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第十三章 再生
第四十七話 命の形
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決着はあまりにもアッサリと……。
『……由々しき事態ね』
エレクトラは顎に手を当てて勝負の行方に愚痴る。
ミーシャとソフィーの戦いはたった三撃で終わる。最初こそ勝てそうな意気込みで挑んだものの、現実に叩き潰された。破壊された義手と義足の損傷は激しく、エレノアとの戦いもあって限界を迎えていた。左の義足しか残っておらず、もう立つこともままならない。
(つ……強すぎる……)
バチバチッと破損した箇所から電気のようなエネルギーが漏電している。まるで見えなかった攻撃を思い返しながら自分の落ち度を探る。だが考えれば考えるほどに自分の弱さだけが浮き彫りになる。いや、最初に思った通り、ミーシャが強すぎたのだ。エレノアなどとは比べものにならない。
『サトリはいったい何を作ったの?』
エレクトラの疑問はもっともだ。この世界の上限はヒューマンで言えばゼアル、一角人であればソフィーに該当する。
しかし魔族は違う。この世界の規定に反しているのだ。だから魔王という存在が強さの指標であるのは間違いない。白の騎士団レベルの猛者という稀有な存在を除けば、人族では魔族に勝てないのは遺伝子レベルで存在するということに他ならない。
ならばサトリが強さを求めて魔族に手を出したのも頷けるが、出来て魔王クラス。魔神を生み出すなど想像もつかない。
「この程度か?決闘を望んだくせにこれで終わりとはな……」
ミーシャはガッカリといった顔で見下す。実力が自信に追いついていないという風に見えたからだ。実際は実力がズバ抜けていて、ようやく自信がついてきたところだったのだが、ミーシャには通じなかった。クロノスとの戦いなど何処へやら、ミーシャの実力は底知れない。
「……なるほど。こんなのがいたのでは人の世は訪れませんね。私がこれほど身を削っても意味が無いとは恐れ入りました……」
ソフィーは自分の死を確信し、諦めたように微笑んだ。
「なんだ?もしかしてここから逆転の目も無いという笑顔か?益々勝負を挑んだことに疑問を感じるな。さっさと逃げるべきだっただろう?」
「?……もし背を向けていたら追撃せずに逃がしたとでも?随分とお優しいことですね」
「必要だったなら殺す。でもその必要性を感じなければ殺さない」
ミーシャはチラリとラルフを見る。
「私はそう教わった」
その視線にソフィーは下卑た笑みを浮かべる。
「魔族が人間に何を教わるというのです?命の尊さでも教わりましたか?くだらない!魔族は魔族らしく下品で低俗に殺しあっていれば良いのです!」
ミーシャの眉がピクリと動く。
「ふふ、怒りましたか?遠慮することはありませんよ?一思いに殺しては如何でしょう?もっとも、教わったことには反するかもしれませんがそれも良いでしょう……だって魔族なのだから」
「なんだそりゃ?魔族も何も、それとこれとは話が別だろ?」
その言い分にラルフが前に出た。これにはソフィーが苛立つ。
「あなたには関係のないことです。口出ししないでいただけますか?」
「そんな形で良くそこまで吠えたもんだな。そんなことより、ミーシャは俺から学んだって言ってんだろ?なら俺だって関係あるじゃん」
ラルフはズカズカと前に出る。
「魔族だって命が大切だ。同じ生き物なんだからな。それに下品で低俗なんて言ってるけど、魔族には魔族なりの品位を発展させてる。価値観が違う相手に自分の理想を押し付けて、さも自分が高尚であるかのように振る舞うのはお門違いじゃないか?」
「……口は回るようですね。確かにその通りでしょうが、論点がずれていることに気づいていただきたい。私はこのまま死にたいと思っているのですよ。それを”必要性を感じないから”などという理由で誤魔化されては立つ瀬が有りません。少しでも私に不快感を持っていただけるよう、言い回しに気をつけて発言したにすぎないのですから……」
