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第十三章 再生
プロローグ-2
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「……歴史上類を見ない」
始まるやいなや口を開いたのはやはり森王だった。
王の集い。
人族の未来を守るための同盟。生存圏を脅かす敵を人類が一丸となって倒すことを目的とした平和維持協会。助け合い、支え合う、繁栄のための組織。
最強の軍事力である白の騎士団を"人類の剣"とするなら、王の集いは"平和の架け橋"と呼ぶのが相応しい。
現在のエルフの長、森王レオ=アルティネスの名の下に集った全八種の長たちからなるこの組織は、少なくとも二百年の歴史を持っている。それもこれもエルフが主席を務めているお陰だろう。長寿の種族が飽きもせず魔族殲滅を夢見るからこそ成り立っている。
もし森王が何度も代替わりしていたり、人類の存続に対する固い意志と情熱を持っていなければ、とっくに滅んでいたであろうことは想像に難くない。それはここに座る王たちの総意だ。
「これほどまで魔族を脅かすことが今までにあっただろうか?」
ギロリと周りを見渡す。誰も口を開かないが、誰もが森王の言いたいことが分かり、それに賛同している。それが雰囲気で伝わった森王はふっと微笑んだ。
「……我らはようやく勝利を迎える。それがどんな形であれ、あと一息という所まで来ているのだ」
魔族の数は恐ろしいほど目減りしている。十二柱もいた魔王たちも、気がつけば第二、第三、第四、第五、第十、第十二の六柱。情報の提供は全てマクマインによるものだったが、その全てを信用することが出来たのは関わったとされる魔族の名前だった。
第二魔王”鏖”、その名はミーシャ。
「かの魔王が暴れまわった結果、そして白の騎士団の功績。数々の行いや幸運が重なって出来た奇跡。ようやく……世界が変わる……」
『時期尚早ではないか?』
森王の噛み締めるような物言いに待ったを掛けたのは精霊の頂点、四大王ロア=エルメロイ。森王レオ=アルティネスとは旧知の仲で”王の集い”を立ち上げるきっかけとなった存在でもある。
『そなたの言う魔族を脅かすという現状は全て、かの魔王が起こした同士討ち。カサブリア王国での一件は結果的に”魔断”の活躍によるものではあったが、その他のものに関して自力で解決したものなど無いではないか?』
四大王の指摘に獣王は喉をグルルと喉を鳴らした。
『……オイ、四大王……何ガ言イタイ?』
『何、だと?もう分かっているはずだ。我らでは踏破不可能な絶壁の前に立たされている事実を……』
四大王の比喩表現に首を傾げる。
『絶壁ダ何ダノト……モット分カリヤスク言エネェノカ?』
『イヤ、獣王。モウ良イ』
獣王の喧嘩腰を窘めたのは同じ獣人族の牙王だった。獣王が獅子に対し、牙王は象を模した風貌をしていた。太く野太い声はのんびりしているようで、その実ハッキリと拒絶の意思を感じさせた。
『コノ状況ヲ生ミ出シタ鏖ヲ、ドウ処分スルベキカ。魔族ニ抗ウ俺達ノ行ク末ハ、全テソコニ集約サレテイル。絶壁……正ニソノ呼称コソ相応シイ』
太く短い指を絡めてため息をついた。如何しようも無い力の存在に途方に暮れている。そんな中にあってクスクスと嚙み殺すような笑いが聞こえた。牙王はゆっくりとその笑い声の主を見た。ヒューマンの王、”国王”フリード=V=ハイドクルーガー。
『国王。何ガ可笑シイ?』
『いやいや、これは失礼。さっきから聞いていて色々、ね。というのも、かの魔王は既に我らの手中にあると言って過言ではない。あの男、名前は何だったか……そう!ラルフ!あの男の元にいる以上、我らのものと断言しても良いのではないか?』
いやらしいニヤケ面で気味悪く笑う。これには牙王も苦笑する。ここに集う王たちのほとんどが同じ反応だ。よく思われていないし、嘲りが入っているのも気づいている。しかしそれでも国王は続ける。
