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第八章 地獄
第一話 服屋のマヤ
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最近厳重に強化された人類の安息の地「アルパザ」。
アルパザ消滅の危機からこっち、イルレアン国から派遣されてきた黒曜騎士団の騎士達が駐屯して更に安全となっていた。
この町の路地裏に位置する暗くジメジメした場所を女性が一人、竹で編んだバスケットを持って歩いていた。バスケットの中には体の採寸を図るメジャーや契約書、バインダーと服のカタログ画等、服飾に関する道具が入っていた。
町一番の服飾専門店「ローパ」から派遣された彼女は、この町一番のお得意様である「アルパザの底」の店主に会いに饐えた臭いのする道を黙々と歩く。派遣される人はまちまちで、彼女は今回が二回目。特に方向音痴ではないので何の心配もなく辿り着けるのだが、用心に越したことはないと地図を見ながら進む。何度目かの角を曲がった突き当りにお目当ての場所を見つけた。
「あったあった」
彼女は店に入る前に服のシワや汚れを今一度確認する。臭い路地裏のニオイが付いた気がして服のニオイを嗅ぎ、特に臭わなかったので追いコロンは必要ないと自信を持って一つ頷いた。扉を捻ってゆっくり開けると、ヒョコッと顔を出すように店内を覗き込んだ。
「ごめんくださーい」
商品が所狭しと並ぶ店内に肝心の店主の姿が見えない。「……あれ?」と首を傾げながら店内に入る。もう一度声をかけるが特に反応がない。バスケットに入れている伝書鳥からの急用の郵便を広げる。そこには今日この時間に出張での採寸を依頼する旨が記載されている。自分が間違っているわけでもないし、この店もしっかり開店しているところから、店主は間違いなくここにいたと思われる。もしかしたら自分が来る前に時間があったから買い物に出ているのかもしれない。気楽に商品でも見て待つことにした。
「おやおや、これは美味そうなノが来タノぅ」
ドキッとして振り向く。そこにはいつからそこに居たのか、生き物とは思えない真っ白な肌に不釣り合いなほど赤い舌が覗く。髪も白く、頭から白い塗料をかぶったような奇妙な存在に瞠目せざるを得ない。声や起伏の富んだシルエットが女性であると教えてくれた。
(店員?)
真っ先に思ったのがそれだ。ここには奇妙奇抜な商品ばかりが並んでいる。(もしかしたらここで働く人も店内の雰囲気に負けない人材を求めているのかもしれない)などと詮無いことを考えながら頭を下げた。
「あ、初めまして「ローパ」から来たマヤと申します。本日は私共のローパをご利用いただきありがとうございます。早速仕事に取り掛かりたいと考えているのですが、店主は何処にいらっしゃいますか?」
「ほぅ、そちがそうか。ふーむ、中々ノ真面目さんじゃが一人では時間がかかりそうじゃな……まぁ良いじゃろ。あやつなら買い出しに出とル。来たら先に行けとノ事じゃから、そちノ言う通りさっさとしてもらうかノぅ。何せ人数が多いもんでな」
白い女は肩を竦めながらマヤに近寄る。何を行っているのかいまいち分からないマヤは、とりあえず人数が多いと言うことに焦点を絞って答える。
「あの、本日は私を含めて三人しか出勤予定にないので……私一人だけで大変申し訳ないのですが、精一杯やらせていただきます」
手を目の前でグッと握り、気概を見せる。女はニヤニヤしながらマヤの肩に触る。
「そノ意気や良し。妾達ノ為に働くが良い」
「はい。それで他の方は……?」
奥に居るのかとレジ奥を見る。それに対して首を振る。女は何処から取り出したのか、杖を握りしめて頭上に振りかぶった。
「上に居ル」
その言葉と共に「アルパザの底」から消失する。マヤの目には一瞬光に包まれた後に、店内から全く未知の広い空間に景色が変わった様に見えた。いきなりの事に驚きすぎて後ずさりしながら状況を把握しようと周りを見渡す。五感から入ってくる情報と理解出来ない脳の処理のせいで、足がもつれて躓いた。
「あっ!」
尻餅をつきそうになる直前に優しく抱きとめられた。
「っと、危ない。大丈夫ですか?」
目を開けるとそこには少年と青年の間と言える若くハンサムな顔が心配そうに覗き込んでいた。トクンッと胸が高鳴る。足が躓いて盛大にコケる刹那にお姫様抱っこで助けられる。恋愛物語の一ページにありそうなシーンに心の底からときめいた。
「あ、あの……ありがとう……ございます」
自分よりも絶対若い男の子に敬語になってしまう。それもそうだろう。大人の女性の全体重を軽々と支える逞しい二の腕に、何より自分を心配してくれる優しい表情を見てしまえば、喜びより申し訳なさが先行して恐縮してしまうというもの。「それは良かった」と微笑んで、そっとガラスや陶器でも扱う様にそっと床に立たせてくれる。王子様の様な行動にさらに胸が高鳴る。
(だ……駄目よマヤ!私には夫がいるのよ!!新婚で浮気だなんて、あり……あり得ないから!!)
