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最終章
第十七話 時間を超えた共闘
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バクスは剣を抜き払う。
それを見てソフィーはピクリと片眉を上げた。
「ほぅ?本気のようですね……」
バクスの動きに合わせてソフィーも片手を上げた。その手を振り下ろせば一斉に攻撃が飛んでくることだろう。
しかしそんなことで怯むものはこの場に立っていない。
「ふっ……甘いな、ソフィー=ウィルム」
バクスが目配せをすると、騎士の一人がソフィーと同じように手を上げた。気付いた時にはもう遅い。一角人の特殊部隊の連中の背後に騎士たちが立っていた。剣の切っ先を喉に当てられ、抵抗出来ないように脅しをかけている。
「我々の領域で好き勝手出来ると思ったら大間違いだ。そしてガンブレイド部隊がいるのはホーンだけではない。こうしている今もお前らに狙いを定めている」
「……ソフィー様」
イザベルは建物の上で切っ先を構えるスナイパーを一人見つけていた。部隊というからには10人ぐらい隠れて狙っている可能性がある。ソフィーもイザベルの視線の先にいるスナイパーの一人と三人の気配を感じ取っていた。
「……新団長バクス様、でしたね?なるほど。確かにここは敵地と呼ぶにふさわしい。こうまであっという間に”聖なる剣銃”が封殺されるとは思いも寄らなかったですよ」
バクスは踏ん反り返るように胸を張る。褒められたことで調子に乗ったわけではなく、自分を大きく見せることで威圧しているのだ。これ以上の抵抗は無意味であると演出している。
「ですがこれは心外というほかありません。かの方々は全生物の敵。ラルフを筆頭とした極悪人集団ですよ?目を覚ましてくださいバクス様。ゼアル様がこの場に居たら何と言われることか……」
「申し訳ないが、ゼアル前団長は現在の我らの任務とは無関係だ。前任の名を出して便宜を図ってほしいなど浅ましいぞ。素直にこの国から出て行くか、一戦交えるかどちらか選べ。無論、後者を選ぶ場合にはイルレアンとクリスタルランド間の国際問題とさせてもらう」
「嘆かわしい。人族同士が争って何になるというのでしょう?ここで我らが手を取り合ってその二人を殺し、ラルフ一行に大打撃を与えるのです」
酔った口調で擦り寄ろうとするソフィー。しかしバクスは毅然とした態度を崩さない。
「聞こえていなかったならもう一度言うぞ。国の外に出て勝手に戦え。以上だ」
これには流石のソフィーも頭にきていた。寄る辺ないバクスの態度が気に入らない。
(なんだ?単純な仲違いかと思ったが、そうじゃないのか?)
最初は共同墓地の荒れようをソフィーたちのせいにしようとしているのかと思ったブレイドも目を丸くする。これでは何と言うか、自分たちを助けているようにしか感じない。現にバクスたち黒曜騎士団の目はブレイドたち以外を敵視している。不思議に思いながらもバクスの横を通り過ぎようとすると、ポツリとバクスが呟いた。
「……逃げろ。この場は俺たちで食い止める……」
「え?」
ブレイドは思わず反応してしまう。だがバクスはブレイドには見向きもしない。それ以上にやることがあると言いたげに大声で「どうするか選べ!出て行くか、それとも犯罪者のどちらかをなぁ!!」とソフィーたちを威嚇した。
ブレイドが困惑の表情をしていると、アルルに肩を叩かれた。アルルの視線の先にいた黒曜騎士団と思われる鎧の男が手招きしているのが見えた。ブレイドとアルルはそそくさとその場を後にした。
その光景を一部始終見ていたイザベルは毛を逆立てて怒った。
「貴様っ……!!」
全てはブレイドたちを逃がすための壮大な芝居であり囮でもある。もちろんこれは全てがバスクの意向というわけではない。黒曜騎士団の、部下の協力あってこそ為せたことだ。
「どうした?やる気になったのか?受けて立とうじゃないか!」
バスクはニヤリと笑った。
ゼアルより一つ前に黒曜騎士団を務めた男がいる。その名はブレイブ。
イルレアン国を衰退と腐敗から救ったマクマイン公爵の右腕。今のイルレアンはこの男が作ったと言って過言ではない。
かなりの実力者ではあったが、最高かと言われればそれほどではない。全ての面でゼアルに劣り、魔族との駆け落ちというしょうもないことのせいで公爵より処刑を言い渡され、国の歴史からも抹消された男。
