一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第八章 地獄

第二話 終わったはずの脅威

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 結局オーダーメイドが必要になったのはジュリアとアルルで、他は既製品で間に合うということで帰結した。ジュリアは言わずもがな人狼ワーウルフなので合う服など存在しない。アルルは胸の大きさが常人に比べると大きいので繕う必要があるとのこと。オーダーメイドは割増料金なので出来れば無い方が良かったが、二人だけならケチケチする事も無い。

「本当にお前のは要らないのか?」

「ああ、私は大丈夫だ」

 そう答えるのはアンノウン。採寸の際に一人だけ断った様で、理由を聞けば自分で作るとのことだった。

「裁縫が出来るってことなのか?」

「ん?違うよ。私の能力にはアバター召喚という特殊スキルがあるでしょ?私のアバターに好きな衣装を着せればどうってこと無いって話よ」

 アンノウンは召喚魔法……ではなく創作魔法という異世界転移者ボーナスの特異能力を保有している。自身の魔力を使用して作った魔法陣から、頭の中でだけ存在する魔物や変り身を召喚(創作)する謎魔法を使用する。変り身には意識を飛ばして自在に動かすことが可能で、変り身が幾ら死んでも本体には擦り傷すら無いというチートスキル。

「あれには着せ替えも出来たのか……」

「あくまでアバターだけね。そうそう、本体である私も着替えたいから服が欲しいんだけどさ。もう少しラフな格好っていうの?今日来てくれた店員さんのお店に買い出しに行ってきても良いかな?」

「おう、良いぞ。明日にでもデュラハンの誰かを連れて一緒に行ったらどうだ?お金もそのタイミングで渡すから行く時は声をかけてくれ」

「ああ、ありがとう。そうするよ」

 アンノウンはデュラハンに目を向けながら了承した。誰と行くべきか悩んでいるだろう目を見て、ラルフもデュラハンに視線を送る。

「……俺のオススメはイーファだな」

 そっと耳打ち程度に伝える。十一女のイーファ、根が真面目でほとんど自分の色を出さない地味な子なので気に入っている。姉妹の中で三番目に強いという所もポイントが高い。ラルフは表情を緩ませながら横目で反応を窺う。
 それを聞いたアンノウンは白けた目でラルフを見てきた。何が気に障ったのか、不機嫌になっている様にも見える。得意げになっていたラルフは目を泳がせながら「……いや、何でもない」とその視線から逃げる様に踵を返した。



 採寸と注文を一挙に受け取って、大体の見積もりを出したマヤはようやく解放されることとなった。
 気付けば外は真っ暗で足元も碌に見る事が出来ない。路地裏はそうでなくとも暗くて本来近寄る事がないので薄気味悪く感じた。バスケットには服飾の道具やカタログばかりで明かりとなるものなど持ち合わせていない。それもそのはず、店主のオーダーメイドのスーツを作ると思っていたのでここまで遅くなるのは想定していなかった。
 それは「アルパザの底」の店主も同じで、マヤが仕事を終えるまで待っていてくれた為、疲れた様子で大きくため息を吐いていた。
 こうなったのは先に色々告げて無かった店主やラルフに問題があると思うのだが、採寸で時間を掛けた自分に問題がある様な気がして恐縮する。

「あ、あの……すいません。こんな時間まで……」

「ん?ああ、君はただ仕事をしただけだ。気にやむ事は無い。むしろあんな連中に対してよく頑張ったと褒めてあげたいくらいさ」

 店主は乾いた笑いで手に収まるくらいの小さなライトを点けて地面を照らす。

「近くまで送ろう」

 マヤは感謝を述べながら店主について行く。しばらく黙っていたが、色々気になっていたマヤは声を掛けた。

「あの……あの人達は一体何なんですか?魔族が居たんですけど……」

「ふぅむ……何なんだろうな……」

 店主も首を傾げる。ラルフという人物は多少なり知っているつもりだが、その他が絶望的によく分からない。ミーシャは相変わらずだったが、吸血鬼は雰囲気が変わっていた。他にも仲間がいる様に示唆していたが、この三人以外の顔を見ていないので未知数な面が多い。

「俺も聞きたいんだが、これだけ時間が掛かったのはどうしてだい?そんなに人数が多かったのか?」

「ええ、そうなんです。メイドさん含めて十数人の採寸をしました。魔法であっという間に大きな建物に連れて行かれて、そこに大勢居て……ふふっ、そういえば採寸前に私気絶しちゃって、そこでも時間取られて……」

 失敗談を笑い話にしようとしたが、しんっと静まり返ったのを察して黙る。マヤの話には全く興味が無いのか相槌の一つも打たない。バツが悪くなったマヤは咳払いを一つして仕切り直す。

「……ごめんなさい……とにかく人数が多かったんです。あと魔獣人を採寸したのも初めてだったので、そこで結構時間を取られて……」

「魔獣人?あの野郎、そんな所にまで手を伸ばしてやがったのか……」

 訳知り顔で吐き捨てる。

「……ひょっとしてカサブリアの一件に絡んでるんじゃねぇだろうな?」

 独り言の多い店主だ。もとより彼女は眼中になく、ラルフに顎で使われる境遇の一致に同情しただけだろう。小さい町だというのに横との繋がりを絶っていく姿勢は感心出来ない。
 だがマヤはこれも仕事の内だと割り切る。それにカサブリアといえば人類が勝利を収めたと大々的に発表し、その報告に夫も喜んでいたのは記憶に新しい。このまま喋らせれば色々口を滑らせそうだ。

