一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第八章 地獄

エピローグ

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 虚空に影が落ちる。
 二つの影が何もない空間にボヤッと黒く染み出した。人影のように見える影は頭を左右に動かして何かを探す。

『……不思議』

 女性の声が響く。空間に反響してその一言が重複して聞こえる。

『おーい、誰ぞ居らんかー』

 もう一方は子供のような甲高い声で一緒に染み出した影以外に声をかける。ここに常駐している三つの存在は鳴りを潜め、気配のけの字も見当たらない。

『……居ない』

『おかしいのぅ。いつもなら此れ幸いとすっ飛んでくるというに……ここ以外で空間を作成した記録はあるか?』

『……無い』

『ふぅむ……らと同じく寝ているのか、あるいは庭に降りたか……』

 影がふいっと頭を動かす。その質問に疑問を感じている風だ。

『分かっておる。藤堂 源之助の一件以来、らは成り行きを見守ることで合意した。それから幾星霜、今日に至るまで動きなんぞ無いと思っておったが……オロチとダークビーストの欠落。オロチが壊れたのであれば藤堂 源之助が解き放たれているはず……』

 影は俯くように頭を下げてしばらく黙っていたが、不意に頭を上げる。

『ゼロに保管していた八大地獄の気配も消えていることからこれは確実であろう。この時点で報告がないのも不可思議だが、特にダークビーストは彼奴の造物。破壊されたとあれば、いの一番に騒ぎ出すのは目に見えている。しかし特段騒いでおらんし、少なくともの声以外は久しく聞いておらん。この一件には裏があると見て良かろう』

『……降りる?』

『いや、降りぬ。この騒ぎに対しより敏感な彼奴らが反応せずに寝ぼけているなどあり得ぬ。となれば箱庭でなんぞ行動しているのは明白。特定の一部に加勢していると言うなら探すのは困難であろう。故に炙り出すのが吉と見た』

 影は踵を返すように体を反転させた。

守護獣ガーディアンを一部起動し世界を半壊させよう。らが目覚めたことを内外に示し、彼奴らの帰還を促す。箱庭が大事なのであれば必ずや戻ってこよう。を止める為に』

 不穏なことを平気で話す黒い影に同調するようにもう一方の影が頷く。
 守護獣ガーディアンそれはいにしえより伝わる最強の獣たち。創造主の創作意欲のままに作成した「ぼくのかんがえた最強の獣」。今となってはその無敵神話も幕を閉じ、世界の均衡に亀裂を生じさせているのだが、何より驚異であることに変わりはない。

一つ目サイクロプスを起動する。の鳳と、後は海蛇を起動しようと思うが如何に?』

『……良いよ』

 異世界イイルクオンに現存する古代種エンシェンツの内、三つの獣が同時に動き出す。
 一つは山から、一つは谷から、一つは海底から……。
 巨大生物の脈動は瞬く間に世界に知れ渡る。



 その夜、ラルフの夢に懐かしいと思える人物が顔を覗かせた。

『お久しぶりですパパ。最近顔を出さないので心配してたんですよ?』

 サトリ。死神を名乗る超常の存在。ラルフに並々ならぬ感情を抱いている。実際はどう思っているのかは不明だが、こうして夢枕に立ったことを考えるとあながち間違いではないだろう。

「お前は……それやめろっていつも言ってんだろ?いろんなとこが痒くなるから嫌なんだよ」

『まぁっ!認知してくれないなんて……サトリは悲しいです』

 全く悲しそうにしていないサトリに辟易しつつ胡座をかいて質問する。

「……で?俺は死にかけてんのか?」

『まさか、寝ているだけですよ。貴方様が最近めっきり来てくれないから私が訪問しただけです』

「冗談言うなよ、俺に定期的に死にかけろってのか?最近は戦場に行かなくてようやく落ち着いてきたなぁって安心してたのに……」

『ふふっ』

 久しぶりの会話が嬉しいのか、常にニコニコと笑っている。自分みたいな奴と喋って何が面白いのか分からないが、好意的に接してくれるのは嬉しいのでラルフも自然と笑顔になった。

「俺のとこに来たのはただ寂しかったからか?」

『まぁ……それもあります』

 この反応は前にも見た。何か伝えづらいことがあった時の顔だ。

『……お見通しですか……』

「と言うかサトリの表情が読みやすいだけだな。コロコロ表情変わるところはミーシャにそっくりだ。あいつで鍛えられたから簡単に気付けるのかもな」

『ふふっ嬉しい言い方です。私と彼女はそんなに似ていますか?』

「姿形や言動なんかは似てないけどな。だけどなんか被るっていうか……あっミーシャといえば……オロチの件は悪かったな。ミーシャの奴、既にトウドウさんと色々話してたみたいでよ。感情移入してたから俺の言葉なんて聞きゃしなかったよ」

