592 / 718
第十四章 驚天動地
第四十一話 事の起こり
しおりを挟む
『話にならないな……』
ネレイドはジニオンの態度に呆れてため息をついた。何も考えずに口を滑らせたケルベロスの殺害予告、敵の気配を察知してなりふり構わず飛び出していく脳筋っぷり。ジニオンの存在意義に疑問すら感じる。
元々、八大地獄の面々を生かしていた理由は特異能力の保護にある。当時多くの転移者の中で、それぞれが珍しい能力に目覚め、能力を順調に伸ばしていた。
転移者同士の仲間割れの末に最後まで生き残った精鋭たちということもあり、特例として保存することに決めたのだ。本人たちの意思や選択など度外視で……。
『いずれも強者揃い……魔王にすら引けを取らないと確信していたのだが、現実はそう甘くはない』
全てを捩じ伏せられるなら尊大な態度も許せる。馬鹿にされたとて、結果が伴うのであれば譲歩も出来た。
だが現実は違った。人族に対してはまず間違いなく勝てる、魔族も軽く捻れる、だが魔王とくれば話は違う。魔族の中でも一際秀でた存在には厳しい戦いを強いられる。
『いくら生き返しても埒が明かないとくるならば……切るか』
ネレイドは損切りを考え始める。もっと長い目で見ても良いのだが、ヒューマン最強の騎士ゼアルを手に入れたことを思えば、命令に背いて好き勝手動く八大地獄に割くリソースが勿体無いと思えたのだ。これは一人で決めるべき事柄ではない。話し合いが必要な案件ではあるのだが、ネレイドの中では既に「廃棄」で固まりつつあった。
「勝手すぎるぞ、ネレイド」
その時背後から声をかけられた。振り向いた先に居たのはロングマン他2名、そしてミネルバだった。
『何処に居たのだ?ロングマン。探していたのだぞ?』
「そうか?そうは見えなかったが……いったい何の用だ?」
『単刀直入に言おう。其ら、ケルベロスを殺すつもりか?』
あまりに真っ直ぐに聞かれたためにロングマンも一瞬黙ったが、すぐに口を開く。
「……殺す」
『何故だ?ケルベロスを殺せば多次元との境界が崩れ、魔族よりも下劣な存在がこの世界を蹂躙するかもしれないのだぞ?藤堂源之助の罪を……歴史を繰り返すつもりか?』
「うむ」
『身勝手な……この世界に住む生き物全てを蔑ろにしても良いのか?そうまでして自由を欲するか?』
「例えこの世界が消滅しようとも、我々の自由には代えられぬ」
ロングマンとネレイドの対立。ミネルバはどこ吹く風といった感じで欠伸をしている。
『……相入れぬな』
「元より……」
双方睨み合う。時にして3秒の沈黙。動いたのはロングマンだ。
左手で鯉口を抜き、右手で刀の柄を握って、腰を切り刃を晒す。一連の動作に一切の無駄がなく、いつ鞘から抜いたのか分からないレベルだ。周りから見ていたら、急にニョキッと剣が生えたように見えたことだろう。
「火喰い鳥」
ロングマンの体がブレる。刀を瞬時に四回振り、斬撃を飛ばした。寸分違わずネレイドに迫る。しかし、飛ぶ斬撃はネレイドを傷つけることなくその体を通り過ぎていった。ロングマンの片眉が釣り上がる。
『吾はここに居てここに居ない。其程度で傷つけられはせん』
チラリとミネルバを見る。
「なるほど。猫が反応せんと思ったら、彼奴がやられる心配は無いと……そういうことか?」
面倒な手合いだ。相手にするだけ時間の無駄だと感じたロングマンだったが、次の瞬間にはここで立ち止まれたことに感謝することになる。
「ぬっ!ロングマン!あれを見よ!」
静観していたトドットは途端に声を荒げる。ネレイドのすぐ背後に犬の姿を発見した。激しい音が気になって首を出したようだ。
「駄犬だな。その間抜けに感謝する」
ロングマンは倒れ込むように腰を屈めると、強靭な脚力で床を抉った。ネレイドに突進する形で真っ直ぐ突き抜ける。ネレイドの半透明の体をくぐり抜け、1匹のケルベロスに向かってひた走る。
コンマ1、2秒の世界。そんな世界の中でネレイドはロングマンに狙われていなかった事実や、背後にいたケルベロスの存在にようやく気づく。ロングマンの剣は、今小さくなって逃げ回るケルベロスの首をいとも簡単に切り飛ばせる。大きくなれば別だが、今のままでは死ぬのみ。
ネレイドは手を伸ばす。ケルベロスはサトリの創造物なので、他神の干渉は本来避けなければならないのだが、今は非常事態には答えねばならない。ケルベロスを戦闘モードに変更させ、ロングマンの魔の手から逃がそうと考えたのだ。
けどそこは守護獣と呼ばれる存在。カビの生えた最強ではあるが、頭は回る。ロングマンの攻撃から逃げるために既に戦闘モードに移行していた。それにさらに上乗せする形でネレイドが力を送ったようだ。
結果──。
ゴバァッ
天井を突き破り、3体に散っていた体は瞬時に元に戻り、3匹のしば犬から1匹のケルベロスとなる。
ロングマンはこうなる前に斬撃を放っていた。しば犬形態の小さな体にはかなりの痛手だが、巨大化と共にその傷は矮小化され、あっという間に擦り傷へと縮小してしまった。
火に包まれた巨大な体を見せびらかすように燃え盛る魔獣。それはまるで火柱のように天空に昇っていった。