人魔対戦において戦犯とも呼べる最悪の人物。
(俺は新人だった。ブレイブさんの跡を継ぎたいと思って今日まで努力してきた。……ここまで長かったぜブレイブさん。ようやくあなたと共に戦えます)
ようやく共に戦える。これはここに集まった黒曜騎士団全員の総意だ。ブレイブを慕い、ブレイブの偉業を知る部下たち。誉れを持つ最高の部下たち。
追ってきたブレイブの背中。ゼアルに先んじられたが、そんなことはどうでも良い。今、まさにここ。ブレイブと肩を並べて立っていると幻視するバクスは高揚感に満ちていた。
(あなたのご子息は俺が守ります)
バクスは剣を構えてギロッとソフィーを見据えた。
「……莫迦ガ」
その時、横から攻撃が加えられた。
──メギュッ
鎧ごと巻き込む凄まじい回し蹴り。この拮抗状態を崩したのは剛撃のグランツだった。
「ガハッ!?」
バクスは思い切り吹き飛ぶ。鎧の金属音を奏でながら転がってぶっ倒れる。巨大な岩石をあっという間に粉微塵に砕くほどの威力をまともに食らったバクスに立ち上がる気力はない。
唖然として見ている部下たち。
「別ニ驚ク事モ無イダロウ?コレガ白ノ騎士団ト多少鍛エタソノ辺ノ騎士ノ差ダ。勉強ニナッタナァ」
見下ろすグランツ。本当なら立ち上がって抵抗の意思を見せたいところだが、バクスは既に痛みで悶絶している。このままにしておけば命まで危うい。
「きっ貴様!我らを攻撃すればクリムゾンテールが……!」
ゴキッ
喚き散らす騎士の顔面を思い切り殴った。こうなったらグランツは止められない。
バクスがやられたことにより形勢は逆転。包囲したはずの黒曜騎士団は瓦解した。ブレイドたちの時間稼ぎ程度にしかならなかった事実にバクスは歯ぎしりした。
「クソが……」
ボロボロと悔し涙が地面へと吸収されて行くのを見ている事しか出来ない情けない自分にさらに悲しくなった。
それを見てソフィーはピクリと片眉を上げた。
「ほぅ?本気のようですね……」
バクスの動きに合わせてソフィーも片手を上げた。その手を振り下ろせば一斉に攻撃が飛んでくることだろう。
しかしそんなことで怯むものはこの場に立っていない。
「ふっ……甘いな、ソフィー=ウィルム」
バクスが目配せをすると、騎士の一人がソフィーと同じように手を上げた。気付いた時にはもう遅い。一角人の特殊部隊の連中の背後に騎士たちが立っていた。剣の切っ先を喉に当てられ、抵抗出来ないように脅しをかけている。
「我々の領域で好き勝手出来ると思ったら大間違いだ。そしてガンブレイド部隊がいるのはホーンだけではない。こうしている今もお前らに狙いを定めている」
「……ソフィー様」
イザベルは建物の上で切っ先を構えるスナイパーを一人見つけていた。部隊というからには10人ぐらい隠れて狙っている可能性がある。ソフィーもイザベルの視線の先にいるスナイパーの一人と三人の気配を感じ取っていた。
「……新団長バクス様、でしたね?なるほど。確かにここは敵地と呼ぶにふさわしい。こうまであっという間に”聖なる剣銃”が封殺されるとは思いも寄らなかったですよ」
バクスは踏ん反り返るように胸を張る。褒められたことで調子に乗ったわけではなく、自分を大きく見せることで威圧しているのだ。これ以上の抵抗は無意味であると演出している。
「ですがこれは心外というほかありません。かの方々は全生物の敵。ラルフを筆頭とした極悪人集団ですよ?目を覚ましてくださいバクス様。ゼアル様がこの場に居たら何と言われることか……」
「申し訳ないが、ゼアル前団長は現在の我らの任務とは無関係だ。前任の名を出して便宜を図ってほしいなど浅ましいぞ。素直にこの国から出て行くか、一戦交えるかどちらか選べ。無論、後者を選ぶ場合にはイルレアンとクリスタルランド間の国際問題とさせてもらう」
「嘆かわしい。人族同士が争って何になるというのでしょう?ここで我らが手を取り合ってその二人を殺し、ラルフ一行に大打撃を与えるのです」
酔った口調で擦り寄ろうとするソフィー。しかしバクスは毅然とした態度を崩さない。
「聞こえていなかったならもう一度言うぞ。国の外に出て勝手に戦え。以上だ」
これには流石のソフィーも頭にきていた。寄る辺ないバクスの態度が気に入らない。
(なんだ?単純な仲違いかと思ったが、そうじゃないのか?)
最初は共同墓地の荒れようをソフィーたちのせいにしようとしているのかと思ったブレイドも目を丸くする。これでは何と言うか、自分たちを助けているようにしか感じない。現にバクスたち黒曜騎士団の目はブレイドたち以外を敵視している。不思議に思いながらもバクスの横を通り過ぎようとすると、ポツリとバクスが呟いた。
「……逃げろ。この場は俺たちで食い止める……」
「え?」
ブレイドは思わず反応してしまう。だがバクスはブレイドには見向きもしない。それ以上にやることがあると言いたげに大声で「どうするか選べ!出て行くか、それとも犯罪者のどちらかをなぁ!!」とソフィーたちを威嚇した。
ブレイドが困惑の表情をしていると、アルルに肩を叩かれた。アルルの視線の先にいた黒曜騎士団と思われる鎧の男が手招きしているのが見えた。ブレイドとアルルはそそくさとその場を後にした。
その光景を一部始終見ていたイザベルは毛を逆立てて怒った。
「貴様っ……!!」
全てはブレイドたちを逃がすための壮大な芝居であり囮でもある。もちろんこれは全てがバスクの意向というわけではない。黒曜騎士団の、部下の協力あってこそ為せたことだ。
「どうした?やる気になったのか?受けて立とうじゃないか!」
バスクはニヤリと笑った。
ゼアルより一つ前に黒曜騎士団を務めた男がいる。その名はブレイブ。
イルレアン国を衰退と腐敗から救ったマクマイン公爵の右腕。今のイルレアンはこの男が作ったと言って過言ではない。
かなりの実力者ではあったが、最高かと言われればそれほどではない。全ての面でゼアルに劣り、魔族との駆け落ちというしょうもないことのせいで公爵より処刑を言い渡され、国の歴史からも抹消された男。
人魔対戦において戦犯とも呼べる最悪の人物。
(俺は新人だった。ブレイブさんの跡を継ぎたいと思って今日まで努力してきた。……ここまで長かったぜブレイブさん。ようやくあなたと共に戦えます)
ようやく共に戦える。これはここに集まった黒曜騎士団全員の総意だ。ブレイブを慕い、ブレイブの偉業を知る部下たち。誉れを持つ最高の部下たち。
追ってきたブレイブの背中。ゼアルに先んじられたが、そんなことはどうでも良い。今、まさにここ。ブレイブと肩を並べて立っていると幻視するバクスは高揚感に満ちていた。
(あなたのご子息は俺が守ります)
バクスは剣を構えてギロッとソフィーを見据えた。
「……莫迦ガ」
その時、横から攻撃が加えられた。
──メギュッ
鎧ごと巻き込む凄まじい回し蹴り。この拮抗状態を崩したのは剛撃のグランツだった。
「ガハッ!?」
バクスは思い切り吹き飛ぶ。鎧の金属音を奏でながら転がってぶっ倒れる。巨大な岩石をあっという間に粉微塵に砕くほどの威力をまともに食らったバクスに立ち上がる気力はない。
唖然として見ている部下たち。
「別ニ驚ク事モ無イダロウ?コレガ白ノ騎士団ト多少鍛エタソノ辺ノ騎士ノ差ダ。勉強ニナッタナァ」
見下ろすグランツ。本当なら立ち上がって抵抗の意思を見せたいところだが、バクスは既に痛みで悶絶している。このままにしておけば命まで危うい。
「きっ貴様!我らを攻撃すればクリムゾンテールが……!」
ゴキッ
喚き散らす騎士の顔面を思い切り殴った。こうなったらグランツは止められない。
バクスがやられたことにより形勢は逆転。包囲したはずの黒曜騎士団は瓦解した。ブレイドたちの時間稼ぎ程度にしかならなかった事実にバクスは歯ぎしりした。
「クソが……」
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