠レテ図ニ乗ッテイル様ダガ、恥ズカシクハ無イノカ?』
牙王はラルフを蔑む。自分の力では何も出来ない愚か者と断じているのだ。王としての誇りが垣間見えた瞬間だ。
『無い』
ラルフは間髪入れずに答える。
『逆に聞くが、恥を持ってて俺みたいな雑魚が生き残れると思うか?』
牙王は恥も外聞もなく自分を卑下するラルフに、違和感と共に妙に納得するという奇怪な感覚に陥っていた。魔族は強者を認める。人族であれ同族であれ強い者を敬うのが魔族なら、ラルフは”鏖”にセオリー通り殺されている筈。しかし、そうなってない。常識では測れない事がラルフと鏖の間で起こっている。
『……あぁと、話が逸れた。次の話に移るぞ』
ラルフは机に体重を預けながら続ける。
『あんたらはとにかく明確な悪者が欲しいんだろうが、その明確な悪者は俺達なんかじゃあ無い。もっと近くで暗躍してるのさ』
公爵の眉がピクリと動いた。
『ホゥ?ソレデ……ソノ暗躍シテイル奴ハ一体何ヲ仕出カシタンダ?』
獣王はつまらなそうな、全く期待していない表情でラルフを眺めた。”王の集い”で初めて顔出しした様な奴が「暗躍」などと。王の事など知らない愚か者が単に引っ掻き回そうとしているだけとしか思えなかった。
『いや何、難しい話じゃ無い。この中に魔族と繋がっている奴がいる。自分は何にも悪くねぇってツラしてのうのうとここに座ってやがるんだ』
『くすっ……』
その時、空王が笑った。
『それはあなた自身でしょう?まるで自分は白かの様に言ってるけど、魔族に囲まれながら誰かを貶めようなんて無理に決まってるでしょ』
揚げ足を取って来た。別に構わない。想定内だ。
『確かに俺も含まれる。それは否定しねぇ。でも後ろから切りつけられるのはあんた達だって事は忘れねぇ様にな……』
スッと人差し指を前に出して、ラルフから見て左から順番に指を差していく。
「ふんっ、何かと思えば結局煙に巻いているではないか。裏切り者の存在をほのめかし、我らを疑心暗鬼に陥れ、分断を図ろうとしている。実に浅はかな考え方だな」
『そうか?浅はかなのはこの人魔大戦で魔族と取引し、自分だけは助かろうとしている卑怯者だと思うがねぇ』
公爵はニヤニヤしているラルフの顔を見て内心焦っていた。アルパザの一件から既に何かを掴んでいる感じだったので多少なりとも警戒していたつもりだったがそんな事は無かった。ラルフが急遽侵入して来た為に我を失っていたと認めざるを得まい。
『……ハッタリだな』
ホーンの王、刃王が声を上げる。
『我々は魔族に何度煮え湯を飲まされたと思っている?無論、我々とてその度に対抗して来た。その結果が千年以上続く人魔対戦へと姿を変えているのだ。それを何だ、取引し、自分だけ助かろうと?空王も言っていたが、それは貴様自身の事であって我らには関係あるまい』
『そう思うならそれでいいさ、これは単なる注告だ』
牙王は腕を組んで思案する素振りを見せた。
『分カラ無イナ……何故注告スル必要ガアッタ?ソンナ事セズトモ、犯人ヲ教エレバ良イ。ソレガ出来無イノハ知ラナイカラダロウ?』
『分かんねーかなぁ?こいつは脅しだ。俺はいつでも情報を開示してお前を糾弾出来るっていうな』
ニヤリと笑って答えた。この言い分を全面的に信じたら、この円卓の王達の中で裏切り者が混ざっていると言う事。ラルフの言い知れぬ自信の湧きどころが事実でないかと錯覚させる。
『後、最後にこれだけは言っておこう。俺達は敵じゃない。だからと言って味方でもない。俺達は俺達の好きな様に行動する。それを遮る奴がいれば、そいつは俺達の敵だ。容赦なく叩き潰す』
その目は冷ややかで、その目は公爵に向いていた。その後、王達を一瞥する。
『死にたくなければ逃げろ……。とまぁ、こんなもんか?』
ラルフは真剣な顔つきから一転、ふざけた様な表情を作って映像に乗せる。
「ラルフ……貴様……!」
『あ、マクマイン公爵。あんたとは差しで決着つけてやるぜ。首を洗って待ってな』
ピゥンッ
公爵が何かを言う前にラルフは通信を切った。何か一言言ってやろうと思った気持ちを踏みにじられ、感情の行き場がなくなってしまう。王の面々も、これをどう捉えたら良いか分からなくなっている。誰が信用出来て、誰が信用出来ないのか。小難しい事を考えていると、自然と仲間内で争いを始めた。始めは罵倒から入ったが、だんだん関わるのも嫌になったのか押し黙る。しんっと静まり返った場内で公爵が声を上げた。
「全く……とんだ招集になってしまいましたな。管理出来ていなかったばかりにこうして皆様の喧嘩に発展させてししまって……」
『そう落ち込むでない。イレギュラーの登場には手を焼くものよ。これも経験と飲み込むが良い』
森王は公爵に寄り添う姿勢を出した。しかし、その森王の言葉を無視して響王の方を向いた。
「魔王に対抗する手立てが白の騎士団では心許ない。響王、”八大地獄”は何処に居ると言ったかな?」
会場内がザワついた。
『正気か?あれを戦力に加えるつもりなら止めておけ。誰も近寄れんのだから……』
「なりふり構っていられんでしょう。私が直接向かいます。八大地獄の元へ案内をお願いします」
*
「あーあ。また喧嘩売ってー」
ラルフはミーシャに小言を言われていた。ベルフィアも横から口を挟む。
