一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
682 / 718
最終章

第十七話 時間を超えた共闘

しおりを挟む
 バクスは剣を抜き払う。
 それを見てソフィーはピクリと片眉を上げた。

「ほぅ?本気のようですね……」

 バクスの動きに合わせてソフィーも片手を上げた。その手を振り下ろせば一斉に攻撃が飛んでくることだろう。
 しかしそんなことで怯むものはこの場に立っていない。

「ふっ……甘いな、ソフィー=ウィルム」

 バクスが目配せをすると、騎士の一人がソフィーと同じように手を上げた。気付いた時にはもう遅い。一角人ホーンの特殊部隊の連中の背後に騎士たちが立っていた。剣の切っ先を喉に当てられ、抵抗出来ないように脅しをかけている。

「我々の領域で好き勝手出来ると思ったら大間違いだ。そしてガンブレイド部隊がいるのはホーンだけではない。こうしている今もお前らに狙いを定めている」

「……ソフィー様」

 イザベルは建物の上で切っ先を構えるスナイパーを一人見つけていた。部隊というからには10人ぐらい隠れて狙っている可能性がある。ソフィーもイザベルの視線の先にいるスナイパーの一人と三人の気配を感じ取っていた。

「……新団長バクス様、でしたね?なるほど。確かにここは敵地と呼ぶにふさわしい。こうまであっという間に”聖なる剣銃”が封殺されるとは思いも寄らなかったですよ」

 バクスは踏ん反り返るように胸を張る。褒められたことで調子に乗ったわけではなく、自分を大きく見せることで威圧しているのだ。これ以上の抵抗は無意味であると演出している。

「ですがこれは心外というほかありません。かの方々は全生物の敵。ラルフを筆頭とした極悪人集団ですよ?目を覚ましてくださいバクス様。ゼアル様がこの場に居たら何と言われることか……」

「申し訳ないが、ゼアル前団長は現在の我らの任務とは無関係だ。前任の名を出して便宜を図ってほしいなど浅ましいぞ。素直にこの国から出て行くか、一戦交えるかどちらか選べ。無論、後者を選ぶ場合にはイルレアンとクリスタルランド間の国際問題とさせてもらう」

「嘆かわしい。人族同士が争って何になるというのでしょう?ここで我らが手を取り合ってその二人を殺し、ラルフ一行に大打撃を与えるのです」

 酔った口調で擦り寄ろうとするソフィー。しかしバクスは毅然とした態度を崩さない。

「聞こえていなかったならもう一度言うぞ。国の外に出て勝手に戦え。以上だ」

 これには流石のソフィーも頭にきていた。寄る辺ないバクスの態度が気に入らない。

(なんだ?単純な仲違なかたがいかと思ったが、そうじゃないのか?)

 最初は共同墓地の荒れようをソフィーたちのせいにしようとしているのかと思ったブレイドも目を丸くする。これでは何と言うか、自分たちを助けているようにしか感じない。現にバクスたち黒曜騎士団の目はブレイドたち以外を敵視している。不思議に思いながらもバクスの横を通り過ぎようとすると、ポツリとバクスが呟いた。

「……逃げろ。この場は俺たちで食い止める……」

「え?」

 ブレイドは思わず反応してしまう。だがバクスはブレイドには見向きもしない。それ以上にやることがあると言いたげに大声で「どうするか選べ!出て行くか、それとも犯罪者のどちらかをなぁ!!」とソフィーたちを威嚇した。
 ブレイドが困惑の表情をしていると、アルルに肩を叩かれた。アルルの視線の先にいた黒曜騎士団と思われる鎧の男が手招きしているのが見えた。ブレイドとアルルはそそくさとその場を後にした。
 その光景を一部始終見ていたイザベルは毛を逆立てて怒った。

「貴様っ……!!」

 全てはブレイドたちを逃がすための壮大な芝居であり囮でもある。もちろんこれは全てがバスクの意向というわけではない。黒曜騎士団の、部下の協力あってこそせたことだ。

「どうした?やる気になったのか?受けて立とうじゃないか!」

 バスクはニヤリと笑った。

 ゼアルより一つ前に黒曜騎士団を務めた男がいる。その名はブレイブ。
 イルレアン国を衰退と腐敗から救ったマクマイン公爵の右腕。今のイルレアンはこの男が作ったと言って過言ではない。
 かなりの実力者ではあったが、最高かと言われればそれほどではない。全ての面でゼアルに劣り、魔族との駆け落ちというしょうもないことのせいで公爵より処刑を言い渡され、国の歴史からも抹消された男。
 人魔対戦において戦犯とも呼べる最悪の人物。

(俺は新人だった。ブレイブさんの跡を継ぎたいと思って今日まで努力してきた。……ここまで長かったぜブレイブさん。ようやくあなたと共に戦えます)

 ようやく共に戦える。これはここに集まった黒曜騎士団全員の総意だ。ブレイブを慕い、ブレイブの偉業を知る部下たち。誉れを持つ最高の部下たち。
 追ってきたブレイブの背中。ゼアルに先んじられたが、そんなことはどうでも良い。今、まさにここ。ブレイブと肩を並べて立っていると幻視するバクスは高揚感に満ちていた。

(あなたのご子息は俺が守ります)

 バクスは剣を構えてギロッとソフィーを見据えた。

「……莫迦ガ」

 その時、横から攻撃が加えられた。

 ──メギュッ

 鎧ごと巻き込む凄まじい回し蹴り。この拮抗状態を崩したのは剛撃のグランツだった。

「ガハッ!?」

 バクスは思い切り吹き飛ぶ。鎧の金属音を奏でながら転がってぶっ倒れる。巨大な岩石をあっという間に粉微塵に砕くほどの威力をまともに食らったバクスに立ち上がる気力はない。
 唖然として見ている部下たち。

「別ニ驚ク事モ無イダロウ?コレガ白ノ騎士団ト多少鍛エタソノ辺ノ騎士ノ差ダ。勉強ニナッタナァ」

 見下ろすグランツ。本当なら立ち上がって抵抗の意思を見せたいところだが、バクスは既に痛みで悶絶している。このままにしておけば命まで危うい。

「きっ貴様!我らを攻撃すればクリムゾンテールが……!」

 ゴキッ

 喚き散らす騎士の顔面を思い切り殴った。こうなったらグランツは止められない。
 バクスがやられたことにより形勢は逆転。包囲したはずの黒曜騎士団は瓦解した。ブレイドたちの時間稼ぎ程度にしかならなかった事実にバクスは歯ぎしりした。

「クソが……」

 ボロボロと悔し涙が地面へと吸収されて行くのを見ている事しか出来ない情けない自分にさらに悲しくなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...