そうは考えても目の前の男の子から目が離せなくなる。
「?……顔が赤いですけど、もしかして体調が優れないとか?」
男の子は眉をハの字にしながら声をかける。ハッとして両手でサッと顔を挟み込む。
「い、いえ!大丈夫です!なんともないですから!!」
焦って声が大きくなる。心を落ち着ける為に男の子から視線を外して深呼吸する。冷たい空気を肺に取り込むと幾分マシになってきた。さっきまで全く気づかなかったが周りにも人がいた。周りは女性ばかりでメイド服を着込んでおり、この場所が何処かの建物の広場兼食堂であると推察出来るた。中には不機嫌そうにこちらを見るメイドではない女性なども居るが、だんだん状況が飲み込めてきた。
(……何処かのお城?でもさっきまでお店にいたのに、どうやってここまで……?)
移動方法こそ分からなかったが、ここに控えるメイド達以外の採寸だろうと考える。何人かまでは分からないが、この男の子と女の子の二人は確実だ。他の部屋に居たりすれば、正確になど分かるわけもない。
「妾はミーシャ様とラルフを連れて帰ル。マヤとやら、先にここに居ル者達全員ノ相手を頼むぞ。ブレイド、丁重にもてなせ」
「分かりました。アルル、そんなブスッとせずに一緒にやろう」
不機嫌そうにしていたのはアルル、男の名前はブレイドというらしい。それにミーシャとラルフという聞き慣れた名前が聞こえてきた。
「ミーシャさんとラルフさん……ってもしかして、あの魔族襲撃の前にお店に来た……?」
過去自分が対応した人全員を覚えているわけではないが、特徴的な二人だったことは覚えている。ミーシャはダークエルフの女性、ラルフは小汚い格好で草臥れたハットを被っていた男性。魔鳥人襲撃の件と重なって脳裏に刻まれていた様だ。
その他にも白い女の発した「全員」というところに引っ掛かった。ここにいる全員ということはメイドも含めてだろうか?聞こうと振り返ったが既に姿は無く、音もなくかき消えていた。不思議に思って見渡していると、アルルが声を上げた。
「ジュリアさーん。最初にお願いします」
ジュリア。また新しい人物の名前が挙がった。先の「全員」を鵜呑みにするなら、もしやここに居るメイドの一人だろうか?どれがジュリアか眺めていると、そのメイドをかき分ける様に人狼が姿を現した。
「ハァ……何デ最初ガ アタシ ナノヨ……」
「だって人狼の採寸した人なんて居ないだろうから時間掛かるかもって話し合ったじゃないですか。文句は後にして下さい」
その姿を間抜けにポカンと見ていたマヤは意識が遠のいていくのを感じる。(これはきっと夢だ)と体が気絶を選んだのだ。ブレイドはまた即座に抱きかかえる。
「やっぱり体調悪かったのか……仕方ない、ちょっと寝かせよう。空いてるベッドってありますか?」
マヤはラルフたちが戻ってくるまで眠りこけ、ラルフの説明と説得を受けてから最初の仕事に取り掛かるまでに今から二時間を要することになる。
アルパザ消滅の危機からこっち、イルレアン国から派遣されてきた黒曜騎士団の騎士達が駐屯して更に安全となっていた。
この町の路地裏に位置する暗くジメジメした場所を女性が一人、竹で編んだバスケットを持って歩いていた。バスケットの中には体の採寸を図るメジャーや契約書、バインダーと服のカタログ画等、服飾に関する道具が入っていた。
町一番の服飾専門店「ローパ」から派遣された彼女は、この町一番のお得意様である「アルパザの底」の店主に会いに饐えた臭いのする道を黙々と歩く。派遣される人はまちまちで、彼女は今回が二回目。特に方向音痴ではないので何の心配もなく辿り着けるのだが、用心に越したことはないと地図を見ながら進む。何度目かの角を曲がった突き当りにお目当ての場所を見つけた。
「あったあった」