『まぁ、君たちの言いたいことは分かる。ラルフはこの議場を乗っ取り、我らに恥をかかせた。第三の敵であるとの認識で相違ないだろう……が、こんな言葉を聞いたことはないかな?敵の敵は味方、という言葉を……』
先程までの嘲笑は消え、沈黙が場を包む。辿り着きたくなかった答えだ。いや、この場の全員が既に行き着いた答えだった。頭の引き出しに無理矢理仕舞った言葉を、国王に敢えて引っ張り出されたと言った方が正しい。
『ちょっと楽観的すぎやしない?』
空王はケチをつける。
『あいつは運良く化け物の隣に居て殺されないけど、どれほどの権限を有しているのか不明な以上、味方として数えるのは間違っているんじゃなくて?……森王。あなたにも言えるけど、この件は静観を決め込むのが賢い選択よ。古い手だけど、全てあの女に壊してもらってから総取りするってのは?』
『悪くない手ですなぁ、流石は空王。世の渡り方というものをご存知のようだ』
国王は軽く手を叩いて称賛する。
『……バカにしてんの?』
『いえいえ、本心ですとも』
『つまんないおべっか!』
いつもの雰囲気に戻りつつある議場。そんな中にいつもとは違って獣王は力無くため息をついた。
『カー!呑気ナモンジャネーカ……白ノ騎士団ガ、コテンパンニヤラレタッテノニ……激烈モ死ンダ。誰ニヤラレタ?モチロン俺達ノ敵ニダ。……オイ!コラ!ズット黙ッテルガ、コノ失態ノ責任ハドウスルツモリダ?マクマイン!』
獣王に声をかけられたマクマインは、成り行きに任せようとしていたかのようにおし黙り、目を瞑って腕まで組んでいた。声を掛けておいて何だが、獣王は後悔していた。今のマクマインには覇気がない。こんな奴に何か聞いても良い返事など期待出来ようはずもなく……。
そんな情けない男が目を見開いた時、その印象は一変する。活力に満ち溢れ、負のオーラなど存在しないかのような清々しい笑顔を湛える。
『失態?ふふっ馬鹿な。これは必要な犠牲だったのですよ』
場内がピリつく。
『……待テ待テ。口ノ聞キ方ニ気ヲ付ケロヨ?白ノ騎士団ノ損失ハ凄マジイノダゾ?ヒューマンハ生キ残ッテイルカラ余裕ナノダロウガ、コッチハソウイウ訳ニハ……』
『ラルフは死んだ』
この言葉に今度はざわつき始めた。特に国王は先の発言でミーシャは味方であると豪語したばかりである。それもこれもラルフが健在ならという前提の話だ。正にこの機を見計らった発言は、国王を馬鹿にする目的としか思えなかった。
怒りや興奮、そして困惑が動揺を誘い、全員がマクマインを注視する。
『ついては今後の方針を語る前に紹介せねばならない者たちがいます。心して聞いていただきたい』
そう言うと、画面外で何やら操作し始める。現在空席となっている海王の席の魔晶ホログラムが起動した。そこに映し出されたのは目が覚めるような蒼い女性だった。
『皆様ご機嫌よう。私の名は蒼玉。ペルタルク丘陵を統治する魔王でございます。以後お見知りおきを……』
魔王”蒼玉”。その名に聞き覚えのあった王たちは戦慄する。いつぞやラルフがこの議場を乗っ取ったあの話。「裏切り者」。適当なことを言って煙に巻いたのだと思っていたが、マクマインのことだったと改めて痛感した。
『これが王の集い?何よ、ただの老人の集まりじゃない』
そして心底震え上がる。蒼玉の隣に立つ女性の姿に……。
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もし森王が何度も代替わりしていたり、人類の存続に対する固い意志と情熱を持っていなければ、とっくに滅んでいたであろうことは想像に難くない。それはここに座る王たちの総意だ。
「これほどまで魔族を脅かすことが今までにあっただろうか?」
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「……我らはようやく勝利を迎える。それがどんな形であれ、あと一息という所まで来ているのだ」