「ほう?”おためごかし”って奴か?死ぬのが自分の利益になると本気で思ってるなら傑作だぜ」
「……何?」
ラルフはハットを被り直してさらにソフィーに近づく。
「聞いてるぜソフィー=ウィルム。あんたがヲルト大陸での一件で仲間外れにされたこと」
「なっ!?それは違います!ブレイブが勝手に……!」
「ああ、皆まで言うな。全部聞いてっから。あんたとベリアが今も生きていられるのはヲルトに侵入しなかったお陰だ。もし一緒に行ってたなら死んだことは確実だったろ?死ななくて良かったじゃないか」
「イーリスと一緒なら死することなど小事。むしろ共に死にたかった」
「ああ、うん。し、死にたかったのか……?」
ラルフは狂気的な発言をするソフィーに忌避感を感じながらもそのまま続けた。
「とにかく、安い挑発はよせ。ミーシャを惑わすようなら今度は俺が相手だ」
自分を指差して踏ん反り返る。
「バカですか?そうして生かした命が、またあなた方を狙うのですよ?ここで終わらせれば良いのに、何を躊躇っているのです?あと一歩。私の顔面を貫くのに必要な歩数です。どうでしょうか?」
「無いね。もう答えは出てるんだぜ?今更「やっぱ殺そう」なんて発想に至れるかよ。俺たちを狙う?上等だ。いくらでも掛かって来いよ。返り討ちにしてやっから」
ラルフはソフィーに背を向けた。それに合わせるようにミーシャたちも踵を返す。まるで狙ってこい、襲ってみろと見せつけているかのようだ。
だがソフィーは後ろから眺めるだけで何もしない。勝ち目以前に攻撃手段が限られている。争わないと言うならお言葉に甘えて享受しよう。それが明日に繋がるなら尚更。
「……良いでしょう。ならばそう致します。あなた方が殺しを必要と感じるか、私があなた方を殺すのか、二つに一つ。今は……甘んじて受け入れましょう……」
ソフィーの意識は急に飛んだ。魔力を使いすぎたせいである。
白の騎士団で今最も強い二人は為す術もなしに倒れた。それを不穏に見つめるエレクトラ。
ミーシャを殺す方法は未だ見つかることはない。
『……由々しき事態ね』
エレクトラは顎に手を当てて勝負の行方に愚痴る。
ミーシャとソフィーの戦いはたった三撃で終わる。最初こそ勝てそうな意気込みで挑んだものの、現実に叩き潰された。破壊された義手と義足の損傷は激しく、エレノアとの戦いもあって限界を迎えていた。左の義足しか残っておらず、もう立つこともままならない。
(つ……強すぎる……)
バチバチッと破損した箇所から電気のようなエネルギーが漏電している。まるで見えなかった攻撃を思い返しながら自分の落ち度を探る。だが考えれば考えるほどに自分の弱さだけが浮き彫りになる。いや、最初に思った通り、ミーシャが強すぎたのだ。エレノアなどとは比べものにならない。
『サトリはいったい何を作ったの?』
エレクトラの疑問はもっともだ。この世界の上限はヒューマンで言えばゼアル、一角人であればソフィーに該当する。
しかし魔族は違う。この世界の規定に反しているのだ。だから魔王という存在が強さの指標であるのは間違いない。白の騎士団レベルの猛者という稀有な存在を除けば、人族では魔族に勝てないのは遺伝子レベルで存在するということに他ならない。
ならばサトリが強さを求めて魔族に手を出したのも頷けるが、出来て魔王クラス。魔神を生み出すなど想像もつかない。
「この程度か?決闘を望んだくせにこれで終わりとはな……」
ミーシャはガッカリといった顔で見下す。実力が自信に追いついていないという風に見えたからだ。実際は実力がズバ抜けていて、ようやく自信がついてきたところだったのだが、ミーシャには通じなかった。クロノスとの戦いなど何処へやら、ミーシャの実力は底知れない。
「……なるほど。こんなのがいたのでは人の世は訪れませんね。私がこれほど身を削っても意味が無いとは恐れ入りました……」
ソフィーは自分の死を確信し、諦めたように微笑んだ。
