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第十三章 再生
第二十七話 ハイド&シーク
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アルパザへの道中、イミーナは馬車の中で終始魔法陣を組んでいた。蒼玉からの指示で大規模な攻撃魔法を組むことになったのだが、これを好機と捉えたイミーナの取った行動は蒼玉とミーシャの殺害の計画。
勝利を収めたと同時に放つ防御不能の最強の槍。古代竜に勝利したミーシャに放った渾身の一撃を、数え切れないほどの本数に増やして降らせるイミーナの極大魔法。その名を”朱い雨”と呼んだ。
発射される槍の速度は音速を超える。
空気を切って降り注ぐ朱い槍はこの世の終わりを連想させ、ここにいる魔族も人族も等しく貫かれて絶命させる。誰も彼も微塵になって跡形も残りはしない。
朱い光が覆い尽くす死の世界。地上の生き物はただ見上げるしかない。ただ消滅するしかない。ただそれを待つしかない……はずだった。
その場に居た皆の視界がパチンとスイッチを消したように暗く闇に包まれた。あまりに突然のことに自分が今の一瞬で死んだのだと錯覚するものも出てくる。どれほどの威力がある攻撃なのか全く分からない者でも、槍が雨のように降れば死んだと誤認してしまうだろう。
だが変だ。痛みを感じない。落ちてくる速度が速すぎて痛みすら感じなかったとでも言うのか?
誰も真実にたどり着けずにただ狼狽する。焦っても惚けても変わらぬ事態に怯えが生じる。何故なら重力を感じていないからだ。
無重力。何もしていないのに体が浮いているのは気持ちが悪いとしか言いようがなかった。
皆が口々に今の状況に対する不安を投げかける。人や魔族が一斉に不安の声を漏らしたために変な合唱となり、暗闇に吸い込まれていった。
自分だけではない。あの場に居た全員がこの暗闇の中に居る。やはりあれで死んだのか?
「もうちょっと待ってくれよー。すぐ出してやるからなー」
そこに気の抜けた声が響き渡った。妙に響く一人の男性の声はこの場に居た全員の気持ちを一つにした。
(もしかして今の声がラルフか?)
何千という多くの心を一つに収束させたラルフはこの空間のことを何かしら知っている。というか操作している。
どうして?どうやって?
疑問は尽きないが、とにかく待つしかない。少し待っていると、突然体が重く感じ、すぐに地面に尻餅をついた。そこには暗闇も朱い光もない。かくあるべき空が広がっていた。
「ひでぇ……」
誰からともなく出た声は今の惨状を一言で表していた。誰も逃さないように囲われていた朱いドーム状の極大魔法は、アルパザの街を瓦礫の山に変えていた。アルパザから避難した町民たちは一時的に避難するものだと考え、必需品だけ持って出ていったに違いない。それ以外の財産はゴミ屑となった。
「そんなバカな……たかが人間のくせに何という規模の特異能力……」
蒼玉の顔は驚愕に彩られ、すぐさまラルフの警戒レベルをミーシャと同一に置いた。それもそのはず、朱い雨に晒されるはずだった者たちほぼ全員を異空間に放り込み、回避させることに成功した。入れられなかったのは召喚獣ヨルムンガンド。巨大すぎて入れるのに時間がかかるため、諦めるに至った。それはさて置き、少し前に行ったグラジャラク大陸での戦争では空中浮遊要塞スカイ・ウォーカーをも一撃で沈められるだろう槍を直接取り込み、ラルフの攻撃として反撃に使用していたのでイミーナも面食らっている。それはアトムを含めた神たちも同じようで、驚きのあまり声が出ない。
これで分かることは二つ。ラルフの持つ特異能力には制限がほとんどないこと、あとはミーシャの魔力砲の回避方法だ。
まず制限なしについて、ラルフの異次元への出入り口はかなり離れた防壁の上も難なくカバーしている。これを考えた時、出入り口の出現位置に関して距離は関係ないことが分かる。特例を除く全員をしまえる容量に加え、ここにいる全員を入れられる数の穴を出現させた。ミーシャの魔力砲回避については全員が実践済みと言えた。皆を理不尽極まる暴虐から救うために、これから殺すかもしれない敵すら救った。
「え?何のために?」
ミーシャも困惑から質問が飛び出た。ラルフは何でもないように答える。
「あんなんで死んだら可哀想だろ?生き死にには選択肢が与えられるものさ。だから俺はあえて言う」
ラルフは大きく息を吸い込んで、大声を発する。
「お前らぁ!逃げ出すなら今がその機会だ!!命を大切に思うなら出来るだけ遠くに離れろ!!」
その言葉にそわそわしている者、周りを伺う者、相談し合う者、即座に踵を返した者と様々な対応を見せる。各々助かる方法を考えることはあるだろう。ラルフはそんな彼らに見向きもせず無線機を発動させた。
「……あ、今から来れる?……うん、うん。はい、よろしくー」
無線機を切ってミーシャを見る。
「だってさ」
「来るって?」
「おう」
ラルフの肯定を受けてミーシャは山を見た。ヒラルドニューマウント。奴があの山から降りてくる。
「昨日の敵は今日の友。って誰のセリフだ?本当、良いこと言うよな」
しみじみ感じ入っていると「グルォォッ……!!」と怪物の鳴き声が聞こえ始めた。最強の援軍が今降り立つ。
こいつに敵うのはミーシャのみ。
勝利を収めたと同時に放つ防御不能の最強の槍。古代竜に勝利したミーシャに放った渾身の一撃を、数え切れないほどの本数に増やして降らせるイミーナの極大魔法。その名を”朱い雨”と呼んだ。
発射される槍の速度は音速を超える。
空気を切って降り注ぐ朱い槍はこの世の終わりを連想させ、ここにいる魔族も人族も等しく貫かれて絶命させる。誰も彼も微塵になって跡形も残りはしない。
朱い光が覆い尽くす死の世界。地上の生き物はただ見上げるしかない。ただ消滅するしかない。ただそれを待つしかない……はずだった。
その場に居た皆の視界がパチンとスイッチを消したように暗く闇に包まれた。あまりに突然のことに自分が今の一瞬で死んだのだと錯覚するものも出てくる。どれほどの威力がある攻撃なのか全く分からない者でも、槍が雨のように降れば死んだと誤認してしまうだろう。
だが変だ。痛みを感じない。落ちてくる速度が速すぎて痛みすら感じなかったとでも言うのか?
