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最終章
第九話 動き出す秒針-2
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その日、緊急用の無線機に連絡が入った。
「おやぁ?何かあったかな?」
ヴォルケイン王国の王、フリード=ヴィルヘルム=ハイドクルーガー。”王の集い”では国王で通っている彼は、いつもの飄々とした顔で無線機を起動した。魔鉱石から光が放たれ、連絡を飛ばした側の情報が映し出される。いわゆるホログラムという奴だ。
「やぁっ、響王じゃないか。王の集い以外で話すのは何年ぶりのことかな?」
一角人の長の一人であり、最北端の街「クリスタルランド」を統治する。”王の集い”では響王で知られている。
『国王……大変なことになった。私に知恵を貸していただきたい』
「これはこれは……猊下からそれほど弱々しい言葉を聞けるとは思いもよりませんでした。ヒューマンである私にどれほどのことが出来るか不安ではありますが……ま、なるべく尽力いたしましょう」
王の集いに参加した人種の中で圧倒的に弱いはずのヒューマン。そのヒューマンに頼るホーンの図。国王は今まで心の底から見下されて来たであろう歴史を振り返り、尊大な態度で響王に向き合う。だが文句も言わずに響王は話し始めた。
ある程度響王の話を聞いたところで国王も襟を正した。
「なるほど……それは由々しき事態ですな」
『ああ……』
話をまとめると、白の騎士団の魔女と煌杖の二人がホーンの特殊部隊を連れ立って国を勝手に出て行ってしまったということだ。
反乱分子。人族の内情をよく知る存在が敵になるならば、魔族や魔王同様に厄介な存在であることは間違いない。
「しかしだ。確か魔女……彼女は現在無力だったはずだが?少し前の会議で彼女に義手と義足を与えないことで合意したよねぇ?彼女がどれだけ危険であったかは君と刃王のお二方が説明していたと思ったけどねぇ……」
『ああ。だが、ただ渡さないとあっては煌杖の反感を買う。誰にも扱うことの出来ない旧式を与え、回復の見込みなしと思い込ませることに成功したはずだった……』
「当てようか?彼女はその旧式を使いこなしてしまったんだろ?または自作していた義手と義足に付け替えて力を取り戻したか」
『ハズレだ。真実は……誰にも理解出来はしない』
*
ソフィーは太陽に手をかざす。忘れていた風の感触。日の温もり。
全てが久しぶりで、全てが初めての不思議な感触。
『どうだ?少しは自分の手足に慣れたか?』
アトムは得意満面といった声で問いかける。
「上々ですアトム様。流石は創造主。私の失われた手足を再生させるとは夢にも思いませんでした」
強くなるために自ら切り落とした手足。自作の魔導具である義手、義足に替えたことで確かに超人へと昇華したのだが、どこまでいっても超人止まりであり、強さの限界を感じていた。
さらには次のステージに上がる前にミーシャに叩き潰され、同胞からの支援もまともに受けられずに死にゆく定めだった。
アトムによって繋いだ命。
「このご恩は必ずお返し致します」
『当然だな。貴様に出来ることは命をかけて我が敵を殺すことだ』
「はっ。ご期待に添えましょう」
ソフィーは虚空に頭を下げる。その状態のままアトムに声をかけた。
「……アトム様。不敬を承知で私のささやかなお願いを聞いてくださいますか?」
『ん?ふっ……強欲だな。この上さらに何を望む?』
「出来ますれば、お姿を拝見しとうございます。アトム様の存在を認識した彼らは何も言わずに付いてきてくれましたが、やはりお姿を見せていただけた方が我らの士気をより一層引き上げます。どうか……」
『なるほど。道理だな。だが私は特定の形を持ち合わせていない。どのような姿が貴様らの士気を上げるのだ?』
それはつまりどんな姿形でも思いのままに顕現してくれるということ。
ソフィーは考える。全員の士気を上げるとなれば正直何でも良いだろう。しかし自分の士気を上げるとなれば少し話は変わってくる。
「……私の頭の中の人物を模ることは可能でしょうか?」
『ほう?ならば少し頭の中を覗かせてもらおう』
しばらく黙るアトムに期待するソフィー。すると突然光が収束し、人の形を形成する。
それは背中から羽が生えていた。肩甲骨まで伸びたブロンドヘアーに健康的な肌色。キリッとした目元と鼻筋の通った美しい顔立ち。スラリとした体躯にしっかりとした筋肉がつき、戦士であることを強調している。
『あ、あ、あー……ふむ。声はこんな感じか?』
「あぁ……イーリス。私のイーリス……」
翼人族の英雄、イーリス=ベリタージュ。またの名を”雨穿つイーリス”。アトムはソフィーの要望通り、姿形どころか声まで寄せてきた。ソフィーは喜びに満ちて跪く。
それを少し離れて見ていたイザベル=クーンは悔しそうに下唇を噛んだ。
「あれが……ソフィー様の……」
ようやく振り向いてくれそうだったソフィーの心を掴み取られてしまった。ソフィーの手足を生やしたのには感謝しかないが、それ以上は望んでいない。
『ソフィー。私のために死んでちょうだい』
さらに口調まで似せてくる。イーリスはそんなことは言わないものの、ソフィーはそんな些事に突っかかることはない。むしろ喜んでいた。
「はっ!必ずや!」
ソフィーの気迫が部下に伝播する。現状を知り得ない部下たちはその光景に首を捻るが、神の顕現を目の当たりにして興奮冷めやらぬ雰囲気になっていた。イザベラを除いて。
*
「手足が再生?そりゃ誰も当たらないよ」
国王は大きくため息をついた。とにかく響王との協力関係を密に、ソフィーたちを打倒する方向で話はまとまった。
