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第十四章 驚天動地
第三十四話 世紀の対決
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空気が冷える。ひりつく痛みが肌に染みる。特に当事者という立場でもない部下たちも、固唾を飲んで見守っていた。
人類史上最強の騎士、魔断のゼアル。
世界史上稀に見る卑劣漢、ラルフ。
向かい合う二人。交差する視線。光る鋼。迸る闘気の奔流。
そんな二人を見て、ミーシャは緊張していた。
イルレアンでの一騎打ちではラルフが勝利している。ならラルフを信用しても良いと考えるが、ミーシャは蒼玉のせいで記憶が消えてしまっていた。ラルフの記憶を共有したお陰で擬似的に覚えてはいるのだが、ラルフの記憶故、当事者としてあの戦いの内情を知ることとなる。
ゼアルの剣を警戒しながらも、武器を手放すという生死を分けたギリギリの読み合い。初見殺しとも呼べる奇策が呼んだ奇跡。それがラルフの命を拾い、勝利に導いたことを克明に思い出す。
そしてあの時の奇策はもう使えない。ゼアルは覚えている。そういう奇策を打ってくる男であることが分かっている。一流に同じ手は二度と通用しないどころか、どんな奇策を使用するのかと推測し、三手先を読まれるほどに警戒されるのだ。
(勝てない……)
ミーシャはラルフを信じたい。信じたいが、祈りではラルフは助からない。こうなったら自分がラルフの前方に身を投げ打ち、代わりに斬られるという二対一の身代わり戦法を使用するのがベストだと考える。
しかし、もし実行するにしてもコンビネーションが大事だ。万が一、完璧なタイミングを失すれば確実な勝利は得られないし、そんなことをラルフは容認しない。
(さぁ……どう出る?)
ゼアルは様々な行動パターンを構築する。まずはイルレアンでの武器の放棄。ラルフが放った武器に気を取られることなく攻撃を仕掛けられる。
無謀に突っ込んでこようが、回り込んでこようが、退がろうが、飛ぼうが、ナイフを投擲しようが関係ない。どう足掻こうが、イビルスレイヤーのスキル”速度超過”の前には全てが無意味。ラルフの動き出しに合わせて発動し、一撃の下に断首する。
これでは単に技量というより、イビルスレイヤー頼みのように見えるが、これを発動することが出来るのはゼアルであることと、第七魔王”銀爪”の特異能力”未来予知”でも回避不可能ということ。
一騎打ち。これが勝利の鍵だ。
そしてその時は訪れた。
……キィンッ……カランカラン
武器が落ちる。ゼアルは前のめりに倒れ込み、おもむろに両膝をついた。
「!?」
その驚きは二人を除く、全ての者の総意だ。人も魔族も神も等しく驚いた。
「……何だ?!何が起きた!?」
マクマインはゼアルの突然の行動に混乱を極めた。イビルスレイヤーを一度発動すれば全てが終わると考えていた一人だというのに、どういうわけか当のゼアルが突如倒れ込んだのだ。目を白黒させるのも当然である。
「……ぐぅっ!き、貴様……っ!!」
ゼアルの手の先から血が滴り落ち、プルプルと震えていた。
「……すまないなゼアル、あんたが本気になったら俺の目じゃ速すぎて追い付かないんだよ。だから先手を打たせてもらった」
スッと右手を上げる。ラルフの手にいつの間にかダガーナイフが握られていた。ナイフの先に付着する血が生々しく滑り、ポタポタと垂れている。
「……ポ、小さな異次元か?」
「ああ、まぁな。ちょっと深く切ったから手の腱までイったか?それが狙いっちゃ狙いだけども……」
次元の穴の活用。ラルフの特異能力であるポケットディメンションは、出入り口を操作することでワープを可能に出来る。次元渡りの一環と言えるこの能力で、動かずしてゼアルの手首を切り裂くことに成功した。
これは睨み合うことで、相手の動きを予想し合う”一騎打ち”という舞台だからこそ実現出来る初見殺し。もし、なりふり構わず動かれていたらラルフに勝機はなかった。
一対一の示し合わせの戦いの場合、ゼアルの攻撃手段がカウンターに傾くことを知っていたから、一騎打ちに敢えて的を絞った。
「……全ては貴様の手の内か……私の性格まで見越してのことなら最初から勝ち目など無かったわけだ……」
「こんな姑息な手を使わなきゃ勝てないんだ。もし俺にこんな能力がなかったら、今頃見上げているのは俺だったろうぜ」
ゼアルは痛みに堪え、脂汗をかきながら笑った。ラルフは肩を竦めて困ったように薄っすら笑った。
「……一つ聞きたい。何故手首を狙った?その能力なら心臓を一突きすることも容易に出来たはずだ。首でも頭でも、刃を入り込ませるなら、即死させるのが一番だっただろう?」
「ん?怖かったってのが大きいかな。殺すことがじゃなくてな?例えば心臓を一突きしたとして、死を確信した瞬間に剣を振り回されたら怖いし……。だから剣を握らせたくなかったってのが理由に何のかな……?」
頬を掻きながら恥ずかしそうに答える。
「……なるほど、小心な男だ……。ならば今ここで殺せ、ラルフ。私は負けた……それも完敗だ。もう未練はない」
「うーん……」
ゼアルの覚悟に腕を組んで唸る。ジッと見つめる目の先はゼアルの手首から止め処なく溢れる流血。
「俺はさ、出来れば殺したくはないんだよ」
「ふざけルなラルフ!!」
背後からベルフィアが叫ぶ。
「其奴が何度、妾達ノ前に立ち塞がっタか!知らぬ訳ではあルまい!!もう二度と出て来られぬヨうに、殺すノじゃ!!」
「ですね。殺せば面倒は無くなりますし?」
イミーナもベルフィアに賛同する。ラルフが肝心な時にいつも放置するから立ちはだかる。であるなら、もう来ないように息の根を止める方が手っ取り早い。それに命をかけた一騎打ちの場で生かして返すなど、ゼアルに恥をかかせることに他ならない。
「そうだラルフ。私を殺せ」
「……いいや、やっぱ殺さねぇ。俺が勝利したんだから、俺のやり方に沿ってもらうぜ。人を殺すのは寝覚めが悪くってよ。俺の睡眠の邪魔になっから諦めてくれ」
ラルフは踵を返した。
「……甘いな、ラルフ」
ゼアルはぐっと腰を屈め、剣を口に咥えた。
その隙だらけの背中を斬りつけ殺さんがため、最後の攻撃に出る。
人類史上最強の騎士、魔断のゼアル。
世界史上稀に見る卑劣漢、ラルフ。
向かい合う二人。交差する視線。光る鋼。迸る闘気の奔流。
そんな二人を見て、ミーシャは緊張していた。
イルレアンでの一騎打ちではラルフが勝利している。ならラルフを信用しても良いと考えるが、ミーシャは蒼玉のせいで記憶が消えてしまっていた。ラルフの記憶を共有したお陰で擬似的に覚えてはいるのだが、ラルフの記憶故、当事者としてあの戦いの内情を知ることとなる。
ゼアルの剣を警戒しながらも、武器を手放すという生死を分けたギリギリの読み合い。初見殺しとも呼べる奇策が呼んだ奇跡。それがラルフの命を拾い、勝利に導いたことを克明に思い出す。
そしてあの時の奇策はもう使えない。ゼアルは覚えている。そういう奇策を打ってくる男であることが分かっている。一流に同じ手は二度と通用しないどころか、どんな奇策を使用するのかと推測し、三手先を読まれるほどに警戒されるのだ。
(勝てない……)
ミーシャはラルフを信じたい。信じたいが、祈りではラルフは助からない。こうなったら自分がラルフの前方に身を投げ打ち、代わりに斬られるという二対一の身代わり戦法を使用するのがベストだと考える。
しかし、もし実行するにしてもコンビネーションが大事だ。万が一、完璧なタイミングを失すれば確実な勝利は得られないし、そんなことをラルフは容認しない。
(さぁ……どう出る?)
