一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
491 / 718
第十二章 協議

第五十話 やがて訪れる幸せのために

しおりを挟む
「なっ……ミ、ミーシャ……?」

 蒼玉はミーシャとアルテミスを引き連れて城に返り咲いた。蒼玉の若々しく美しかった体はやつれたように細くなっていた。
 それにも増して驚いたのはやはりミーシャの存在だろう。敵対していて今にも攻撃しそうだった彼女は鳴りを潜め、豪華な室内に当然のように立っていた。
 マクマインもアトムも、アシュタロトさえもその姿に驚愕を隠せない。

「ん?何だイミーナ。何を驚いている?」

「え?は?」

 困惑から蒼玉を見る。その気持ちの所在に心当たりがあったミーシャは、イミーナを安心させようと率先して口を開いた。

「案ずるな、私は正気に戻った。ラルフ……奴に操られていた時を戻す。取り敢えずグラジャラクに戻って対策を……」

「グラジャラクは滅びました」

 蒼玉の言葉を聞いて、ミーシャはスッと目を瞑る。

「まさかとは思うが、それも?」

「はい。ラルフ一行の所業。一部ミーシャ様も関わっておいでです」

「……一行、か。ここに来る時に見た連中と私が自国を滅亡に追いやったと……?洗脳がこれほど恐ろしいものだとは思いもよらなかったな……。あ、そうだ。イミーナ」

「は、はい!」

 イミーナはビクッとして慌てて返事をする。

「そう怖がるな、私は敵じゃない。私が不在の間、グラジャラクを守ってくれていたんだろう?ありがとう。お前には苦労をかけてばっかりだな」

 久し振りに見た慈愛ある表情。その顔を見た途端、イミーナの心には殺意が湧き上がる。
 蒼玉の言動とその見た目から、特異能力を使用し、痩せさらばえたことはすぐに理解出来た。
 ミーシャの何も知らない様子を見るに、少しの間しか時を戻せないと言っていたのは虚偽だったことが割れた。
 多分ミーシャはあの一件、古代竜エンシェントドラゴン懐柔の仕事以前に記憶を戻されている。イミーナに対する心からの信頼が透けて見えたからだ。
 全てを忘れたのであれば朱い槍の威力も忘れているということ。今ここで放てば殺せる。今度こそ抜かりなくそれを成せるだけの場が整っているのも大きい。アトムもアルテミスも加勢してくれるはずだから。
 だが、それを蒼玉が許すはずもない。この女はとうとうミーシャをモノにしたのだ。ラルフの手から取り返し、グラジャラクも住むところも失くしたミーシャの拠り所は蒼玉の住まいだけ。
 手に入らないのであれば殺してしまおうとした女の顔は消え、心からの喜びが満面の笑みにつながっている。

 ミーシャの抹殺。マクマインはこんな蒼玉を無視してでもきっと賛成してくれるが、機を待たねばまた失敗する。今度は蒼玉が全力で阻止してくることが容易に想像出来た。
 様々な葛藤が渦巻き、舌打ちや奥歯を噛み締めたい気持ち全てを堪えて、イミーナはミーシャの前にひざまずく。

「……良くお戻りになられました。魔王様」

「全く……ミーシャだ。何度言っても直らないな」

「はい。ミーシャ様」

 イミーナの顔に張り付いた笑顔は、傍から見れば気味が悪かった。
 ミーシャは満足げに頷くとマクマインを見た。

「そこのヒューマン。蒼玉から話は聞いている。ラルフのことで色々頭を悩ませていたようだが、もう心配はいらない。私が消し炭にした」

「は?消しず……み?貴様が奴を葬ったというのか?」

「そうだ。今後は奴の仲間を討伐するのに人間の力も借りようと蒼玉から進言があった。お前は有能らしいな。期待している」

 ポカーンとしてミーシャを見るマクマイン。ミーシャは何の返事もないこの男が本当に有能なのかと頭を捻った。蒼玉の采配に文句を言うつもりもないので、ほっといて踵を返した。

「どちらへ?」

「服を着替えたい。汚れてしまっているし窮屈だ。何か動きやすい服を用意してくれないか?」

「かしこまりました。こちらへ」

「うん」

 ミーシャはそれだけ言って出て行く。蒼玉の甲斐甲斐しさはミーシャのメイドに転向したのではないかと思わせる。魔王とは思えないほどの見事な接客ぶりだった。
 ミーシャと蒼玉が出て行ってしばらく沈黙が支配していたが、マクマインの吹き出した声にイミーナたちは怪訝な顔をした。

「うははははっ!はーっはっはっはっ!!滑稽だっ!!素晴らしいほどに滑稽だっ!!」

 マクマインは腹の底から笑った。まるで全てが丸く収まったような快活な笑いだが、マクマインの最終目標はミーシャの抹殺。この目標が達成されるまでは解放されることはないはずだが、今そんなことはどうでも良かった。ラルフがミーシャの手で殺されたことが楽しくて仕方がなかった。

『……ようやく死んだか』

 アトムもホッと胸を撫で下ろす。自分で殺したかったのは山々だが、息の根を止められるなら誰でも良かった。とにかくラルフが死んだことが重要なのだ。

「それだけではない!奴は自分の最も信頼するあの女に殺されたのだ!さぞ悔しかったに違いないっ!さぞ無念だったに違いないっ!!はははっ!バカがっ!みなごろしを助けるからこうなるのだ!ラルフの絶望した顔が目に浮かぶ!!愉悦っ!!これが愉悦と言うものかっ!?」