数日後、今度は獣王からグランツ脱走の情報が伝えられることになる。
「おやぁ?何かあったかな?」
ヴォルケイン王国の王、フリード=ヴィルヘルム=ハイドクルーガー。”王の集い”では国王で通っている彼は、いつもの飄々とした顔で無線機を起動した。魔鉱石から光が放たれ、連絡を飛ばした側の情報が映し出される。いわゆるホログラムという奴だ。
「やぁっ、響王じゃないか。王の集い以外で話すのは何年ぶりのことかな?」
一角人の長の一人であり、最北端の街「クリスタルランド」を統治する。”王の集い”では響王で知られている。
『国王……大変なことになった。私に知恵を貸していただきたい』
「これはこれは……猊下からそれほど弱々しい言葉を聞けるとは思いもよりませんでした。ヒューマンである私にどれほどのことが出来るか不安ではありますが……ま、なるべく尽力いたしましょう」
王の集いに参加した人種の中で圧倒的に弱いはずのヒューマン。そのヒューマンに頼るホーンの図。国王は今まで心の底から見下されて来たであろう歴史を振り返り、尊大な態度で響王に向き合う。だが文句も言わずに響王は話し始めた。
ある程度響王の話を聞いたところで国王も襟を正した。
「なるほど……それは由々しき事態ですな」
『ああ……』
話をまとめると、白の騎士団の魔女と煌杖の二人がホーンの特殊部隊を連れ立って国を勝手に出て行ってしまったということだ。
反乱分子。人族の内情をよく知る存在が敵になるならば、魔族や魔王同様に厄介な存在であることは間違いない。
「しかしだ。確か魔女……彼女は現在無力だったはずだが?少し前の会議で彼女に義手と義足を与えないことで合意したよねぇ?彼女がどれだけ危険であったかは君と刃王のお二方が説明していたと思ったけどねぇ……」
『ああ。だが、ただ渡さないとあっては煌杖の反感を買う。誰にも扱うことの出来ない旧式を与え、回復の見込みなしと思い込ませることに成功したはずだった……』
「当てようか?彼女はその旧式を使いこなしてしまったんだろ?または自作していた義手と義足に付け替えて力を取り戻したか」
『ハズレだ。真実は……誰にも理解出来はしない』
*
ソフィーは太陽に手をかざす。忘れていた風の感触。日の温もり。
全てが久しぶりで、全てが初めての不思議な感触。
『どうだ?少しは自分の手足に慣れたか?』
アトムは得意満面といった声で問いかける。
「上々ですアトム様。流石は創造主。私の失われた手足を再生させるとは夢にも思いませんでした」
強くなるために自ら切り落とした手足。自作の魔導具である義手、義足に替えたことで確かに超人へと昇華したのだが、どこまでいっても超人止まりであり、強さの限界を感じていた。
さらには次のステージに上がる前にミーシャに叩き潰され、同胞からの支援もまともに受けられずに死にゆく定めだった。
アトムによって繋いだ命。
「このご恩は必ずお返し致します」
『当然だな。貴様に出来ることは命をかけて我が敵を殺すことだ』
「はっ。ご期待に添えましょう」
ソフィーは虚空に頭を下げる。その状態のままアトムに声をかけた。
「……アトム様。不敬を承知で私のささやかなお願いを聞いてくださいますか?」
『ん?ふっ……強欲だな。この上さらに何を望む?』
「出来ますれば、お姿を拝見しとうございます。アトム様の存在を認識した彼らは何も言わずに付いてきてくれましたが、やはりお姿を見せていただけた方が我らの士気をより一層引き上げます。どうか……」
『なるほど。道理だな。だが私は特定の形を持ち合わせていない。どのような姿が貴様らの士気を上げるのだ?』
それはつまりどんな姿形でも思いのままに顕現してくれるということ。
ソフィーは考える。全員の士気を上げるとなれば正直何でも良いだろう。しかし自分の士気を上げるとなれば少し話は変わってくる。
「……私の頭の中の人物を模ることは可能でしょうか?」
『ほう?ならば少し頭の中を覗かせてもらおう』
しばらく黙るアトムに期待するソフィー。すると突然光が収束し、人の形を形成する。
それは背中から羽が生えていた。肩甲骨まで伸びたブロンドヘアーに健康的な肌色。キリッとした目元と鼻筋の通った美しい顔立ち。スラリとした体躯にしっかりとした筋肉がつき、戦士であることを強調している。
『あ、あ、あー……ふむ。声はこんな感じか?』
「あぁ……イーリス。私のイーリス……」
翼人族の英雄、イーリス=ベリタージュ。またの名を”雨穿つイーリス”。アトムはソフィーの要望通り、姿形どころか声まで寄せてきた。ソフィーは喜びに満ちて跪く。
それを少し離れて見ていたイザベル=クーンは悔しそうに下唇を噛んだ。
「あれが……ソフィー様の……」
ようやく振り向いてくれそうだったソフィーの心を掴み取られてしまった。ソフィーの手足を生やしたのには感謝しかないが、それ以上は望んでいない。
『ソフィー。私のために死んでちょうだい』
さらに口調まで似せてくる。イーリスはそんなことは言わないものの、ソフィーはそんな些事に突っかかることはない。むしろ喜んでいた。
「はっ!必ずや!」
ソフィーの気迫が部下に伝播する。現状を知り得ない部下たちはその光景に首を捻るが、神の顕現を目の当たりにして興奮冷めやらぬ雰囲気になっていた。イザベラを除いて。
*
「手足が再生?そりゃ誰も当たらないよ」
国王は大きくため息をついた。とにかく響王との協力関係を密に、ソフィーたちを打倒する方向で話はまとまった。
数日後、今度は獣王からグランツ脱走の情報が伝えられることになる。
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