ゼアルは様々な行動パターンを構築する。まずはイルレアンでの武器の放棄。ラルフが放った武器に気を取られることなく攻撃を仕掛けられる。
無謀に突っ込んでこようが、回り込んでこようが、退がろうが、飛ぼうが、ナイフを投擲しようが関係ない。どう足掻こうが、イビルスレイヤーのスキル”速度超過”の前には全てが無意味。ラルフの動き出しに合わせて発動し、一撃の下に断首する。
これでは単に技量というより、イビルスレイヤー頼みのように見えるが、これを発動することが出来るのはゼアルであることと、第七魔王”銀爪”の特異能力”未来予知”でも回避不可能ということ。
一騎打ち。これが勝利の鍵だ。
そしてその時は訪れた。
……キィンッ……カランカラン
武器が落ちる。ゼアルは前のめりに倒れ込み、おもむろに両膝をついた。
「!?」
その驚きは二人を除く、全ての者の総意だ。人も魔族も神も等しく驚いた。
「……何だ?!何が起きた!?」
マクマインはゼアルの突然の行動に混乱を極めた。イビルスレイヤーを一度発動すれば全てが終わると考えていた一人だというのに、どういうわけか当のゼアルが突如倒れ込んだのだ。目を白黒させるのも当然である。
「……ぐぅっ!き、貴様……っ!!」
ゼアルの手の先から血が滴り落ち、プルプルと震えていた。
「……すまないなゼアル、あんたが本気になったら俺の目じゃ速すぎて追い付かないんだよ。だから先手を打たせてもらった」
スッと右手を上げる。ラルフの手にいつの間にかダガーナイフが握られていた。ナイフの先に付着する血が生々しく滑り、ポタポタと垂れている。
「……ポ、小さな異次元か?」
「ああ、まぁな。ちょっと深く切ったから手の腱までイったか?それが狙いっちゃ狙いだけども……」
次元の穴の活用。ラルフの特異能力であるポケットディメンションは、出入り口を操作することでワープを可能に出来る。次元渡りの一環と言えるこの能力で、動かずしてゼアルの手首を切り裂くことに成功した。
これは睨み合うことで、相手の動きを予想し合う”一騎打ち”という舞台だからこそ実現出来る初見殺し。もし、なりふり構わず動かれていたらラルフに勝機はなかった。
一対一の示し合わせの戦いの場合、ゼアルの攻撃手段がカウンターに傾くことを知っていたから、一騎打ちに敢えて的を絞った。
「……全ては貴様の手の内か……私の性格まで見越してのことなら最初から勝ち目など無かったわけだ……」
「こんな姑息な手を使わなきゃ勝てないんだ。もし俺にこんな能力がなかったら、今頃見上げているのは俺だったろうぜ」
ゼアルは痛みに堪え、脂汗をかきながら笑った。ラルフは肩を竦めて困ったように薄っすら笑った。
「……一つ聞きたい。何故手首を狙った?その能力なら心臓を一突きすることも容易に出来たはずだ。首でも頭でも、刃を入り込ませるなら、即死させるのが一番だっただろう?」
「ん?怖かったってのが大きいかな。殺すことがじゃなくてな?例えば心臓を一突きしたとして、死を確信した瞬間に剣を振り回されたら怖いし……。だから剣を握らせたくなかったってのが理由に何のかな……?」
頬を掻きながら恥ずかしそうに答える。
「……なるほど、小心な男だ……。ならば今ここで殺せ、ラルフ。私は負けた……それも完敗だ。もう未練はない」
「うーん……」
ゼアルの覚悟に腕を組んで唸る。ジッと見つめる目の先はゼアルの手首から止め処なく溢れる流血。
「俺はさ、出来れば殺したくはないんだよ」
「ふざけルなラルフ!!」
背後からベルフィアが叫ぶ。
「其奴が何度、妾達ノ前に立ち塞がっタか!知らぬ訳ではあルまい!!もう二度と出て来られぬヨうに、殺すノじゃ!!」
「ですね。殺せば面倒は無くなりますし?」
イミーナもベルフィアに賛同する。ラルフが肝心な時にいつも放置するから立ちはだかる。であるなら、もう来ないように息の根を止める方が手っ取り早い。それに命をかけた一騎打ちの場で生かして返すなど、ゼアルに恥をかかせることに他ならない。
「そうだラルフ。私を殺せ」
「……いいや、やっぱ殺さねぇ。俺が勝利したんだから、俺のやり方に沿ってもらうぜ。人を殺すのは寝覚めが悪くってよ。俺の睡眠の邪魔になっから諦めてくれ」
ラルフは踵を返した。
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