一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
672 / 718
最終章

第七話 やって来た災厄

しおりを挟む
 世界が確実に時を刻む中、ある時期を境に時が止まってしまった哀れな連中がいた。

 世界の最北端に位置する街”クリスタルランド”。一角人ホーン妖精種フェアリーが統治する寒冷地帯。
 生まれた時から魔力と深い関わりのあるホーンはフェアリーとの相性も良く、何百年という時を共にして来た旧知の仲である。
 街全体を覆う魔障壁発生装置を最初に開発した種族で、当時は技術を独占していたが、”王の集い”発足による技術提供により人族に安全をもたらした。魔族打倒を謳い、人族をまとめ上げた森王レオ=アルティネスの功績は大きい。
 それもこれもエルフという種族の排他主義を嫌った異端児が、王族より生まれた奇跡の結果だ。神に最も近いと思い込んでいる美しき勘違い種族。
 そんなエルフ以上に他の種族との関わりを極力絶っており、ドワーフ以上の引きこもり種族として有名である。

 天高くそびえ立つクリスタルを加工して作られたかのような荘厳な城。半透明で中まで丸見えだと思われそうだが、魔法で光を屈折させているので外から中を見ることは不可能。もちろん中からはしっかりと外が見渡せる。窓はないが、魔法により空調管理が徹底されているので快適である。赤い煌びやかな絨毯が敷かれ、床暖房も完備。年がら年中寒い土地であるため、一般家庭にも床暖房は普及している。
 快適な居住性を求めた結果、まさに引きこもるのに最適な環境を生み出し、休日はほとんどの国民が極力動かないようにのんびり過ごしている。
 エルフ以上に神を信奉しており、ホーン独自の宗教観で超常の存在を崇め奉っている。そのためか神聖魔法に精通したホーンが多く、アンデッドに無類の実力を発揮する。

 今日も多くの国民が祈ったりダラダラしたりしているだろう休日の昼。城の上部から城下町を眺める影があった。
 ソフィー=ウィルム。白の騎士団最年長であり”魔女”と呼ばれたホーン最強の彼女は、ベッドの上で何も出来ずにただぼんやりと外を眺めている。
 長年付き添った義手と義足をミーシャによって破壊され、立つこともままならなくなってしまった。最初こそ古い機種で代用していたが、最新鋭と異なり操作が難しく、段々と面倒になってリハビリも投げ出した。
 今はただ死にゆくのみの存在としてベッドに寝っ転がっている。

 ──コンコンッ

 そんな時ノック音が聞こえた。ソフィーは特に返事もせず放っておくが、ノックの主は返事を待たずにガチャリと部屋に入って来た。

「ソフィー様。お食事をお持ちいたしました」

 現れたのはイザベル=クーン。白の騎士団で”煌杖”の二つ名を持つ人族屈指の魔法使い。
 彼女は神よりもソフィーに心酔していて、ソフィーのためにと日夜尽くしている。努力虚しく、ソフィーの心に響くことはなかったが、イザベルなりに弁えて関わっている。
 最近ソフィーは固形物を食べずにスープばかりを飲んでいる。体を自ら改造したために食べなくても痩せ細ることはないのだが、心なしか目に生気を感じられない。このままでは本当に命に直結しそうな勢いだ。

 それもこれもエレクトラのせいだ。

 力の神エレクトラはソフィーの一度の敗北を許さなかった。ソフィーに与えた力を没収し、縋るソフィーをまるでゴミを見るかのような目で冷たくあしらった。
 それ以降全く姿を現さなくなってしまったのだ。せっかく手に入れた最後の機会を上手く活かせなかったとし、ソフィーは塞ぎ込んでしまった。今もきっと自分を責め続けているに違いない。
 イザベルはソフィーの介護をしながら胸が張り裂けそうになる。常に一線で活躍して来た彼女の昔の姿を思い出し、涙が溢れそうになった。
 最後のひと掬いをソフィーの口に持っていき、空になったスープ皿を持って出入り口に向かう。

「……イザベル……」

 空気に溶けて無くなるほどに小さな声。されどイザベルは聞き逃さなかった。返事をすることなく立ち止まり、振り返る。ソフィーは外を眺めながらまたポツリと呟く。

「……ありがとう……」

 イザベルの頰に一筋の涙がこぼれ落ちた。拭う事も出来ずに震える声で「……はい」と返事をして部屋を後にした。
 また静かになった部屋。ソフィーはうとうとと瞼を重くしていた。このまま意識を手放そうとしたその時──。

『もう一度力を与えてやろうか?』

 その瞬間に目がパチッと開く。低い男性の声だ。先ほどまで特に気配がなかったというのに突如現れた。
 ソフィーの経験で培われた確かな第六感を掻い潜る猛者。間違いない。これは神だ。

「あ、あなた様はいったい……」

 この部屋に居る。しかし実体がない。エレクトラの時とはアプローチの仕方が違う。

『我が名は創造神アトム。貴様らの神だ!』

 その瞬間。ソフィーの目から涙がこぼれた。ボロボロと涙が流れ落ちて枕が濡れる。

「あぁ……神よ」

 本当なら手を組んで跪きたいが、手も足もない彼女には到底不可能な話。ひたすらに泣くことしか出来ない。

「感謝いたします。この出会いに……私の強運に……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...