彼女は店に入る前に服のシワや汚れを今一度確認する。臭い路地裏のニオイが付いた気がして服のニオイを嗅ぎ、特に臭わなかったので追いコロンは必要ないと自信を持って一つ頷いた。扉を捻ってゆっくり開けると、ヒョコッと顔を出すように店内を覗き込んだ。
「ごめんくださーい」
商品が所狭しと並ぶ店内に肝心の店主の姿が見えない。「……あれ?」と首を傾げながら店内に入る。もう一度声をかけるが特に反応がない。バスケットに入れている伝書鳥からの急用の郵便を広げる。そこには今日この時間に出張での採寸を依頼する旨が記載されている。自分が間違っているわけでもないし、この店もしっかり開店しているところから、店主は間違いなくここにいたと思われる。もしかしたら自分が来る前に時間があったから買い物に出ているのかもしれない。気楽に商品でも見て待つことにした。
「おやおや、これは美味そうなノが来タノぅ」
ドキッとして振り向く。そこにはいつからそこに居たのか、生き物とは思えない真っ白な肌に不釣り合いなほど赤い舌が覗く。髪も白く、頭から白い塗料をかぶったような奇妙な存在に瞠目せざるを得ない。声や起伏の富んだシルエットが女性であると教えてくれた。
(店員?)
真っ先に思ったのがそれだ。ここには奇妙奇抜な商品ばかりが並んでいる。(もしかしたらここで働く人も店内の雰囲気に負けない人材を求めているのかもしれない)などと詮無いことを考えながら頭を下げた。
「あ、初めまして「ローパ」から来たマヤと申します。本日は私共のローパをご利用いただきありがとうございます。早速仕事に取り掛かりたいと考えているのですが、店主は何処にいらっしゃいますか?」
「ほぅ、そちがそうか。ふーむ、中々ノ真面目さんじゃが一人では時間がかかりそうじゃな……まぁ良いじゃろ。あやつなら買い出しに出とル。来たら先に行けとノ事じゃから、そちノ言う通りさっさとしてもらうかノぅ。何せ人数が多いもんでな」
白い女は肩を竦めながらマヤに近寄る。何を行っているのかいまいち分からないマヤは、とりあえず人数が多いと言うことに焦点を絞って答える。
「あの、本日は私を含めて三人しか出勤予定にないので……私一人だけで大変申し訳ないのですが、精一杯やらせていただきます」
手を目の前でグッと握り、気概を見せる。女はニヤニヤしながらマヤの肩に触る。
「そノ意気や良し。妾達ノ為に働くが良い」
「はい。それで他の方は……?」
奥に居るのかとレジ奥を見る。それに対して首を振る。女は何処から取り出したのか、杖を握りしめて頭上に振りかぶった。
「上に居ル」
その言葉と共に「アルパザの底」から消失する。マヤの目には一瞬光に包まれた後に、店内から全く未知の広い空間に景色が変わった様に見えた。いきなりの事に驚きすぎて後ずさりしながら状況を把握しようと周りを見渡す。五感から入ってくる情報と理解出来ない脳の処理のせいで、足がもつれて躓いた。
「あっ!」
尻餅をつきそうになる直前に優しく抱きとめられた。
「っと、危ない。大丈夫ですか?」
目を開けるとそこには少年と青年の間と言える若くハンサムな顔が心配そうに覗き込んでいた。トクンッと胸が高鳴る。足が躓いて盛大にコケる刹那にお姫様抱っこで助けられる。恋愛物語の一ページにありそうなシーンに心の底からときめいた。
「あ、あの……ありがとう……ございます」
自分よりも絶対若い男の子に敬語になってしまう。それもそうだろう。大人の女性の全体重を軽々と支える逞しい二の腕に、何より自分を心配してくれる優しい表情を見てしまえば、喜びより申し訳なさが先行して恐縮してしまうというもの。「それは良かった」と微笑んで、そっとガラスや陶器でも扱う様にそっと床に立たせてくれる。王子様の様な行動にさらに胸が高鳴る。
(だ……駄目よマヤ!私には夫がいるのよ!!新婚で浮気だなんて、あり……あり得ないから!!)