「なんだ?もしかしてここから逆転の目も無いという笑顔か?益々勝負を挑んだことに疑問を感じるな。さっさと逃げるべきだっただろう?」
「?……もし背を向けていたら追撃せずに逃がしたとでも?随分とお優しいことですね」
「必要だったなら殺す。でもその必要性を感じなければ殺さない」
ミーシャはチラリとラルフを見る。
「私はそう教わった」
その視線にソフィーは下卑た笑みを浮かべる。
「魔族が人間に何を教わるというのです?命の尊さでも教わりましたか?くだらない!魔族は魔族らしく下品で低俗に殺しあっていれば良いのです!」
ミーシャの眉がピクリと動く。
「ふふ、怒りましたか?遠慮することはありませんよ?一思いに殺しては如何でしょう?もっとも、教わったことには反するかもしれませんがそれも良いでしょう……だって魔族なのだから」
「なんだそりゃ?魔族も何も、それとこれとは話が別だろ?」
その言い分にラルフが前に出た。これにはソフィーが苛立つ。
「あなたには関係のないことです。口出ししないでいただけますか?」
「そんな形で良くそこまで吠えたもんだな。そんなことより、ミーシャは俺から学んだって言ってんだろ?なら俺だって関係あるじゃん」
ラルフはズカズカと前に出る。
「魔族だって命が大切だ。同じ生き物なんだからな。それに下品で低俗なんて言ってるけど、魔族には魔族なりの品位を発展させてる。価値観が違う相手に自分の理想を押し付けて、さも自分が高尚であるかのように振る舞うのはお門違いじゃないか?」
「……口は回るようですね。確かにその通りでしょうが、論点がずれていることに気づいていただきたい。私はこのまま死にたいと思っているのですよ。それを”必要性を感じないから”などという理由で誤魔化されては立つ瀬が有りません。少しでも私に不快感を持っていただけるよう、言い回しに気をつけて発言したにすぎないのですから……」
「ほう?”おためごかし”って奴か?死ぬのが自分の利益になると本気で思ってるなら傑作だぜ」
「……何?」
ラルフはハットを被り直してさらにソフィーに近づく。
「聞いてるぜソフィー=ウィルム。あんたがヲルト大陸での一件で仲間外れにされたこと」
「なっ!?それは違います!ブレイブが勝手に……!」
「ああ、皆まで言うな。全部聞いてっから。あんたとベリアが今も生きていられるのはヲルトに侵入しなかったお陰だ。もし一緒に行ってたなら死んだことは確実だったろ?死ななくて良かったじゃないか」
「イーリスと一緒なら死することなど小事。むしろ共に死にたかった」
「ああ、うん。し、死にたかったのか……?」
ラルフは狂気的な発言をするソフィーに忌避感を感じながらもそのまま続けた。
「とにかく、安い挑発はよせ。ミーシャを惑わすようなら今度は俺が相手だ」
自分を指差して踏ん反り返る。
「バカですか?そうして生かした命が、またあなた方を狙うのですよ?ここで終わらせれば良いのに、何を躊躇っているのです?あと一歩。私の顔面を貫くのに必要な歩数です。どうでしょうか?」
「無いね。もう答えは出てるんだぜ?今更「やっぱ殺そう」なんて発想に至れるかよ。俺たちを狙う?上等だ。いくらでも掛かって来いよ。返り討ちにしてやっから」
ラルフはソフィーに背を向けた。それに合わせるようにミーシャたちも踵を返す。まるで狙ってこい、襲ってみろと見せつけているかのようだ。
だがソフィーは後ろから眺めるだけで何もしない。勝ち目以前に攻撃手段が限られている。争わないと言うならお言葉に甘えて享受しよう。それが明日に繋がるなら尚更。
「……良いでしょう。ならばそう致します。あなた方が殺しを必要と感じるか、私があなた方を殺すのか、二つに一つ。今は……甘んじて受け入れましょう……」
ソフィーの意識は急に飛んだ。魔力を使いすぎたせいである。
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ミーシャを殺す方法は未だ見つかることはない。
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