魔族の数は恐ろしいほど目減りしている。十二柱もいた魔王たちも、気がつけば第二、第三、第四、第五、第十、第十二の六柱。情報の提供は全てマクマインによるものだったが、その全てを信用することが出来たのは関わったとされる魔族の名前だった。
第二魔王”鏖”、その名はミーシャ。
「かの魔王が暴れまわった結果、そして白の騎士団の功績。数々の行いや幸運が重なって出来た奇跡。ようやく……世界が変わる……」
『時期尚早ではないか?』
森王の噛み締めるような物言いに待ったを掛けたのは精霊の頂点、四大王ロア=エルメロイ。森王レオ=アルティネスとは旧知の仲で”王の集い”を立ち上げるきっかけとなった存在でもある。
『そなたの言う魔族を脅かすという現状は全て、かの魔王が起こした同士討ち。カサブリア王国での一件は結果的に”魔断”の活躍によるものではあったが、その他のものに関して自力で解決したものなど無いではないか?』
四大王の指摘に獣王は喉をグルルと喉を鳴らした。
『……オイ、四大王……何ガ言イタイ?』
『何、だと?もう分かっているはずだ。我らでは踏破不可能な絶壁の前に立たされている事実を……』
四大王の比喩表現に首を傾げる。
『絶壁ダ何ダノト……モット分カリヤスク言エネェノカ?』
『イヤ、獣王。モウ良イ』
獣王の喧嘩腰を窘めたのは同じ獣人族の牙王だった。獣王が獅子に対し、牙王は象を模した風貌をしていた。太く野太い声はのんびりしているようで、その実ハッキリと拒絶の意思を感じさせた。
『コノ状況ヲ生ミ出シタ鏖ヲ、ドウ処分スルベキカ。魔族ニ抗ウ俺達ノ行ク末ハ、全テソコニ集約サレテイル。絶壁……正ニソノ呼称コソ相応シイ』
太く短い指を絡めてため息をついた。如何しようも無い力の存在に途方に暮れている。そんな中にあってクスクスと嚙み殺すような笑いが聞こえた。牙王はゆっくりとその笑い声の主を見た。ヒューマンの王、”国王”フリード=V=ハイドクルーガー。
『国王。何ガ可笑シイ?』
『いやいや、これは失礼。さっきから聞いていて色々、ね。というのも、かの魔王は既に我らの手中にあると言って過言ではない。あの男、名前は何だったか……そう!ラルフ!あの男の元にいる以上、我らのものと断言しても良いのではないか?』
いやらしいニヤケ面で気味悪く笑う。これには牙王も苦笑する。ここに集う王たちのほとんどが同じ反応だ。よく思われていないし、嘲りが入っているのも気づいている。しかしそれでも国王は続ける。
『まぁ、君たちの言いたいことは分かる。ラルフはこの議場を乗っ取り、我らに恥をかかせた。第三の敵であるとの認識で相違ないだろう……が、こんな言葉を聞いたことはないかな?敵の敵は味方、という言葉を……』
先程までの嘲笑は消え、沈黙が場を包む。辿り着きたくなかった答えだ。いや、この場の全員が既に行き着いた答えだった。頭の引き出しに無理矢理仕舞った言葉を、国王に敢えて引っ張り出されたと言った方が正しい。
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『あいつは運良く化け物の隣に居て殺されないけど、どれほどの権限を有しているのか不明な以上、味方として数えるのは間違っているんじゃなくて?……森王。あなたにも言えるけど、この件は静観を決め込むのが賢い選択よ。古い手だけど、全てあの女に壊してもらってから総取りするってのは?』
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『カー!呑気ナモンジャネーカ……白ノ騎士団ガ、コテンパンニヤラレタッテノニ……激烈モ死ンダ。誰ニヤラレタ?モチロン俺達ノ敵ニダ。……オイ!コラ!ズット黙ッテルガ、コノ失態ノ責任ハドウスルツモリダ?マクマイン!』
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