一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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最終章

第二話 どつぼ

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『ウンザリだ!今すぐこの男の息の根を止めろサトリ!!』

 アトムは声を荒らげた。
 ラルフのああ言えばこう言う話術は見事に神々の逆鱗に触れる。ただ返事するだけで敵意ヘイトが稼げるのだからチョロいものだ。
 ユピテルが釣れずにアトムが激高したのを見てラルフはキョドキョドと落ち着きがなくなる。狙った相手が怒らなかったからか、ここまでの怒りを想定していなかったのか、はたまた焦っているのも演技か。
 ラルフの背後からひょこっとサトリが顔を出す。

『嫌です』

 キッパリと断る。五対一という不利に全く臆することなく言い放ってくれるのは単純に嬉しい。
 味方がサトリだけという心細さはあるものの、神を味方に付けているのはそれだけでかなりの強みだ。
 しかしラルフはそんなことよりも気になっていたことに言及する。

「……あのさ、そういえば俺って死んでるのか?」



「……生きてます!間に合いました!」

 アルルは一仕事を終え、ホッと一息をついて周りを見渡す。見守っていたミーシャたちの険しい表情が一気に緩んだ。

「良かったぁ……!」

 ミーシャはボロボロと止めどなく涙を流す。ベルフィアは焦りながらヘタれるミーシャを心配する。
 みんなも安堵から顔を見合わせる中、イーファが前に出た。

「とりあえずベッドに運びましょう。ここに寝かせていては風邪を引いてしまいますので……」

 そう言うとラルフを担ごうと屈む。デュラハンの腕力なら大の大人一人くらい綿のぬいぐるみを抱える様なもの。しかしその行動をミーシャが止める。

「私が運ぶ」

「はっ」

 イーファはミーシャの反応を予測していたかのような速度で返答し、嫌な顔一つせず即座に下がる。
 涙でぐしゃぐしゃになった顔でラルフを抱き上げ、鼻を啜りながら小屋に向かう。ベルフィアはすぐ背後にピッタリと着いて、ドアの開け閉めなどの補助を行なっている。

「で、でもどう言うわけでやせ我慢なんて……すぐに回復してもらえば良かったんじゃ……」

 歩は不安げな顔でアンノウンを見る。すっかり安心しきったアンノウンは肩を竦ませながら見解を語る。

「私たちと同じだからだと思うよ?……つまりさ、神様から突然力をもらったせいで自分の元々の限界と底上げされた許容量の差が実感できずに混乱したんじゃないかな?痛いけど耐えられるの最上級。致命傷だと気付かなかったってパターン……とかさ」

「え?あっ……え?な、なるほど?」

 いまいち分かっていない歩だったが、取り敢えず何度も頷きながら理解したフリをする。

「明日は我が身、ですか……」

 アンノウンの言葉を側で聞いていたブレイドは呟くように口を挟んだ。同じ立場のように口を開いたのは、ブレイドも降って湧いたように生まれ持った力を覚醒させているからだった。油断すればそのつもりがなくともやせ我慢してしまいかねない。

「大丈夫デショ。普段カラ最前線デ戦ッテイル貴方ナラ自分ノ限界は既ニ見エテイルハズ」

「どうかな~。そう言うのが油断に繋がるんだよぉ?」

 ジュリアの慢心発言をエレノアがチクリ。ジュリアはムッとしつつもエレノアに頭を下げる。

「しかし何と言いましょうか……ラルフが居なくなったことで急に不便になりましたね。あのポケット何とかとかいう能力は便利だったのですが……」

 イミーナはため息をつきつつ腕を組む。それについてはブレイドもハッとした顔を見せた。

「しまった。ウィーを迎えに行けないじゃないか。マズイな……」

「え~?一日預けるくらい大丈夫でしょ?」

「それはそうだけど、迎えに行けないことを伝えないと。ラルフさんの通信機を借りてくる」

 ブレイドは走って小屋に向かった。ウィー以外に懸念がなくなったからか思い思いに行動し始める。
 アンノウンは船の製造に。歩はアンノウンの手伝いに。デュラハン姉妹は駄弁りながら剣の稽古。姉妹の稽古にジュリアが混ざり、お互いを高め合う。ブレイドとアルル、そしてエレノアは固まって行動していて、黒影も同行している。イミーナは小屋へ移動した。
 そんな風景を何気なく見ていた八大地獄の面々は呆れた顔を見せた。

「呑気なもんじゃのぅ。神の襲撃が続いたというに……」

「別に良いんじゃない?こんなんでも普通じゃ手が付けられないぐらい強いんだしね」

「だからこそ苛立つということもある。マヌケどもめが……。さて、そろそろ我らも解放の時ではないか?」

 ロングマンはグルっとメンバーを見渡す。

「神は此奴らの対処に追われ、我々を見ていない。この機会にこのような厄介なマヌケどもなんぞ放っておいて、この地よりどこか遠くの安寧の地を目指すのは……」

「はっ!それも悪かねぇが、このまま解散するってのはどうだ?どうせもう神からの勅命も俺たちが掲げた目的もご破算。チームで行動する意味もあんまねぇだろ?それよりかはバラバラになって好き勝手生きるってのが良いんじゃね?」

 ジニオンの意見にノーンが目を輝かせた。

「それ良いじゃない!せっかく生き返ったんだし、思いっきり羽を伸ばしたいと思ってたところよ。縛られた生活なんてウンザリだもん」

「……お前たちの言い分は悲しいほどよく分かる。だがそれを推し進めれば神の手がこちらに伸びた時が厄介となるぞ?この世界に我らを危機的状況に追い込むことができるのはほんの少数。それらを完璧に避けても天より覗き込む目から逃れる術はない。もしもの時に対処可能な戦力は大事ではないか?」

「そんなの……悪いこと言い出したらいくらでも考えられちゃうじゃん!ある程度の妥協は必要でしょう?」

 ロングマンとノーン。まるで親子のような雰囲気を醸し出す。こういったやり取りはいつものことなのか、「おい、せよ」とジニオンは呆れ返った。

「仲間割れかぁ?もう俺たちしかいないんだからよぉ。仲良くしなよなぁ」

 そんな二人の会話に藤堂が口を挟む。その瞬間にロングマンたちは一斉にその場を離れた。

「……つれないねぇ」

 藤堂は寂しそうに肩を竦めた。

 神々の猛攻を防いだとは思えないほどに自由気ままに過ごす。
 どこに向かうのかも見えぬままに……。



「俺は死んでねぇのか……良かった……」

 ラルフは大きく安堵した。

『何も良くないわ。こちらとしては今すぐ死んで欲しいのに……』

 エレクトラの文句にラルフは肩を竦めた。

「まぁ慌てるなよ。どっちかというと生きている方が現状を打破出来るかもだぜ?」

『……というと?』

 ラルフはニヤリと笑う。勿体ぶるラルフの心を読んだサトリは困った顔で首を振った。

『あっあー……それはやめたほうが良いと思いますが……』

『……何なんだ?』

 ラルフとサトリの間だけで交わされる会話に苛立ちを覚える。
 焦らした分だけ期待値が高まる中、満を持してラルフは口を開いた。

「俺が世界から出て行けば良いんだろ?なら簡単だ。望み通り出て行ってやるよ。小さな異次元ポケットディメンションでな!」

 神々が危惧していた次元渡り宣言。ラルフは気付かぬ内に自らどつぼに嵌っていった。

『ほらにゃーっ!!』

 アルテミスの嬉しそうな声が聖域にこだました。
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