誰も真実にたどり着けずにただ狼狽する。焦っても惚けても変わらぬ事態に怯えが生じる。何故なら重力を感じていないからだ。
無重力。何もしていないのに体が浮いているのは気持ちが悪いとしか言いようがなかった。
皆が口々に今の状況に対する不安を投げかける。人や魔族が一斉に不安の声を漏らしたために変な合唱となり、暗闇に吸い込まれていった。
自分だけではない。あの場に居た全員がこの暗闇の中に居る。やはりあれで死んだのか?
「もうちょっと待ってくれよー。すぐ出してやるからなー」
そこに気の抜けた声が響き渡った。妙に響く一人の男性の声はこの場に居た全員の気持ちを一つにした。
(もしかして今の声がラルフか?)
何千という多くの心を一つに収束させたラルフはこの空間のことを何かしら知っている。というか操作している。
どうして?どうやって?
疑問は尽きないが、とにかく待つしかない。少し待っていると、突然体が重く感じ、すぐに地面に尻餅をついた。そこには暗闇も朱い光もない。かくあるべき空が広がっていた。
「ひでぇ……」
誰からともなく出た声は今の惨状を一言で表していた。誰も逃さないように囲われていた朱いドーム状の極大魔法は、アルパザの街を瓦礫の山に変えていた。アルパザから避難した町民たちは一時的に避難するものだと考え、必需品だけ持って出ていったに違いない。それ以外の財産はゴミ屑となった。
「そんなバカな……たかが人間のくせに何という規模の特異能力……」
蒼玉の顔は驚愕に彩られ、すぐさまラルフの警戒レベルをミーシャと同一に置いた。それもそのはず、朱い雨に晒されるはずだった者たちほぼ全員を異空間に放り込み、回避させることに成功した。入れられなかったのは召喚獣ヨルムンガンド。巨大すぎて入れるのに時間がかかるため、諦めるに至った。それはさて置き、少し前に行ったグラジャラク大陸での戦争では空中浮遊要塞スカイ・ウォーカーをも一撃で沈められるだろう槍を直接取り込み、ラルフの攻撃として反撃に使用していたのでイミーナも面食らっている。それはアトムを含めた神たちも同じようで、驚きのあまり声が出ない。
これで分かることは二つ。ラルフの持つ特異能力には制限がほとんどないこと、あとはミーシャの魔力砲の回避方法だ。
まず制限なしについて、ラルフの異次元への出入り口はかなり離れた防壁の上も難なくカバーしている。これを考えた時、出入り口の出現位置に関して距離は関係ないことが分かる。特例を除く全員をしまえる容量に加え、ここにいる全員を入れられる数の穴を出現させた。ミーシャの魔力砲回避については全員が実践済みと言えた。皆を理不尽極まる暴虐から救うために、これから殺すかもしれない敵すら救った。
「え?何のために?」
ミーシャも困惑から質問が飛び出た。ラルフは何でもないように答える。
「あんなんで死んだら可哀想だろ?生き死にには選択肢が与えられるものさ。だから俺はあえて言う」
ラルフは大きく息を吸い込んで、大声を発する。
「お前らぁ!逃げ出すなら今がその機会だ!!命を大切に思うなら出来るだけ遠くに離れろ!!」
その言葉にそわそわしている者、周りを伺う者、相談し合う者、即座に踵を返した者と様々な対応を見せる。各々助かる方法を考えることはあるだろう。ラルフはそんな彼らに見向きもせず無線機を発動させた。
「……あ、今から来れる?……うん、うん。はい、よろしくー」
無線機を切ってミーシャを見る。
「だってさ」
「来るって?」
「おう」
ラルフの肯定を受けてミーシャは山を見た。ヒラルドニューマウント。奴があの山から降りてくる。
「昨日の敵は今日の友。って誰のセリフだ?本当、良いこと言うよな」
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こいつに敵うのはミーシャのみ。
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