 ラルフの謝罪に対してニッコリと笑った。

『貴方様の勇士、しかとこの目で見ていましたよ』

「勇士って……ミーシャの目に怯えて縮こまってただけだぜ?」

『それでいいんです。止めようとして下さった事実があるだけで私は嬉しいのです』

 ラルフは頬を掻きながら目線を外す。照れ隠しをしているのが心を読まなくても分かる。

「なんだよ、照れるじゃねぇか……おだてたって何も出ないぞ?」

『こうして会話して頂いているだけでも感謝に絶えません』

 サトリは神という立場にありながらラルフに頭を下げた。畏まって腰を低く構えるものだから、大雑把で失礼なラルフも恐縮してしまう。相手は神様なのに、一介のヒューマン如きに頭を下げる真似をする。アトムとはえらい違いだ。
 そんな風に考えていると、ピクッとサトリの体が動いた。アトムのことを考えた途端の反応だったので、十中八九奴のことで間違いないだろう。

『……それもあります』

「他にもあんのかよ。一体なんだってんだ?」

『そうですね……申し訳ありません。伝えるべきかを迷ってしまって要領を得ず……』

「うん、ゆっくりでいいぞ。夜は長いんだ」

『……ありがとうございます。その言葉で決心がつきました』

 サトリは臓器の存在しない空間で大きく息を吸う真似事を見せ、落ち着きを取り戻したようにラルフに視線を向ける。

『このまま行くと貴方様は確実に死にます』

 その言葉が頭に浸透するのに一拍の時間を要した。その上で頭に疑問符を浮かばせ、それと同時に声が上ずる。

「ん?」

 サトリからの未来予想にラルフの顔は強張り、その言葉を受け入れられない。死神から死を宣告されたのだ。グレートロックに行けば確実に死ぬのだろう。

「うん、引き返そう。それしか生き延びる手は無いな。いやぁ悪いなサトリ。そう言われちゃ死を回避するしか手立てはないぜ」

『申し訳ありません。引き返しても地獄が待ち構えています』

「……行きも地獄、帰りも地獄……ってことは死ぬのは確定事項ってことかよ……」

 死神から死を宣告されたのだ。どこに行っても死ぬのは確定している。どんな死に方をするのか分からないが、八方塞がりなのは間違いない。

「ここまで生きてこられたのが奇跡かぁ……まさか他は助かって俺だけ死ぬのか?」

『ええ、まぁ……』

「だよなぁ……そうじゃなきゃ言葉を濁さないよな……でもみんなは助かるんだろ?無事かどうか分かんないかもだけど、俺以外が生きてりゃなんとかなる。どうせ死ぬなら派手に散るか!」

『分かります。怖いですよね……』

「……」

 ラルフは黙る。サトリには隠し事なんて出来ない。変に強がっても心の内が丸見えなら意味などない。
 でもどうしろというのか?死ぬことに怯えて隠れ潜んでもどうせ死ぬ。何の対策も無しに戦いに出れば否応無く死ぬだろうし、何もしなくても死ぬ。生き物はいずれ死ぬと分かっていても死期が分かったら恐れるのも当然だろう。

「……サトリはこういう空気になるから言いたくなかったんだな。それもそうか、辛気臭かったら会話も面白くないもんな……」

『……』

「すまない。俺はただの人間だから、死ぬと聞かされたら辛気臭くもなるよ。なんか泣きたいけど泣けないし、悲しいのに妙に落ち着いてるのが嫌だけど……俺が死んだら迎え入れてくれるか?お前がいたら寂しくないしな」

 ラルフは自嘲気味に笑った。多少の皮肉が混じったが、ほぼほぼ本心だ。死んだ後に迎え入れてくれる場所があれば、途方に暮れることもない。
 後は生きている内に何を残すか。死ぬと分かった今、親父に連絡を取りたい気持ちも湧いてくる。今更遅いだろうが、やらないよりマシだ。後、ミーシャに代わりの抱き枕を探してやるのと、健やかに生きてもらえるように準備しないといけないだろうし、ブレイドたちにも何らか格言みたいなのを残しておかないといけない。ベルフィアに出来ることといえば血を与える一点に尽きる。痛いから放っておこう。

「……そういえばこれって何だ?夢か何かなのか?目が覚めたら忘れちゃうってことになったら今考えたこと全部パァになっちまうんだけど大丈夫かな?」

『……ラルフ』

「ん?何だサトリ」

『足掻いてみませんか?どうしようもなくて死んでしまうこの未来を変える為の足掛かり……貴方様が望むなら私が与えて差し上げます』

「……「汝力を欲するか」って奴だな。子供の頃はそのセリフに憧れたもんだ」

 昔聞いた英雄の冒険譚。創作でしかなかったあのセリフをここで聞くことになるとは、そして自分がその対象とは夢にも思わない。
 当然答えは決まっている。

「俺は未来を変えたい。死から逃れる力を俺にくれ!」

 死神にこういうことを言うのは間違っているかもしれないが、なりふり構っていられるほど余裕のある状況でもない。
 均衡が崩れ、破滅に向かう昨今、ラルフも変わらずにいられない。
 この先にある脅威と恐怖を見つめ直し、世界に仇なす存在は次なるステージへと駆け上がる。
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