「ミーシャ様ノ言う通りじゃ。毎回こんなんじゃが、そちノ話し合いはどうしてすぐに挑発へ変わルんじゃ?本当に交渉ごとに携ワっておっタんか?」
「わぁお、辛辣だな……」
ラルフはベルフィアの言葉に苦笑いだ。少し考える素振りを見せて流し目で答えた。
「立場は常に俺の方が弱かったから交渉にすらなってなかったさ。媚びて媚びて媚び倒して、それでも爪弾きにされて来たんだ。負けっぱなしの人生、俺一人ならそれも良かった。けどお前らが俺を変えてくれた……」
ベルフィアから視線を外してミーシャを見る。
「……もう負けたくないってな」
「ラルフ……」
ミーシャの胸に恋の紐が巻きついてキュッと締める。惚れた弱みではあるが、ミーシャはラルフにときめいていた。しかしベルフィアには通じない。
「格好付けても、そちノ失態は覆らんぞ?」
「わぁお、辛辣だな……」
(翻弄されている……)
そう考えたのは妖精種の王、四大王。
(ただのヒューマンが長年それぞれの種族を取りまとめて来た頂点の我々を相手取り、不格好ながら立ち回って見せている。木っ端である事には違いない……だが、どうしてだ……あの程度の男に手玉に取られている)
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牙王はラルフを蔑む。自分の力では何も出来ない愚か者と断じているのだ。王としての誇りが垣間見えた瞬間だ。
『無い』
ラルフは間髪入れずに答える。
『逆に聞くが、恥を持ってて俺みたいな雑魚が生き残れると思うか?』
牙王は恥も外聞もなく自分を卑下するラルフに、違和感と共に妙に納得するという奇怪な感覚に陥っていた。魔族は強者を認める。人族であれ同族であれ強い者を敬うのが魔族なら、ラルフは”鏖”にセオリー通り殺されている筈。しかし、そうなってない。常識では測れない事がラルフと鏖の間で起こっている。
『……あぁと、話が逸れた。次の話に移るぞ』
ラルフは机に体重を預けながら続ける。
『あんたらはとにかく明確な悪者が欲しいんだろうが、その明確な悪者は俺達なんかじゃあ無い。もっと近くで暗躍してるのさ』
公爵の眉がピクリと動いた。
『ホゥ?ソレデ……ソノ暗躍シテイル奴ハ一体何ヲ仕出カシタンダ?』
獣王はつまらなそうな、全く期待していない表情でラルフを眺めた。”王の集い”で初めて顔出しした様な奴が「暗躍」などと。王の事など知らない愚か者が単に引っ掻き回そうとしているだけとしか思えなかった。
『いや何、難しい話じゃ無い。この中に魔族と繋がっている奴がいる。自分は何にも悪くねぇってツラしてのうのうとここに座ってやがるんだ』
『くすっ……』
その時、空王が笑った。
『それはあなた自身でしょう?まるで自分は白かの様に言ってるけど、魔族に囲まれながら誰かを貶めようなんて無理に決まってるでしょ』
揚げ足を取って来た。別に構わない。想定内だ。
『確かに俺も含まれる。それは否定しねぇ。でも後ろから切りつけられるのはあんた達だって事は忘れねぇ様にな……』
スッと人差し指を前に出して、ラルフから見て左から順番に指を差していく。
「ふんっ、何かと思えば結局煙に巻いているではないか。裏切り者の存在をほのめかし、我らを疑心暗鬼に陥れ、分断を図ろうとしている。実に浅はかな考え方だな」
『そうか?浅はかなのはこの人魔大戦で魔族と取引し、自分だけは助かろうとしている卑怯者だと思うがねぇ』
公爵はニヤニヤしているラルフの顔を見て内心焦っていた。アルパザの一件から既に何かを掴んでいる感じだったので多少なりとも警戒していたつもりだったがそんな事は無かった。ラルフが急遽侵入して来た為に我を失っていたと認めざるを得まい。
『……ハッタリだな』
ホーンの王、刃王が声を上げる。
『我々は魔族に何度煮え湯を飲まされたと思っている?無論、我々とてその度に対抗して来た。その結果が千年以上続く人魔対戦へと姿を変えているのだ。それを何だ、取引し、自分だけ助かろうと?空王も言っていたが、それは貴様自身の事であって我らには関係あるまい』
『そう思うならそれでいいさ、これは単なる注告だ』
牙王は腕を組んで思案する素振りを見せた。
『分カラ無イナ……何故注告スル必要ガアッタ?ソンナ事セズトモ、犯人ヲ教エレバ良イ。ソレガ出来無イノハ知ラナイカラダロウ?』
『分かんねーかなぁ?こいつは脅しだ。俺はいつでも情報を開示してお前を糾弾出来るっていうな』
ニヤリと笑って答えた。この言い分を全面的に信じたら、この円卓の王達の中で裏切り者が混ざっていると言う事。ラルフの言い知れぬ自信の湧きどころが事実でないかと錯覚させる。
『後、最後にこれだけは言っておこう。俺達は敵じゃない。だからと言って味方でもない。俺達は俺達の好きな様に行動する。それを遮る奴がいれば、そいつは俺達の敵だ。容赦なく叩き潰す』
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『あ、マクマイン公爵。あんたとは差しで決着つけてやるぜ。首を洗って待ってな』
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