 今まで張り詰めていたものが全て解き放たれたようなマクマインの顔は溶けて消えるのではないかと思えるほどにだらしなく緩んでいた。既に他界した両親も見たことがないであろう狂気にまみれた顔は戦慄すら覚える。

『そんなことなかったにゃ』

 そんなマクマインにアルテミスは空気を読まずに冷や水をぶっかける。あれだけ笑っていたマクマインはピタッと笑いを止めると下から睨めつけるようにアルテミスを見る。

「……何だと?何がそんなことが無かったのか聞かせてもらおうか?」

『絶望なんてしていなかったにゃ。絶対に死なないと思ってた顔にゃ、あれは』

 アルテミスはラルフの死に際の顔を思い出しながら答える。

「エフッ!?」

 咳と吹き出すのが混じった声はやはりマクマインが出した。

「ククク……つまり奴はあの女に殺されるはずないからとタカを括って死んだと言うのか?もっと滑稽ではないかっ!!最高だっ!!生涯の笑いのネタが出来た!一生思い出し笑いで苦労せんぞ!」

 マクマインはこめかみに血管を浮かせながら腹を抱えて笑う。笑い死にするのではないかとさえ思える姿に、アシュタロトは冷めた目でマクマインを見ていた。



 蒼玉に案内された部屋に入ったミーシャは、泊まりがけで来た時によく通されたお気に入りの部屋であることに気づく。よく手入れされて埃一つなく、庭の景色も荘厳と呼べる最も美しい部屋。ここで食べるこの国のおやつは格別で、蒼玉と会話しながら食べるのが好きだった。
 そう言う細かなことをよく覚えているのに、半年以上の記憶がすっぽり抜け落ちていると言う事実に歯噛みした。
 ラルフ。ミーシャを操り、故郷を破壊し、お気に入りの国ペルタルク丘陵にも大損害を与えた最悪の人物。
 どういう経緯で操られたのか。何故接近を許したのか。何故人族にも魔族にも与せず、第三勢力として世界を混乱させたのか。ラルフという人物像が見えてこない。ただ、消滅させたあの男の顔を思い出す度に胸が締め付けられる。

「ラルフ……ラルフ……ラルフ……!」

 もう思い出したくない。もう消えて欲しい。そう思えば思うほどにハットを被り直した彼の顔が鮮明に蘇る。
 もう死んだ。もう消した。跡形もなくこの世から居なくなった。
 ミーシャの魔力砲は無情で無常で無上だ。殺せないものなどあんまり居ない。そうだ。ミーシャはラルフを殺したのだ。
 きっと洗脳されていた期間が長かったからこんな風に思うのだ。今後は気を付けねばいけない。弱そうな奴でも近づかせてはいけないのだ。

「……そうよこの服のせいよ。もう脱ぎ捨てよう。私を取り戻すのよ」

 ミーシャは独り言を呟きながら自分に言い聞かせる。こんな気持ちにさせたラルフを恨みながら服を脱ぎ始めた。

「……?」

 胸元に光る指輪。チェーンに通された飾り気のないシンプルな指輪。イヤリングもピアスもネックレスも指輪も、ブレスレットもアンクレットも王冠にも興味がないミーシャは、何故こんなものが自分の首に下がっているのか意味が分からなかった。
 これももしかしたらラルフの持ち物だったかもしれない。ミーシャに付けることでこの人形は俺のものだと主張していた可能性すらある。

「こんなもの!」

 グアッと指輪を握りしめて右手を持ち上げたが、叩きつけることはついに出来なかった。何故なら込み上げてくる涙を抑えられなかったから。
 しゃくり上げて息すらまともに出来ない程に詰まらせ、その度に流れ出る涙。何が悲しいのか。何が心を突き動かすのか。
 現れたのは一度も見たことがないはずの光景。
 ラルフが焚き火の側に座っている、ただそれだけの光景。
 信じたくない。人間にこれほどの情念を湧き上がらせる自分が滑稽でならない。

 やったのは自分だ。辞めなかったのも自分だ。

 彼女は膝から崩れ落ちその場でサメザメと泣き始めた。ただそこに寄り添ってくれる者は誰一人居なかった。



「着替えましたか?」

 丁度茶菓子を持ってきた蒼玉と鉢合わせする。

「ああ、助かった」

 蒼玉が用意したのはミーシャが着たらきっと似合うのだろうと用意した白のワンピースだ。いつもより着心地の良いこの服にミーシャは満足していた。

「おや?その指輪……」

 蒼玉はミーシャの右手薬指に嵌った飾り気のないシンプルな指輪を発見する。

「ああ……似合う?」

 どうして付けているのか、どこにあったのか、何で突然……聞きたいことは山ほどあった。アクセサリーならそれこそ山のように用意する。もっと似合うものもきっとある。しかし蒼玉はそんな無粋な言葉を全て飲み込んだ。

「ええ、とてもお似合いですよ」

「そう?」

 二人は笑いあった。
 蒼玉はこの笑顔を見るためにここまで頑張ったのだと心に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...