一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第八章 地獄

第三十八話 未知との遭遇

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(何かがおかしい……)

 イミーナは蒼玉との意見交換の後で通信機を見つめながら固まっていた。
 グラジャラク大陸の内政はいつも通り概ね良好。最近では荒れた魔族を取り締まって平和を保ち、国民が軍隊化してきているのを肌で感じる。助け合いなどクソ食らえの魔族が、群れて行動する様は人族にとって脅威に他ならない。我こそが一番と単独行動してくれるなら囲んで倒しやすい。しかし群れて行動するとなると弱点をカバーし合って、倒しにくくなてしまう。
 グラジャラクに住む魔族たちは力自慢の頭足らずが多く存在し、搦め手に弱い特徴がある。その為、罠を張り巡らせて各個撃破をしていくのがパターンと化していたのだが、軍隊のように固まって動かれてはどうしようも無い。ミーシャが王をやっていた頃とは明らかに違う行動。
 当然のことだが突然ではない。ミーシャを追い出した後で公爵たちがイミーナに対し何かを仕掛けてくることを予想して、密かに訓練していた部下を放ち、頭の弱い魔族を扇動するように言い含めた結果だ。一部の例外を除き、ほとんどの魔族がこれに従った。
 結果公爵たちは逆らうのをやめ、第二魔王”朱槍”を礼讃し始める。今まで自分に対して非難の目を向けてきた権力者が、諸手を挙げて賞賛する様は良い気分を通り越して滑稽であった。
 国力を増大し、魔王同士の横の繋がりも増す一方な時に起こった悲劇「撫子の死」。せっかくこれから躍進するはずだった円卓の出鼻を挫かれた形だが、首を傾げるきっかけになったのは蒼玉の見解がバードによるものであると決め付けた内容だったから。
 何らかの策か、何もないのか、あるいは自分にもひた隠しにすべき何かがあったのか。

「……どれもありそうね……」

 ポツリと空気にそっと消え入るほど小さく呟いた。
 撫子はバード如きにやられるような雑魚では無い。倒された場所がホルス島だったとしても、倒したのはもっと違う連中だ。例えばそう、ミーシャとか。

「あの女……まだ諦めていないと言うの?」

 蒼玉はミーシャを手に入れたかった。ペルタルク丘陵に頻繁に遊びにくるミーシャをどこにも出ていかないように縛り付けるのが目的だと言う変態だ。
 裏切りに関する支援を惜しみなく提供してくれた彼女のお陰で今この地位についていることは確かなのだが、先も触れたようにミーシャを監禁することが目的である為、最終的には彼女の気を引くついでに用無しだと切り捨てられるのでは?と危惧していた。今回の通信でその片鱗を垣間見た気がして、気が気でならない。

「時間操作……あの能力については何も分かっていないと言うのに……悠長に構えている場合ではないようね……」

 疲れたようにため息を吐きながら通信機を片付けていると、コンコンッとノック音が響き渡った。

「……誰?」

「エマでございます朱槍様。今宜しいでしょうか?」

 その名前に聞き覚えがあったイミーナは「お入りなさい」と即座に招き入れた。エマはお礼を言いつつ部屋に入ってくる。

「それで?一体何の用かしら?」

「本日のご予定にあった謁見に関してでございます。ご準備は整っていらっしゃいますか?」

「……ん?」

 イミーナはスケジュール表を取り出す。今日の予定には下々の誰かと会う予定はなかったはず。指でなぞりながら何度か確認するも、謁見に関する項目は一文たりとも見受けられなかった。

「勘違いですよエマ。別の日と勘違いしていたと言うなら今回は見逃しましょう。あなたがヘマをするのは実に何十年ぶりでしょうか?これを機に仕事のやり方を見直して見ては?」

 イミーナはエマに対して寛大な対応をしてみせる。ここでエマが「申し訳ございません!」と狼狽しながら頭を下げる姿が目に浮かぶが、実際は全く頭を下げる素振りを見せず、ピンと背筋を伸ばして良い姿勢のままイミーナを見下ろしていた。

「服装はそれで宜しいのですか?もう少し威厳のあるものを着飾ってみたら如何でしょう?例えばマントとか……」

 あくまで謁見があると言うていで話を進めてくる。ここまで堂々とされるとスケジュール表に書かれていなかっただけのような気がしてきた。

「……ちなみにどなたと?」

「神様でございます」

「か……み……?」

 あまりの返答に狼狽えて言葉が途切れ途切れになった。突如聞かされた荒唐無稽な言葉に目眩を起こしそうになる。何故エマは突然狂ってしまったのか?この女だけが特別なのか、それとも何らかの理由で皆こうなる可能性があるのか?
 イミーナは焦る気持ちを我慢して続きを促す。

「そ、それで……何処で会うのかしら?まさか玉座の前とは言わないでしょうね?」

「……何をおっしゃいます?」

 いや、こちらのセリフだ。辛抱強く聞いてやったと言うのに梯子を外すとは何事か?これが他愛ない冗句であると言うなら、命を持って贖わせねばならない。全くもって不敬である。
 だがその考えは次に紡がれた言葉で吹き飛ぶ。

『……目の前にいるではないか?』

 その声は女性から出たとは思えない心胆を震わせるような低い声だった。驚愕してエマを見やる。その雰囲気はさっきまでのとぼけた空気とは一線を画す。

「……あなたが神?」

 イミーナが質問すると、エマのガワを持つ何かがコクリと頷いた。

『我が前に平伏せよ』

 ビキッ

 イミーナは怒った。
 何もかもを平伏させる為にこの地位を手に入れたと言うのに、王に対して部下が平伏しろなど狂気の沙汰だ。もちろん平伏するつもりなどない。どころか最高硬度の魔槍で肉塊にしてやろうと動き出す。

 スッ

 自分は何をしているのか?床に目線が行き、片膝が床に付いている。平伏している。癇癪を起こして魔力を溜めたはずだ。八つ裂きにする為に魔槍を構築していたはずだ。椅子から立ち上がって一閃。これで終わりのはずだった。

『我が名は創造神アトム。貴様に加勢する為にやってきた。感謝するが良い』

「創造神……アトム?ふざけたことを……ぐっ!体の拘束を解け!!」

『威勢の良い魔族だ。最近は貧乏くじばかりを引いて途方に暮れていたところだったのだ。貴様のような気持ちもヤル気も十分な者を欲していた。誇るが良い。貴様は選ばれし存在なのだ』

「勝手なことを……!!」

 力を入れようとするも全くと言っていいほどに力が入らない。これほどの無力感は初めてである。屈辱でアトムを睨みつけるとアトムがイミーナの顔を覗き込んだ。

『必ずやあの化け物を殺し、我が前に献上せよ。全てが終わって生きていたならば神の恩恵を授けよう』

「化け物……?それはミーシャのことですか?だとするなら根本から間違っている。あの女を殺したくば自慢の恩恵とやらを先に渡すべきですね。対抗手段がないからこちらとて相手にしたくないのですよ……」

『……ふむ、なるほど。一理ある。良かろうイミーナ。貴様は神の腕に抱かれて理を超えるのだ。共にあの化け物を殺し、世界をあるべき姿に戻す。私の手助けをさせてやろう。大いに喜ぶが良い』

「チッ……誰が……!」

 一方的に現れ、好き勝手ほざくアトム。なりふり構っていられないアトムはついにイミーナに接触した。
 創造神アトム。豊穣の神アシュタロト。死神サトリ。
 神々が箱庭に干渉し、均衡が崩れる。
 元の形を諦めた世界は果たしてどの形に収まるのか?それは神にすら分からない。
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