「魔獣人の種類は分かるかい?魔鳥人とか角のある奴とか」

「えっと、人狼ワーウルフでした」

 それを聞いて掛けていたメガネを外して目頭を押さえた。その後すぐに目をしばたたかせながらメガネを掛け直した。

「なるほど……てことはアレも自作自演の可能性があるわけか……」

 魔断のゼアルと共に守衛のリーダーから報告があった魔鳥人によるアルパザ襲撃事件。そこに参加していた人狼ワーウルフの存在。襲撃にどんな意味があったのかは定かではないものの、人狼ワーウルフが仲間に居たのなら、自作自演の線はあり得なくはない。最早何が本当で何が嘘なのか計りかねる。

「アレって何ですか?」

 店主はマヤに目を向ける。言うべきかどうか逡巡し、唇を尖らせながら前方に目をやる。そこで何かに気付いた様に店主は目を見開いた。

「……君の旦那さんじゃ無いかな?」

 反射的に前方を見るとそこには確かに夫が立っていた。

「マヤ!」

 焦った顔で妻に駆け寄る。立派なあごひげを蓄えた屈強な戦士。守衛のリーダーをこなし、騎士団との連携を密にしていて、この町を守護する男の中の男。

「あなた、ただいま。まだ起きてたの?」

「当たり前だろ。お前が無事に帰るまで寝られるわけがない」

 心配そうな目から一転、不機嫌な目に変わって店主を睨みつける。

「あんたか?こんな時間までうちの家内を束縛してたのは……!」

 掴みかかりそうな程の剣幕で店主ににじり寄る。マヤは慌てて止めに入る。

「違っ……!そうじゃ無いの!私の手際が悪くて……」

「て、てて、手際!?お前この野郎!!まだ新婚ホヤホヤなんだぞ!!」

 夫は何を勘違いしたのか店主の肩を掴んで強く揺さぶった。

「ちょっ!落ち着け!!俺は何もしていない!!」

 店主も困惑気味に否定する。この問答が多少続いた所で騎士達が止めに入って何とか落ち着きを取り戻した。

「納得の説明を聞かせてくれよ」

 ここで話し合ったら近所迷惑になりそうだが、夫は梃子てこでも動かなそうだったので諦めて説明に入った。

「今日は大きな仕事が入って大変だったのよ。十数人の採寸と服の注文が入ったから、また明日からも徹夜が続きそうで……」

「それはあんたが依頼したのか?」

 マヤの言葉を遮る様に質問を被せる。いつもは優しい夫が時々見せる怒りの表情に複雑な気持ちになる。店主は頬を掻きながら返答に困っている。

「ああ、まぁ……対外的には……」

「んだそりゃ?喧嘩売ってんのか!?」

 また大騒ぎしそうな夫を騎士達が静止する。

「やめてよ。本当にただの仕事なだけで大騒ぎするほどじゃないってば。依頼主はラルフさんで、人数が多かっただけだから全然そんな……」

「あっ!おいっ……!!」

 店主はマヤの素直な返答に焦る。何を隠すことがあるのか?このままでは店主が一方的な悪者になるというのに。マヤは誤解を解く為に声を上げようとするが、夫の見た事もない驚いた表情にそれ以上の言葉が出なかった。

「い、今……ラルフって……」

 店主はこれまで以上に大きくため息を吐き、目を丸くする周りの人たちに声を落として伝える。

「そうだ、ラルフが来ている。無駄な争いが起こらない様に内々に事を進めようと思っていたが無理だったな」

 この事には騎士達も色めき立つ。騎士の何人かは静止する間も無くさっさと走り去ってしまった。

「これでまた戦闘が始まる……」

 夫はすぐにマヤの肩を掴んだ。

「すぐにこの町から逃げよう!荷物をまとめるんだ!」

「すぐは無理よ!」

「何で!?」

「大口の仕事だもん。半端な真似は出来ないわ」

「仕事なんて他の地でも出来る!命は一つしかないんだぞ!?」

 襲撃事件は彼の心に大きな傷を残している。トラウマを掘り起こされた彼には今彼女の声は届かない。

「ダメだ。今の仕事はやり遂げろ」

 それをきっぱりと言い放ったのは店主だ。第三者からの介入に苛立ちながら視線を向けると、店主の目も鋭く睨み返す。

「奴らからの依頼をおざなりにすれば、それこそ命がない」

 その言葉は力強く、絶対に抗えぬ世界の意思を感じる程だった。夫は妻の肩から手を離す。「すまない」と一言言うと、逃げられない現状に肩を震わせて泣き始めた。これ程弱々しい夫の姿は初めてだったので、マヤはようやく自分が立たされている状況がいかに不味いか実感し始めた。

「……え?これ私、大丈夫なの?」
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