ネレイドはジニオンの態度に呆れてため息をついた。何も考えずに口を滑らせたケルベロスの殺害予告、敵の気配を察知してなりふり構わず飛び出していく脳筋っぷり。ジニオンの存在意義に疑問すら感じる。
元々、八大地獄の面々を生かしていた理由は特異能力の保護にある。当時多くの転移者の中で、それぞれが珍しい能力に目覚め、能力を順調に伸ばしていた。
転移者同士の仲間割れの末に最後まで生き残った精鋭たちということもあり、特例として保存することに決めたのだ。本人たちの意思や選択など度外視で……。
『いずれも強者揃い……魔王にすら引けを取らないと確信していたのだが、現実はそう甘くはない』
全てを捩じ伏せられるなら尊大な態度も許せる。馬鹿にされたとて、結果が伴うのであれば譲歩も出来た。
だが現実は違った。人族に対してはまず間違いなく勝てる、魔族も軽く捻れる、だが魔王とくれば話は違う。魔族の中でも一際秀でた存在には厳しい戦いを強いられる。
『いくら生き返しても埒が明かないとくるならば……切るか』
ネレイドは損切りを考え始める。もっと長い目で見ても良いのだが、ヒューマン最強の騎士ゼアルを手に入れたことを思えば、命令に背いて好き勝手動く八大地獄に割くリソースが勿体無いと思えたのだ。これは一人で決めるべき事柄ではない。話し合いが必要な案件ではあるのだが、ネレイドの中では既に「廃棄」で固まりつつあった。
「勝手すぎるぞ、ネレイド」
その時背後から声をかけられた。振り向いた先に居たのはロングマン他2名、そしてミネルバだった。
『何処に居たのだ?ロングマン。探していたのだぞ?』
「そうか?そうは見えなかったが……いったい何の用だ?」
『単刀直入に言おう。其ら、ケルベロスを殺すつもりか?』
あまりに真っ直ぐに聞かれたためにロングマンも一瞬黙ったが、すぐに口を開く。
「……殺す」
『何故だ?ケルベロスを殺せば多次元との境界が崩れ、魔族よりも下劣な存在がこの世界を蹂躙するかもしれないのだぞ?藤堂源之助の罪を……歴史を繰り返すつもりか?』
「うむ」
『身勝手な……この世界に住む生き物全てを蔑ろにしても良いのか?そうまでして自由を欲するか?』
「例えこの世界が消滅しようとも、我々の自由には代えられぬ」
ロングマンとネレイドの対立。ミネルバはどこ吹く風といった感じで欠伸をしている。
『……相入れぬな』
「元より……」
双方睨み合う。時にして3秒の沈黙。動いたのはロングマンだ。
左手で鯉口を抜き、右手で刀の柄を握って、腰を切り刃を晒す。一連の動作に一切の無駄がなく、いつ鞘から抜いたのか分からないレベルだ。周りから見ていたら、急にニョキッと剣が生えたように見えたことだろう。
「火喰い鳥」
ロングマンの体がブレる。刀を瞬時に四回振り、斬撃を飛ばした。寸分違わずネレイドに迫る。しかし、飛ぶ斬撃はネレイドを傷つけることなくその体を通り過ぎていった。ロングマンの片眉が釣り上がる。
『吾はここに居てここに居ない。其程度で傷つけられはせん』
チラリとミネルバを見る。
「なるほど。猫が反応せんと思ったら、彼奴がやられる心配は無いと……そういうことか?」
面倒な手合いだ。相手にするだけ時間の無駄だと感じたロングマンだったが、次の瞬間にはここで立ち止まれたことに感謝することになる。
「ぬっ!ロングマン!あれを見よ!」
静観していたトドットは途端に声を荒げる。ネレイドのすぐ背後に犬の姿を発見した。激しい音が気になって首を出したようだ。
「駄犬だな。その間抜けに感謝する」
ロングマンは倒れ込むように腰を屈めると、強靭な脚力で床を抉った。ネレイドに突進する形で真っ直ぐ突き抜ける。ネレイドの半透明の体をくぐり抜け、1匹のケルベロスに向かってひた走る。
コンマ1、2秒の世界。そんな世界の中でネレイドはロングマンに狙われていなかった事実や、背後にいたケルベロスの存在にようやく気づく。ロングマンの剣は、今小さくなって逃げ回るケルベロスの首をいとも簡単に切り飛ばせる。大きくなれば別だが、今のままでは死ぬのみ。
ネレイドは手を伸ばす。ケルベロスはサトリの創造物なので、他神の干渉は本来避けなければならないのだが、今は非常事態には答えねばならない。ケルベロスを戦闘モードに変更させ、ロングマンの魔の手から逃がそうと考えたのだ。
けどそこは守護獣と呼ばれる存在。カビの生えた最強ではあるが、頭は回る。ロングマンの攻撃から逃げるために既に戦闘モードに移行していた。それにさらに上乗せする形でネレイドが力を送ったようだ。
結果──。
ゴバァッ
天井を突き破り、3体に散っていた体は瞬時に元に戻り、3匹のしば犬から1匹のケルベロスとなる。
ロングマンはこうなる前に斬撃を放っていた。しば犬形態の小さな体にはかなりの痛手だが、巨大化と共にその傷は矮小化され、あっという間に擦り傷へと縮小してしまった。
火に包まれた巨大な体を見せびらかすように燃え盛る魔獣。それはまるで火柱のように天空に昇っていった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる