一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
583 / 718
第十四章 驚天動地

第三十三話 乗るなゼアル

しおりを挟む
 障壁の外で話を聞いていたマクマインは、ラルフの言葉に強烈な違和感を感じて口を開いた。

「駄目だ……ゼアル!!ラルフの口車に乗るな!!」

「……閣下……?」

 ゼアルは視線をラルフから外さずにマクマインの声に耳を傾ける。その僅かな変化に気づいたマクマインはそのまま続ける。

「奴は口だけの男だ!譲歩すれば付け上がる!今すぐに我らを取り込め!!」

 確かにラルフの口から”正々堂々”や”一対一”と言われたら、疑わない方がおかしい。しかしゼアルは一度イルレアンにて真っ向から勝負をしている。その時はまさか神によって力を与えられているとは露ほども思わず、油断があったことは言うまでもない。この一件から、ラルフは勝負事に関しては一応誠実であると捉えられる。
 でもマクマインの言うように、譲歩すれば付け上がるという点に関しては否定出来ない。どれだけ多くの者を挑発し、付け上がってきたのか。その例を挙げれば切りがない。

(……この特異能力を見られた以上、ここで息の根を止めなければチャンスは無い。それに……)

「ちょっと待てって、好き勝手言ってくれるなよ?譲歩してんのはこっちだぜ!」

 ラルフはマクマインに苦言を呈す。それはゼアルも考えていたことだ。ラルフが自ら戦うと踏みとどまっている。この気まぐれを利用しない手はないし、イルレアンでの一件のような油断はもうしない。
 そして、ラルフと戦うことにはメリットが三つ存在する。
 一つ、技で勝る者が勝つゼアルの推測を立証出来ること。ラルフの職業は”盗賊”。剣士でもなければ戦士でもない。つまり自分とは全く違う職種、戦闘方法で戦ってくるのだ。身体能力を同一化しているこの空間において、培ってきたゼアルの経験、技量が試される。これに勝利出来れば、格闘士と呼べるミーシャにも勝てる可能性はある。
 二つ、ラルフを仕留められれば、ジャッジメントに自由に出入り出来る存在を消せること。自分より遥かに強い存在を人間の領域まで引きずり降ろせるこの空間は、魔族を駆逐するのにうってつけの能力だ。現在、邪魔出来るのがラルフだけである点を考えた時、戦うことに意義がある。
 三つ、一対一なら絶対に勝てることだ。これはラルフに限ったことではなく、ミーシャが相手でも関係ない。どれだけ強かろうが、イビルスレイヤーの前には紙くず同然。もしラルフがこの能力に気づいているのであれば戦いを挑むこともなかっただろう。

「……その通りだラルフ。来い」

 ゼアルは一歩前に出て、ザッと地面を踏みしめる。全身全霊で感情を剥き出しに殺気を振りまく。ラルフはマクマインに向けて肩を竦めた。

「……ゼアル……馬鹿者が……」

 聞く耳こそあった。だが賛同は得られなかった。ここで逃したところで次があるというのに、ゼアルはそれを拒んだ。ゼアル自身はここ以外の機会は無いと踏んだのだろう。
 それもこれもラルフという存在の中途半端さにある。弱いくせにイキリ散らして、いつでも殺せるような空気感を醸し出している。押してくれと言わんばかりに背中を差し出す、崖っぷちに立つ犯罪者。お望みにと背中を押しに行くと、襟首をひっつかんで道ずれにしようとしてくるのだ。
 全てを巻き込み、死を振りまく死神のような存在。いや、疫病神だ。

『本当に何にゃあの能力?チートだにゃ。ラルフなんかが持つにゃんて許されないにゃ!』

『まぁでもゼアルの能力もかなり面白い能力だよね。あれ守護獣ガーディアンに使ってたらどうなってたかな?』

『……効かないんじゃないかにゃ?』

『え~?多分効くでしょ。効かないかな?』

「おい、黙っていろ。好き勝手なことを……いや、待てよ……」

 アルテミスとアシュタロトの雑談にマクマインは苛立ったが、ふと気づく。

「そうか……イビルスレイヤーか……なるほど。となればゼアルの自信も頷ける」

『ええ?なになに?自分だけ答えに辿り着いちゃう感じ?僕たちにも教えてくれて良いよ?』

「その必要はない。答えはすぐに分かる」

 マクマインの考えが当たっているならラルフに勝ち目はない。ここでミーシャと共に死ぬ。
 マクマインの夢が叶う。
 ラルフが提示したのだ。死への書類に自ら印鑑を押した。殺してみろと煽って崖っぷちに立った男は、足を滑らせて転落した。

(イミーナの失敗から数ヶ月……。全てはこの瞬間のためだったのか……)

 その事実に気づいた時、マクマインの顔に血管が浮き出る。歯を食いしばり、我慢している。それは怒りでも憎しみでもない。負の感情など一切ない喜悦。そう、マクマインは笑顔になることを必死に抑え込んでいる。最高の瞬間に立ち会えるのだからこの反応は当然だと言えた。

「ラルフめ、格好つけヨって……」

 ベルフィアは苦虫を噛み潰したような顔で睨む。ミーシャを前にして調子付いているようだが、勝てるかどうかは未知数。というより負ける可能性の方が高い。

「良いんじゃないですか?勝てると踏んで一対一を申し込んだのでしょう?私にとってはどうなろうと喜ばしいところですが……」

 ミーシャが死ねば主従関係が切れて自由の身。どちらかといえば死んでくれた方が助かるとも言える。望みはラルフが負けることだが、負けないのでないかと感じている。ゼアルの能力を疑うつもりはないが、やけに自信たっぷりのラルフの言動が気になっている。
 外野の考えが錯綜する中、ラルフはゼアルと5m程度の距離で向き合っていた。

「……これで最後だラルフ」

「……はは、かもな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...