一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
490 / 718
第十二章 協議

第四十九話 世界を超えろ

しおりを挟む
『時を戻す力?す、凄いにゃ。にゃんて力にゃ……』

 アルテミスは一人感心していた。まるで神の如き力だと神である本人がたたえる様は滑稽ですらある。
 いつもの笑みが消えたサトリは俯瞰からその様子を見ていた。
 命を救われた恩義ある人間ラルフ。その時の記憶の一切を失ったばかりか、あまつさえ相対し敵対するという痛ましい状況。
 不思議だったのはそのような絶望的状況に置かれたラルフが諦めていなかったことだ。いつもなら「終わった」と思って生を諦めているというのに、この時に限ってはミーシャがまた戻ってくることに一片の疑いもなかった。
 ミーシャは記憶を失い、昔の殺伐としていた頃に戻った。自分以外は全て弱者であり、肩を並べられる魔王だけが信頼に足る存在であったあの頃に。
 それはラルフには分からない。心の内を覗けるわけではないのだ。つまり今ラルフの根底にあるのはミーシャを信じたいと思う不確かな気持ち。戻ってくるかどうかは神のみぞ知る。

 サトリは興味が湧いた。
 世界最強のミーシャの攻撃を受け、生きていられる生物は指で数えられるほど少ない。もちろんその中にラルフの名前はない。横を通り過ぎられるだけでも死ぬ可能性があるただの人間。サトリが力を与えたとてミーシャには到底及ばない。
 死なない自信があるように見えるラルフ。それはどこから来る自信なのか。興味は次第に期待に変わる。

『……見極められる……ここで死ぬならラルフはここまでの人物。ならここで死ななかったら……?』

 逸脱者の誕生だ。世界を超えた次なる存在。
 もしそんな者の誕生を許せば、世界はさらなる混沌に巻き込まれるであろう。

(それで良いんです。突き進んでください。あなた様の可能性を私に見せてください)

 アルテミスとサトリの高揚感とは裏腹にミーシャに笑顔は無くなっていた。ミーシャとラルフの間に生まれた沈黙。すぐにも攻撃して良いはずの状況にミーシャの中で戸惑いが生まれていた。

(こんな人間に躊躇するなんて……見るからに弱そうでみすぼらしいってのに……)

 その時、ふと下を見てしまう。自身の纏う服。心なしかラルフによく似ているような気がする。

(……私を着せ替え人形にしていた?こんな服着たことないし……品性も下劣だってことは間違いなさそう。なのに何でかな……嫌じゃない?この私の裸をラルフ如きに見られたかもしれないのに?)

 プルプルと首を振る。

(私は変態じゃない!そうだ、この感情は操られていたのが未だに効いてるってことなんだ!なんて最低な男!!)

 ミーシャは自身が操られたことに対して苛立ちを募らせる。どうしてもラルフに対して怒りを感じないからの苦肉の策だった。

「どうしたミーシャ?俺を殺さないのか?」

 ラルフは帽子ハットを被り直してニヤリと笑った。ミーシャはムッとする。

「い、言われなくても……」

 そこでハッとする。一瞬心の中に「辞めておいた方が……」と言う気持ちがふっと湧いたのだ。これはまさに操られていた証拠だと認識出来る。ラルフを殺さないように制限が掛かっているのだ。危ない、誘導されるところだった。
 ミーシャは雑念を振り払い、黙って右手を翳した。魔力砲で一気に片を付ける。本当は接近して憂さ晴らしをしようと思っていたが、この制限が邪魔でもしようものなら敵の眼前で大きな隙を作ることになりかねない。
 放ってしまえばそれで終わり。魔力砲での決着は簡単で軽くて早い。まるでスナック菓子感覚だ。

「それで良いのか?一瞬で消してお前は満足なのかよ?」

「……黙れ」

「そんなんじゃ後悔するぜ?」

「黙れ!」

「おいミーシャ」

「黙れっ!!」

 ドンッ

 ミーシャから放たれた魔力砲は加減を知らなかった。ラルフをすっかり包み込んでしまうほどの太い魔力砲は、地平の彼方に延々と光を放つ。

 パサッ

 ラルフのいつも被っていたハットだけが空中を漂って静かに地面に落ちた。その凄まじい威力たるや、ラルフの影すら残さない。

「はぁっ……はぁっ……終わった。もう跡形も無い……全く、口ほどにもないわね」

 肩で息をするミーシャの顔には、自分でも意味の分からない頬を伝う涙が顎の先から一粒落ちる。小さな雫は地面に吸収されて、二度と戻らなかった。



 ゼアルはピリッとした空気を感じ取った。その瞬間に現れた光の柱。地平線に消える魔力砲に戦慄が走る。
 一体先の空気が何なのかは分からなかったが、光の柱を見てからかとにかく焦燥感が押し寄せた。