そうは考えても目の前の男の子から目が離せなくなる。
「?……顔が赤いですけど、もしかして体調が優れないとか?」
男の子は眉をハの字にしながら声をかける。ハッとして両手でサッと顔を挟み込む。
「い、いえ!大丈夫です!なんともないですから!!」
焦って声が大きくなる。心を落ち着ける為に男の子から視線を外して深呼吸する。冷たい空気を肺に取り込むと幾分マシになってきた。さっきまで全く気づかなかったが周りにも人がいた。周りは女性ばかりでメイド服を着込んでおり、この場所が何処かの建物の広場兼食堂であると推察出来るた。中には不機嫌そうにこちらを見るメイドではない女性なども居るが、だんだん状況が飲み込めてきた。
(……何処かのお城?でもさっきまでお店にいたのに、どうやってここまで……?)
移動方法こそ分からなかったが、ここに控えるメイド達以外の採寸だろうと考える。何人かまでは分からないが、この男の子と女の子の二人は確実だ。他の部屋に居たりすれば、正確になど分かるわけもない。
「妾はミーシャ様とラルフを連れて帰ル。マヤとやら、先にここに居ル者達全員ノ相手を頼むぞ。ブレイド、丁重にもてなせ」
「分かりました。アルル、そんなブスッとせずに一緒にやろう」
不機嫌そうにしていたのはアルル、男の名前はブレイドというらしい。それにミーシャとラルフという聞き慣れた名前が聞こえてきた。
「ミーシャさんとラルフさん……ってもしかして、あの魔族襲撃の前にお店に来た……?」
過去自分が対応した人全員を覚えているわけではないが、特徴的な二人だったことは覚えている。ミーシャはダークエルフの女性、ラルフは小汚い格好で草臥れたハットを被っていた男性。魔鳥人襲撃の件と重なって脳裏に刻まれていた様だ。
その他にも白い女の発した「全員」というところに引っ掛かった。ここにいる全員ということはメイドも含めてだろうか?聞こうと振り返ったが既に姿は無く、音もなくかき消えていた。不思議に思って見渡していると、アルルが声を上げた。
「ジュリアさーん。最初にお願いします」
ジュリア。また新しい人物の名前が挙がった。先の「全員」を鵜呑みにするなら、もしやここに居るメイドの一人だろうか?どれがジュリアか眺めていると、そのメイドをかき分ける様に人狼が姿を現した。
「ハァ……何デ最初ガ アタシ ナノヨ……」
「だって人狼の採寸した人なんて居ないだろうから時間掛かるかもって話し合ったじゃないですか。文句は後にして下さい」
その姿を間抜けにポカンと見ていたマヤは意識が遠のいていくのを感じる。(これはきっと夢だ)と体が気絶を選んだのだ。ブレイドはまた即座に抱きかかえる。
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