「トウドウ!後は任せたぞ!!」

 それだけ言い残すとバッとマントを翻して小走りに駆けて行った。

「え?あぁ……お、おうよ」

 返事も待たずに走り去るゼアルに困惑しながら藤堂は後頭部を掻いた。
 ゼアルが残していった戦果。ロングマンの死体に近付く。スッと屈むと、首を持って目に光を失ったロングマンの顔が見える。

「こんな終わりになるたぁ予想してなかったよなぁ……」

 返事はない。そう、返事など期待していない。反対意見など言わず、同調も相槌もいらない。一方的で良い。昔から話の合わない男だった。せめて一言残して終わりにしよう。それが藤堂に出来る葬いであると信じて話しかけた。

「迷わずに成仏しろよ。あんたの亡霊なんざ俺ぁ見たくねぇからよ」

 フッと優しい顔で微笑んだ。その時、藤堂は確かに見た。ロングマンの開いた瞳孔がキュッと縮む瞬間を。

 シャリィン……

 いつ振ったのか、その動きを目で見ることは出来なかった。ただ首を半分以上切られたのだけは、頭がグラついたことで理解出来た。頭の重さに耐えられずに傷がパックリと開き、そのまま背中に後頭部が付いた。

「……何でぇ?死んでなかったのかい?」

 藤堂は呆れたように口を開いた。

「ふむ……死を目前にした人間は走馬灯を見るというが、それが役に立った」

 ロングマンが手を離した首の傷は数年経った手術痕のようになって痛々しく存在を主張している。傷痕を指で撫でながら鼻で笑う。

「治癒に関する魔法は苦手だった。が、火事場でも何とか出来るものよ」

「へぇ。俺もそういうのが見えたら起死回生の手段ってのが見ぃ出せるかもしんねぇなぁ。まぁ、呪いの力がそれを邪魔しちまうが……」

 首の傷が映像の巻き戻しのように再生され、同時に頭が元の位置に戻っていく。既に間合いを開けたロングマンが刀を鞘に仕舞いながら冷ややかに見ていた。

「本当はゼアルを斬るつもりであったが……警戒心の強い男よ。命を取ったであろう戦果の前に身を置かんとは予想外であった。今後はその辺りの修正も考慮に入れるべきであろうな」

「無理無理、あの人は罠を張り巡らせても結局はその上を行くさ。人間観察が凄ぇんだ。それはそうと大丈夫かぁ?その傷痕から察するに完全に回復出来てねぇんだろ?余裕ブッこいてもフラフラなのが手に取るようだぜ」

 完全に回復し、斬られたことなど無いと主張する藤堂の首と、ロングマンの首。見た目は揺らぐことなく立っていても体力はかなり削られている。図星だったのかロングマンの口の端はさらに深く沈んだ。藤堂はこの機を逃すつもりはない。

「ここで決着だ。あんたとの因縁にケリをつけてやる」

 鎖をジャラジャラ鳴らしながら藤堂は真剣にロングマンを見据える。その鎖を見てフンッと鼻を鳴らす。

「……不死身の敵を相手にしているほど我は暇では無い」

 踵を返してこの場を立ち去ろうとする。

「逃げんのかい?」

「おうとも。今は分が悪いのでな。出直すとしよう」

 藤堂はその背中を見送る。この場合、仕掛けても確実に逃げられる。何せ相手は挑発に乗るつもりも戦う意思もない。同等以上の実力者が全力で逃走に徹した場合、仕留められる可能性は皆無。ゼアルが居たら九割九分仕留められていただろうが、それこそ今は分が悪い。ならば次の機会まで待っても変わらない。

「逃すのは今限りだぜ。次は息の根止めてやるよ」

 その言葉にピタリと足を止める。ロングマンは刀を抜いて空に掲げた。刀身が赤く光り、ごく小規模の炎の柱を天に向かって放った。

「その言葉、そっくりお前に返そう。呪いなどと言う言葉で死から逃げられると思うなよ?」

 肩越しに吐き捨てられた言葉には怒りや憎しみに該当する負の感情がふんだんに織り込まれていた。

「期待してるぜぇロングマン」

 鼻を鳴らしたのが最後の返答だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...